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エピローグ

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「あっ、何やってんのよ? まだ寝てなきゃ駄目じゃない」
「そうですよアロスさん、めっ、ですよ。めっ」

 ベッドから起き上がったところをタイミング悪くティナとサーラの二人に見つかった。

「いや、もうあれから五日経つし、ずっと寝てなくて平気だから」
「何言ってんのよ。あんな酷い怪我負ってたのよ? 見た目は確かに良くなったけど、どんなダメージが残ってるか分からないんだから、とにかく寝てなさいよね」
「そうですよ。ティナなんか師匠に担ぎ込まれたアロスさんを見て大泣きしたんですよ? また泣かす気ですか?」
「べ、別に泣いてないわよ。あれはちょっと、その、あれよ、あれ。心配だっただけよ」

 顔を真っ赤に腕をぶんぶんと振り回すティナ。いつもなら照れ隠しにツッコミという名の攻撃をしてくるところだけど、一応怪我人なので我慢してくれてるようだ。

 俺は幼馴染みの二人へと笑い掛けた。

「いや、本当にもう大丈夫だよ。むしろ寝過ぎて体が痛いくらいだから」
「あの怪我がこんな短期間に治るなんて、……これが王族のちからなんですね」

 ベッドに上がって俺の体をペタペタと触りまくるサーラ。場所が場所なだけに何だか変に緊張してしまう。

「あ、あの、サーラ?」
「ん? 何ですかアロスさん」

 幼馴染みの美貌が間近で微笑む。その美しさに俺はーー

「って、何変な空気作ってんのよ、アンタ達は」

 ゴン! とサーラの頭に拳骨が落ちた。

「~~~~!? ティ、ティナ? 羨ましいなら人の邪魔しないで、貴方もこっちにくればいいでしょ」

 目に涙を溜めたサーラがベッドの上を軽く叩いた。

「は、はぁ? 別に羨ましいなんて言ってないでしょ。でも、その、せっかくだからーー」
「あら、その反応だとまだ進展なしなのかしら?」

 ノックもなしに部屋のドアが開かれた。

「ルルさん? それに……」
「やっ。僕もいるよ」
「ア、アリアさん」

 中性的な美貌を誇る女軍人の登場に、ティナだけではなくサーラまでもが俺の背中に隠れる。

「見てよ、ルル。この可愛い反応。凄いそそるよね」
「馬鹿言わないの。それよりも弟君。術聖様達の調査が終わったわよ」
「どうだった?」
「やっぱり王女を名乗る例の魔族は逃がしたみたい。でもその代わり魔将の一魔は間違いなく討ち取ったみたいよ」
「……そう」
「浮かない顔ね。まだ二十にもなってない弟君が魔族の最高幹部を討ち取ったのよ? お姉ちゃん的には大金星だと思うんだけど」
「そう……だね。でも、できることなら……」

 魔将よりもあの王女を討ち取っておきたかった。

(厄介なことになったかも)

 近い将来、より強大な力を手に入れた闇の王女が俺の前に立ち塞がる。そんな確信よかんがあった。

「はい。暗い顔しない。弟君が何を考えてるのか想像は出来るけど、今はとりあえず魔将を倒せたことを喜びましょう」
「そうよ。普通に凄いことでしょ」
「ええ。流石は私の王子様です」
「ちょっ? 何私の台詞パクってんのよ?」
「ふふ。言っとくけどね君達、弟君は僕にとっても王子様だからね」
「はっ? な、なにそれ?」
「ま、まさかアリアさんも?」
「そう、僕も子作りメンバーの一人なのさ」
「いやぁあああ!? ちょ? どういうことよアロス? 説明しなさいよ」
「嘘ですよね? 嘘だと言ってくださいアロスさん」
「いや、あの、二人とも? 少し落ち着いて」

 二人の幼馴染みに肩を揺らされていると、胸を焦がしていた不安が嘘のように霧散した。

「はいはい。二人ともその辺でやめときなさい。それよりも弟君、昨日聖王国から手紙が届いて、弟君の存在を公式に発表してもいいかって聞いてきたわよ」
「……それは魔将を倒したから?」
「そうね。人類が魔族に押されてる現状、若くして魔将を倒した弟君の存在は人類の希望になり得るかも……。というのがお偉いさんの考えみたいよ」

 ルル姉さんが皮肉気にお偉いさんと言うからには、父さんや母さんのアイディアではなさそうだ。

「一応弟君……アロス様の意見次第では発表は取りやめると言ってるけど、どうする?」
「……公表するのはいいけどティナやサーラのことは秘密でお願いできるかな?」
「ちょっと何でそうなるのよ?」
「そうです。私達だけ除け者ってひどいです」
「いや、除け者って……。俺の婚約者って公表すると色々大変なんだよ?」

 聖王の血筋は大陸でも指折りの影響力を持つ。その婚約者となれば否応なしにも注目される。人にも、魔族にも。

「上等よ。今は確かに差があるけど、私だって絶対に強くなるから」
「私だってそうです。次は力になってみせます」

 でも俺の大好きな二人はそんな問題ことでは怯まないんだ。

「だから私の婚約者になりなさいよね」
「だから私の婚約者になってください」

 ベッドの上で二人の幼馴染みに詰め寄られ、俺は救いを求めて姉さんに視線を向けた。

 ルル姉さんは腕を組むと呆れたように溜息を付いた。

「貴方達、そこまで積極的でなんでまだ処女なのかしら?」
「は、はぁ!? ル、ルルさんには関係ないですよね?」
「アロスさんが寝込んでいたからです。今夜から毎日子作りに励みます」
「ふぁ!? 今夜? 毎日?」
「ティナちゃんさっきから可愛すぎ。それよりルルが関係ないって事はないでしょ。現状弟君と肉体関係があるのはーー」
「姉さん、悪いけどアリアさん連れて行ってくれる?」
「はいはい。それじゃあまた後でね。あっ、ちなみにこの部屋にはしばらく誰も来ないから」
「え? そ、それって……」
「ナイスです。ルルさん。いえ、お姉さん」

 赤面するティナと満面の笑みを浮かべるサーラ。そんな二人に苦笑しながらルル姉さんは部屋を出ていった。

「ふっふっふ。これで私達だけですねアロスさん」
「ちょっ、サ、サーラ、アンタ本気?」

 サーラが何やら妖しい雰囲気を醸し出して、ティナがゴクリと唾を飲み込む。俺は幼馴染み二人の手を握った。

「ティナ」
「ひゃっ!? な、なによ? 私は別に、その、か、構わないけど?」
「サーラ」
「はい。バッチコイです」

 何やら勘違いしてる二人に俺はちょっとだけ真剣な顔を向ける。

「本当にいいんだね? 公表したらもう戻れないよ?」

 すると二人も一瞬で表情を切り替えた。

「くどいわよ。アンタと一緒になる為ならどんなリスクだって喜んで買ってやるわよ」
「そうです。私達ずっと三人一緒だったじゃないですか。これからもずっと、ずっと一緒です」
「……そうだね。そうだよね! それじゃあ二人とも、これからもよろしくね」
「ふん。仕方ないから一生面倒見てあげるわよ」
「はい。よろしくお願いします、アロスさん」

 そうしてこの日、本当の意味で幼馴染みが婚約者になったんだ。
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