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第一部 名も無き島の小さな勇者とお姫様

第33話 化け物はどっち

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ネズ・イソロー視点

 あいつ、本当に一人で醸造樽を倒しちまった。
 赤く燃え上がる炎に包まれてたあいつが戦う姿はどこか、美しさえ感じるほどだ。
 姫さんを助けようと必死だったんだろうが、目の前で見ていても信じられないくらいに凄かった。

 レオは小っちゃい体で姫さんを横抱きに抱えて、出てきたが、その顔はどこか、大人びていて、俺の知らないあいつだった。
 いつの間にそんな顔が出来るようになったんだと驚いたが、成長していくあいつを見ていて、どこか嬉しくなってくる自分がいた訳だ。

「あいつ、姫さんしか見てないな。ったく」

 訂正だ。
 まだまだ、あいつはガキだった。
 もっと広く視野を持たないといけないぜえ?
 醸造樽に捕まっていたのは姫さんだけじゃ、ないはずだ。
 まあ、姫さんはレオに任せておくか。

 動きが完全に停止した醸造樽の中を確認すると三人の若い女性が囚われていた。
 全員、見事に服だけを溶かされている訳だが……。
 ヤレヤレだ。

 あいつの真似をして、羽織っていたマントで包もうかと思ったが、三人は無理だ。
 幸いなことに搬入口だったから、包む物には事欠かない。
 まず、二人を助け出してから、最後の一人だけ、俺のマントで包んだ。
 何で一人だけ、対応が違うかって?

 そりゃ、決まってんだろ。
 その子が一番、可愛くて好みだったんだよ。
 悪いか?



 しかし、何だか風向きがおかしい。
 俺達を見る目。
 いや、正確にはレオを見る人間達の目が怯えているんだ。

「化け物だ」
「あの子、化け物よ」

 ヒソヒソと小声で言っていても俺には全部、聞こえているんだぜえ?
 あいつが化け物だって?
 一人きりで必死に戦っていたあいつが化け物なら、お前ら人間は何なんだ?

 レオにも声は聞こえているはずだ。
 島でこんなに悪意に晒されたことがないあいつにとって、どれだけ辛いか。
 あいつが戦って、助けなかったら、お前らに何が出来た? 何をした?
 そう叫んでやりたいが、あいつはそんなことを望まない。
 レオにとって、姫さんからの言葉が一番救いになるはずだ。

「帰るぜえ、レオ」
「うん……」

 あいつは姫さんを抱えて、俯いたままだ。
 その時、まるで世界に影が差したと感じた。
 息が出来なくなるような恐ろしい威圧感に指一本さえ、動かせない。

「通りすがりのおじいちゃんじゃ。どれ、お前さん達を送り届けてやろうかのう」

 黒い影としか、感じられない何かの声が聞こえたかと思うと俺達は島に戻っていた。
 正直、ありがたさよりも恐怖の方が勝っている。

「一体、どちらが化け物なんじゃろうな」

 黒い影が消える前に最後に残した言葉が棘のように刺さって、消えないぜ……。
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