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第46話 それだけで家出したんだけど
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その日は唐突にやって来た。
おじい様の離宮に集まるように先触れが届いたのだ。
それも大至急らしい。
サーラは不安そうな顔を隠しきれてない。
多分、怖いんだと思う。
あたしだって、怖い。
おじい様は『いつでも遊びに来るといい』と言ってくれた。
だけど、『来なさい』という言い方はしない。
そのおじい様が『大至急』と言っているのだから、何かよくないことが起きたのかもしれない。
ユリアンは呼ばれてない。
怖がってるサーラを安心させる為にも残るべきだと思う。
「でも、ですね。僕が行かないと……エヴ……あ、いえ。エヴェリーナ嬢が心配なので」
ユリアンはどこかで頭でもぶつけちゃったんだろうか。
あれほど、怖がって震えてたサーラまで半目で睨んでるくらいだ。
あたしも同じ気持ち。
今日はロビーが迎えに来てくれない。
ポボルスキー家の馬車に乗せてもらわないといけないので道中、とても微妙な空気が漂った。
出る前はあんなに不安そうだったサーラが「ごめんなさい。うちのお兄ちゃまがお馬鹿で」と悟りを開いたように落ち着きを取り戻していた。
もしかして、ユリアンはこれを狙ってわざとあんな発言をしたのかと思ったけど、そうではなかったみたい。
恋は不治の病って言うけど、ホントのことなんだろう。
勉強が出来る優等生の彼はどこへ行ってしまったのやら……。
「エミー。よかった……本当によかった」
離宮に着くと思いがけない再会が待っていた。
元気になったエヴァと話してるキャラメルブロンドの長くて、美しい髪の女性。
見忘れるはずがない。
マリーだった。
「二人とも無事だったのね。本当によかった」
彼女の頬を幾筋もの涙が伝っていく。
こんなに涙もろい人だったかしら?
それに少し、痩せたんだろうか。
マリーはあたし達の自慢の姉だった。
きれいであんなレディになれたら、いいのにと憧れてた存在だ。
そのマリーがこんなになってしまうなんて、信じられない。
積もる話がたくさんあるというほど、離れてた訳じゃない。
でも、あたしがホントに家出をして、エヴァが元気になっていて。
色々とあり過ぎて、マリーも考えることがあったのだと教えてくれた。
彼女の話によると長い夢でも見ていたような不思議な感覚があったらしい。
夢が覚めるというより、霧の中を歩いていたら、急に霧が晴れたのに似ているそうだ。
きっかけになったのはあたしが出て行ったことだと聞かされると何とも言えない気分……。
あたしはもう諦めて、どうにでもなれ! と投げやりなところがあって。
でも、エヴァのことを助けたかった。
それだけで家出したんだけど。
「トムも大事なお話があるそうなの」
「んんん? トム? 誰なの、それ?」
ほんのりと桜色に頬を染めて、マリーが発したのは『トム』という聞き慣れない男の人の名前だ。
ユリアンだけではなく、ここにも同じ症状の人がいるとは思わなかった。
エヴァもユリアンのことを話す時、こんな表情をしてた気がする……。
今はそういうことを考えてる場合じゃないでしょ。
「そういうエミーもロビーのことを話している時は同じような表情でしょ?」
「そ、そんなことないもん」
「あらあら。まぁまぁ」
鋭いツッコミを入れられるくらいにエヴァが元気になって、嬉しい。
嬉しいんだけど、自分にツッコミが刺さると複雑な気分だ。
マリーもしたり顔で頷いてる……。
わたしの小さい頃はこうだった。
姉妹で仲良く、過ごせていたのに……。
ここにユナがいたら、何て言ったんだろう。
「全く、あなた達は!」と真面目ぶって、説教したんだろうか。
それともこうして、一緒にお喋りしたんだろうか。
この時、ユナのことを思い出したのは単なる偶然ではなくて、いわゆる虫の知らせだったなんて。
あたしは知る由もなかった。
おじい様の離宮に集まるように先触れが届いたのだ。
それも大至急らしい。
サーラは不安そうな顔を隠しきれてない。
多分、怖いんだと思う。
あたしだって、怖い。
おじい様は『いつでも遊びに来るといい』と言ってくれた。
だけど、『来なさい』という言い方はしない。
そのおじい様が『大至急』と言っているのだから、何かよくないことが起きたのかもしれない。
ユリアンは呼ばれてない。
怖がってるサーラを安心させる為にも残るべきだと思う。
「でも、ですね。僕が行かないと……エヴ……あ、いえ。エヴェリーナ嬢が心配なので」
ユリアンはどこかで頭でもぶつけちゃったんだろうか。
あれほど、怖がって震えてたサーラまで半目で睨んでるくらいだ。
あたしも同じ気持ち。
今日はロビーが迎えに来てくれない。
ポボルスキー家の馬車に乗せてもらわないといけないので道中、とても微妙な空気が漂った。
出る前はあんなに不安そうだったサーラが「ごめんなさい。うちのお兄ちゃまがお馬鹿で」と悟りを開いたように落ち着きを取り戻していた。
もしかして、ユリアンはこれを狙ってわざとあんな発言をしたのかと思ったけど、そうではなかったみたい。
恋は不治の病って言うけど、ホントのことなんだろう。
勉強が出来る優等生の彼はどこへ行ってしまったのやら……。
「エミー。よかった……本当によかった」
離宮に着くと思いがけない再会が待っていた。
元気になったエヴァと話してるキャラメルブロンドの長くて、美しい髪の女性。
見忘れるはずがない。
マリーだった。
「二人とも無事だったのね。本当によかった」
彼女の頬を幾筋もの涙が伝っていく。
こんなに涙もろい人だったかしら?
それに少し、痩せたんだろうか。
マリーはあたし達の自慢の姉だった。
きれいであんなレディになれたら、いいのにと憧れてた存在だ。
そのマリーがこんなになってしまうなんて、信じられない。
積もる話がたくさんあるというほど、離れてた訳じゃない。
でも、あたしがホントに家出をして、エヴァが元気になっていて。
色々とあり過ぎて、マリーも考えることがあったのだと教えてくれた。
彼女の話によると長い夢でも見ていたような不思議な感覚があったらしい。
夢が覚めるというより、霧の中を歩いていたら、急に霧が晴れたのに似ているそうだ。
きっかけになったのはあたしが出て行ったことだと聞かされると何とも言えない気分……。
あたしはもう諦めて、どうにでもなれ! と投げやりなところがあって。
でも、エヴァのことを助けたかった。
それだけで家出したんだけど。
「トムも大事なお話があるそうなの」
「んんん? トム? 誰なの、それ?」
ほんのりと桜色に頬を染めて、マリーが発したのは『トム』という聞き慣れない男の人の名前だ。
ユリアンだけではなく、ここにも同じ症状の人がいるとは思わなかった。
エヴァもユリアンのことを話す時、こんな表情をしてた気がする……。
今はそういうことを考えてる場合じゃないでしょ。
「そういうエミーもロビーのことを話している時は同じような表情でしょ?」
「そ、そんなことないもん」
「あらあら。まぁまぁ」
鋭いツッコミを入れられるくらいにエヴァが元気になって、嬉しい。
嬉しいんだけど、自分にツッコミが刺さると複雑な気分だ。
マリーもしたり顔で頷いてる……。
わたしの小さい頃はこうだった。
姉妹で仲良く、過ごせていたのに……。
ここにユナがいたら、何て言ったんだろう。
「全く、あなた達は!」と真面目ぶって、説教したんだろうか。
それともこうして、一緒にお喋りしたんだろうか。
この時、ユナのことを思い出したのは単なる偶然ではなくて、いわゆる虫の知らせだったなんて。
あたしは知る由もなかった。
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