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7 商人
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ダンジョン。それは魔族が魔物という魔族固有の人造精霊を生成する為に作られた洞窟。
人間の魔術師が用いる人造精霊とは違い、生物の死体に特殊な呪術をかけることで術者の魔力供給を必要としない完全自立化した新たな生命を作り出す外法。魔物は魔族によって人を襲うことと強く進化することをその本能に植え付けられており、始めは剣を持った一般人でも勝てる程に弱い魔物であったとしても、放っておけば単体で都市を壊滅出来るほど強くなる可能性を秘めている。故にダンジョンを見つけた場合は報告するだけで国から相応の礼金が出るようになっており、更にそのダンジョンに住まう呪術の核たるダンジョン主を倒した場合は少なくないお金が何処の国でも貰えるのだ。
「ひとまず深度Cくらいのダンジョンを探して潰してみましょう」
「随分堅実だね。ティナのことだから、てっきりいきなり震度Aにチャレンジするかと思ったよ」
「私もです。あっ、それならギルドに登録しておきますか?」
ギルドは魔族に対抗することを目的とした民間の組織。民間とはいえ倒した魔族に報酬を払うそのシステムを気に入った腕利きが集まり、今では魔族に対抗する国境なき傭兵団のような立ち位置になっており、様々な国から多くの支援を受けている。人類最大の宗教団体である聖王教会と並ぶ人類の二大組織だ。
「そうね、旅をするならギルドか教会のどちらかに登録するのがベストでしょうけど、巡礼なんてやる気はないからギルド一択ね」
「それでは大きな町に着き次第ギルド登録をいたしましょう。ふふ。何だか旅をしてるんだって実感が沸いてきました」
「何よ今頃? ちょっと遅いんじゃないの、ねぇアロス」
「ようやく拉致られた感が薄れてきた俺からは何も言えないかな」
「いや、出発の時アンタも乗り気だったじゃない。……ん? あれは?」
ティナの視線を追って後ろを振り返れば、そこには馬をやたら滅多に飛ばしてこちらに近づいてくる壮年の男。
「頭に巻いたあのターバン。火王国の奴ね」
「ティナ、火王国の人が皆頭にターバン巻いてる訳じゃないよ」
「火王国でターバンを一番着用しているのは商人という話ですね」
「ふーん。豆知識万歳。って、何かアイツ、私達に用がある感じじゃない?」
「人造精霊を出しておきます」
サーラの首にあるペンダントが淡く発光。地面にできた影のサーラが揺らめきその口元がニヤリとつり上がった。
「アロス、アンタは周囲を警戒しときなさい。男とは私が話すわ」
「了解。でもあの人から敵意は感じないよ?」
「そうね。でも本当に不意打ちが上手い奴は敵意なんてみせない……って師匠が言ってたわ」
「そして実戦で不意を打たれることほど怖いことはない。ですね」
二人の師匠は俺の師匠でもあるわけだから、当然俺もその教えは受けている。それでも二人ほど緊張していないわけはーー
(待ち伏せとかいないんだよな)
聖王の血に宿る『力』を使って周囲を探れば半径数百メートルの様子を探るなんて造作もないことだ。
(二人にバレないよう力を使うなら二百メートルくらいが限界かな)
それでもどこにも身を潜めた敵がいないと分かるのは気が楽だ。
「良かった。追い付けたか」
やはり俺達に用があったようで、あれだけスピードを出していた馬が俺達の手前で静かに止まった。
「何の用よ? 言っとくけど目も眩むような美女が二人、お供にちょっと頼りない男を連れてるからって変な気を起こしたんなら痛い目見るわよ?」
「知らない人にまであのテンションでいけるなんて、流石ティナだよね」
「はい。見習いたくない彼女の長所です」
サーラと二人で声を落として会話すれば、ティナが怒気だけでちゃんと周囲を警戒しなさいよと叱ってくる。
「いやいや、そんなんじゃない。それに普通あんな凄い人造精霊を見せられた後でそんなこと考える奴はいないぞ」
「人造精霊? あっ、さっきのを見たのね」
「ああ、驚いたよ。これでも俺は国を跨いであちらこちらで商売をしてるんだが、あんな凄い人造精霊を見たのは初めてだ。見たところ想像以上に若いが……さぞ名のある魔術師なんだろ?」
そこで商人さんの視線がティナとサーラの胸の辺りを意味深に見詰めた。
(何だろ? スケベか? スケベな商人さんなのか?)
そんな風でもなさそうだけど、人は見掛けによらないなと思った。
「俺の名はダダンダ・ショウラウ。ショウ商会のダダンダと言ったらそれなりに名が通っていると思うんだが、聞いたことはないか?」
「ふん。ショウ商会? あ~、どっかで聞いたことがあるような。あ~どこだったかな~。ここまできてるんだけど、ここまでぇ~」
(なんで張らなくて良い見栄をわざわざ張るんだろ)
幼馴染みだからこそ分かる。あの後ろ姿、俺かサーラのどっちかが答えたくれるのを待ってる。それはもう一日千秋的な感じで待っちゃってる。
「ショウ商会。確か聖王教会とギルドから認可を受けている、大陸で五指に入ると評判の大商会ですね」
「ああ、それそれ。今思い出したわ」
「……ティナ」
「な、何よ? 気が散るから黙ってなさいよ。それで? その大商会の大商人様が何のようよ?」
「実はな、ここからちょっと行った先に俺の村があるんだが、その近くでダンジョンを見つけた。深度は不明だが周囲に魔物が這い出てきていないことからBよりは下だろう」
「それってつまり」
「ああ、アンタ達にダンジョン潰しを頼みたい」
「タイム!」
ティナが商人のおじさんに掌を向ける。
「ん? あ~、相談か? おう。好きにしてくれ」
「言われなくてもするわよ。ヘイ、フレンズ集合」
(ティナ、相当テンパってるな)
相手に弱味を見せまいと強気にいって空回る。ティナのお家芸だ。
「ティナ、相談したいならティナがこっちに来れば?」
仲間内で相談したいならティナの位置は商人さんに近すぎた。俺の横でサーラが嬉しそうに
「ヘイ、フレンズ集合」
と言って笑った。
人間の魔術師が用いる人造精霊とは違い、生物の死体に特殊な呪術をかけることで術者の魔力供給を必要としない完全自立化した新たな生命を作り出す外法。魔物は魔族によって人を襲うことと強く進化することをその本能に植え付けられており、始めは剣を持った一般人でも勝てる程に弱い魔物であったとしても、放っておけば単体で都市を壊滅出来るほど強くなる可能性を秘めている。故にダンジョンを見つけた場合は報告するだけで国から相応の礼金が出るようになっており、更にそのダンジョンに住まう呪術の核たるダンジョン主を倒した場合は少なくないお金が何処の国でも貰えるのだ。
「ひとまず深度Cくらいのダンジョンを探して潰してみましょう」
「随分堅実だね。ティナのことだから、てっきりいきなり震度Aにチャレンジするかと思ったよ」
「私もです。あっ、それならギルドに登録しておきますか?」
ギルドは魔族に対抗することを目的とした民間の組織。民間とはいえ倒した魔族に報酬を払うそのシステムを気に入った腕利きが集まり、今では魔族に対抗する国境なき傭兵団のような立ち位置になっており、様々な国から多くの支援を受けている。人類最大の宗教団体である聖王教会と並ぶ人類の二大組織だ。
「そうね、旅をするならギルドか教会のどちらかに登録するのがベストでしょうけど、巡礼なんてやる気はないからギルド一択ね」
「それでは大きな町に着き次第ギルド登録をいたしましょう。ふふ。何だか旅をしてるんだって実感が沸いてきました」
「何よ今頃? ちょっと遅いんじゃないの、ねぇアロス」
「ようやく拉致られた感が薄れてきた俺からは何も言えないかな」
「いや、出発の時アンタも乗り気だったじゃない。……ん? あれは?」
ティナの視線を追って後ろを振り返れば、そこには馬をやたら滅多に飛ばしてこちらに近づいてくる壮年の男。
「頭に巻いたあのターバン。火王国の奴ね」
「ティナ、火王国の人が皆頭にターバン巻いてる訳じゃないよ」
「火王国でターバンを一番着用しているのは商人という話ですね」
「ふーん。豆知識万歳。って、何かアイツ、私達に用がある感じじゃない?」
「人造精霊を出しておきます」
サーラの首にあるペンダントが淡く発光。地面にできた影のサーラが揺らめきその口元がニヤリとつり上がった。
「アロス、アンタは周囲を警戒しときなさい。男とは私が話すわ」
「了解。でもあの人から敵意は感じないよ?」
「そうね。でも本当に不意打ちが上手い奴は敵意なんてみせない……って師匠が言ってたわ」
「そして実戦で不意を打たれることほど怖いことはない。ですね」
二人の師匠は俺の師匠でもあるわけだから、当然俺もその教えは受けている。それでも二人ほど緊張していないわけはーー
(待ち伏せとかいないんだよな)
聖王の血に宿る『力』を使って周囲を探れば半径数百メートルの様子を探るなんて造作もないことだ。
(二人にバレないよう力を使うなら二百メートルくらいが限界かな)
それでもどこにも身を潜めた敵がいないと分かるのは気が楽だ。
「良かった。追い付けたか」
やはり俺達に用があったようで、あれだけスピードを出していた馬が俺達の手前で静かに止まった。
「何の用よ? 言っとくけど目も眩むような美女が二人、お供にちょっと頼りない男を連れてるからって変な気を起こしたんなら痛い目見るわよ?」
「知らない人にまであのテンションでいけるなんて、流石ティナだよね」
「はい。見習いたくない彼女の長所です」
サーラと二人で声を落として会話すれば、ティナが怒気だけでちゃんと周囲を警戒しなさいよと叱ってくる。
「いやいや、そんなんじゃない。それに普通あんな凄い人造精霊を見せられた後でそんなこと考える奴はいないぞ」
「人造精霊? あっ、さっきのを見たのね」
「ああ、驚いたよ。これでも俺は国を跨いであちらこちらで商売をしてるんだが、あんな凄い人造精霊を見たのは初めてだ。見たところ想像以上に若いが……さぞ名のある魔術師なんだろ?」
そこで商人さんの視線がティナとサーラの胸の辺りを意味深に見詰めた。
(何だろ? スケベか? スケベな商人さんなのか?)
そんな風でもなさそうだけど、人は見掛けによらないなと思った。
「俺の名はダダンダ・ショウラウ。ショウ商会のダダンダと言ったらそれなりに名が通っていると思うんだが、聞いたことはないか?」
「ふん。ショウ商会? あ~、どっかで聞いたことがあるような。あ~どこだったかな~。ここまできてるんだけど、ここまでぇ~」
(なんで張らなくて良い見栄をわざわざ張るんだろ)
幼馴染みだからこそ分かる。あの後ろ姿、俺かサーラのどっちかが答えたくれるのを待ってる。それはもう一日千秋的な感じで待っちゃってる。
「ショウ商会。確か聖王教会とギルドから認可を受けている、大陸で五指に入ると評判の大商会ですね」
「ああ、それそれ。今思い出したわ」
「……ティナ」
「な、何よ? 気が散るから黙ってなさいよ。それで? その大商会の大商人様が何のようよ?」
「実はな、ここからちょっと行った先に俺の村があるんだが、その近くでダンジョンを見つけた。深度は不明だが周囲に魔物が這い出てきていないことからBよりは下だろう」
「それってつまり」
「ああ、アンタ達にダンジョン潰しを頼みたい」
「タイム!」
ティナが商人のおじさんに掌を向ける。
「ん? あ~、相談か? おう。好きにしてくれ」
「言われなくてもするわよ。ヘイ、フレンズ集合」
(ティナ、相当テンパってるな)
相手に弱味を見せまいと強気にいって空回る。ティナのお家芸だ。
「ティナ、相談したいならティナがこっちに来れば?」
仲間内で相談したいならティナの位置は商人さんに近すぎた。俺の横でサーラが嬉しそうに
「ヘイ、フレンズ集合」
と言って笑った。
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