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第一部 名も無き島の小さな勇者とお姫様
閑話 『名も無き島』の大洞窟
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(三人称視点)
リリアナとレオニードがパラティーノへの買い物の旅に発ってから、暫く後のことである。
セベク、シグムンド、ルングニルの三人はイソローに留守番を頼むと迷宮へと旅立った。
『名も無き島』の地下に広がる大迷宮は『深淵の魔窟』と呼ばれていた。
一説によれば、遥かなる世界へと繋がるなどとも言われるほどに深く、広大である。
絶海の孤島であることも影響し、未踏の迷宮だったが一定の階層に到達すれば、銘品が手に入ることもあり、島の住民にとってはなくてはならない場所でもあったのだ。
「ここまでは余裕だが……」
「しかし、まさかこんな物が邪魔をしているとはな」
驚異的とも言えるスピードで次々と階層を突破し、早々に五十階層に到達していたセベク一行だが、思わぬ伏兵に邪魔をされる形になっていた。
彼らの前に行く手を阻むように現れたのは巨大な根だ。
それも下の階層へと続く、階段への入り口をふさいでいた。
「帰らざるを得ないか」
「そのようですな。残念ながら、これは如何ともしがたいですな」
拳で軽く、根を叩いたシグムンドが溜息交じりにそう告げる。
怪力が自慢のルングニルの膂力をもってしても歯が立たないことをその目で確認したセベクも同意するように頷いた。
この迷宮では十階層毎にまるで報酬とでも言うように宝箱が出現する。
次の階層へ向かう広間のような造りの空間に現れる宝箱に入っている物が何であるのかは開けてみるまで分からない。
剣や槍のような武器、鎧やローブといった防具だけではなく、何らかの特殊な力を秘めた指輪や首飾りのような魔装具が出てくることもある。
それだけでない。
他では見られない力自体を得られる場合もある。
何の思惑があるのか、奇妙な迷宮としか言えない。
一行がここまでの道中で得た宝箱は五つ。
そのどれもが武器ばかりだったというのはまるで何者かが見ていて、宝箱を選別しているとでも言わんばかりの内容だった。
帰路についた一行は口数も少なく、重苦しい雰囲気に包まれている。
彼らは否応なく、理解していた。
巨大な根が島の神樹と呼ばれている大木のものだということを……。
状況を打開出来るのは恐らく、あの二人しかいないだろうということを……。
まだ、親に甘えても許される子らに過酷な運命を負わせることになるかもしれない。
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一説によれば、遥かなる世界へと繋がるなどとも言われるほどに深く、広大である。
絶海の孤島であることも影響し、未踏の迷宮だったが一定の階層に到達すれば、銘品が手に入ることもあり、島の住民にとってはなくてはならない場所でもあったのだ。
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「しかし、まさかこんな物が邪魔をしているとはな」
驚異的とも言えるスピードで次々と階層を突破し、早々に五十階層に到達していたセベク一行だが、思わぬ伏兵に邪魔をされる形になっていた。
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「帰らざるを得ないか」
「そのようですな。残念ながら、これは如何ともしがたいですな」
拳で軽く、根を叩いたシグムンドが溜息交じりにそう告げる。
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この迷宮では十階層毎にまるで報酬とでも言うように宝箱が出現する。
次の階層へ向かう広間のような造りの空間に現れる宝箱に入っている物が何であるのかは開けてみるまで分からない。
剣や槍のような武器、鎧やローブといった防具だけではなく、何らかの特殊な力を秘めた指輪や首飾りのような魔装具が出てくることもある。
それだけでない。
他では見られない力自体を得られる場合もある。
何の思惑があるのか、奇妙な迷宮としか言えない。
一行がここまでの道中で得た宝箱は五つ。
そのどれもが武器ばかりだったというのはまるで何者かが見ていて、宝箱を選別しているとでも言わんばかりの内容だった。
帰路についた一行は口数も少なく、重苦しい雰囲気に包まれている。
彼らは否応なく、理解していた。
巨大な根が島の神樹と呼ばれている大木のものだということを……。
状況を打開出来るのは恐らく、あの二人しかいないだろうということを……。
まだ、親に甘えても許される子らに過酷な運命を負わせることになるかもしれない。
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