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17 柔らかな感触
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「なにやら私のせいでご迷惑をおかけしてしまったようで、申し訳ありませんわ」
宿の食堂で夕食を取りつつ少し前の騒動について話すと、リラザイアさんが申し訳なさそうに頭を下げてきた。
「まぁ、それは良いんだけどさ。アンタって意外と人気者ね」
「皆さん、リラザイアさんのことを随分気にかけてましたよ」
豪快にステーキへとかぶりつくティナの横でサーラがお肉を綺麗に切り分けていく。
「身に余る光栄ですわ。後で心配をかけてしまった皆様に会ってまいります。勿論、その時にご主人様方の誤解も解いておきますわ」
「別に解かなくてもいいわよ。イチャモン付けてきたらまたぶっ飛ばすだけなんだから」
「俺は解いておいてほしいかな。リラザイアさん、お願いできる?」
「勿論ですわ。アロスさんが私にエッチなことを強要していないことも、キチンと説明しておきます……が」
金色の瞳がこちらをジッと見つめる。
「な、なんですか?」
「……いえ。今後その手のことを私に命じる予定があるのか、さ、参考までに伺っておきたくて」
不安そうにこちらを見つめてくるリラザイアさん。俺としては安心させてあげたい。あげたいんだけど……
(風呂上りのリラザイアさん。凄く色っぽいな)
食事の前に浴びたシャワーでほんのりと赤らんだ肌。深紅のドレスという一般の人が手を出しにくい服を着こなす気品。そして何よりもドレスを盛り上げるあの胸ときたら……。
(しょ、勝負に勝ったんだし、ちょっと触るくらいならありなんじゃ……。いや、なしか? やっぱりなしだよね?)
「アロス様?」
「す、すみません。未定でお願いします」
「はぁ? 言っとくけどね、リラザイアに手を出したらぶっ飛ばすわよ」
ティナが怖い目で俺を睨んでくる。
(いや、今回は怒られて当然だよね)
俺が謝ろうとしたらーー
「やっぱりアロスさんも年頃の殿方。そういうことが気になるお年頃なのですね。何なら私で発散してみますか?」
「え? いいの?」
サーラからのまさかの提案。俺の本気が伝わったのか、からかうような笑みを浮かべていたサーラの頬が赤らんだ。
「え? その、オ、オルマさんがお望みであれば、私は、その、構いません……けど」
いつもなら失敗を顔に出してもすぐに引っ込める彼女にしては珍しいことに、喋れば喋るほどにその顔が茹で上がった蛸のようになっていく。
俺はサーラの手を取った。
「サーラ」
「は、はい」
「良かったら。こんーー」
「ちょっとまったぁああああ!!」
「アウチっ!?」
手刀によってサーラの手を握っていた腕を叩き落とされる。
「何するんだよ?」
「アンタこそ、私の前で一体何を言うつもりよ?」
「何って、その、分かるだろ?」
「…………オッパイに関すること?」
「オッ!? ま、まぁそうだね。そうとも言える。あっ、勿論それだけじゃないからね?」
咄嗟に言い訳じみたことを口にすれば、サーラはニッコリと微笑んでくれた。
「大丈夫です。分かっていますから」
(ああ、サーラってこんなに可愛かったんだ)
異性として意識したから見える幼馴染みの新たな一面に俺がボウッとしていると、ティナが机をバンバンと叩いた。
「ティナ、おかわりならもっと静かにやりなよ」
「違うわよ! 怒ってんのよ」
「何に?」
「何にって、それは、その……ほら、分かるでしょ? ここまで来たら、普通分かるでしょ?」
「ごめん、本当に分からないんだけど。サーラは?」
「私は昔から知ってましたから」
「昔から? 俺も知ってることなの?」
「それは……その……」
サーラが言っていいものかとティナの顔色を窺う。基本的に言いたいことは何でも言い合う俺達の間柄で、これは非常に珍しい反応だった。
「ティナ、らしくないよ。言いたいことがあるのらハッキリ言いなよ」
「ううっ。アンタって、アンタって本当に…………この、バカ!!」
宿屋中に響き渡るような大声を上げると、ティナは湯気を上げる食材を残してテーブルから離れて行く。
「……本当になんなの?」
あのティナがご飯を残して席を立つなんてよほどのことだ。
「サーラ?」
「すみません。私から言えることではないんです」
「そう……なんだ」
他の人ならいざ知らず二人に隠し事されるのは結構ショックだ。一瞬もっと問い詰めようかとも思ったけどーー
(でも隠し事してるのは俺も同じなんだよね)
そう考えると強く言えずに、俺はもやもやしたものを抱えながら目の前のステーキにフォークを突き刺した。
「ん?」
ふと横から感じる視線。顔を向ければいつの間にかティナが立っていた。
「ど、どうしたの?」
紅い瞳が何かを決意したかのように爛々と輝いている。
ティナの手が動いた。
(殴られる?)
ただならぬ気配に反射的に暴力をイメージさせられたんだけどーー
ムニッ!
「え?」
実際にティナがもたらしたのはそれとはまったく正反対の暴力だった。
ムニッ、ムニッ。
「あ、あの……ティナ?」
「私にだって……」
「へ?」
「私にだってオッパイくらいあるんだからね!」
「そ、それはよく分かってます」
「そ、そう。ならいいわよ」
逃げるように俺から視線を逸らすティナ。その手は俺の手首を掴んで強引に自身の胸に密着させていた。
(うわぁ。柔らかい。それに……思ってたよりも全然大きい?)
俺の手を包み込む柔らかな感触をもっと味わいたくて、指を動かしてみる。
モミモミ、モミモミ。
「きゃっ!? ちょっ?」
カァアア~!! と、元々赤らんでいたティナの顔が火でも噴きださんばかりに赤くなる。俺の手首を掴んでいる手にこれでもかと力が入った。
「馬鹿!」
グルリと回る視界。特殊な技法で真上にクルクルと投げ飛ばされた俺が足から着地するころには、ティナの姿はもう何処にもなかった。
「サ、サーラ」
「何ですか? アロスさん」
サーラは音も立てずにお茶を飲んでいる。右手に柔らかな感触が蘇る。
「何となく……分かっちゃったかも」
「それはよかったです」
「でも、その、俺はどうしたーー」
「あの、すみません。ティナ様のお料理ですが、もう必要ないのなら食べてもよろしいですか?」
「ちょっ!? リリラ! 申し訳ありませんアロス様、サーラ様。あとで厳しく言っておきますわ」
今まで一人我関せずと言った顔で食事を続けていたリリラさん。突然会話に割り込んできた彼女の頭をリラザイアさんが強引に下げさせる。
(というか、凄い食べるよね)
リリラさんの前には俺達全員の食器を足したよりも多くのお皿が積み重なっている。空の茶碗をテーブルに置いたサーラが微笑んだ。
「ティナは戻ってこないでしょうし、かまいませんよ」
「ありがとうございます」
「もう。貴方、何回言ってもその大食いだけは治りませんわね」
「ふふ。ティナもよく食べますけど、リリラさんにはかないそうもありませんね」
「……恐縮です」
「リリラさん、俺の分も食べていいですよ」
「ありがとうございます」
「アロスさん、どちらに?」
「今日はいろいろあって疲れたからもう休むよ」
そう言って俺が部屋に戻ろうとすると、リラザイアさんが腰を上げた。何かなと思ってたら俺に向かって頭を下げてきた。
「お休みなさいませ。七時くらいに起こしに行くつもりですが、それで構いません?」
「え? あ、はい。それじゃあよろしくお願いします」
「ええ。お任せくださいな」
「アロスさん、お休みなさい」
「お休み、サーラ」
そうして俺は借りた部屋に戻った。
宿の食堂で夕食を取りつつ少し前の騒動について話すと、リラザイアさんが申し訳なさそうに頭を下げてきた。
「まぁ、それは良いんだけどさ。アンタって意外と人気者ね」
「皆さん、リラザイアさんのことを随分気にかけてましたよ」
豪快にステーキへとかぶりつくティナの横でサーラがお肉を綺麗に切り分けていく。
「身に余る光栄ですわ。後で心配をかけてしまった皆様に会ってまいります。勿論、その時にご主人様方の誤解も解いておきますわ」
「別に解かなくてもいいわよ。イチャモン付けてきたらまたぶっ飛ばすだけなんだから」
「俺は解いておいてほしいかな。リラザイアさん、お願いできる?」
「勿論ですわ。アロスさんが私にエッチなことを強要していないことも、キチンと説明しておきます……が」
金色の瞳がこちらをジッと見つめる。
「な、なんですか?」
「……いえ。今後その手のことを私に命じる予定があるのか、さ、参考までに伺っておきたくて」
不安そうにこちらを見つめてくるリラザイアさん。俺としては安心させてあげたい。あげたいんだけど……
(風呂上りのリラザイアさん。凄く色っぽいな)
食事の前に浴びたシャワーでほんのりと赤らんだ肌。深紅のドレスという一般の人が手を出しにくい服を着こなす気品。そして何よりもドレスを盛り上げるあの胸ときたら……。
(しょ、勝負に勝ったんだし、ちょっと触るくらいならありなんじゃ……。いや、なしか? やっぱりなしだよね?)
「アロス様?」
「す、すみません。未定でお願いします」
「はぁ? 言っとくけどね、リラザイアに手を出したらぶっ飛ばすわよ」
ティナが怖い目で俺を睨んでくる。
(いや、今回は怒られて当然だよね)
俺が謝ろうとしたらーー
「やっぱりアロスさんも年頃の殿方。そういうことが気になるお年頃なのですね。何なら私で発散してみますか?」
「え? いいの?」
サーラからのまさかの提案。俺の本気が伝わったのか、からかうような笑みを浮かべていたサーラの頬が赤らんだ。
「え? その、オ、オルマさんがお望みであれば、私は、その、構いません……けど」
いつもなら失敗を顔に出してもすぐに引っ込める彼女にしては珍しいことに、喋れば喋るほどにその顔が茹で上がった蛸のようになっていく。
俺はサーラの手を取った。
「サーラ」
「は、はい」
「良かったら。こんーー」
「ちょっとまったぁああああ!!」
「アウチっ!?」
手刀によってサーラの手を握っていた腕を叩き落とされる。
「何するんだよ?」
「アンタこそ、私の前で一体何を言うつもりよ?」
「何って、その、分かるだろ?」
「…………オッパイに関すること?」
「オッ!? ま、まぁそうだね。そうとも言える。あっ、勿論それだけじゃないからね?」
咄嗟に言い訳じみたことを口にすれば、サーラはニッコリと微笑んでくれた。
「大丈夫です。分かっていますから」
(ああ、サーラってこんなに可愛かったんだ)
異性として意識したから見える幼馴染みの新たな一面に俺がボウッとしていると、ティナが机をバンバンと叩いた。
「ティナ、おかわりならもっと静かにやりなよ」
「違うわよ! 怒ってんのよ」
「何に?」
「何にって、それは、その……ほら、分かるでしょ? ここまで来たら、普通分かるでしょ?」
「ごめん、本当に分からないんだけど。サーラは?」
「私は昔から知ってましたから」
「昔から? 俺も知ってることなの?」
「それは……その……」
サーラが言っていいものかとティナの顔色を窺う。基本的に言いたいことは何でも言い合う俺達の間柄で、これは非常に珍しい反応だった。
「ティナ、らしくないよ。言いたいことがあるのらハッキリ言いなよ」
「ううっ。アンタって、アンタって本当に…………この、バカ!!」
宿屋中に響き渡るような大声を上げると、ティナは湯気を上げる食材を残してテーブルから離れて行く。
「……本当になんなの?」
あのティナがご飯を残して席を立つなんてよほどのことだ。
「サーラ?」
「すみません。私から言えることではないんです」
「そう……なんだ」
他の人ならいざ知らず二人に隠し事されるのは結構ショックだ。一瞬もっと問い詰めようかとも思ったけどーー
(でも隠し事してるのは俺も同じなんだよね)
そう考えると強く言えずに、俺はもやもやしたものを抱えながら目の前のステーキにフォークを突き刺した。
「ん?」
ふと横から感じる視線。顔を向ければいつの間にかティナが立っていた。
「ど、どうしたの?」
紅い瞳が何かを決意したかのように爛々と輝いている。
ティナの手が動いた。
(殴られる?)
ただならぬ気配に反射的に暴力をイメージさせられたんだけどーー
ムニッ!
「え?」
実際にティナがもたらしたのはそれとはまったく正反対の暴力だった。
ムニッ、ムニッ。
「あ、あの……ティナ?」
「私にだって……」
「へ?」
「私にだってオッパイくらいあるんだからね!」
「そ、それはよく分かってます」
「そ、そう。ならいいわよ」
逃げるように俺から視線を逸らすティナ。その手は俺の手首を掴んで強引に自身の胸に密着させていた。
(うわぁ。柔らかい。それに……思ってたよりも全然大きい?)
俺の手を包み込む柔らかな感触をもっと味わいたくて、指を動かしてみる。
モミモミ、モミモミ。
「きゃっ!? ちょっ?」
カァアア~!! と、元々赤らんでいたティナの顔が火でも噴きださんばかりに赤くなる。俺の手首を掴んでいる手にこれでもかと力が入った。
「馬鹿!」
グルリと回る視界。特殊な技法で真上にクルクルと投げ飛ばされた俺が足から着地するころには、ティナの姿はもう何処にもなかった。
「サ、サーラ」
「何ですか? アロスさん」
サーラは音も立てずにお茶を飲んでいる。右手に柔らかな感触が蘇る。
「何となく……分かっちゃったかも」
「それはよかったです」
「でも、その、俺はどうしたーー」
「あの、すみません。ティナ様のお料理ですが、もう必要ないのなら食べてもよろしいですか?」
「ちょっ!? リリラ! 申し訳ありませんアロス様、サーラ様。あとで厳しく言っておきますわ」
今まで一人我関せずと言った顔で食事を続けていたリリラさん。突然会話に割り込んできた彼女の頭をリラザイアさんが強引に下げさせる。
(というか、凄い食べるよね)
リリラさんの前には俺達全員の食器を足したよりも多くのお皿が積み重なっている。空の茶碗をテーブルに置いたサーラが微笑んだ。
「ティナは戻ってこないでしょうし、かまいませんよ」
「ありがとうございます」
「もう。貴方、何回言ってもその大食いだけは治りませんわね」
「ふふ。ティナもよく食べますけど、リリラさんにはかないそうもありませんね」
「……恐縮です」
「リリラさん、俺の分も食べていいですよ」
「ありがとうございます」
「アロスさん、どちらに?」
「今日はいろいろあって疲れたからもう休むよ」
そう言って俺が部屋に戻ろうとすると、リラザイアさんが腰を上げた。何かなと思ってたら俺に向かって頭を下げてきた。
「お休みなさいませ。七時くらいに起こしに行くつもりですが、それで構いません?」
「え? あ、はい。それじゃあよろしくお願いします」
「ええ。お任せくださいな」
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