上 下
16 / 56

第16話 芸術家って、そういうものよ

しおりを挟む
 愛されなくてもいいと諦めてから、あたしの生活は一変した気がする。
 だけど、悪い気はしない。

 愛されたいと思って、ロビーロベルトのことしか見てなかった。
 それなのに周囲の目を気にしてた。
 よく思われたいと演じていたんだ。

 そんなのあたしじゃない。
 そんなあたしが愛されるはずない。

 でも、女神様とお星様に願って、よかった。
 もう無理に振る舞う必要なんて、ないんだってことに……。

 新たな友人が出来た。
 嫌いだった意地悪な先生がホントはいい人かもしれないと分かった。

 サーラとは冬期休暇の間に遊びに行くことを約束した。
 ホントは遊びに来て欲しいところだけど、毒のこともあってそうはいかない。
 彼女を巻き込みたくない。

 ビカン先生は冬期休暇でも学園にずっといるので「いつでも訪ねてくるといい」とちょっと意地悪そうな笑顔を浮かべて、言ってくれた。
 先生が学園に住み込んでいると聞いて、ビックリしたけど。

 そんなことを考えながら、馬車の窓から外の景色を眺めて、現実逃避する。
 正面を向くとユナユスティーナから、睨まれて舌打ちされるので面倒なのだ。
 マリーマルチナは少し、オロオロとしながらも何とか、空気をよくしようとして、学園であったことを話題にして、話を振ったりしてくれるがほぼ、沈黙が支配していたのはこのところ、いつものことだった。

 あたしも空気を悪くしたくないので角が立たない程度には受け答えしたけど、ユナの態度が悪すぎて、話にならない。
 マリーに話を振られても素っ気ないどころか、棘のある調子で答えていたんだから。

 それでも学園から、屋敷までそんなに時間がかからない。
 ちょっと我慢している間に着くのだ。



 しかし、よくないことは望んでないのに向こうから、手を振ってくるものみたい。
 帰宅してから、あたしは部屋でおとなしくしてた。
 エヴァのところには人目の付かない時間の方が、安全だろうと先生から、アドバイスされてたから。

 先生やサーラの話から、新たに分かったことをメモに書き加えてみたもののさっぱり、分かんない。
 犯人の狙いがまず、よく分かんないのだ。
 あたしの家に恨みがあるのなら、何でこんな回りくどい毒を使ったんだろう。
 考えれば、考えるほどに分かんないし、そもそも考えるのは嫌いだ。

 こういう時は絵を描くに限る。
 あたしが小さい頃から、みんなに褒めてもらえたのは絵だけと言っても嘘じゃないだろう。
 あのユナですら、「エミーは絵がうまいのね」と普通に褒めてくれたんだから。

 どうやら、あたしは絵を描く時に無意識で魔力を使っているらしい。
 それを教えてくれたのは先生だった。
 これまで授業を真面目に受けてなかったから、魔力を制御するのが下手だった。
 簡単な魔法すら、うまく使えなかったのだ。

 それがあの日から……髪の色が変わってから、苦労せずに出来るようになってる。
 炎の魔法しか使えなくて、それすらまともに出来なかったのに今では炎と水の魔法を自由自在とまでは言わないけど、出来るのだ。
 ただし、絵として描くことで!

 きっかけはささいな出来事だった。
 このところ、いつもお邪魔してる先生の研究室でしてて、暇だったから、ノートにメラメラと燃え上がる炎を描いたのだ。
 先生のオレンジブラウンの髪を見ていたら、描きたくなった。

 「芸術家って、そういうものよ」と言ったら、「お前はアホか」と頭を小突かれた。
 理由は簡単。
 絵に描いた炎が、まさか、そのまま現実のものになるなんて思わないじゃない?
 危うく、大火災になる事態だったけど、先生がすぐに消してくれたので事なきを得た。

 先生のスゴイところはそれだけであたしが絵を描くことで魔法を具現化出来ることに気が付いたことだ。
 当の本人であるあたしが分からないのに!
 「ペップは天才なのね」と言ったら、今度は「お前はアホだな」と眉間を指で弾かれた。
 地味に痛かった……。

 そういう訳で絵を描きたくなったから、麗らかな春の花畑を飛び交う蝶々を描いた。
 部屋の中を色とりどりの美しい蝶々が舞っていて、きれい。
 冬期休暇で冬真っ盛りだけど、悪くないわ!

 具現化は仮初のものだから、消してしまえば、問題ない。
 明日からは冬期休暇。
 何をしよう。
 どうしよう。
 目の前に広がる問題は山積みですぐには片付きそうにない。

 今、蝶々を眺めているこの時だけ、自由。
 あたしも蝶々みたいに自由になりたい。

 そんな平穏な一時が破られることになろうとはあたしは知る由もなかったのだ。
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

婚約者に好きな人がいると言われました

みみぢあん
恋愛
子爵家令嬢のアンリエッタは、婚約者のエミールに『好きな人がいる』と告白された。 アンリエッタが婚約者エミールに抗議すると… アンリエッタの幼馴染みバラスター公爵家のイザークとの関係を疑われ、逆に責められる。 疑いをはらそうと説明しても、信じようとしない婚約者に怒りを感じ、『幼馴染みのイザークが婚約者なら良かったのに』と、口をすべらせてしまう。 そこからさらにこじれ… アンリエッタと婚約者の問題は、幼馴染みのイザークまで巻き込むさわぎとなり―――――― 🌸お話につごうの良い、ゆるゆる設定です。どうかご容赦を(・´з`・)

価値がないと言われた私を必要としてくれたのは、隣国の王太子殿下でした

風見ゆうみ
恋愛
「俺とルピノは愛し合ってるんだ。君にわかる様に何度も見せつけていただろう? そろそろ、婚約破棄してくれないか? そして、ルピノの代わりに隣国の王太子の元に嫁いでくれ」  トニア公爵家の長女である私、ルリの婚約者であるセイン王太子殿下は私の妹のルピノを抱き寄せて言った。 セイン殿下はデートしようといって私を城に呼びつけては、昔から自分の仕事を私に押し付けてきていたけれど、そんな事を仰るなら、もう手伝ったりしない。 仕事を手伝う事をやめた私に、セイン殿下は私の事を生きている価値はないと罵り、婚約破棄を言い渡してきた。 唯一の味方である父が領地巡回中で不在の為、婚約破棄された事をきっかけに、私の兄や継母、継母の子供である妹のルピノからいじめを受けるようになる。 生きている価値のない人間の居場所はここだと、屋敷内にある独房にいれられた私の前に現れたのは、私の幼馴染みであり、妹の初恋の人だった…。 ※8/15日に完結予定です。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観ですのでご了承くださいませ。

前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。

真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。 一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。 侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。 二度目の人生。 リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。 「次は、私がエスターを幸せにする」 自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈 
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

処理中です...