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第49話 善良王の悔悟

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(三人称視点)

 事ここに至って、コンラート・チェフは己の考えが浅はかな物であったと認めざるを得なかった。

 後継者として国を任せたドミニクを頼りない王であると判断したこと自体、誤りであったのかもしれない。
 そう考え始めている。
 ドミニクを退位させ、然るべき者を戴冠させるという計画がそもそもの誤りだったとも……。

 唯一の王位継承者である王太子トマーシュは、血の気が多く、王としての資質に欠けている。
 第二王子ロベルトは優秀なだけではなく、王の資質を持っていたが本人にその気が全くない。
 そこで本来であれば、の身分にあったはずのペテル・マソプスト公子に白羽の矢が立った。
 だが、コンラートが王に相応しいと考えたロベルトとペテルは、王位に全く興味を示さないばかりか、自らが進むべき道へと歩み始めていた。



 ドミニクは早世した王妃ナターシャが残した唯一の王位継承者であり、彼以外に正当な血を引く者がいないとからこその譲位だった。
 このドミニクの治世において、国は良くも悪くも安定した時代が続いていた。

 ドミニクは確かに優れた王ではなかった。
 しかし、秀でた物がないと己を弁えている男であるのが幸いした。
 善良王と呼ばれた父コンラートと比べ、あまりにも自分には欠けている物が多い。
 そう考えたドミニクは優秀な人材に国の運営を委ねるという思い切った舵取りを行った。
 ドミニクは確かに暗愚な人物だったが、人を見る目はあったのが幸いした。

 コンラートは思った。
 ドミニクは王として、確かに立っていたのだ、と。
 戦乱で混迷の時代ではなく、平和で安定した時代に向いた君主だったに過ぎない。

 王太子トマーシュについてもコンラートは考えを改めていた。
 単なる噂に惑わされ、色眼鏡で彼を判断していた己の不明を恥じた。
 黒の甲冑を纏い、戦場を好む血狂いの黒太子。
 それは単なるレッテルに過ぎない。
 トマーシュが実際にはもっと広い視野で物事を捉えていることに気付いたのだ。

 確かに言動にやや横暴なところも見受けられる。
 だが、それすらもトマーシュの考えた自衛手段ではないのか。
 コンラートはそう考えてすらいた。

セバスセバスチアーン。年寄りはもう必要がないのかもしれんな」
「そうですな。老兵は死なずに消えるべきやもしれませんなあ」
「最後の一仕事を頼めるか?」
「何なりとお申し付けください。我が主よ」

 やがて、コンラートの意思を汲み取ったセバスチアーンは、既に離宮を発った若者らの後を追うのだった。
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