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おまけの章 はじめてのムフフ
(1) キスマークをつけてみたい 前編
しおりを挟むくらくらしながら顔を上げるとそこは夕暮れの湖の上で、エディがすぐに癒しの魔法で眩暈を消してくれた。
すぅっと冷たい風が僕の頬を撫でて、夜がもうすぐそこまで来ていることを教えてくれる。
シルヴェストルの森に佇む静かな湖。
誰の邪魔も入らない、ふたりだけの隠れ場所。
どうしてこんなところに来たのか。
エディは何をしようとしているのか。
そんなこと、僕はエディに聞かなかった。
何も言わずに、濡れるように光る瞳をじっと見上げた。
黒い瞳の中から溢れる欲望を感じ取って、僕の肺から熱く湿った吐息が漏れる。
きっと、僕の瞳の中にも同じ欲望が宿っている。
エディは何も言わずに片手を上げて遮蔽の術を解き、突っ込むようにテントの中に入ると、いきなり僕をベッドに押し倒した。
ランタンの明かりがひとつだけポッと灯り、薄暗い中でエディが上から僕を射抜くように見つめてくる。
「エディ……」
抱きつこうとすると、エディは僕の両手首をベッドに縫い付けるようにして押さえ付けてきて、貪るように唇に吸い付いて来た。
「ん……んんっ……」
服を脱がせるのももどかしそうにして、何度もキスを繰り返しながらエディの手が僕のローブをまくり上げていく。
「手を上に」
言われるままに上にあげると、エディは僕のローブを乱暴に剥ぎ取って首筋に吸い付いて来た。
熱情のままにキスをしながら、エディの手が下へ降りていく。いつもは簡単そうにするりと下着の紐を解くのに、今日のエディは焦っているみたいにむりやり下着を取ってベッドの外へと放り投げた。
「欲しい……」
耳元で一言だけ発したエディの声が掠れて震えていて、僕の胸も震えてしまう。
「はい。エディのものです……僕は全部、エディのものです……」
エディは僕の胸の小さな魔法陣の横とか、お腹の柔らかいところとか、下半身のきわどいところに強く吸い付いて、ひとつひとつ跡を残していく。そして僕の片足を持ち上げて太ももにも強いキスをしてきた。白い肌に、くっきりと浮かぶ跡。まるでエディの印が僕の体にいくつも咲いていくようだった。
エディは僕の後ろにぷつりと洗浄薬を入れると、焦ったように急いで指を出し入れし始める。
「エディ」
僕はそっと、エディの手を押しとどめた。
「僕、すぐ欲しいです」
熱い息で訴える。
「でも、それでは」
「痛くてもいいです……すぐ、つながりたい……」
まだ触ってもいないのに、エディのそれも僕のそれもすっかり勃ち上がっている。恥ずかしいくらいに互いを欲しがって震えている。
「お願い、痛くして……!」
「ヨースケ、どこでそんな煽り方を覚えたのですか」
我慢ならないというように、エディは自分の下着も放り投げた。
「エディが全部教えたんですよ。キスも、エッチも、恋する気持ちも……だから、僕にエディをください」
僕が誘うように足を開くと、エディはガシリと僕の腰をつかんで自分のローブをまくりあげ、一気に深く入って来た。
「うあっ! ああっ」
与えられる痛みと喜びに、僕は悲鳴じみた声を上げる。
エディが最初から激しく腰を動かして、熱にうかれたように僕の名前を呼び続ける。
「ヨースケ……ヨースケ……!」
「ああっ、あっ、あっ……エディ……!」
いつものような優しく溶けあうようなエッチではなくて、この行為はすごく痛くてかなり苦しい。だけど、僕はとにかくただただエディが欲しくてたまらなくて、つながっているだけで喜びが溢れてしまって、必死にエディにしがみついて大きな声を出し続けた。
どうしようもないほどに自信が無くて、うじうじと悩んでしまう僕の弱い心も、長い間囚われ続けてきた呪縛のようなコンプレックスも、リュカの美しさを利用しているような後ろめたさも、あの不思議なダンジョンの奥で何もかもエディが吹き飛ばしてくれた。おとぎ話みたいに思っていた恋を現実の恋に変えてくれた。
僕はエディが好き。
エディも僕が好き。
たったそれだけの、ものすごく単純明快なことだったのに。
深く悩んでいたつもりはなかったけれど、僕はいつも無意識の内に、リュカに体を借りているような感覚があったらしい。
やっと、今さらになって、自分の心と自分の体が一致した気がしている。
「ああ、あっ、エディ、もっと……!」
まるで解放されたように今の僕は自由だった。
「もっと……?」
掠れた声でエディが聞く。
「もっと、奥まで欲しい……!」
今の僕はこんなにいやらしいことも平気で言える。
「いっぱい、いっぱい欲しいよぉ……!」
こんなに下品なことも平気で言える。
エディが色っぽく眉根を寄せて首を振った。
「これ以上煽らないでヨースケ、あなたを壊してしまう」
「壊して……! いっそ壊し……んんっ」
僕の口をふさぐようにエディがキスをしてきたかと思うと、ずんと最奥まで突き入れてくる。
「んんっ!」
エディの目は優しい保護者のものではなくて、僕を征服しようとする雄のそれになっていた。
「んぁっ、ああっ、ああっ……」
強く揺さぶられて、奥を穿たれて、声が枯れるほど喘ぎまくる。
獣のような欲望をぶつけられて、全身を蹂躙されて、打ちのめされるようにがくがくと震えて、僕はむりやり頂点に持って行かれて果てていた。
お腹に精液を吐き出して、ほんの一瞬、気を失いそうになったけれど僕は唇を噛んで耐える。
まだ意識を手放したくなかった。
この痛みと喜びをしっかり感じていたかった。
「ヨースケ……」
心配そうに顔を覗き込むエディに首を振る。
「だめ、やめないで……」
「でも」
「お願い、満足するまで僕を抱いて」
エディは眩暈がするように少し目を閉じたけど、次に目を開いた時にはまた射貫くような雄の目に戻っていた。
「あなたという子は……どこまで……」
いったん自分のものを引き抜くと、僕の体をうつぶせにしてエディは後ろからグイッと入って来た。
「んぁっ……ああっ!」
無意識に逃げそうになる僕の体を強く押さえつけながら、エディは首筋に噛みつくように吸いついて来た。ビリッと痺れるように痛みが走ったが、直後、激しく腰をぶつけられて訳が分からなくなっていった。
粘液の音と肉のぶつかる音が響き、僕とエディの荒い息が耳を打つ。
僕はただエディが欲しかった。
エディが僕を欲しがっているのを強烈に感じたかった。
だから今は、この行為がたとえ苦痛だけでも、イくことができなくてもいいと思っていたのに。
自分でも驚きだったけれど、こんなに乱暴にされても相手がエディなら僕の体は快感を得ることを知った。
背中からゾクゾクといつもの感覚が這い登ってきて、苦痛から出していた声がやがて甘い響きに変わっていく。
「ああ……あ……あんっ、あんっ……」
悶えるように震えながらシーツをつかむ。
「だめ……またイく……またイくよぉ……!」
きゅうきゅうと入っているものを締め付けると、後ろでエディが短く声を出した。
「う……ヨースケ……!」
「エディ……!」
ビクンビクンと僕の体が波打つ。
僕の中で、同じようにそれが痙攣しているのを感じて嬉しくなる。
ひどく乱暴な情交だったのに、僕らはちゃんと同時に絶頂に達していた。
ずるりと僕の中からそれを引き抜いて、エディが横にごろんと転がった。
はぁはぁと息が上がっている。
僕は全身がじんじんと痺れていたけれど、なんとか力を入れてエディの方へ体の向きを変えた。
欲望を吐き出した後の満足げな顔に、汗で濡れた黒髪が貼り付いている。
「エディ……」
体を擦り寄せると、反射的に抱き寄せられた。
「ヨースケ、大丈夫ですか……」
「はい……」
「すみません。こんなにひどいことをするつもりは……」
噛んで血の出た僕の唇を、エディの長い指がなぞる。
「僕、ひどくされてみたかったんです」
「え」
エディの目がぎょっと見開かれる。
「むりやりなくらいにひどくされてみたかった……」
「ヨースケ、これ以上変な煽り方はしないでください……私はあのまま、あなたを壊してしまうかと……」
僕はふっと小さく笑ってエディに口付ける。
「だって、想いを体に刻み込んでくれるって言ったでしょう……?」
「そういう意味で言ったのではありませんよ。いえ、結果的にそういう意味になってしまいましたが……」
エディの視線が僕の体に散ったエディの跡に注がれる。
僕も自分の体を見下ろした。
「ふふ、エディの跡がいっぱいですね」
所有の印をつけられたようで、なんだかドキドキしてしまう。
「ああ……そうですね、無我夢中になってしまいました。これは私が悪い……」
「いいえ、悪くありません。我を忘れるくらいに僕を求めて欲しかったんです。だから、ちょっと嬉しかった……」
「ヨースケ」
僕はちょっと困っているようなエディの胸に顔を寄せて抱きついた。エディの手が背中を撫でてくれるけれど、ローブ越しなのがもどかしい。
「あの、ちゃんとエディの体に触りたいです。脱がしてもいいですか」
「ええ、もちろん」
エディは僕の背中に手を入れて起こしてくれた。
「うぅ」
姿勢が変わったせいで、後ろからエディのものがどろりと出て来る。
「うわ。あの、水魔法で少し洗ってもらえま……」
「血が」
「え?」
振り向いてみると、シーツを汚している液体は白いものの中にちょっとだけ赤い色が混じっている。エディが大慌てで僕の足を開かせ、後ろを触って来た。
「いたっ」
「裂けているではないですか。ああ、私はなんてことを」
大げさに嘆いて、エディはすぐに癒しの魔法を使った。
僕の全身がほんわりと温かくなり、傷も、跡もあっという間に消えていってしまう。
「ああ、もったいない。せっかくエディが付けてくれたのに」
「何を言うのです。痛かったのならすぐに言ってください」
「だって、もうちょっと余韻に浸りたかったから……」
「ヨースケ……」
エディは泣きそうな顔をして、ぎゅっと僕を抱きしめて来た。
「あなたにそんなことを言われると、どうしたらいいのか分からなくなります。私の本性を暴かないで……いつも優しい人間でいさせてください」
僕は意味が分からなくて、きょとんとしてしまった。
「エディはいつも優しいですよ。僕はこんなに甘やかされていいのかなぁって、いつも思っているくらいです」
僕を抱く腕の力が強くなり、柔らかな唇がこめかみや耳に触れて来た。
「ええ、いつまでも優しくしますよ。……命にかけて誓います」
どうしてわざわざ誓うのが分からなかったけれど、僕もエディの体をぎゅっと抱いて誓った。
「僕もエディに誰よりも優しくすると誓います。恋人だから」
少し息を呑む気配がして、エディは吐息を漏らした。
「……ふふ、嬉しいですね」
体を離すと、エディの目が潤んでいて、頬がほんの少し赤いようだった。
「ヨースケ、愛しています」
「はい、僕もです。エディ、愛しています」
吸い寄せられるようにキスをして、抱き合って、やっぱりローブ越しなのがもどかしいと思った。
「やっぱり裸同士が良いです。エディ、両手を上にあげてください」
僕が言うと、エディは素直に万歳をした。ローブをまくって脱がしていくと、胸に大きな魔法陣が現れ、僕は愛しい気持ちでちゅ、ちゅ、とそこにキスをした。
くすぐったそうに笑うエディに飛びついて、裸の胸と胸を密着させるように抱きつく。エディの温かい手が僕の背中やお尻を撫でてくれる。
肌が触れ合うと、どうしてこんなに幸せな気がするんだろう。
「ああ……とろけそう……」
「眠ってもいいですよ」
「眠っちゃうなんて、もったいないです。やっと二人っきりでエディを独占できているのに」
僕を撫でてくれるエディの手に合わせるようにして、エディの背中やお尻を同じように撫でていく。くすぐったそうにエディが笑った。
「いつだって私の心はヨースケに独占されていますよ」
「体も独占したいんです」
「おや、私をどこかへ閉じ込めたり、鎖につないだりしたいのですか?」
「え? そ、そんな怖いことしないです!」
「してくれてもいいのに」
「ええ? ぼ、僕はただ思う存分イチャイチャしたいっていうだけですよ」
「そうですか、残念」
「残念?」
さっきから変なことばかり言われて、僕はガバッと体を起こした。
エディがくすくす笑っているのを見て、冗談を言っていたのだと分かってホッとする。
「もう、変なこと言わないでください」
「ヨースケになら何をされてもいいというのは本当ですよ」
「僕は閉じ込めたりしません」
「そうですか」
「でも……ひとつ、やってみたいことがあるんですよね」
「私の自由を奪って、誰にも会わせないようにするとかですか?」
「ち、違います!」
僕は思わずその場に立ち上がった。
「ふふ、それも違いましたか」
またくすくす笑うのを見て、僕はむっと口を尖らせた。
「僕がそんな怖いことをエディにするわけがないのに」
「ああ、ごめんなさい、ヨースケ。冗談が過ぎました。機嫌を直してください」
僕の腰をつかんで上目遣いをするエディがかわいくて、僕はふにゃっと笑ってしまった。
「ええと、そうですね。キスしてくれたら許してあげます」
エディの目がびっくりしたように僕を見た。
「おやおや? そういうセリフはどこで覚えてくるのですか?」
「さぁ、どこでしょう?」
エディに出会うまでは恋もしたことが無かった僕にとって、恋のお手本はエディしかいない。エディもそれを分かっていて、面白そうに僕を見てくる。
「エディ。どうかこの僕に、恋人のキスという癒しの魔法を」
芝居がかった声で言ってみると、エディは微笑み、そっと触れるだけの優しいキスをしてくれた。
それからお互いに目を見合わせ、ぷーっと噴き出して、笑いながらベッドに横になった。
「それで、してみたいこととはなんですか?」
「えっと、エディが僕につけるみたいに、エディの肌にキスの跡を残してみたいんです」
「私の肌に?」
そんなこと考えたことも無かったみたいで、エディはパチパチと瞬きをした。
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