32 / 56
第32話 いないはずの人がいるのね
しおりを挟む
「文献によるとだ。神は古の昔から、ちょくちょく人間の前に姿を出していたものらしい」
「そんなことが本当にあったんでしょうか?」
ユリアンも夢を見て、あたしと同じ女神様を見ているはず。
それなのにまだ、半信半疑みたい。
それが普通の感覚なのかしら?
ロビーが特に疑問を抱いてるように見えないのは、あたしと同じで不可思議な存在が身近に感じられたからなんだと思う。
ロビーとあたしの先祖には、人ならざる者の血が混じってる。
神話や伝説の話ではない。
ホントにそうだったんだから。
ベラドンナの毒でそのことが証明されたから、凄く複雑な気分だけど……。
「あったのだろうよ。君達は見たのだろう? 己が見た物を否定することは己を否定することに繋がるとは思わんかね、ポボルスキー令息」
「あ、そ、それは……その、はい」
強気なビカン先生と弱気なユリアンでは勝負するまでもなく、決着が付いてるとも言う。
既に押し切られてるもん。
「つまりだ。この世界を演劇や小説といった虚構の物と考える人間は昔から、いたということだよ。彼らは全てが虚実の上に描かれた物であると思い込む傾向が強かったようだ」
そこで先生はまた、一呼吸置いた。
敢えて、考える時間を与えてくれてるんだろう。
「それゆえに未来を知っている、未来は決まったものだという考えにも陥りやすいのだよ。違うかね? だが、違う。違うのだ」
不思議な言い方だった。
それはあたしとユリアンに向けて、言ってるというよりもまるで先生が自分を責めてるような……。
「未来は決して、決まってなどいない。未来は変えられるのだ。君達もそう考えたのではないのかね?」
そして、また、先生は一呼吸置く。
彼があたしとユリアンに向ける翡翠の色をした瞳は、なぜかどこまでも優しくて、引き込まれそうに錯覚する。
まるで心を見透かそうとでもいうような強い眼差しなのに不思議な感じ。
「君達の話を聞いて、私は一つの結論に至った。君達が見たのは未来ではない。これは啓示だよ」
「「啓示……」」
ロビーとユリアンは分かったの!?
あたしには何のことか、分かんないんだけど。
けいじ?
「ふむ。ネドヴェト令嬢はどうやら、分かっていないようだな。君は心を入れ替えてもまだまだ、勉強が足りていないようだ。特別授業といこうか」
久しぶりに見た先生の意地悪な顔だ。
獲物を前にした猛獣はあんな顔するに違いないと思う。
でも、そのくらいであたしは怖がったりしないからね?
ごめんなさい……。
怖くはなかったけど、啓示について頭が痛くなって、熱が出てきそうなくらいに長々と説明された。
嫌味たっぷりな成分の説明にロビーとユリアンが同情的な目を向けてくれる。
だからって、助けてくれたりはしない。
後でどうやって、仕返しをしてやろうかと考えることでどうにか乗り切ったけど。
啓示は神々から、与えられるアドバイスみたいなものだってことは理解出来た。
ほとんどの啓示はもっと断片的な物らしい。
予言に近いので捉え方でどうにでも解釈が出来るということも分かった。
あたしとユリアンが見た夢が分かりやすかったのはとても、珍しいことみたい。
愛の女神は神々の中でも特に気紛れなことで知られていて、過去にも気に入られたという理由だけで不思議な体験をした人がいる。
先生は例の分厚い本を開いて、そう説明してくれた。
とりあえず、分かった振りをして、頷いておいたけどバレてるかもしれない。
冬期休暇の間、特別に補習なんて、絶対に嫌だ。
「そうである以上だ。ここで見落としてはいけないことがあるのに気付いたかね?」
「はい」
「ええ」
ロビーとユリアンは真剣な眼差しで強く、頷いてるから分かってるみたいだ。
何かしら?
見落とせないことって……そこではたと気が付いた。
「いないはずの人がいるのね!」
ベティは夢の中で出てこない。
それだけじゃないことにも気付いてしまった。
そして、叔母様とお兄様もいなかったのだ。
彼らは一体、誰なの?
「そんなことが本当にあったんでしょうか?」
ユリアンも夢を見て、あたしと同じ女神様を見ているはず。
それなのにまだ、半信半疑みたい。
それが普通の感覚なのかしら?
ロビーが特に疑問を抱いてるように見えないのは、あたしと同じで不可思議な存在が身近に感じられたからなんだと思う。
ロビーとあたしの先祖には、人ならざる者の血が混じってる。
神話や伝説の話ではない。
ホントにそうだったんだから。
ベラドンナの毒でそのことが証明されたから、凄く複雑な気分だけど……。
「あったのだろうよ。君達は見たのだろう? 己が見た物を否定することは己を否定することに繋がるとは思わんかね、ポボルスキー令息」
「あ、そ、それは……その、はい」
強気なビカン先生と弱気なユリアンでは勝負するまでもなく、決着が付いてるとも言う。
既に押し切られてるもん。
「つまりだ。この世界を演劇や小説といった虚構の物と考える人間は昔から、いたということだよ。彼らは全てが虚実の上に描かれた物であると思い込む傾向が強かったようだ」
そこで先生はまた、一呼吸置いた。
敢えて、考える時間を与えてくれてるんだろう。
「それゆえに未来を知っている、未来は決まったものだという考えにも陥りやすいのだよ。違うかね? だが、違う。違うのだ」
不思議な言い方だった。
それはあたしとユリアンに向けて、言ってるというよりもまるで先生が自分を責めてるような……。
「未来は決して、決まってなどいない。未来は変えられるのだ。君達もそう考えたのではないのかね?」
そして、また、先生は一呼吸置く。
彼があたしとユリアンに向ける翡翠の色をした瞳は、なぜかどこまでも優しくて、引き込まれそうに錯覚する。
まるで心を見透かそうとでもいうような強い眼差しなのに不思議な感じ。
「君達の話を聞いて、私は一つの結論に至った。君達が見たのは未来ではない。これは啓示だよ」
「「啓示……」」
ロビーとユリアンは分かったの!?
あたしには何のことか、分かんないんだけど。
けいじ?
「ふむ。ネドヴェト令嬢はどうやら、分かっていないようだな。君は心を入れ替えてもまだまだ、勉強が足りていないようだ。特別授業といこうか」
久しぶりに見た先生の意地悪な顔だ。
獲物を前にした猛獣はあんな顔するに違いないと思う。
でも、そのくらいであたしは怖がったりしないからね?
ごめんなさい……。
怖くはなかったけど、啓示について頭が痛くなって、熱が出てきそうなくらいに長々と説明された。
嫌味たっぷりな成分の説明にロビーとユリアンが同情的な目を向けてくれる。
だからって、助けてくれたりはしない。
後でどうやって、仕返しをしてやろうかと考えることでどうにか乗り切ったけど。
啓示は神々から、与えられるアドバイスみたいなものだってことは理解出来た。
ほとんどの啓示はもっと断片的な物らしい。
予言に近いので捉え方でどうにでも解釈が出来るということも分かった。
あたしとユリアンが見た夢が分かりやすかったのはとても、珍しいことみたい。
愛の女神は神々の中でも特に気紛れなことで知られていて、過去にも気に入られたという理由だけで不思議な体験をした人がいる。
先生は例の分厚い本を開いて、そう説明してくれた。
とりあえず、分かった振りをして、頷いておいたけどバレてるかもしれない。
冬期休暇の間、特別に補習なんて、絶対に嫌だ。
「そうである以上だ。ここで見落としてはいけないことがあるのに気付いたかね?」
「はい」
「ええ」
ロビーとユリアンは真剣な眼差しで強く、頷いてるから分かってるみたいだ。
何かしら?
見落とせないことって……そこではたと気が付いた。
「いないはずの人がいるのね!」
ベティは夢の中で出てこない。
それだけじゃないことにも気付いてしまった。
そして、叔母様とお兄様もいなかったのだ。
彼らは一体、誰なの?
21
お気に入りに追加
1,945
あなたにおすすめの小説
大好きなあなたを忘れる方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。
魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。
登場人物
・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。
・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。
・イーライ 学園の園芸員。
クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。
・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。
・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。
・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。
・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。
・マイロ 17歳、メリベルの友人。
魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。
魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。
ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

天然と言えば何でも許されると思っていませんか
今川幸乃
恋愛
ソフィアの婚約者、アルバートはクラスの天然女子セラフィナのことばかり気にしている。
アルバートはいつも転んだセラフィナを助けたり宿題を忘れたら見せてあげたりとセラフィナのために行動していた。
ソフィアがそれとなくやめて欲しいと言っても、「困っているクラスメイトを助けるのは当然だ」と言って聞かず、挙句「そんなことを言うなんてがっかりだ」などと言い出す。
あまり言い過ぎると自分が悪女のようになってしまうと思ったソフィアはずっともやもやを抱えていたが、同じくクラスメイトのマクシミリアンという男子が相談に乗ってくれる。
そんな時、ソフィアはたまたまセラフィナの天然が擬態であることを発見してしまい、マクシミリアンとともにそれを指摘するが……

虐げられた令嬢は、耐える必要がなくなりました
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私アニカは、妹と違い婚約者がいなかった。
妹レモノは侯爵令息との婚約が決まり、私を見下すようになる。
その後……私はレモノの嘘によって、家族から虐げられていた。
家族の命令で外に出ることとなり、私は公爵令息のジェイドと偶然出会う。
ジェイドは私を心配して、守るから耐える必要はないと言ってくれる。
耐える必要がなくなった私は、家族に反撃します。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

ガネス公爵令嬢の変身
くびのほきょう
恋愛
1年前に現れたお父様と同じ赤い目をした美しいご令嬢。その令嬢に夢中な幼なじみの王子様に恋をしていたのだと気づいた公爵令嬢のお話。
※「小説家になろう」へも投稿しています

幼馴染み同士で婚約した私達は、何があっても結婚すると思っていた。
喜楽直人
恋愛
領地が隣の田舎貴族同士で爵位も釣り合うからと親が決めた婚約者レオン。
学園を卒業したら幼馴染みでもある彼と結婚するのだとローラは素直に受け入れていた。
しかし、ふたりで王都の学園に通うようになったある日、『王都に居られるのは学生の間だけだ。その間だけでも、お互い自由に、世界を広げておくべきだと思う』と距離を置かれてしまう。
挙句、学園内のパーティの席で、彼の隣にはローラではない令嬢が立ち、エスコートをする始末。
パーティの度に次々とエスコートする令嬢を替え、浮名を流すようになっていく婚約者に、ローラはひとり胸を痛める。
そうしてついに恐れていた事態が起きた。
レオンは、いつも同じ令嬢を連れて歩くようになったのだ。

とある侯爵令息の婚約と結婚
ふじよし
恋愛
ノーリッシュ侯爵の令息ダニエルはリグリー伯爵の令嬢アイリスと婚約していた。けれど彼は婚約から半年、アイリスの義妹カレンと婚約することに。社交界では格好の噂になっている。
今回のノーリッシュ侯爵とリグリー伯爵の縁を結ぶための結婚だった。政略としては婚約者が姉妹で入れ替わることに問題はないだろうけれど……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる