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12 聖女を学ぶ、1
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日差しの穏やかな午後のことです。
「では、授業をはじめます」
突然、カールが宣言しました。
小屋から少し離れた木陰に教卓と机がひとつずつ並び、教卓にはカールが、机にはアリアロスが座っています。
「あの、カールさん?」
「今は『先生』と呼んでください」
「せ、先生……突然どうしたのですか?」
カールに付いてきてほしいと言われ後を追いかけたら着席させられ、先ほどの宣言です。唐突すぎて訳が分かりません。
「ですから、授業ですよ授業。アリアロス様には聖女について学んでいただきます」
「聖女について……カールさん、教会の方だったのですか!?」
「いえ、わたくしは城勤めです。本を読んだり話を聞いたりで多少知識がある程度です」
カールは教卓を離れウロウロと歩きだしました。
「本来なら教会できちんとした知識を学び、前任の聖女から力の指導を受けるのが慣例ですが……貴女はそうもいきませんからね」
改めて自分が異端で逃亡中である事実をアリアロスは噛み締めます。
「なので、不肖このカールめが教師役をやらせてもらいます」
「……分かりました。よろしくお願いします、先生!」
礼をするアリアロスにカールは満足そうに頷きました。
「でははじめていきましょう。まずは歴史から……そもそも聖女はいつ、どのように現れたのか分かりますか?」
「確か……大昔の戦争でたくさんの人が亡くなって、その人たちがアンデッドになって人を襲いはじめて、教会でお祈りをしていた5人の少女に女神さまが力を授けて聖女になった……ですよね?」
「一般的に習う歴史では正解です」
「一般的?」
「はい。学校で習うと色々と省略されますから……ひとつずつやっていきましょう。そもそも、『大昔の戦争』とはどことどこの戦争だと思いますか?」
アリアロスはカールに言われて大事な部分が省略されていることに気づきました。
「考えもしなかったです……」
「省略されていても大筋は伝わりますし殆どの場合問題はありません。しかし、その部分を知っているのと知らないのとでは天地ほどの差が生まれます。なので、しっかりと学んでください」
「はい、先生!」
「では続きを……この戦争は現在も大陸に存在する我がマイメエントを含めた5つの国で起こった全面戦争のことです」
「ガエクムン意外とも戦争をしていたのですか!?」
「土地や資源の奪い合い、人間同士のいざこざ……今でそこ全ての国が和平条約を結んでいますが、当時は随分と殺伐としていたようです」
カールは一度言葉を止め、アリアロスを正面から見つめます。
「さて、アリアロス様はアンデッドが発生する原因はご存知ですか?」
「えっと……死者に強い心残りや恨みなどがあるとアンデッドになってしまうと習いました。だから死者がアンデッドになってしまわないよう、丁寧に埋葬する必要があるとも」
「その通りです。アンデッドがなぜ発生するのか、そのハッキリとした原因はいまだに分っていませんがそれが主流の考えです」
うんうんと納得したように頷き、カールは再びウロウロしはじめました。
「当時は大戦真っ只中。死んだ兵士の遺体が大量に野晒しにされても弔う余裕などなかったはずです。結果、大量の遺体はアンデッドへと変貌して人を襲いはじめたのです。そのほとんどはアンデッド化が早かったためか我々骨だけとは違い肉体を持っていたそうです」
死んだ人間が動き出し襲い掛かってくる様子を想像してアリアロスは背筋を振るわせました。
「記録によれば日に日に増え続けるアンデッドへの対応でどこの国も戦争どころではなくなってしまい終戦となったそうです。当時アンデッドへの対応は教会で精製された聖水を使っていたそうですが数が多すぎてすぐに枯渇。仕方ないので大きな穴を掘ってそこに落としたり動けないようにバラバラにするなどしていたそうです」
「大変だったのですね……」
「それもほんの一時の時間稼ぎにしかならなかったそうですが……ちなみに、アンデッド1体につき最低3名での対応が望ましいと言われています。もっとも、当時それだけの人員配置ができていたかどうか……話がずれましたね」
カールは一度咳払いをします。
「ともかく、アンデッドにより人々は追い詰められていきました。逃げ延びることができた者たちは高い外壁のある王都に立てこもり、群がるアンデッドに怯える日々を過ごしていたのです……しかし!!」
カールは両手で教卓を力強く叩きました。
「ある時、教会で祈りを捧げる5人の少女の元に女神が降臨されたのです! 女神は風、水、火、土、光の5つの属性の力を授けました。少女たちは聖女となり、アンデッドたちを浄化し世界は平和になったのでした……」
「……そのとき闇の属性はなかったのですよね?」
「はい。これは教会の公式の記録を確認したので間違いありません。闇の属性が新たに現れたのは、初代聖女たちの活躍から約50年後……今から約100年前のことです」
カールはどこか遠くを見るように顔をあげました。
「……100年前、わたくしたちが生きていた時代。戦争を控えていましたが世界は比較的平穏でした。アンデッドによる被害も減少傾向でした。そんな中新たな聖女の誕生にどのような意味があるのか、様々な憶測や議論はあったと思いますが……残念ながら、わたくしはそれを知ることなく戦死しました」
骨だけとなった顔が、少しだけ寂しそうに笑っているようにアリアロスには見えました。
「……さて、座学はこれくらいにしておきましょう。そろそろいい時間です、お昼にしましょう」
「では、授業をはじめます」
突然、カールが宣言しました。
小屋から少し離れた木陰に教卓と机がひとつずつ並び、教卓にはカールが、机にはアリアロスが座っています。
「あの、カールさん?」
「今は『先生』と呼んでください」
「せ、先生……突然どうしたのですか?」
カールに付いてきてほしいと言われ後を追いかけたら着席させられ、先ほどの宣言です。唐突すぎて訳が分かりません。
「ですから、授業ですよ授業。アリアロス様には聖女について学んでいただきます」
「聖女について……カールさん、教会の方だったのですか!?」
「いえ、わたくしは城勤めです。本を読んだり話を聞いたりで多少知識がある程度です」
カールは教卓を離れウロウロと歩きだしました。
「本来なら教会できちんとした知識を学び、前任の聖女から力の指導を受けるのが慣例ですが……貴女はそうもいきませんからね」
改めて自分が異端で逃亡中である事実をアリアロスは噛み締めます。
「なので、不肖このカールめが教師役をやらせてもらいます」
「……分かりました。よろしくお願いします、先生!」
礼をするアリアロスにカールは満足そうに頷きました。
「でははじめていきましょう。まずは歴史から……そもそも聖女はいつ、どのように現れたのか分かりますか?」
「確か……大昔の戦争でたくさんの人が亡くなって、その人たちがアンデッドになって人を襲いはじめて、教会でお祈りをしていた5人の少女に女神さまが力を授けて聖女になった……ですよね?」
「一般的に習う歴史では正解です」
「一般的?」
「はい。学校で習うと色々と省略されますから……ひとつずつやっていきましょう。そもそも、『大昔の戦争』とはどことどこの戦争だと思いますか?」
アリアロスはカールに言われて大事な部分が省略されていることに気づきました。
「考えもしなかったです……」
「省略されていても大筋は伝わりますし殆どの場合問題はありません。しかし、その部分を知っているのと知らないのとでは天地ほどの差が生まれます。なので、しっかりと学んでください」
「はい、先生!」
「では続きを……この戦争は現在も大陸に存在する我がマイメエントを含めた5つの国で起こった全面戦争のことです」
「ガエクムン意外とも戦争をしていたのですか!?」
「土地や資源の奪い合い、人間同士のいざこざ……今でそこ全ての国が和平条約を結んでいますが、当時は随分と殺伐としていたようです」
カールは一度言葉を止め、アリアロスを正面から見つめます。
「さて、アリアロス様はアンデッドが発生する原因はご存知ですか?」
「えっと……死者に強い心残りや恨みなどがあるとアンデッドになってしまうと習いました。だから死者がアンデッドになってしまわないよう、丁寧に埋葬する必要があるとも」
「その通りです。アンデッドがなぜ発生するのか、そのハッキリとした原因はいまだに分っていませんがそれが主流の考えです」
うんうんと納得したように頷き、カールは再びウロウロしはじめました。
「当時は大戦真っ只中。死んだ兵士の遺体が大量に野晒しにされても弔う余裕などなかったはずです。結果、大量の遺体はアンデッドへと変貌して人を襲いはじめたのです。そのほとんどはアンデッド化が早かったためか我々骨だけとは違い肉体を持っていたそうです」
死んだ人間が動き出し襲い掛かってくる様子を想像してアリアロスは背筋を振るわせました。
「記録によれば日に日に増え続けるアンデッドへの対応でどこの国も戦争どころではなくなってしまい終戦となったそうです。当時アンデッドへの対応は教会で精製された聖水を使っていたそうですが数が多すぎてすぐに枯渇。仕方ないので大きな穴を掘ってそこに落としたり動けないようにバラバラにするなどしていたそうです」
「大変だったのですね……」
「それもほんの一時の時間稼ぎにしかならなかったそうですが……ちなみに、アンデッド1体につき最低3名での対応が望ましいと言われています。もっとも、当時それだけの人員配置ができていたかどうか……話がずれましたね」
カールは一度咳払いをします。
「ともかく、アンデッドにより人々は追い詰められていきました。逃げ延びることができた者たちは高い外壁のある王都に立てこもり、群がるアンデッドに怯える日々を過ごしていたのです……しかし!!」
カールは両手で教卓を力強く叩きました。
「ある時、教会で祈りを捧げる5人の少女の元に女神が降臨されたのです! 女神は風、水、火、土、光の5つの属性の力を授けました。少女たちは聖女となり、アンデッドたちを浄化し世界は平和になったのでした……」
「……そのとき闇の属性はなかったのですよね?」
「はい。これは教会の公式の記録を確認したので間違いありません。闇の属性が新たに現れたのは、初代聖女たちの活躍から約50年後……今から約100年前のことです」
カールはどこか遠くを見るように顔をあげました。
「……100年前、わたくしたちが生きていた時代。戦争を控えていましたが世界は比較的平穏でした。アンデッドによる被害も減少傾向でした。そんな中新たな聖女の誕生にどのような意味があるのか、様々な憶測や議論はあったと思いますが……残念ながら、わたくしはそれを知ることなく戦死しました」
骨だけとなった顔が、少しだけ寂しそうに笑っているようにアリアロスには見えました。
「……さて、座学はこれくらいにしておきましょう。そろそろいい時間です、お昼にしましょう」
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