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第一部 第一次モーラ合戦

第19話 戦乙女、出陣

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(ドリー視点)

 私はゴンドゥル。
 数多あまたいる大神オーディンの娘の一人。
 大神の忠実なる駒戦乙女

 大勢の姉妹と同じく己が使命に従うだけの存在に過ぎない。
 だが、泡沫うたかたの出会いと別れを繰り返すおのが運命を悲観したことは一度たりとてない。

 我が名に込められし意味は杖を振るう者。

 ゆえに自らが剣を取り、槍を持ち、戦うことには全く、向いていない。
 私に出来ることはただ一つ。

 魂の欠けた者を導き、あるべき場所へといざなうこと。
 ただ、それだけ。

 人は私のことをこう呼ぶ。
 黒き翼を持ちし、死を運ぶ乙女と……。



 私が今、担当している龐統は面白い人間。
 実に興味深い存在。
 この男を見ていて、見られていると今までに感じたことが無いほどにたかぶる。

 燃やす。
 魂を燃やし尽くすが如く、燃やす。

 私が見込んだ通り、本当に面白い男。
 冥府の女王ヘルから、生殺与奪の権利を譲り受けて、これほどいいと感じたことは今までにない。

「シゲン。腰を屈めて。そして、目を閉じる」
「お? おう」

 訝し気な顔をしつつも素直に言うことを聞いてくれるのは、幾らかの信頼関係とやらが築かれたと考えていいだろうのか?

 彼の顔は我々の美的感覚からするとお世辞にも美しいとは言い難い。

 見慣れてきたのかもしれない。
 それなりに愛嬌のある顔と言えなくもない。
 ブサカワという言葉があると聞いた。
 きっとソレに違いない。

 さて。
 シゲンに渡していた私の力の一部を一時的に返してもらうとしようか。
 不本意ではあるが、物理的に接触をする必要性がある。
 もっとも効果的なのは経口摂取。

 目を開けていられるとやりにくいので閉じてもらった。
 覚悟を決めるしかない。
 減る物ではない。
 女は度胸……!

 長姉ブリュンヒルドは守護している勇者と年中、している(自称)と自慢していた。

 そう。
 これは仕方のない行為なのだ。




 久しぶりに力が戻った感覚に戸惑う。
 着ていたローブが寸足らずなので手足が完全に出ているし、少々きついが気にしない。

 むしろ、こんな服などは全て、脱ぎ捨てたいのが本音。
 脱ぐと周りがうるさい。
 さすがに人前ではしないが……。

「シゲン。それでは行ってくる」
「無理はいかんぞ」
「分かっている」

 相棒は闇の如き、毛並みをした賢い子だ。

 私は武具の類は全く、自在に扱えない。
 こればかりは杖を振るう者の宿命と言えるだろう。

 しかし、その代わりなのか、動植物と心を通わせる力を持っている。
 だから、乗馬に関しては何の問題もない。
 片手でもちゃんとのだ。

 それにこの子は全てを分かって、動いてくれるだろう。
 己が運命を分かったうえでそれを乗り越えようとする健気な心意気の持ち主。
 シゲンに似ているのかもしれない。

「行くよ。シャーナ

 この子は現地の言葉で星を意味するシャーナと名付けられていた。
 額にある白毛の模様が流星を連想させるからだという。

 シゲンとは余程、強く魂で結びついているようだ。
 一声、いななくと颯爽と駆け出したシャーナの加速力は他を圧するものだった。
 並みの馬など比べようもない。
 さすがはあの領主フランシスの愛馬というべき?



 群がる狼どもに用意した『餌』は二つ。
 私とシャーナ。
 狼どもは女好きで何よりも奪うことが大好き。
 私は彼らにとって、これ以上にない『餌』だろう?

 私に付き従うのはおよそ百名の
 シゲンの選りすぐった精鋭中の精鋭。
 相手を挑発し、逃げるだけ。
 戦うのではない。

 勝利に必要だとはいえ、戦場に生きる者にとって、逃げることがどれだけの恥であるかは分かっているつもり。
 それでもかまわないと志願してきた愛すべき者達。

 これはシゲンの策を成す為に必要なこと。
 決して、戦果には数えられないだろう。
 隠れた功労者となるだけ。

 左手のみで手綱を捌く。
 右手にはおのれの背丈と同じくらい大きな竿にはためく軍旗を持っている。
 片手でも姿勢を保てるのはシャーナが賢くて、とてもいい子だから。

 さぁ、釣りを始めよう。

 飢えた狼どもに与えようではないか。
 一息に死んだ方が良かったと思えるほどの恐怖を……。
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