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(14)憐れみでも蔑みでも

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 せっかくメイドに着せてもらったばかりのローブを、蓮次郎は破くようにして乱暴に脱がせた。

  本館2階の和室、おそらく朝まで蓮次郎が寝ていた布団の上に全裸で押し倒され、両手首をつかまれている。
 すぐ体に触れてくるのかと思ったのに、蓮次郎は翡翠を組み敷いたまま観察するように見下ろしていた。

「なぁ翡翠、どうして欲しい?」

 蓮次郎の口元がにやりと笑う。
 圧倒的有利な立場にいる者の余裕の笑みだ。

「俺に何をして欲しい?」

 翡翠の呼吸は早く、瞳は潤んで、すでに中心が勃ち上がってその先が濡れている。何をして欲しいかなど、とっくに分かり切っているくせに、蓮次郎はわざわざ口に出して言わせようとしているのだ。

「抱いてほしい……」

 翡翠が素直に言うと、蓮次郎はますます口を歪めた。

「じゃぁ可愛くねだってみろ」

 時津彦様が姿を見せなくなったばかりの頃は、蓮次郎がこういう支配的な顔をすることはなかった。

 愛する人がいなくなって、それでも新月には発情してしまう翡翠に対して「かわいそうに」と同情してくれていた。

 翡翠が相手を頼むと最初は遠慮がちに触れてきて、「鬼の血が入った自分は精力が強いからやりすぎてしまうかもしれない。疲れた時もつらい時もすぐに言ってくれ」と華奢な翡翠の体を気遣っていた。

 いつからだろう。蓮次郎が翡翠を見下すようになったのは。

「ほら、愛想よくねだってみせろよ」

 翡翠の体は狂いそうなほどに熱く火照って、目の前の男が快楽をくれるのを今か今かと待っている。蓮次郎の心にあるのが憐れみだろうが蔑みだろうが、翡翠に出来ることはひとつだけだった。

 ゆっくり呼吸を整え、精いっぱい媚びた微笑みを浮かべて、蓮次郎を見上げる。

「蓮次郎さま……」

 ピクリと蓮次郎の頬が動いた。

「蓮次郎さま、お願いです。哀れな翡翠にお慈悲をくださいませ……」
「は……今日はずいぶん殊勝なんだな」

 ちょっと驚いたように蓮次郎が瞬きする。

 前の新月の夜に、時津彦様の代わりに抱いてやっているのだから時津彦様と同じように敬えと、俺を軽んじるなと怒ったことを忘れたわけではあるまいに。

「土下座しろと言うなら土下座します。舐めて勃たせろと言うなら、精いっぱい口で奉仕します……」

 体の奥底で肉欲が渦巻いている。抱かれたい、犯されたい、と体が悲鳴を上げている。

「お願いです……はやく……蓮次郎様に、抱かれたいです……」

 はぁはぁとすでに息を乱しながら、翡翠は恥ずかしげもなく情交を求めた。

「翡翠……」

 蓮次郎はまるで感動したかのように翡翠を見下ろしている。

「そうやって、いつでも素直にしていればいいのに」
「はい、そうします。ですからお願いです……蓮次郎様。もう、我慢できません……お願いです、お慈悲を……んっ」

 哀願する口をふさぐようにして、蓮次郎はキスをしてきた。激しい感情をぶつけるような、熱く狂おしいキスだ。

「む……んんっ……」

 口内を蹂躙されて、体の熱がいっそう高まる。
 生理的な涙が滲んで、視界がぐらぐら揺れた。

「お願い……もう限界です……はやく、欲しい……」

 蓮次郎は楽しそうに笑いながらすっと体を離し、甚平のズボンと下着を脱いで自分の大きなものを見せびらかした。

「これか? これが欲しいのか?」

 翡翠はこくこくと必死にうなずく。

「欲しいです……」
「これをどうして欲しい?」
「挿れて、欲しいです……」
「どこに挿れて欲しいんだ?」
「私の……穴に……」
「穴? どこの穴だ? 俺に見えるように広げて見せてみろ」
「はい……蓮次郎様……翡翠の恥ずかしいところをご覧下さい」

 翡翠は素直に足を広げ、愛液でぐっしょり濡れているそこを両手でくぱっと広げた。

「は……はは……。『きさら堂』の仮の主人が、なんてひどい格好だ。記念にスマホで写真撮っとこうか?」
「はい、どうぞ。かまいません……」
「はぁ?」

 蓮次郎は口をゆがめて首を振った。

「いやいや、さすがにそこまで悪趣味じゃねぇよ」
「そう、ですか……」

 写真を撮ろうが何をしようが、翡翠はかまわなかった。ただ、蓮次郎の基準がよく分からなくて少しだけ困惑した。陰部を自分で広げさせることは、蓮次郎の中では悪趣味ではないのだろうか。

 翡翠はみっともない格好のままで、さらに懇願する。

「蓮次郎様……お願い……お願いします」
「分かってるって。俺も、ちょっと、お前が可愛すぎてかなり限界……」

 蓮次郎はふっと真面目な顔に戻って、翡翠の体に覆いかぶさって来た。大きなそれが翡翠の中にググッと入って来る。

「あ、ああぁ!」

 喜びに、あられもない声が出る。
 大きな質量に押し広げられて、快感に体が震えた。

「ん……はいって、くるぅ……」

 蓮次郎は根元まですべて挿れるといったん止まり、また観察するような目で翡翠を見下ろした。

「ほんとにこれが好きなんだな。挿れてもらって嬉しいか?」
「はい……嬉しいです」
「じゃぁたっぷり堪能しろ」
「あっ……あぁっ」

 リズミカルに腰を打ち付けられ、痺れるような快楽に溺れてしまいそうになる。翡翠は大きな体に両手両足でしがみついた。

「あっ! あっ!」

 押し込まれるたびに、快感が走る。
 引き抜かれるたびに、快感が走る。
 怖いくらいに気持ちがよくて翡翠は簡単にのぼりつめていく。

「あっ、あっ、だめ……もういく! いく! いっちゃう!」

 すぐに目がチカチカしてきて、翡翠は悲鳴のように言った。

「我慢しなくていい、何回でもいけ」
「うぁ!」

 腰にぶつけるように深く打ち込まれ、その拍子にびゅくっと白いものがあふれ出た。
 びくんびくんと痙攣する翡翠の体に合わせるように、蓮次郎が抽挿を続けるから、そのリズムのままにびゅく、びゅく、と射精が続く。

「あ……あぁ……」

 栓をされていたものが解放されたかのように、全身に快感が行き渡っていく。

「はぁ……あ……」

 体中から力が抜けていく。

 翡翠が余韻に浸っている間、蓮次郎は中に入ったままで動きを止めていた。大きなまま、熱いままで。

「そろそろ動いても平気か」
「はい……でも、ゆっくり……」
「ゆっくりな」

 蓮次郎は言葉通りにゆっくり動き始めた。
 穿たれたところから、またさざ波のように快感が広がっていく。

「ん……は……」

 大きなくさびのようなものを軸にして、揺りかごのように揺らされる。さっき達したばかりなのにまたすぐ体が熱くなってくる。

「……あぁ……あぁ……」

 いいところをこすられるたびに声が出る。

「んん……やぁ……」
「翡翠、俺の名を呼べ」
「……蓮次郎さまぁ……」

 蓮次郎が少しずつリズムを速めていく。

「もっと呼べ」
「蓮次郎さま……蓮次郎さまぁ……!」

 ストロークを大きくして、深く、強く、奥を穿ってくる。

「あっ、あっ、蓮次郎さま! 蓮次郎さま!」
「ん、中に出すぞ」
「ください……! 蓮次郎さま、ください、私の中に下さい……!」

 ぶるぶるっと震えながら、蓮次郎は翡翠の中に精を放った。
 その刺激に興奮して翡翠の体も頂点を迎える。

「あ、またいく……!」

 蓮次郎の精液を残さず搾り取るように、翡翠のそこがきゅうきゅうと収縮する。
 少しの間、蓮次郎は動かずにいたが、翡翠の体が脱力するのを待って、ずるりと自分のものを引き抜いた。

「んっ」

 違和感に声が出る。
 翡翠の後ろからとろりと白いものが流れ落ちて、布団を汚した。

「蓮次郎さま……あの……」
「分かってる。これくらいじゃまだ物足りないんだろ」
「はい……」

 奥がじんじんと痺れていて、またすぐ挿れて欲しいと思う。もう二回も出したのに、浅ましい欲望は尽きることなく沸いてくる。

 蓮次郎はきょろきょろと部屋を見回した。
 広い和室で床の間などがあるが、翡翠の部屋と違ってタオルや着替えは用意されていない。

「お、これでいいか」

 蓮次郎はタオルケットを手に取り、片方の端で自分の体を軽くふいてから、もう片方の端で翡翠の体を拭き始めた。

「水、飲むか」
「いえ」

 翡翠はあやかしなので、腹が空くことも喉が渇くこともない。
 それを分かっているくせに、蓮次郎は毎回水をすすめてくる。

「いいから飲めって。俺が落ち着かねぇ」

 汗をかき、涙を流し、そして精液まで出す翡翠が水分を取らないのは、よほどおかしく感じるらしい。

「はい……いただきます……」

 小さなローテーブルの上にある水差しからコップに注いで差し出してくるので、翡翠はよろよろと身を起こしてコップを受け取った。

 翡翠が水を飲むのを待ってコップを受け取り、蓮次郎は自分も水差しから注いでごくごくと飲み干した。

「蓮次郎さま……」

 続きをして欲しくて、蓮次郎のたくましい体に手を伸ばす。
 だが、蓮次郎はまるで焦らすように少し距離を取った。
 翡翠は座っているのもつらくなってきて、そのままくたっと布団に横たわった。

「蓮次郎さま、はやく……」

 這うようにして、蓮次郎の足に縋りつく。

「なぁ、翡翠」
「……はい」
「お前、咲夜をずいぶんと気に入っているようだな」
「え、咲夜……?」

 急に咲夜の名前が出て、あの可愛い瞳が思い浮かぶ。
 とくんと、翡翠の心臓が鳴った。

「咲夜が、なに……?」
「特別扱いが過ぎるって言ってるんだ。朝も昼もずーっと一緒にいて、寝る直前まで寄り添ってやって、あいつがここに来て以来、毎日毎日ほとんど一日中べったりくっついて離れねぇじゃねぇか」
「あぁ……ずっと一緒に居られて、毎日、楽しい……」

 蓮次郎の眉がピクリと動く。

「楽しい?」
「毎朝、起きるのが楽しみで、咲夜に会えるのが嬉しくて、今日は何をしよう、咲夜と一緒に何をしようって考えるのが楽しくて……」

 咲夜の顔を思い浮かべただけで、翡翠の胸がふわっと幸福感に包まれる。
 自然と翡翠は微笑んでいた。

「毎日毎日、楽しくてたまらない……」
「お前、その顔」
「え、顔?」
「……なんて表情をしていやがる」

 ここには鏡が無いので、自分がどんな表情をしたのか分からない。翡翠は自分の頬に手を置いて、首をかしげた。

「どんな……?」

 問いかけには答えず、蓮次郎は怒ったように横を向いた。

「あの……蓮次郎さま、続きを……」

 蓮次郎はこちらを見ようともせず、腕を組んだまま触ってくれようとしない。

「あの……」
「ちょっと黙ってろ」
「…………」

 翡翠の体はまだまだ疼いて熱を持ち、波のように後から後から性欲が湧き出てくる。
 翡翠は我慢できなくなって自分のものを右手で握った。




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