運命なんて残酷なだけ

緋川真望

文字の大きさ
上 下
23 / 35

23 証言

しおりを挟む

 東王大学医学部教授N氏の証言

「金田拓真? 知らない名だな。学生なのか? は? 受験しただけ? そんなの覚えているわけがないだろう。いったい毎年この大学を何百人受験しているとおもっ……ん? その写真、もう一回見せてもらえるか? ……あ! こいつはあの時の馬鹿丸出しのαじゃないか! ……ほう、クスリで死んだのか、それは随分とらしい・・・死に方だな。あぁ、会ったのは二回だけだが、それでも十分に分かったよ。こんな馬鹿ではまともな人生送れないだろうなって。え? 一度じゃないのかって? いや、会ったのは二度だ。一度目は、ええと、確か五年くらい前だな。受験会場で『ここにΩがいる! Ωが俺を誘惑している!』などと大声で騒ぎ出すから会場から追い出したんだ。二度目はその翌年、この馬鹿は厚顔にもまたこの大学を受験してきた。しかも、試験官に向かって『この大学にいるΩに会わせろ!』と大声で迫ったらしくてな、当日の責任者だった私が対応する羽目になった。迷惑極まりないからその年も試験会場から追い出したよ。当然、二回とも不合格だ。その次の年? さぁな、会っていないから別の大学を受けたんじゃないか? いくらαが優秀だからって、大人しく座って問題を解くことも出来ないんじゃぁ、どこの大学にも入れないだろうが……。え? 当時この大学にΩはいたのかって? まさか、いるわけがない。……は? いたはずだって? ……あぁ、まぁ、厳密に言えばΩはいた。だが『αを誘惑できるΩ』はいなかったというのが正しいな。……あぁ、そうだ、間違いない。その馬鹿があまりにも大きく騒いでSNSにも流すと言うから、私が直々にちゃんと調べたんだ。大学の信用にも関わるからな。その会場の中にΩはひとりもいなかった。試験官はαだったし、受験生はαとβだけだった。まぁ、学内にはたった一人だけΩがいたんだが、その子はすでに番持ちでな。ほかのαを誘惑など出来るはずがなかった。実際にほかのαの受験生には何の影響も無かったんだからな。え? そのΩのことを聞きたい? 唯月君は警察に目を付けられるような子じゃないぞ。あ、いや、別に親しかったわけじゃないが……。ただ、学内でよく見かけたというだけだ。え、大学での様子? ん-、なんというか、いつも一生懸命で、真面目で働き者だったな……。薬学の桜井教授の息子で秘書をしていたんだが、学内の行事などでは積極的にあちこち手伝ってくれて、労を惜しまない良い子だった。唯月君に会う以前は私にも少なからずΩに対する偏見があったんだが、実際にこの目で見てみるとまったく違うことが分かったよ。……え、唯月君の番が誰かって? さぁ、私は知らない。おそらくはうちの学生だったんだろうが、唯月君は父親にも相手の名を言わなかったらしい。それが原因で親子喧嘩でもしたのか、その内に唯月君は一人暮らしを始めたようだった。桜井教授が『家に戻って来い』と言っているのを何度か見たことがある。金田拓真との関係? 唯月君との関係か? いや、関係なんて一切無いだろう。その金田という馬鹿がうちの学生だったのならともかく、試験には不合格で入学することが出来なかったんだから。……え、『スイート』? 合成麻薬? ははは、やめてくれ。この大学内にはそんなリスクの高いものに手を出す大馬鹿者などいやしない。なに? 桜井教授なら『スイート』を作れるか? どうだかな。彼の専門は生理活性物質……主にαのフェロモンについて研究しているようだから、うーん、そうだな、強制発情剤なら作れるかもな。どうせなら本人に聞いてみればいい。今の時間なら、まだ大学にいるだろう」



 東王大学薬学部教授S氏の証言

「金田拓真……? 聞いたことのない名前だな。この写真の顔にも見覚えは無い。……え? 5年前の試験でΩがいると騒いだ青年? あぁ確かそんなことがあったな……。だが唯月には当時すでに番がいた。首の後ろに残るくっきりとした噛み跡を見たから間違いはない。私に黙って勝手なことをしたのは不快だったが、まぁそのおかげで妙な疑いをかけられずに済んだらしいな。え? 番が誰かって? 刑事が何でそんなことを気にするんだ? 金田が死んだから? だから何だというんだ? 唯月も墨谷もそんな何年も前の騒動など気にしていないだろう。私だってほとんど忘れていたくらいだ。……あぁ、そうだ。唯月の番は法学部にいた墨谷春哉というαだった。今年になってやっと二人で挨拶に来たよ。結婚するのかと思ったら、あのα、自分は成金の家に婿に入って、唯月をめかけにするらしい。それでも必ず幸せにするなどといけしゃぁしゃぁと言い放ちやがった、あの%$#*野郎! コホン……失礼。……はぁ……まったく溜息が出るよ。Ωはαのためにあるような性別だが、それでもほかにもっと誠実なαがいただろうに……。結局、本妻の方に子供が出来ない内は、唯月も子供を産んではいけないという契約らしい。唯月は『この人と幸せになる』などと言っていたが、本当に幸せなんだろうか。……はぁ……私がもしもαだったら……あ、いや、何でもない。で、何が聞きたいって? はぁ?! 『スイート』?! 合成麻薬?! それに強制発情剤?! 君は私を疑っているのか? そりゃ作ろうと思えば作れるさ、知識があれば誰だって作れる。だが、何で会ったことも無い金田とかいう男のために私がそんなものを……! もう帰ってくれ。至極不快だ。これ以上しつこくするなら正式に抗議して……ん? 手帳をもう一回見せてみなさい。なんで千葉県警の刑事が都内で聞き込みを? 君、これは本当にちゃんとした捜査なのか?」



 金田拓真の高校時代の同級生T氏とY氏の証言

T「金田拓真? おー、知ってる知ってる。αってことを鼻にかけたイケ好かない奴な」
Y「この前死んだんだろ?」
T「うん、聞いた聞いた。港の倉庫で死んでたって」
Y「あれさぁ、死因はヤクのやりすぎだったんだって」
T「まじ? 落ちるとこまで落ち切ったなぁ」
Y「ほんと、受験に失敗してからどんどん落ちぶれたもんな」
T「あぁ、刑事さん。拓真は高校時代、学校カーストの頂点にいたんで。家が金持ちだしαだし、生徒会長やってて女にもモテて、取り巻きに囲まれて、もう怖いもんなしって感じでさ」
Y「でも知ってっか? あいつとその取り巻き全員死んじまったって」
T「なにそれ」
Y「原田の呪いって言われてるらしい」
T「原田? 誰?」
Y「ほら、二年の時に自殺した奴」
T「あーあー、拓真達のグループにいじめられて首吊りしたっていう噂の」
Y「そうそれそれ」
T「へぇ、呪いとか言われてるんだ。けっこう陰湿ないじめだったもんなぁ。でもさぁ、今さらって感じするけどな。原田ってやつが自殺してもう7年? 8年? ずいぶんと時間経ちすぎじゃね? それに死んだのはグループ全員じゃないだろ? この前死んだのは拓真とカズくんと小池と……」
Y「あと、進一な。でもって、3年前に岩野が死んで、2年前に沼っちが死んでる」
T「まーじー!? すげぇな、コンプリートじゃん。マジで呪いなわけ?」
Y「さぁ、岩野はバイク事故で、沼っちはなんだっけ? やっぱ何かの事故だって聞いたけど」
T「ふーん、ま、どうでもいいけどな」
Y「あはは、だよな。俺達地元で就職して真面目にやってっからさ、あいつら同窓会にも来ねぇし交流無かったんだよな」
T「で、刑事さん、何だっけ、『スイート』っていうクスリ? そういうのは東京とかに出てった奴の方が詳しいんじゃね? 俺ら見た目はこうだけど、もう家族がいるしさ。さすがにそんなもんに手は出さないって」
Y「そうそう、こいつなんてこの前子供が生まれたんだ。で、男? 女?」
T「聞いて驚け、両方だ!」
Y「えー! つまり双子か?! すっげぇ!」
T「だろ? でも将来が大変だよ、食費も2倍、服も2倍、学費も2倍かかるから、頑張って稼がねぇと」
T「おー、もうすっかり親父じゃん! ……で、刑事さん、まだ何か聞きたいことあるのか?」



しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

どうも。チートαの運命の番、やらせてもらってます。

Q.➽
BL
アラフォーおっさんΩの一人語りで話が進みます。 典型的、屑には天誅話。 突発的な手慰みショートショート。

Ωの不幸は蜜の味

grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。 Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。 そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。 何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。 6千文字程度のショートショート。 思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

処理中です...