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11 欠けてゆくドレス
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「リーサ、少しよろしいですか?」
「どうした?」
狩りから戻ったばかりのリーサはカールに呼び止められました。
「アリアロス様から手が空き次第小屋に来て欲しいとのことです」
「オレをご指名ってことは……またか……」
「えぇ、またほつれて服の形を留められなくなっているそうです」
アリアロスが水浴びしたときリーサが破ってしまったドレスは彼女の応急処置により今でも辛うじて服としての役目を果たしていましたが、時折力尽きてただのボロ切れになってしまっていました。
その都度リーサが呼び出され再び応急処置をしているのですが時間が経てば経つほど頻度は増えていました。
「裁縫はオレの本職じゃねーんだけどな……」
「裁縫ができる者が他にいないから仕方ないでしょう」
「というか服くらいなんとかならねーのかよ。あの服もボロボロだし今使ってる糸だって年代もんだから丈夫じゃねーぞ」
「分かっていますよ。わたくしだって早くなんとかしたいとは思っていますが……」
「ならなんとかしろ!」
リーサは怒鳴りこそしましたが、そのままアリアロスのいる小屋の方へと向かっていきました。
カールはそのことに少し安堵しましたが、すぐに表情が曇ります。
「やはり森の外……いえ、どこか小さな村にでも行かなければ……」
生前なら眉間に皺が寄っていたであろう難しい表情で悩むのでした。
現在アリアロスが暮らす小屋は彼女専用となっていて入れるのはレベル3の3人と調理担当のアムルコスの合計4人だけです。
その中でも女性であるリーサだけは寝室への入室が許可されていました。
「おぅ、きたぞお姫様」
「リーサさん、すみませんお手数おかけします」
寝室を訪れたリーサはベッドの上でシーツに包まるアリアロスを見て苦笑しました。
「その様子だと完全にバラけたみたいだな」
「はい……」
真新しいサイドテーブルの上にはボロボロのドレスだったものが置かれています。
「んで今度はなにをやったらバラけたんだ? 前は森の中で散歩中だったか?」
「なにもしてないですよ……ここに座っていたらバラバラ―ってなったんです……」
からかい気味に尋ねるリーサにアリアロスは少し不貞腐れたように頬を膨らませます。
服の強度がもはやないに等しいことは毎回修繕しているリーサはよく分かっているのですが、ふたりきりでいるとついからかいたくなってしまうのです。
それはリーサが生前に感じたことのない、妹に向けるような感情なのですが本人にその自覚はまだないようです。
「まぁ仕事だからやるが……いっそのことそのシーツを使った方が手っ取り早いぞ?」
「それは……ちょっと困ります」
春になったとはいえまだまだ朝晩冷えることも多くアリアロスはシーツを手放す様子はありません。
「分かったよ。それじゃ……」
リーサはポシェットから裁縫道具を取り出し作業に取り掛かりました。
「な……なんだそれは!?」
小屋から出てきたアリアロスを見てレイトラは絶句しました。
「なにって頼まれてた服の補修だよ」
なんでもないことのようにリーサは返しますが、レイトラの動揺は止まりません。
「全っ然形が違うじゃないか!! 露出がかなり増えている!!」
既にボロボロだったドレスですが今度は袖と長いスカートの大部分部分を失いアリアロスの細く白い手足をこれでもかと見せつけていました。
「オレのボロい糸じゃ埒が明かねーから袖とか破って紐代わりにしたんだよ。これでもうしばらくはなんとかなるだろ」
「いやしかしだな―――」
「だ、大丈夫です! 前よりとっても丈夫ですから!!」
リーサを庇うようにアリアロスが割り込み、その場でピョコピョコ飛び跳ねて丈夫さをアピールします。
「わ、分かりました! ですからあまり飛び跳ねないでください……」
レイトラは顔を逸らし、そのままどこかへ行ってしまいました。
「おいおい、どんだけ初心なんだよあの野郎は」
リーサは膝を叩いて大笑いしますが、当のアリアロスもよく分かっていないようで首を傾げるのでした。
「どうした?」
狩りから戻ったばかりのリーサはカールに呼び止められました。
「アリアロス様から手が空き次第小屋に来て欲しいとのことです」
「オレをご指名ってことは……またか……」
「えぇ、またほつれて服の形を留められなくなっているそうです」
アリアロスが水浴びしたときリーサが破ってしまったドレスは彼女の応急処置により今でも辛うじて服としての役目を果たしていましたが、時折力尽きてただのボロ切れになってしまっていました。
その都度リーサが呼び出され再び応急処置をしているのですが時間が経てば経つほど頻度は増えていました。
「裁縫はオレの本職じゃねーんだけどな……」
「裁縫ができる者が他にいないから仕方ないでしょう」
「というか服くらいなんとかならねーのかよ。あの服もボロボロだし今使ってる糸だって年代もんだから丈夫じゃねーぞ」
「分かっていますよ。わたくしだって早くなんとかしたいとは思っていますが……」
「ならなんとかしろ!」
リーサは怒鳴りこそしましたが、そのままアリアロスのいる小屋の方へと向かっていきました。
カールはそのことに少し安堵しましたが、すぐに表情が曇ります。
「やはり森の外……いえ、どこか小さな村にでも行かなければ……」
生前なら眉間に皺が寄っていたであろう難しい表情で悩むのでした。
現在アリアロスが暮らす小屋は彼女専用となっていて入れるのはレベル3の3人と調理担当のアムルコスの合計4人だけです。
その中でも女性であるリーサだけは寝室への入室が許可されていました。
「おぅ、きたぞお姫様」
「リーサさん、すみませんお手数おかけします」
寝室を訪れたリーサはベッドの上でシーツに包まるアリアロスを見て苦笑しました。
「その様子だと完全にバラけたみたいだな」
「はい……」
真新しいサイドテーブルの上にはボロボロのドレスだったものが置かれています。
「んで今度はなにをやったらバラけたんだ? 前は森の中で散歩中だったか?」
「なにもしてないですよ……ここに座っていたらバラバラ―ってなったんです……」
からかい気味に尋ねるリーサにアリアロスは少し不貞腐れたように頬を膨らませます。
服の強度がもはやないに等しいことは毎回修繕しているリーサはよく分かっているのですが、ふたりきりでいるとついからかいたくなってしまうのです。
それはリーサが生前に感じたことのない、妹に向けるような感情なのですが本人にその自覚はまだないようです。
「まぁ仕事だからやるが……いっそのことそのシーツを使った方が手っ取り早いぞ?」
「それは……ちょっと困ります」
春になったとはいえまだまだ朝晩冷えることも多くアリアロスはシーツを手放す様子はありません。
「分かったよ。それじゃ……」
リーサはポシェットから裁縫道具を取り出し作業に取り掛かりました。
「な……なんだそれは!?」
小屋から出てきたアリアロスを見てレイトラは絶句しました。
「なにって頼まれてた服の補修だよ」
なんでもないことのようにリーサは返しますが、レイトラの動揺は止まりません。
「全っ然形が違うじゃないか!! 露出がかなり増えている!!」
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「オレのボロい糸じゃ埒が明かねーから袖とか破って紐代わりにしたんだよ。これでもうしばらくはなんとかなるだろ」
「いやしかしだな―――」
「だ、大丈夫です! 前よりとっても丈夫ですから!!」
リーサを庇うようにアリアロスが割り込み、その場でピョコピョコ飛び跳ねて丈夫さをアピールします。
「わ、分かりました! ですからあまり飛び跳ねないでください……」
レイトラは顔を逸らし、そのままどこかへ行ってしまいました。
「おいおい、どんだけ初心なんだよあの野郎は」
リーサは膝を叩いて大笑いしますが、当のアリアロスもよく分かっていないようで首を傾げるのでした。
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