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第一部 名も無き島の小さな勇者とお姫様

第23話 哀しき現実

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 レオが本当にキスしてくれるとは思ってなかったから、心臓が止まるかと思いましたわ。
 それにあんなキス初めてだったし……。

 レオの様子を窺ってもいつもと変わらない様子なのよね。
 瞳を輝かせて、キョロキョロと周囲を見ている姿は好奇心旺盛な男の子そのものなんですもの。

 キスは挨拶みたいなものと思っているのかしら?

「アレがパ・シェル・ブーク百貨店よ」
「うわー。大きいなー」

 石畳が敷かれ、整備の行き届いたきれいな大通り。
 その通りでもっとも目立つ場所に陣取っている巨大な建物が『パ・シェル・ブーク百貨店』。

 現地の言葉で安くて、たくさんという意味なのですって。
 その名の通り、安い物から高い物まで揃わない物はないとも言われてますわ。

 レオは大きな建物を見上げて、目を丸くして驚いていたけど、何か違うものに気が付いたみたい。

「ねぇ、リーナ。あれは?」
「あれは……」

 レオが視線を向けている先にあったのは大きな檻車でした。
 その中にはレオと同じか、それよりも幼い子供達がまるで商品のように小さな檻に入れられて、並べられているのです。

 こちらを恨めし気に見つめる彼らの瞳に生気がまるで感じられません。
 体も汚れ、ところどころ血が滲み、痣が見えるので虐待もされているのかもしれません。

「彼らは奴隷として、売られているのよ」
「奴隷?」
「酷いことをするもんだなあ。ありゃ、獣人の子供だよ」

 ネズミ君は理解しているようね。
 レオはまず、奴隷が分かっていないので理解しようとはしているものの混乱しているのでしょう。
 彼のように純粋な子になるべくなら、このような現実を見せたくはなかったのですけど……。

「あの子達、助けることは出来ないかな?」
を助けることは出来るわ。でも、それでは何も解決出来ないの」
「レオ。ここに奴隷制度ちゅうルールがある限り、根本的にどうにもならないんだよ。彼らを助けても別の誰かが、また犠牲になる」

 レオは物事を知らないだけで頭が悪い訳ではありません。
 ほぼ理解しちゃったかしら……。

 彼の辛そうな表情を見ているとどうにか、してあげたいのですけれど、人間に、干渉してはいけない不文律があるのよね。

「みんながもっと仲良く、生きられる世界になったらいいね」
「レオ……」

 君がそう望むのなら、わたしは……

「だから、僕……頑張るよ!」

 どこまでも真っ直ぐで純粋なんだから。
 だから、君のことが大好きよ、レオ君。
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