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第一部 名も無き島の小さな勇者とお姫様
第65話 お姫様の衣装選び
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レオの体温で温められていると何だか、身体がポカポカしてきて、何もしたくなくなるのよ?
単なる言い訳でしてよ?
何をしに荊城に戻ってきたのか、忘れてしまうところでしたもの。
「姫様。このローブみたいに短いのを仕立てれば、いいんですかい」
「違うわよ? もう少し、長くして欲しいの」
乳母と同じ霜の巨人のメニヤを相手にこのやり取りを繰り返すのは何度目かしら?
メニヤは手先が器用で幼い頃、下半身が不自由だったわたしの為に車椅子を作ってくれた恩人でもあるわ。
とにかく器用なので大工仕事だけではなく、病人や怪我人の看護まで一手に引き受けてくれるし、今回のドレスの仕立ても彼女頼み。
「裾丈はこれくらいは欲しいわ」
「もうちょい攻めませんかい?」
「ダメよ! ダメ! ねぇ、レオ君」
「え? あ、うん。もうちょっと長い方がいいかな」
「それもダメよ! そうしたら、蹴りにくいじゃない……あっ」
「ん? 蹴るって、何の話?」
「何でもないわ。とにかく、長さはこれくらいにして」
危なかったわ……。
危うく、君にバレちゃうところだったじゃない。
本当はある程度、戦えるし、実は足癖が悪いなんて。
そんなこと、言えないでしょ?
「じゃ、こんな感じでどうです?」
メニヤがさらさらといとも簡単にバトルドレスのデザイン画を描いてくれた。
裾丈は膝上で丁度、太腿の中間地点くらいまでの長さ。
これはわたしの希望通りなので問題はない。
「肩と胸元が出過ぎに見えるわよ?」
「これくらいは攻めましょうや!」
「それなら、この肩のところにレースを増やして……あとはケープマントも欲しいわ」
メニエは年甲斐もなく、悪戯っ子のような笑みを浮かべていたのに、わたしの提案にあからさまにがっかりしている。
一応、わたしは乙女なのよ?
いくらレオにアピールするといっても限度があると思うの。
あまりに肌を出すとレオが不機嫌になるし……。
でも、それって、わたしのことが気になっている証拠だわ♪
そう考えると悪くない傾向ですわね。
「素材はどうされるんですかい?」
「ミスリル繊維がいいのだけど。まだ、たくさんあったでしょ?」
「いけますとも」
ミスリル繊維はエルフしか鍛えられない特殊な金属であるミスリルを細く、紐状に加工した物だ。
見た目はシルクに良く似ている。
滑らかで美しいのが特徴なので服を仕立てることも出来る。
ただ、繊維になったことで多少、防御は落ちてしまうけど。
でも、ドレスでありながら、金属製の全身鎧に匹敵する防御力があるのよね。
さらに防護の効果を込めた魔石や魔力を高める魔石などを散りばめる。
ケープマントにはさらに浮遊の魔石を散りばめて、防御だけではなく利便性も高めるつもり。
「繊維が余ったら、レオ君の服も作れるかしら?」
レオに気が付かれないように小声でメニエに確認すると察してくれたのか、同じく小さくうなずいてくれた。
彼は不思議そうな顔はしているけど、気が付いてはいないみたい。
ミスリル繊維で編まれた快適で丈夫な旅装束を秘密で用意する。
きっと喜んでくれるはず!
「それと白を基調にするのは譲れないけど、黒と赤を差し色で入れて欲しいの」
「へえ? ああ。そういうことですかい。分かりやしたよ」
これも力強く、サムズアップで応じてくれるメニエは実に心強いものですわ。
黒は彼の濡れ羽色の髪の色で赤は紅玉の瞳の色。
愛する人の色を身に纏ってこそ、良き夫婦の姿よね♪
「出来上がったら、どうしたらいいのかしら?」
「ああ。それは問題ないですとも。全て、お任せくださいや」
自信に満ち溢れていながらもどこか、悪戯心を忘れていない表情でメニヤはそう答えてくれた。
その時のわたしはメニヤの態度を全く、疑問にすら感じていなかったのだ。
デザイン画のバトルドレスをレオが「かわいい」「似合う」と絶賛するものだから、浮かれていたから……。
単なる言い訳でしてよ?
何をしに荊城に戻ってきたのか、忘れてしまうところでしたもの。
「姫様。このローブみたいに短いのを仕立てれば、いいんですかい」
「違うわよ? もう少し、長くして欲しいの」
乳母と同じ霜の巨人のメニヤを相手にこのやり取りを繰り返すのは何度目かしら?
メニヤは手先が器用で幼い頃、下半身が不自由だったわたしの為に車椅子を作ってくれた恩人でもあるわ。
とにかく器用なので大工仕事だけではなく、病人や怪我人の看護まで一手に引き受けてくれるし、今回のドレスの仕立ても彼女頼み。
「裾丈はこれくらいは欲しいわ」
「もうちょい攻めませんかい?」
「ダメよ! ダメ! ねぇ、レオ君」
「え? あ、うん。もうちょっと長い方がいいかな」
「それもダメよ! そうしたら、蹴りにくいじゃない……あっ」
「ん? 蹴るって、何の話?」
「何でもないわ。とにかく、長さはこれくらいにして」
危なかったわ……。
危うく、君にバレちゃうところだったじゃない。
本当はある程度、戦えるし、実は足癖が悪いなんて。
そんなこと、言えないでしょ?
「じゃ、こんな感じでどうです?」
メニヤがさらさらといとも簡単にバトルドレスのデザイン画を描いてくれた。
裾丈は膝上で丁度、太腿の中間地点くらいまでの長さ。
これはわたしの希望通りなので問題はない。
「肩と胸元が出過ぎに見えるわよ?」
「これくらいは攻めましょうや!」
「それなら、この肩のところにレースを増やして……あとはケープマントも欲しいわ」
メニエは年甲斐もなく、悪戯っ子のような笑みを浮かべていたのに、わたしの提案にあからさまにがっかりしている。
一応、わたしは乙女なのよ?
いくらレオにアピールするといっても限度があると思うの。
あまりに肌を出すとレオが不機嫌になるし……。
でも、それって、わたしのことが気になっている証拠だわ♪
そう考えると悪くない傾向ですわね。
「素材はどうされるんですかい?」
「ミスリル繊維がいいのだけど。まだ、たくさんあったでしょ?」
「いけますとも」
ミスリル繊維はエルフしか鍛えられない特殊な金属であるミスリルを細く、紐状に加工した物だ。
見た目はシルクに良く似ている。
滑らかで美しいのが特徴なので服を仕立てることも出来る。
ただ、繊維になったことで多少、防御は落ちてしまうけど。
でも、ドレスでありながら、金属製の全身鎧に匹敵する防御力があるのよね。
さらに防護の効果を込めた魔石や魔力を高める魔石などを散りばめる。
ケープマントにはさらに浮遊の魔石を散りばめて、防御だけではなく利便性も高めるつもり。
「繊維が余ったら、レオ君の服も作れるかしら?」
レオに気が付かれないように小声でメニエに確認すると察してくれたのか、同じく小さくうなずいてくれた。
彼は不思議そうな顔はしているけど、気が付いてはいないみたい。
ミスリル繊維で編まれた快適で丈夫な旅装束を秘密で用意する。
きっと喜んでくれるはず!
「それと白を基調にするのは譲れないけど、黒と赤を差し色で入れて欲しいの」
「へえ? ああ。そういうことですかい。分かりやしたよ」
これも力強く、サムズアップで応じてくれるメニエは実に心強いものですわ。
黒は彼の濡れ羽色の髪の色で赤は紅玉の瞳の色。
愛する人の色を身に纏ってこそ、良き夫婦の姿よね♪
「出来上がったら、どうしたらいいのかしら?」
「ああ。それは問題ないですとも。全て、お任せくださいや」
自信に満ち溢れていながらもどこか、悪戯心を忘れていない表情でメニヤはそう答えてくれた。
その時のわたしはメニヤの態度を全く、疑問にすら感じていなかったのだ。
デザイン画のバトルドレスをレオが「かわいい」「似合う」と絶賛するものだから、浮かれていたから……。
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