38 / 40
第三十八話 在りし日の記憶2
しおりを挟む
一人の男が始めた街づくりは今やサムーラに住む全ての者の望みだった。
あらゆる部族が男に手を貸した。最早サムーラの誰もが自分達に定住の場所ができることを疑ってはいなかった。如何なる魔物が襲いかかってきても我らが偉大なるリーダーさえいれば何とでもなる。男はそれ程の信頼を勝ち取っていた。
事実男は強かった。どのような恐るべき怪力を誇る魔物も、どんな強靭な肉体を持つ魔物も、男の振るう剣には敵わなかった。
男の名前をデルルガと言った。デルルガは生涯戦い続けた。その最後は魔物の大進行を阻止するという劇的なものだった。最後の最後まで戦い続けた男を彼の仲間達は崇拝し、街の名をデルルガと名づけ、死した彼をサムーラの初代王とした。
そしてここからサムーラの王権制度が始まった。
デルルガには双子の子供がいた。王位をついだのは兄の方だ。選定方法は決闘。サムーラの王は誰よりも強い剣士でなければならない。そしてデルルガの血を引いた者達は皆その期待に応えられるだけの強さを持っていた。
最強の王に率いられた一騎当千のサムーラ兵。こうしてサムーラの伝統は出来上がり、そしてそれはこれからも変わらないように思えた。だが五代目サムーラ王の時代に一つの転期が訪れる。デルルガが大量の魔物に襲われ、その戦闘の最中に五代目サムーラ王が魔物の牙によって倒れたのだ。
それによって起こるサムーラ兵の動揺は凄まじく、その結果、デルルガはかつてない被害に襲われてしまった。
その事件を教訓に六代目サムーラ王は考えた。最も強い王が率いる軍。それは理想だ。だが理想は理想故に砕け散った時の損害が計り知れない。ならば武と知は分けるべきではなかろうか?
王は悩んだ末に決意する。幸いなことに初代からずっとサムーラ王の直系は双子だ。今までは強い者が王となり、陣頭に立っていた。これからは弱き者が頭脳となり民を導き、強き者が剣となって敵を討ち滅ぼすのだ。
六代目は生まれてきた双子の子供を一人だと民に発表した。双子は十歳になるまで全く同じ服、全く同じ名前、全く同じ教育を与えられた。公式の場にも交代で出た。事情を知る者以外は誰も双子を双子だとは認識できなかった。
そして双子が十歳になった頃、ひっそりと決闘が行われた。勝ったのは兄だった。兄は王国の剣として存分にその力を振るう為、男爵の地位を与えられ、代わりに王族を名乗ることを禁止された。
それがデルルウガ。王の血を引き、しかしそのことを歴史に葬り続ける剣の一族だ。
あらゆる部族が男に手を貸した。最早サムーラの誰もが自分達に定住の場所ができることを疑ってはいなかった。如何なる魔物が襲いかかってきても我らが偉大なるリーダーさえいれば何とでもなる。男はそれ程の信頼を勝ち取っていた。
事実男は強かった。どのような恐るべき怪力を誇る魔物も、どんな強靭な肉体を持つ魔物も、男の振るう剣には敵わなかった。
男の名前をデルルガと言った。デルルガは生涯戦い続けた。その最後は魔物の大進行を阻止するという劇的なものだった。最後の最後まで戦い続けた男を彼の仲間達は崇拝し、街の名をデルルガと名づけ、死した彼をサムーラの初代王とした。
そしてここからサムーラの王権制度が始まった。
デルルガには双子の子供がいた。王位をついだのは兄の方だ。選定方法は決闘。サムーラの王は誰よりも強い剣士でなければならない。そしてデルルガの血を引いた者達は皆その期待に応えられるだけの強さを持っていた。
最強の王に率いられた一騎当千のサムーラ兵。こうしてサムーラの伝統は出来上がり、そしてそれはこれからも変わらないように思えた。だが五代目サムーラ王の時代に一つの転期が訪れる。デルルガが大量の魔物に襲われ、その戦闘の最中に五代目サムーラ王が魔物の牙によって倒れたのだ。
それによって起こるサムーラ兵の動揺は凄まじく、その結果、デルルガはかつてない被害に襲われてしまった。
その事件を教訓に六代目サムーラ王は考えた。最も強い王が率いる軍。それは理想だ。だが理想は理想故に砕け散った時の損害が計り知れない。ならば武と知は分けるべきではなかろうか?
王は悩んだ末に決意する。幸いなことに初代からずっとサムーラ王の直系は双子だ。今までは強い者が王となり、陣頭に立っていた。これからは弱き者が頭脳となり民を導き、強き者が剣となって敵を討ち滅ぼすのだ。
六代目は生まれてきた双子の子供を一人だと民に発表した。双子は十歳になるまで全く同じ服、全く同じ名前、全く同じ教育を与えられた。公式の場にも交代で出た。事情を知る者以外は誰も双子を双子だとは認識できなかった。
そして双子が十歳になった頃、ひっそりと決闘が行われた。勝ったのは兄だった。兄は王国の剣として存分にその力を振るう為、男爵の地位を与えられ、代わりに王族を名乗ることを禁止された。
それがデルルウガ。王の血を引き、しかしそのことを歴史に葬り続ける剣の一族だ。
0
お気に入りに追加
2,773
あなたにおすすめの小説
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
裏切りの代償~嗤った幼馴染と浮気をした元婚約者はやがて~
柚木ゆず
恋愛
※6月10日、リュシー編が完結いたしました。明日11日よりフィリップ編の後編を、後編完結後はフィリップの父(侯爵家当主)のざまぁに関するお話を投稿させていただきます。
婚約者のフィリップ様はわたしの幼馴染・ナタリーと浮気をしていて、ナタリーと結婚をしたいから婚約を解消しろと言い出した。
こんなことを平然と口にできる人に、未練なんてない。なので即座に受け入れ、私達の関係はこうして終わりを告げた。
「わたくしはこの方と幸せになって、貴方とは正反対の人生を過ごすわ。……フィリップ様、まいりましょう」
そうしてナタリーは幸せそうに去ったのだけれど、それは無理だと思うわ。
だって、浮気をする人はいずれまた――
もう我慢する気はないので出て行きます〜陰から私が国を支えていた事実を彼らは知らない〜
おしゃれスナイプ
恋愛
公爵令嬢として生を受けたセフィリア・アインベルクは己の前世の記憶を持った稀有な存在であった。
それは『精霊姫』と呼ばれた前世の記憶。
精霊と意思疎通の出来る唯一の存在であったが故に、かつての私は精霊の力を借りて国を加護する役目を負っていた。
だからこそ、人知れず私は精霊の力を借りて今生も『精霊姫』としての役目を果たしていたのだが————
公爵令嬢の立場を捨てたお姫様
羽衣 狐火
恋愛
公爵令嬢は暇なんてないわ
舞踏会
お茶会
正妃になるための勉強
…何もかもうんざりですわ!もう公爵令嬢の立場なんか捨ててやる!
王子なんか知りませんわ!
田舎でのんびり暮らします!
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう
天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。
侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。
その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。
ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる