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1 死は意外と呆気なく訪れるものだ
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通学の合間の軽い読書が私のルーチンだ。
読書と言っても別に小難しい本を読んでいる訳じゃないし、スマホでさらさらと読むだけ。
しかし、今日はいつも以上に頭に入ってこない。
気のせいではない。
確信というほどではないけど、思い当たることがある。
昨晩、ようやく読み終えた小説『鋼鉄の聖女』の内容のせいだと思う。
アニメも放映されて、人気が爆発した。
そこに目を付けたハリウッドは、クオリティの高いCGを駆使した実写映画を制作したほどだ。
これまた、世界的ヒットを飛ばした。
今、読んでいるのは実写映画待望のノベライズって訳。
それはもう期待を込めて、読んだ。
思い切り、裏切られた感じがするのはなぜ?
私は生粋のファン。
間違いないと思う。
アニメから入って、実写映画もシリーズを通して、全視聴済みだ。
推しキャラのグッズだって、それなりにたくさん集めている。
しかし、ここで忘れてはいけない大きな問題があった。
私の推しキャラは主人公じゃないってこと。
じゃあ、ヒロイン?
それも違う。
『鋼鉄の聖女』はそもそもが群像劇だ。
そうは言っても群像劇に主役級のメインキャラが存在しない訳じゃない。
出番が多くて、活躍する。
ほぼ主人公と言ってもいい位置付けにいるキャラだ。
そんなメインキャラ。
それもメインヴィランと呼ばれる存在に仕える小悪党。
それが私の推しキャラ――ステラ・プラッツだった。
ルックスだけなら、間違いなく劇中一番だろう。
ヒロインと間違えられてもおかしくないと思う。
スタッフも推しなのかと疑いたくなるほど、ビジュアル面に特化していた。
えらく気合が入っているのだ。
ピンクの髪にスカイブルーの目。
口さえ開かなければ、ヒロインだと誰もが思うルックスの持ち主。
それに実力だってあった。
ヴィランの中でもメインキャラに次ぐ、ナンバーツーなのだ。
何をやらしてもそれなりにこなす有能なキャラ。
じゃあ、何がいけないのかっていうと……。
性格が作中屈指で残念な子なのだ。
やることなすことが裏目に出ていた。
人の上に立つような人望は無い。
むしろ、人望は薄い。
それのに本人に全く、自覚がない。
それでいて、上に立とうとする。
その度に失敗するのは当然なのだ。
それでもメインヴィランは理想の上司と呼ばれるようなキャラだ。
海みたいに心が広い。
ちょっとしたお仕置き程度だけで毎回、許されていた。
完璧なルックスなのにどこか抜けた三枚目のようなポジションが私は好きだったのだ。
まさかノベライズで止めを刺されることになるなんて……。
これまで持ち前の美貌と愛嬌だけでどうにか生き抜いてきたステラ・プラッツは死んだ。
惨たらしく、殺されるという最期だった。
それも人生の絶頂とどん底を同時に味わってからだ。
後味が悪い。
自らが王になる戴冠式で殺したはずの相手に殺されて、首と胴体が永遠にお別れした。
読むんじゃなかったと後悔してもどうにもならない。
「はぁ……」
テンション下がりまくって、学校に行くのも嫌になってきた。
でも、休めない。
小説読んだら、気分が落ち込んだので今日、休みますで休めれば、いいんだけど。
単位が足りなくなって、留年なんて笑えない。
「うぎゃ」と思わず、変な声が出た。
緊急ブレーキがかかったのだ。
初めての体験だった。
座ってなかったら、どうなっていたんだろう。
考えただけで怖さがぶり返す。
車内は結構、悲惨な状況だった。
座席に座っていた人はまだいい。
私も隣の人にちょっと寄りかかったくらいで済んだから。
他の人もそれほど、大事になってないみたいだ。
でも、立っていた人はそうもいかなかったんだろう。
吊り輪をしっかりと握っていなかった人が特に酷かった。
骨が折れた人もいるようだ。
「あ、あれは何だ!?」
その時、一人のおじさんが大声をあげた。
絶望とか、恐怖とか。
様々な負の感情が全て入ったような悲壮な声だった。
窓を指差したまま、おじさんはフリーズしている。
私も釣られて、見るんじゃなかったと後悔した。
影がたくさん集まって、蠢いているとしか思えない奇妙で巨大なモノがそこにいた。
誰かが「怪獣だ!」と叫んだ。
そう言われて見るとフォルムは映画に出てくる怪獣に似ている。
でも、気味の悪さが違う。
見ているだけで吐き気がしてくる。
頭は酩酊したみたいにくらくらするし、目の前がぼやけて何が起きているのか、分からない。
私が覚えているのはそこまでだった。
最後に見た風景は真っ赤なのに真っ黒。
よく分からない何かを感じて、意識がそこで途絶えた。
その日、東京湾に突如、巨大な黒き獣が出現した。
特別警戒変異体三号に認定された黒き獣は、Y市みなとみらいに上陸すると甚大な被害をもたらした。
しかし、不思議なことに驚くほど、人的な被害が少なかった。
相当数の怪我人は確認されたが、死亡が確認されたのは一人のみだった。
死亡したのは十九歳の女子大生・星野美心(ほしのみこ)。
当局は遺体の回収に尽力するも果たせていない。
特別警戒変異体三号の行方は杳として知れず。
読書と言っても別に小難しい本を読んでいる訳じゃないし、スマホでさらさらと読むだけ。
しかし、今日はいつも以上に頭に入ってこない。
気のせいではない。
確信というほどではないけど、思い当たることがある。
昨晩、ようやく読み終えた小説『鋼鉄の聖女』の内容のせいだと思う。
アニメも放映されて、人気が爆発した。
そこに目を付けたハリウッドは、クオリティの高いCGを駆使した実写映画を制作したほどだ。
これまた、世界的ヒットを飛ばした。
今、読んでいるのは実写映画待望のノベライズって訳。
それはもう期待を込めて、読んだ。
思い切り、裏切られた感じがするのはなぜ?
私は生粋のファン。
間違いないと思う。
アニメから入って、実写映画もシリーズを通して、全視聴済みだ。
推しキャラのグッズだって、それなりにたくさん集めている。
しかし、ここで忘れてはいけない大きな問題があった。
私の推しキャラは主人公じゃないってこと。
じゃあ、ヒロイン?
それも違う。
『鋼鉄の聖女』はそもそもが群像劇だ。
そうは言っても群像劇に主役級のメインキャラが存在しない訳じゃない。
出番が多くて、活躍する。
ほぼ主人公と言ってもいい位置付けにいるキャラだ。
そんなメインキャラ。
それもメインヴィランと呼ばれる存在に仕える小悪党。
それが私の推しキャラ――ステラ・プラッツだった。
ルックスだけなら、間違いなく劇中一番だろう。
ヒロインと間違えられてもおかしくないと思う。
スタッフも推しなのかと疑いたくなるほど、ビジュアル面に特化していた。
えらく気合が入っているのだ。
ピンクの髪にスカイブルーの目。
口さえ開かなければ、ヒロインだと誰もが思うルックスの持ち主。
それに実力だってあった。
ヴィランの中でもメインキャラに次ぐ、ナンバーツーなのだ。
何をやらしてもそれなりにこなす有能なキャラ。
じゃあ、何がいけないのかっていうと……。
性格が作中屈指で残念な子なのだ。
やることなすことが裏目に出ていた。
人の上に立つような人望は無い。
むしろ、人望は薄い。
それのに本人に全く、自覚がない。
それでいて、上に立とうとする。
その度に失敗するのは当然なのだ。
それでもメインヴィランは理想の上司と呼ばれるようなキャラだ。
海みたいに心が広い。
ちょっとしたお仕置き程度だけで毎回、許されていた。
完璧なルックスなのにどこか抜けた三枚目のようなポジションが私は好きだったのだ。
まさかノベライズで止めを刺されることになるなんて……。
これまで持ち前の美貌と愛嬌だけでどうにか生き抜いてきたステラ・プラッツは死んだ。
惨たらしく、殺されるという最期だった。
それも人生の絶頂とどん底を同時に味わってからだ。
後味が悪い。
自らが王になる戴冠式で殺したはずの相手に殺されて、首と胴体が永遠にお別れした。
読むんじゃなかったと後悔してもどうにもならない。
「はぁ……」
テンション下がりまくって、学校に行くのも嫌になってきた。
でも、休めない。
小説読んだら、気分が落ち込んだので今日、休みますで休めれば、いいんだけど。
単位が足りなくなって、留年なんて笑えない。
「うぎゃ」と思わず、変な声が出た。
緊急ブレーキがかかったのだ。
初めての体験だった。
座ってなかったら、どうなっていたんだろう。
考えただけで怖さがぶり返す。
車内は結構、悲惨な状況だった。
座席に座っていた人はまだいい。
私も隣の人にちょっと寄りかかったくらいで済んだから。
他の人もそれほど、大事になってないみたいだ。
でも、立っていた人はそうもいかなかったんだろう。
吊り輪をしっかりと握っていなかった人が特に酷かった。
骨が折れた人もいるようだ。
「あ、あれは何だ!?」
その時、一人のおじさんが大声をあげた。
絶望とか、恐怖とか。
様々な負の感情が全て入ったような悲壮な声だった。
窓を指差したまま、おじさんはフリーズしている。
私も釣られて、見るんじゃなかったと後悔した。
影がたくさん集まって、蠢いているとしか思えない奇妙で巨大なモノがそこにいた。
誰かが「怪獣だ!」と叫んだ。
そう言われて見るとフォルムは映画に出てくる怪獣に似ている。
でも、気味の悪さが違う。
見ているだけで吐き気がしてくる。
頭は酩酊したみたいにくらくらするし、目の前がぼやけて何が起きているのか、分からない。
私が覚えているのはそこまでだった。
最後に見た風景は真っ赤なのに真っ黒。
よく分からない何かを感じて、意識がそこで途絶えた。
その日、東京湾に突如、巨大な黒き獣が出現した。
特別警戒変異体三号に認定された黒き獣は、Y市みなとみらいに上陸すると甚大な被害をもたらした。
しかし、不思議なことに驚くほど、人的な被害が少なかった。
相当数の怪我人は確認されたが、死亡が確認されたのは一人のみだった。
死亡したのは十九歳の女子大生・星野美心(ほしのみこ)。
当局は遺体の回収に尽力するも果たせていない。
特別警戒変異体三号の行方は杳として知れず。
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