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備忘録2 鈴鳴村編

34 村長、自殺志願者と対話する

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 贄の村なのに村長がいるのって、変だと思わない?
 でも、何とも妙な話ではあるけど、絶対にない。
 そうとも言い切れないのよね。

 村落として、集落として機能していて、村長もいて村人もいる。
 だから、普通の村かと思ったら、大間違いなの。
 偶に迷い込んでくる旅人を祭りの主賓として、盛大におもてなしをするけど、その目的は旅人を村人が崇める邪悪なモノ=魔物の生贄にすることなんだからっ。
 おもてなしに入っていた毒で眠らされた憐れな旅人は着の身着のまま、生贄の洞窟へと放り投げられてしまうの。

 こんなお話しだってあるのだから、贄の村であって、村落としての機能はなくても村長と名乗る”役者”は必要なのかもしれないわ。

「そういうのは困るんですよ」

 村長と名乗ったおじいちゃんはあからさまに困惑した表情を浮かべながら、そう言ったわ。
 レオよりも遥かに演技が上手だとは思うの。
 でも、怪しいのよ。
 困惑した表情が如何にも狙ってやっていますって、分っちゃうのだから。

「あの。いや。村長さん。僕達はそういうのではないので……ええ。すぐに退去します」
「分かってもらえたら、いいんですよ」

 んんん?
 案内人のイカリが代表して、おじいちゃんとお話しするのはいいと思うのよ。
 でも、勝手に話を進めすぎじゃない?

 そういうのって、多分、自殺者が出た村なんて悪評が立つのは我慢ならない、迷惑だからやめてくれってことなのでしょう?
 ここが本当に単なる小さな村だったら、その言い分に正当性ありと認められるもの。

「ねぇ。これがテキレースなのぉ?」
「ああ。出来レースだね」
「そ、そう。それよぉ、それ」

 小声でレオに甘えるように言ったら、言葉を間違っていたわ。
 ただ、間違えたけどコソコソとお喋りするのが楽しくて。
 間違えたことなんて、どうでもよくなったけど。

「そういうことでして。皆さん、今日のところは退去するしかないようでして」

 イカリが相変わらず、ボソボソと喋るのは仕方ないと思うの。
 でも、そういうとか、ないようとか。
 会話がアバウトすぎるのよっ。
 そんなことで内容がちゃんと伝わるのかしらと考えたのはどうやら、わたしだけ。

 他のメンバーはどうやらイカリの話を理解できているみたい。
 いそいそと帰り支度をする者もいれば、「くそっ」「うぜえ」と物に当たる者もいる。
 物に当たりながらも帰り支度を始めているところを見ると、複雑な感情を抱きやすい思春期の少年ならではの激情かしら?

 一方、帰り支度をするのが三人いたら、それを横目に様子見をしている三人がわたしとレオ、それにナンちゃん。
 イカリは何を考えているのかしらね。
 どこか遠くを見るような……あれって、トリップしている目とも言うのではなくて。

「何か、気に入らないわぁ」
「まあまあ」

 レオがそう言いながら、優しく頭をナデナデしてくれるから……。
 危うく大事なことを忘れかけたわ。
 気持ちよすぎるのも考え物ね。

 そうよ。
 これは一味が仕掛けてきた罠なのよ。
 彼らは集めた贄の分断を目論んでいるのだわ。
 分断して、孤立したところを料理しようという魂胆ではないかしら?

(だから、分断が狙いなのよ)
(なるほどね。そういうことだったのか。そうなると危ないのは帰ろうとしている人達じゃないかな?)
(でも、あからさまに妨害するとバレるんじゃないかしら?)
(どうにか、できないかな)

 実はコソコソと小声で喋らなくてもわたしとレオ、念話で意思疎通できるのよね。
 では何でしないのかって、思ったでしょう?
 案外、使いにくいのよ。
 集中しないといけないし、うっかりして口から声に出すこともあるから、危ないんだもの。

(ここは様子を見てから、動くべきだと思うの)
(そうだね。迂闊に動くのも危ないか)

 レオは納得してないみたい。
 彼は優しいから、できるだけ犠牲者を出さずに解決したいと思っているし、そうすべきだと考えているのね。
 何とか、うまくできたら、いいのだけど。

 この時のわたしはまだ、事態を甘く見ていたのよ。
 慢心とか、油断とか。
 きっと、そういうのだわ。
 もしも時が戻せたのならと後悔しても遅いのだけど……。
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