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第一部 名も無き島の小さな勇者とお姫様
第57話 悪神の子
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三人称視点
夜明けを迎えた『名も無き島』にかつてない危機が迫っていた。
レオニードが『小さな勇者』と呼ばれる切っ掛けとなった事件がある。
とある神に唆された石の巨人がこの島を支配下に置き、魔物を使って、野望を成就させようとしたのだ。
だが、不思議な力を発揮したレオニードが石の巨人を倒した。
ルングニルも根っからの悪人ではなく、改心した今では島の一員となっている。
その時を遥かに超える未曾有の危機である。
「これも星の 巡り合わせか」
「そのようですな」
シグムンドは舞うように軽やかなステップを踏みながら、剣を振るい大地から、植物のように生えてくる触手を切り捨てるが、次から次へと生えてくる相手にきりがない。
その傍ではセベクが左手に剣を右手に槍を構え、こちらも流れるような動きで次々と触手を屠っていくが、切り捨てようがすぐに再生して、生えてくるので手の打ちようがなかった。
「先生! セベクさん! 退いてくれえ。これでどうだあ! 火球!」
イソローが両の掌を体の前で合わせ、出現させた大きな火球を触手の生えてくる大地に向けて放った。
着弾すると同時に巨大な火柱が上がり、一帯の触手が全て、焼き払われたように見えた。
「どうでい。俺っちの火球は!」
しかし、黒焦げになり動きを止めたように見えた触手は死んではいなかった。
焦げた表皮が剥がれ落ちると何事も無かったように再び、動き出す。
「嘘だろお」
魔法を撃ち終わった後で無防備な体勢になっていたイソローは、襲い掛かってくる鞭のようにしなる触手を相手になすすべもなかった。
このままでは直撃を喰らうことを避けられない。
「ありがてえ。ルングニルさん」
「おうとも」
身を挺して、イソローを守ったのは石の巨人だった。
まるで岩の塊のような大きな体で庇ったのだ。
大地から、次々と生えてくるヌメヌメとした白い体表を持つ触手を前に身構える四人の前に場違いとも言うような優美な容貌の若い男が姿を現した。
陽光の煌きを思わせる豪奢な金色の髪。
彫像のように整った美しい顔。
全てがこの場にあるのを不自然と思わせるのに十分な姿をしていた。
「いるのだろう? 出てこい、ヘル。私は帰ってきた……貴様らに復讐する為にな」
美しい顔が歪に醜悪なものへと変じていく。
それに応じるように触手にも変化が生じ、棘が生えた禍々しいものになっていった。
「ナリ。生きていたのか」
シグムンドは吐き捨てるように言うと手にしていた長剣を投げ捨て、背負っていた大剣の柄に手を掛けた。
長剣の刀身は触手を斬ったことで腐食しており、使い物にならなくなっていたのだ。
ナリとは炎の神ロキの数多き子の一人である。
フェンリルやヘルとは母違いの異母兄にあたり、自分こそロキの後継者という自負心の強さから、ヘルを狙ってレオニードと戦った過去があった。
「私は死なんよ。何度でも甦るさ」
口角を上げ、歪んだ笑みを浮かべた狂える神を前に四人が覚悟を決めた戦いに挑もうとしたその時だった。
「お前に引導を渡すのは吾輩であるよ。今度こそ、髪の毛一本残さず、消し去るのである」
「そうね。それがいいわ。これ以上、相手をするのも面倒だよ。ヤっちゃいなよ」
「言われずとも分かっているのである」
全く、空気を読まず、ナリと四人の間に二つの影が現れたのだ。
血のような色が混じった銀色の長い髪を風に靡かせる大男だった。
その肩に椅子代わりに乗っかっている金髪の少女はまるで陶器人形のように完成された美しさで場を圧倒する。
「第二幕の開始である!覚悟せよ」
夜明けを迎えた『名も無き島』にかつてない危機が迫っていた。
レオニードが『小さな勇者』と呼ばれる切っ掛けとなった事件がある。
とある神に唆された石の巨人がこの島を支配下に置き、魔物を使って、野望を成就させようとしたのだ。
だが、不思議な力を発揮したレオニードが石の巨人を倒した。
ルングニルも根っからの悪人ではなく、改心した今では島の一員となっている。
その時を遥かに超える未曾有の危機である。
「これも星の 巡り合わせか」
「そのようですな」
シグムンドは舞うように軽やかなステップを踏みながら、剣を振るい大地から、植物のように生えてくる触手を切り捨てるが、次から次へと生えてくる相手にきりがない。
その傍ではセベクが左手に剣を右手に槍を構え、こちらも流れるような動きで次々と触手を屠っていくが、切り捨てようがすぐに再生して、生えてくるので手の打ちようがなかった。
「先生! セベクさん! 退いてくれえ。これでどうだあ! 火球!」
イソローが両の掌を体の前で合わせ、出現させた大きな火球を触手の生えてくる大地に向けて放った。
着弾すると同時に巨大な火柱が上がり、一帯の触手が全て、焼き払われたように見えた。
「どうでい。俺っちの火球は!」
しかし、黒焦げになり動きを止めたように見えた触手は死んではいなかった。
焦げた表皮が剥がれ落ちると何事も無かったように再び、動き出す。
「嘘だろお」
魔法を撃ち終わった後で無防備な体勢になっていたイソローは、襲い掛かってくる鞭のようにしなる触手を相手になすすべもなかった。
このままでは直撃を喰らうことを避けられない。
「ありがてえ。ルングニルさん」
「おうとも」
身を挺して、イソローを守ったのは石の巨人だった。
まるで岩の塊のような大きな体で庇ったのだ。
大地から、次々と生えてくるヌメヌメとした白い体表を持つ触手を前に身構える四人の前に場違いとも言うような優美な容貌の若い男が姿を現した。
陽光の煌きを思わせる豪奢な金色の髪。
彫像のように整った美しい顔。
全てがこの場にあるのを不自然と思わせるのに十分な姿をしていた。
「いるのだろう? 出てこい、ヘル。私は帰ってきた……貴様らに復讐する為にな」
美しい顔が歪に醜悪なものへと変じていく。
それに応じるように触手にも変化が生じ、棘が生えた禍々しいものになっていった。
「ナリ。生きていたのか」
シグムンドは吐き捨てるように言うと手にしていた長剣を投げ捨て、背負っていた大剣の柄に手を掛けた。
長剣の刀身は触手を斬ったことで腐食しており、使い物にならなくなっていたのだ。
ナリとは炎の神ロキの数多き子の一人である。
フェンリルやヘルとは母違いの異母兄にあたり、自分こそロキの後継者という自負心の強さから、ヘルを狙ってレオニードと戦った過去があった。
「私は死なんよ。何度でも甦るさ」
口角を上げ、歪んだ笑みを浮かべた狂える神を前に四人が覚悟を決めた戦いに挑もうとしたその時だった。
「お前に引導を渡すのは吾輩であるよ。今度こそ、髪の毛一本残さず、消し去るのである」
「そうね。それがいいわ。これ以上、相手をするのも面倒だよ。ヤっちゃいなよ」
「言われずとも分かっているのである」
全く、空気を読まず、ナリと四人の間に二つの影が現れたのだ。
血のような色が混じった銀色の長い髪を風に靡かせる大男だった。
その肩に椅子代わりに乗っかっている金髪の少女はまるで陶器人形のように完成された美しさで場を圧倒する。
「第二幕の開始である!覚悟せよ」
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