わたしの旦那様は小さな勇者~お姫様と勇者のスローライフ~

黒幸

文字の大きさ
上 下
48 / 85
第一部 名も無き島の小さな勇者とお姫様

第43話 お姫様は無駄に企む

しおりを挟む
 普通だわ。
 杞憂だったということかしら?
 練習用の木剣でレオと打ち合っているシグムンドの姿を見ていて、そういう感想しか出てこないわ。

「あの人間、伝説の勇者なんですよねえ?」
「ええ。神々の王オーディンが認めた勇者様よ、アレ。血縁上は遠いですけど、わたしの叔父でもあるわ」
「マジですかあ。本物の勇者様かよお。つか、姫さんもどうなってんのさあ」

 ネズミ君とレオの勇者修行を見ているだけでいないといけないこの苦痛と屈辱。
 たまにネズミ君が良く分からない言葉を使うから、苦痛がさらに増していくのだわ。

「ちょっと魔法を撃ち込んでみたら、どうかしら?」
「はあ? 何、言ってるんですかあ」
「大丈夫よ。わたし、回復魔法のエキスパートだもん」
「そういう問題じゃないですよお。この姫さん、おかしくないですかあ!?」

 そういう問題でしょう?
 勇者たる者、魔法の一つや二つ、さっと処理しないといけないわ。

「君がやらないのなら、わたしがやるけどいいかしら? 君がやったということにするけど、いいわね」
「ち、ちょっと! 姫さん。待ってえ! 待ってくださいよお」

 わたしがもっとも得意とするのは氷の魔法だから、さすがにそれは危ないわね。
 得意ではない炎の魔法にしましょう。
 ネズミ君の意見は聞いてないから、とりあえずやるわ。

「姫さん! 姫さん! それ、本当に大丈夫なヤツですかあ」
「単なる炎の矢ファイア・ボルトよ? それも威力を抑えているわ」
「いやあ! ダメでしょおお! 姫さん、それダメなヤツだからあ」

 抑えても威力は獄火焔ヘル・ファイアクラスですけど、言う必要はないわね。
 右人差し指の先に発動させた小さな火の玉にふっと小さく息を吹きかけました。
 これくらいの火の玉は勇者であれば、問題ないでしょ♪
 見せてみなさい、勇者としての力を!

「あれ、君がやったことにしておいてね♪」
「悪魔だあああ。悪魔がいるよおお」

 小さかった火の玉が宙を飛び、目標シグムンドへと向かう間に巨大化していきますけど、それくらいは愛嬌で許して欲しいものだわ。

「先生! 炎が!」
「レオニード君。少し、離れてください」
「はい、先生」

 予想通り、勇者らしく、生徒であるレオに被害が及ばないように配慮したのね。
 さて、どうするのかしら?
 実際に勇者と呼ばれた人物がどう対処するのか、興味深いわ。

「はあああああ! とうっ!」

 シグムンドは剣を抜かず、レオの授業で使っていた木剣をそのまま、使いました。
 まさかですのよ?
 それを使うとは思っていませんでしたわ。

 彼の木剣の一閃は一見、簡単な型のように思えるわ。
 気合を込めて、頭上に振り上げてから、大きく振り下ろしただけ。
 でも、違うわ。
 あれはまず、風の付与魔法である風化付与ウインドウェポンを木剣にかけてから、振り下ろしと同時に風裂刃ウインドスライサーを放っているのだわ。

 凄いですわ。
 さすが、勇者と言うべきかしら?
 大きな火の玉と化した炎の矢ファイア・ボルトを打ち消しただけではなく、勢いの強い風がこちらに向けて飛んできましたもの。

「リーナ! これ!」
「どうしましたの? そんなに慌てて」

 レオがえらく慌てているけど、どうしたのかしら?
 わたしの方に駆け寄ってくると羽織っていたマントをわたしに掛けてくれたのですけど……。
 どうしたのかしら?

「それ……」
「え? きゃあっ!?」

 ドレスがボロボロになっているのに気がつかないなんて!
 あちこちが裂けたり、破けていて、酷い状態だわ。
 おまけに狙ったように胸がはだけて、露わになっているじゃない。

 これにいち早く気が付いてくれて、見えないようにと気を遣ってくれたのね?
 嬉しいわ。
 涙目で彼のマントにくるまったら、優しく、抱き締められちゃった♪

 そのまま、彼の胸に抱かれているといつも以上に、レオのことを男らしく感じて、妙に恥ずかしい。
 このマントもレオの匂いが強く、感じられて、胸のドキドキが激しくて気持ち悪くなってきたかも……。

「大丈夫? 怪我してない?」
「う、うん。服が破けただけなの」
「そっか。リーナが無事で良かった」

 君はただ、わたしを純粋に心配してくれるのね。
 ごめんなさい、レオ。
 次はこんなをしないから。

「ありがとう」

 抱き締めてくれる彼の背中に手を回して、わたしからも強く、抱き締め返した。
 君の体は温かくて、身体だけでなく、心までもが君に染められてしまいそう……。

 こちらを注視している叔父様シグムンドに向けて、「わたしの勝ち♪」と唇を動かしたの。
 だって、ちゃんと伝えておかないとダメでしょう?
しおりを挟む
感想 74

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

処理中です...