21 / 55
(21)ざわめく
しおりを挟む
翡翠は次の日もその次の日もベッドから起き上がることが出来なかった。
『いいですか、翡翠殿。あやかしである翡翠殿は、心に受けたダメージが直接体に影響してしまうのです。今、絵の中に戻れないあなたに出来ることはひとつしかありません。ただただ何も考えず、ひたすら休むことです』
アスクレピオス様にはそう言われたが、考えないようにすればするほどぐるぐると頭の中で思いめぐらせてしまう。
―― 友人だと思っていた蓮次郎との関係性が決定的に変化してしまったことについて。
―― 扉の『向こう側』で出会った時津彦様にぶつけられた衝撃的な言葉について。
―― 翡翠の大事な咲夜が翡翠の大事な使用人にしてしまった恐ろしいことについて。
時津彦様が『きさら堂』にいた頃は、時津彦様の望みのままに動いていれば何にも迷わずに済んだ。
時津彦様が『きさら堂』に姿を見せなくなってからも、時津彦様に決められたことを毎日繰り返していれば、ありふれた平穏な日々を過ごせていた。
でも、こんな時にどうすればいいのか、時津彦様には教えられていない……。
「ひすいさま……」
小さなノックの音と共に、元気のない咲夜の声が聞こえてきた。
「咲夜か、入りなさい」
翡翠の返事と同時にドアが開かれ、咲夜がぱたぱたとベッドに走って来る。
「ひすいさま、いたい? くるしい?」
ぎゅっと手を握り、心配そうに覗き込んでくる顔がとても可愛くて、翡翠はふっと微笑んだ。
「いいや、どこも痛くないし苦しくもないよ……」
咲夜は翡翠が倒れて以降、ずっとこの寝室に入り浸っていた。食事や入浴で翡翠から離れるたびに、なぜかいつも同じことを聞いてくる。
「咲夜、お昼ご飯はちゃんと食べたか?」
「うん、たべた」
「今日は何だった?」
「おむらいす……」
「オムライスか。美味しかったか?」
「うん……」
うんとうなずきながら、咲夜の表情はなんだか暗い。
「好みの味じゃなかったのか? それならひいかふうに言って、違うものを作り直させてもいいのだぞ。『きさら堂』の料理人はいくらでもわがままを聞いてくれるから」
咲夜は首を振った。
「もういい。いらない」
「そうなのか?」
「うん、おなかいっぱい」
「それなら良かったが」
「ひすいさま、いっしょにねていい?」
「まだ昼だぞ、眠いのか?」
「ううん。さくや、ひすいさまとくっつくの」
「くっつく?」
「うん、ずっとくっついてるの。そうしたら、いたいのきえるでしょう?」
新月の翌朝、部屋の前で待っていた咲夜に翡翠は同じことを言った。咲夜がいるだけで痛みが消える気がすると……。咲夜はそれを覚えていて、翡翠を治すためにずっとそばにいてくれたらしい。
「咲夜、私はもう大丈夫だ。退屈だったらロングギャラリーに行っても良いのだぞ」
「……さくや、ひすいさまといる」
「では、ひいを呼んでおやつを持ってこさせようか」
「……ううん、いらない」
「そうか」
「うん、さくや、いいこにしてる」
なんだか、妙に違和感を覚える。
翡翠はふと顔を上げ、部屋の中を見回した。
いつも翡翠のそばに控えているはずのひいの姿が見えないことに加えて、『きさら堂』の中がどことなくざわざわしていて、大勢の人が動き回っているような気配を感じるのだ。
「咲夜、部屋の外の様子はどうだった?」
「んっとね……きつねのひとがいっぱいいたよ」
(狐の人? 艶子が何人か連れてきているんだろうか?)
「ひすいさま……」
「ん、どうした?」
「ひすいさま、げんきになる……?」
「あぁ、きっとすぐ元気になる。心配するな」
力が入らない腕を何とか持ち上げて、咲夜の頭を撫でる。咲夜は嬉しそうに目を細めた。
「そうだ、咲夜」
「……なに?」
「あそこの棚にある本を一冊持ってきてくれるか」
咲夜がベッドを降りてトコトコと隅の棚まで行く。そこには蓮次郎が『あちら側』で買ってきた旅行ガイド本や異国の風景写真集、『こちら側』で仕入れてきた奇本や珍本が収められている。
「二段目にある分厚くて古い本だ。そうそう革張りで金属の飾りのついた……」
「これ?」
「そうそれ。けっこう重いが、持てるか」
「うん、さくや、もてるよ」
革の装丁の洋書を両手に抱えて、うんしょうんしょと咲夜がベッドに戻って来る。
「本は枕元に置いて、靴を脱いで上がっておいで」
「はーい」
翡翠は横たわったままで、よじ登って来る咲夜を迎えた。
「本を開いてみなさい。面白いから」
「さくや、じーよめないよ」
「私も異国の字は読めない。けれど、これは挿絵が楽しいんだ」
咲夜の小さな手が分厚い本を開く。最初のページの左側にはびっしりと横文字が、そして右側にはガーベラにとまる小さな妖精が描かれていた。
「わぁ……きれい」
愛らしい少女の背に蝶の羽が生えていて、その葉脈のような線までも写真のように精緻に描かれている。
「あっ! 目が!」
「今、ウィンクしたな」
「うぃんく?」
「こうやって片目を閉じて合図を送って来ただろう?」
「うん! うぃんくした! あれ? いないよ!」
咲夜が翡翠の方に顔を向けた一瞬で、そのページから妖精が消えていた。
「ふふふ、本当だ。消えてしまったな」
「どうして?」
「この本の妖精はかくれんぼが好きなんだ」
「かくれんぼ!」
「どこに行ったかな? ページをめくって探してみるといい」
「うん! さくや、さがしてみるー!」
ページをめくるたびに妖精は光る鱗粉を撒き散らしながら飛び回り、人間のお菓子を盗んだり、旅人を惑わせて躍らせたり、可愛い悪戯をする姿を見せてくれる。
沈んでいた咲夜の表情が次第に明るくなっていくのを、翡翠は微笑んで横から眺めていた。
「ねぇねぇ、ようせいさん、もっとおどる?」
咲夜がカリッと自分の指を噛む。
ハッと気づいた時には、すでに血の付いた指先が本のページに触れてしまっていた。
「さ、咲夜! なにを……!?」
「ひすいさま、みてー! ようせいさんのおともだち!」
「え……友達?」
「うん! おともだち!」
ページの中で、妖精と赤い人型の何かが手をつないでくるくる回っている。丸い頭に棒のような体と手足が生えているそれは、器用にステップを踏んで楽しそうに踊っていた。
「たのし……そう、だな……」
ドクンドクンとうるさいくらいに翡翠の心臓が鳴っている。
「うん、たのしーよ」
妖精と咲夜の描いた赤い人型はひとしきり踊った後、ページの中からニコニコして手を振って来た。
「うん、ばいばい! またあとでねー」
咲夜も手を振り返し、パタンと本を閉じる。
(あ……終わった……? 何事もなく……?)
ほうっと息を吐く翡翠を、咲夜が不思議そうに見上げてきた。
「ひすいさま、あせかいてるー」
「あ、あぁ、ちょっとな」
「あつい? さくや、たおるもってくる」
タオルを渡され、額に浮いた汗をぬぐう。
「友達を、作ってあげたのか……?」
「うん、ようせいさん、ひとりだったから」
「そうか。咲夜は優しいな」
「うん!」
「咲夜はすごく優しい子だ。それなのに……私は……」
「ひすいさま?」
翡翠はタオルで顔を覆い、はーっと大きく息を吐き出した。油断すると涙が出そうだった。
(ほんの一瞬だが、咲夜を疑ってしまった……)
地下の石室での咲夜の行動は、閉じ込められた翡翠を助けるためだった。咲夜が意味もなく酷いことをするはずがないのに、血の付いた指を見たら恐怖で体がすくんでしまった。
「ひすいさま、いたいの?」
「いいや、痛くはない……」
「でも、なんか」
「痛くはないけど、咲夜、ハグしてくれるか」
「うん、はぐする!」
翡翠がいつも通りに両手を広げると、咲夜が胸に飛び込んでくる。
「ぎゅー! ひすいさま、ぎゅー!」
可愛らしい声に翡翠は笑った。
「ぎゅーってしてくれるのか」
「うん! ぎゅーする! いたいのきえろー」
その細い背中を抱きしめ、柔らかな髪に鼻をうずめると、愛しさで胸がいっぱいになり、少し体が軽くなる気がした。
「咲夜、これからは絵を描きたくなっても指を傷つけたりしないでほしい。メイドに言えばクレヨンでも絵の具でも用意してくれるから」
「…………う、うん」
咲夜の返事はすごく小さい。
なぜか困ったような顔を見せる咲夜に問いかけようとした時、ノックの音が聞こえてきた。
「翡翠、ちょっといいか?」
蓮次郎がドアの外から声をかけてくる。
「はい、どうぞお入りください」
返事を言い終わる前にガチャッとドアが開けられた。
蓮次郎と艶子、それからエプロンを身につけた狐の女性が二人、ワゴンに茶器を載せて入って来る。
咲夜がビクッとして、怯えるように翡翠にしがみついてきた。
「お加減はいかがですか」
「だいぶ良い。心配をかけたな」
「いえいえ、翡翠様はきさら狐にとっても大切なお方ですから」
挨拶をする艶子の横から手を伸ばし、蓮次郎が本やタオルを片付ける。
「お前もどけろ」
「やだ」
「子供は邪魔だ」
「さくや、ひすいさまといる」
蓮次郎と咲夜が軽く睨みあっているのを無視して、艶子が翡翠を抱き起こして背中にクッションを当ててくれた。
「咲夜、こっちにおいで」
翡翠が呼ぶと、咲夜はこれ見よがしに翡翠の腰に抱きついてくる。
蓮次郎がいら立ったように頭をかいて見下ろしてきた。
「翡翠」
「はい」
「艶子とも話し合ったんだが、大事な話があるんだ」
このタイミングでの大事な話……。
翡翠の胸の中が、嫌な予感にざわめいてしょうがなかった。
『いいですか、翡翠殿。あやかしである翡翠殿は、心に受けたダメージが直接体に影響してしまうのです。今、絵の中に戻れないあなたに出来ることはひとつしかありません。ただただ何も考えず、ひたすら休むことです』
アスクレピオス様にはそう言われたが、考えないようにすればするほどぐるぐると頭の中で思いめぐらせてしまう。
―― 友人だと思っていた蓮次郎との関係性が決定的に変化してしまったことについて。
―― 扉の『向こう側』で出会った時津彦様にぶつけられた衝撃的な言葉について。
―― 翡翠の大事な咲夜が翡翠の大事な使用人にしてしまった恐ろしいことについて。
時津彦様が『きさら堂』にいた頃は、時津彦様の望みのままに動いていれば何にも迷わずに済んだ。
時津彦様が『きさら堂』に姿を見せなくなってからも、時津彦様に決められたことを毎日繰り返していれば、ありふれた平穏な日々を過ごせていた。
でも、こんな時にどうすればいいのか、時津彦様には教えられていない……。
「ひすいさま……」
小さなノックの音と共に、元気のない咲夜の声が聞こえてきた。
「咲夜か、入りなさい」
翡翠の返事と同時にドアが開かれ、咲夜がぱたぱたとベッドに走って来る。
「ひすいさま、いたい? くるしい?」
ぎゅっと手を握り、心配そうに覗き込んでくる顔がとても可愛くて、翡翠はふっと微笑んだ。
「いいや、どこも痛くないし苦しくもないよ……」
咲夜は翡翠が倒れて以降、ずっとこの寝室に入り浸っていた。食事や入浴で翡翠から離れるたびに、なぜかいつも同じことを聞いてくる。
「咲夜、お昼ご飯はちゃんと食べたか?」
「うん、たべた」
「今日は何だった?」
「おむらいす……」
「オムライスか。美味しかったか?」
「うん……」
うんとうなずきながら、咲夜の表情はなんだか暗い。
「好みの味じゃなかったのか? それならひいかふうに言って、違うものを作り直させてもいいのだぞ。『きさら堂』の料理人はいくらでもわがままを聞いてくれるから」
咲夜は首を振った。
「もういい。いらない」
「そうなのか?」
「うん、おなかいっぱい」
「それなら良かったが」
「ひすいさま、いっしょにねていい?」
「まだ昼だぞ、眠いのか?」
「ううん。さくや、ひすいさまとくっつくの」
「くっつく?」
「うん、ずっとくっついてるの。そうしたら、いたいのきえるでしょう?」
新月の翌朝、部屋の前で待っていた咲夜に翡翠は同じことを言った。咲夜がいるだけで痛みが消える気がすると……。咲夜はそれを覚えていて、翡翠を治すためにずっとそばにいてくれたらしい。
「咲夜、私はもう大丈夫だ。退屈だったらロングギャラリーに行っても良いのだぞ」
「……さくや、ひすいさまといる」
「では、ひいを呼んでおやつを持ってこさせようか」
「……ううん、いらない」
「そうか」
「うん、さくや、いいこにしてる」
なんだか、妙に違和感を覚える。
翡翠はふと顔を上げ、部屋の中を見回した。
いつも翡翠のそばに控えているはずのひいの姿が見えないことに加えて、『きさら堂』の中がどことなくざわざわしていて、大勢の人が動き回っているような気配を感じるのだ。
「咲夜、部屋の外の様子はどうだった?」
「んっとね……きつねのひとがいっぱいいたよ」
(狐の人? 艶子が何人か連れてきているんだろうか?)
「ひすいさま……」
「ん、どうした?」
「ひすいさま、げんきになる……?」
「あぁ、きっとすぐ元気になる。心配するな」
力が入らない腕を何とか持ち上げて、咲夜の頭を撫でる。咲夜は嬉しそうに目を細めた。
「そうだ、咲夜」
「……なに?」
「あそこの棚にある本を一冊持ってきてくれるか」
咲夜がベッドを降りてトコトコと隅の棚まで行く。そこには蓮次郎が『あちら側』で買ってきた旅行ガイド本や異国の風景写真集、『こちら側』で仕入れてきた奇本や珍本が収められている。
「二段目にある分厚くて古い本だ。そうそう革張りで金属の飾りのついた……」
「これ?」
「そうそれ。けっこう重いが、持てるか」
「うん、さくや、もてるよ」
革の装丁の洋書を両手に抱えて、うんしょうんしょと咲夜がベッドに戻って来る。
「本は枕元に置いて、靴を脱いで上がっておいで」
「はーい」
翡翠は横たわったままで、よじ登って来る咲夜を迎えた。
「本を開いてみなさい。面白いから」
「さくや、じーよめないよ」
「私も異国の字は読めない。けれど、これは挿絵が楽しいんだ」
咲夜の小さな手が分厚い本を開く。最初のページの左側にはびっしりと横文字が、そして右側にはガーベラにとまる小さな妖精が描かれていた。
「わぁ……きれい」
愛らしい少女の背に蝶の羽が生えていて、その葉脈のような線までも写真のように精緻に描かれている。
「あっ! 目が!」
「今、ウィンクしたな」
「うぃんく?」
「こうやって片目を閉じて合図を送って来ただろう?」
「うん! うぃんくした! あれ? いないよ!」
咲夜が翡翠の方に顔を向けた一瞬で、そのページから妖精が消えていた。
「ふふふ、本当だ。消えてしまったな」
「どうして?」
「この本の妖精はかくれんぼが好きなんだ」
「かくれんぼ!」
「どこに行ったかな? ページをめくって探してみるといい」
「うん! さくや、さがしてみるー!」
ページをめくるたびに妖精は光る鱗粉を撒き散らしながら飛び回り、人間のお菓子を盗んだり、旅人を惑わせて躍らせたり、可愛い悪戯をする姿を見せてくれる。
沈んでいた咲夜の表情が次第に明るくなっていくのを、翡翠は微笑んで横から眺めていた。
「ねぇねぇ、ようせいさん、もっとおどる?」
咲夜がカリッと自分の指を噛む。
ハッと気づいた時には、すでに血の付いた指先が本のページに触れてしまっていた。
「さ、咲夜! なにを……!?」
「ひすいさま、みてー! ようせいさんのおともだち!」
「え……友達?」
「うん! おともだち!」
ページの中で、妖精と赤い人型の何かが手をつないでくるくる回っている。丸い頭に棒のような体と手足が生えているそれは、器用にステップを踏んで楽しそうに踊っていた。
「たのし……そう、だな……」
ドクンドクンとうるさいくらいに翡翠の心臓が鳴っている。
「うん、たのしーよ」
妖精と咲夜の描いた赤い人型はひとしきり踊った後、ページの中からニコニコして手を振って来た。
「うん、ばいばい! またあとでねー」
咲夜も手を振り返し、パタンと本を閉じる。
(あ……終わった……? 何事もなく……?)
ほうっと息を吐く翡翠を、咲夜が不思議そうに見上げてきた。
「ひすいさま、あせかいてるー」
「あ、あぁ、ちょっとな」
「あつい? さくや、たおるもってくる」
タオルを渡され、額に浮いた汗をぬぐう。
「友達を、作ってあげたのか……?」
「うん、ようせいさん、ひとりだったから」
「そうか。咲夜は優しいな」
「うん!」
「咲夜はすごく優しい子だ。それなのに……私は……」
「ひすいさま?」
翡翠はタオルで顔を覆い、はーっと大きく息を吐き出した。油断すると涙が出そうだった。
(ほんの一瞬だが、咲夜を疑ってしまった……)
地下の石室での咲夜の行動は、閉じ込められた翡翠を助けるためだった。咲夜が意味もなく酷いことをするはずがないのに、血の付いた指を見たら恐怖で体がすくんでしまった。
「ひすいさま、いたいの?」
「いいや、痛くはない……」
「でも、なんか」
「痛くはないけど、咲夜、ハグしてくれるか」
「うん、はぐする!」
翡翠がいつも通りに両手を広げると、咲夜が胸に飛び込んでくる。
「ぎゅー! ひすいさま、ぎゅー!」
可愛らしい声に翡翠は笑った。
「ぎゅーってしてくれるのか」
「うん! ぎゅーする! いたいのきえろー」
その細い背中を抱きしめ、柔らかな髪に鼻をうずめると、愛しさで胸がいっぱいになり、少し体が軽くなる気がした。
「咲夜、これからは絵を描きたくなっても指を傷つけたりしないでほしい。メイドに言えばクレヨンでも絵の具でも用意してくれるから」
「…………う、うん」
咲夜の返事はすごく小さい。
なぜか困ったような顔を見せる咲夜に問いかけようとした時、ノックの音が聞こえてきた。
「翡翠、ちょっといいか?」
蓮次郎がドアの外から声をかけてくる。
「はい、どうぞお入りください」
返事を言い終わる前にガチャッとドアが開けられた。
蓮次郎と艶子、それからエプロンを身につけた狐の女性が二人、ワゴンに茶器を載せて入って来る。
咲夜がビクッとして、怯えるように翡翠にしがみついてきた。
「お加減はいかがですか」
「だいぶ良い。心配をかけたな」
「いえいえ、翡翠様はきさら狐にとっても大切なお方ですから」
挨拶をする艶子の横から手を伸ばし、蓮次郎が本やタオルを片付ける。
「お前もどけろ」
「やだ」
「子供は邪魔だ」
「さくや、ひすいさまといる」
蓮次郎と咲夜が軽く睨みあっているのを無視して、艶子が翡翠を抱き起こして背中にクッションを当ててくれた。
「咲夜、こっちにおいで」
翡翠が呼ぶと、咲夜はこれ見よがしに翡翠の腰に抱きついてくる。
蓮次郎がいら立ったように頭をかいて見下ろしてきた。
「翡翠」
「はい」
「艶子とも話し合ったんだが、大事な話があるんだ」
このタイミングでの大事な話……。
翡翠の胸の中が、嫌な予感にざわめいてしょうがなかった。
2
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】
彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。
「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」
振られた腹いせに別の男と付き合ったらそいつに本気になってしまった話
雨宮里玖
BL
「好きな人が出来たから別れたい」と恋人の翔に突然言われてしまった諒平。
諒平は別れたくないと引き止めようとするが翔は諒平に最初で最後のキスをした後、去ってしまった。
実は翔には諒平に隠している事実があり——。
諒平(20)攻め。大学生。
翔(20) 受け。大学生。
慶介(21)翔と同じサークルの友人。
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました
及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。
※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19
十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
潜入捜査でマフィアのドンの愛人になったのに、正体バレて溺愛監禁された話
あかさたな!
BL
潜入捜査官のユウジは
マフィアのボスの愛人まで潜入していた。
だがある日、それがボスにバレて、
執着監禁されちゃって、
幸せになっちゃう話
少し歪んだ愛だが、ルカという歳下に
メロメロに溺愛されちゃう。
そんなハッピー寄りなティーストです!
▶︎潜入捜査とかスパイとか設定がかなりゆるふわですが、
雰囲気だけ楽しんでいただけると幸いです!
_____
▶︎タイトルそのうち変えます
2022/05/16変更!
拘束(仮題名)→ 潜入捜査でマフィアのドンの愛人になったのに、正体バレて溺愛監禁された話
▶︎毎日18時更新頑張ります!一万字前後のお話に収める予定です
2022/05/24の更新は1日お休みします。すみません。
▶︎▶︎r18表現が含まれます※ ◀︎◀︎
_____
クズ彼氏にサヨナラして一途な攻めに告白される話
雨宮里玖
BL
密かに好きだった一条と成り行きで恋人同士になった真下。恋人になったはいいが、一条の態度は冷ややかで、真下は耐えきれずにこのことを塔矢に相談する。真下の事を一途に想っていた塔矢は一条に腹を立て、復讐を開始する——。
塔矢(21)攻。大学生&俳優業。一途に真下が好き。
真下(21)受。大学生。一条と恋人同士になるが早くも後悔。
一条廉(21)大学生。モテる。イケメン。真下のクズ彼氏。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる