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「嘘です嘘です。こんなことあるはずありません。あり得ない。あの距離をあの速度で飛んで疲労がないなんて……。自信満々で忠告しておいてこれとか……ま、まるで私がピエロのようじゃないですか。うふ、うふふ」
俺はティナと一緒に背後から力なくついてくるサーラをチラリと見た。
「ねぇ、ティナ。サーラはどうしたんだろ?」
「ん~? 多分だけどさ、旅に出て早々自身のアイデンティティが一つ減ったとか思ってるんじゃない?」
「そんなの気にしなくていいのに」
「ほんとよね。私ら仲間なんだからさ」
「うん。……あれ? 何かこの会話さっきもしたような?」
「は? 何言ってんのよアンタは。……まー、でも、あれよね。サーラがあれだけ驚くのも分からなくはないわ。ぶっちゃけ聞くけどさ。アンタさ、マジでどうしちゃったわけ?」
「え? な、何が?」
ぶっちゃけ聞かれたくないことをぶっちゃけられた俺は思わず後ずさる。
「そうです! どうしたのですか?」
逃がさないとばかりにさっきまで念仏唱えるゾンビみたくなってたサーラが詰め寄ってきた。
「離れろ念仏ゾンビ」
「誰がゾンビですか、誰が。ピエロです。あっ、いや、ピエロでもありませんけど、でもさっき呟いてたのはピエロです」
心からどうでもよかったので、口を噤んでそれっぽい顔で頷いておく。
「ゾンビでもピエロでも何でもいいけどさ、いくら何でも能力値が上がり過ぎよ。アンタは強すぎも弱すぎもしない、そこそこの奴だったでしょうが」
「そうです! そうです! 私のアロスさんは短所もない代わりにこれといった長所もない。そんな素敵な幼馴染だったはずです。返して! 私のアロスさんを返してください!」
「ふ、二人とも、そんな風に俺のことを見てたの?」
最初に訓練で負けてあげるようになったのは、剣聖様と術聖様の特訓でかつてない程憔悴していた二人を喜ぼせようとしてのことだったけど、一度演技をすると辞め時を見失って今日までズルズル来てしまった。
(まぁ、二人との特訓が楽しかったのもあるんだけど、旅に出た以上弱いと思われるのは困るんだよね)
弱い(と思ってる)俺を庇って二人が怪我をするような事態だけは避けたかった。
「何黙ってるのよ?」
「いや、その……」
困った。何て説明しよう。
「冗談抜きに、本当にアンタどうしたの? 普通に心配になってくるんだけど」
「まさか危ない魔術具とか使ってませんよね?」
心配そうに俺のことをジッと見つめてくる二人の視線にちょっとジーンとする。
「じ、実はね、これ! これのお陰なんだ」
俺は二人に手首につけているブレスレットを見せた。ドクロの顔のついたこれは以前アリアさんに貰ったもので、旅に出る前夜、姉さんが夜這いにこないよう魔除け感覚でつけてたらそのまま旅に持ってきてしまった。
「そのセンスが微妙なブレスレットが何よ?」
(アリアさん、聞いてないといいけど)
「これは実はうちの家宝で、アルバ家の者が装着したらその能力を何倍にも高められるんだよ」
「は? 何それ? ……凄いじゃない」
「アルバ家にそのような物が……。侮れません」
聖王国で魔術に関しては一、二を争う名家のプライドなのか、サーラの顔がちょっと怖い。
「ってかさ、何でアンタはそんな無くすとメチャクチャまずそうなものを持ってきてんのよ」
「確かにそうですね。旅に出ることを知らなかったアロスさんが、何故そんな希少な物を身に付けてたのでしょうか?」
「じ、実はあの日、二人を驚かそうとこっそり持ってきてたんだよ」
自分で言っててちょっと厳しいかなと思ったけど、ティナは何やら得心がいったとばかりに微笑んだ。
「ははーん。それを使って普段の仕返ししようって魂胆だったのね」
「い、いや。仕返しとかじゃないよ。面白いかなと思っただけ」
「それであんな強力な人造精霊を使役して疲労してないんですね」
「そ、そうだよ。さっきの人造精霊は姉さんに手伝ってもらって製作した特別な奴で、これがないと制御出来ないんだよ」
生まれた時から身分を偽ってるせいか、こういう時自分でも驚くくらいペラペラと舌が回る。
二人は俺と俺が身に付けているブレスレットを交互に見詰めた。
「……なるほどね。アロスにしてはやけにすごいと思ってたけど、そんなとんでもアイテムがあったなら納得だわ」
「アロスさん、それ後で見せてもらえませんか?」
「え? ダメダメ! 絶対ダメだから」
アリアさんに貰ったただのブレスレットを後ろに庇う。サーラのあの目、これは当分の間気が抜けそうにないぞ。
「とにかく良かったわ。アロスのことは私が守んなきゃと思ってたけど、これで背中くらいは任せられそうね」
「うん。任せてよ。それでティナ、火王国に入ったわけだけど、具体的にはこれからどうするの?」
「私達の目的は強い魔族の首を持ち帰ること。その為に私達には足りないものがあるわ」
俺とサーラは視線でティナに次の言葉を促す。
「それはね、実戦経験よ」
「確かに私達は一応師の元で実戦を経験していますが、あれは師の監視下でのことですから精神的な余裕がありました」
「そういうこと。ましてやアロスはそういう経験ないでしょ?」
君達以上の実戦を経験してるけどね。とは言えない。
「実戦経験を積めて、かつ魔族の情報を集められて、さらにお金になる。とくれば一つしかないでしょ」
そこまで言われれば俺もサーラもピンと来た。
「「ダンジョン潰しか(ですね)」」
俺はティナと一緒に背後から力なくついてくるサーラをチラリと見た。
「ねぇ、ティナ。サーラはどうしたんだろ?」
「ん~? 多分だけどさ、旅に出て早々自身のアイデンティティが一つ減ったとか思ってるんじゃない?」
「そんなの気にしなくていいのに」
「ほんとよね。私ら仲間なんだからさ」
「うん。……あれ? 何かこの会話さっきもしたような?」
「は? 何言ってんのよアンタは。……まー、でも、あれよね。サーラがあれだけ驚くのも分からなくはないわ。ぶっちゃけ聞くけどさ。アンタさ、マジでどうしちゃったわけ?」
「え? な、何が?」
ぶっちゃけ聞かれたくないことをぶっちゃけられた俺は思わず後ずさる。
「そうです! どうしたのですか?」
逃がさないとばかりにさっきまで念仏唱えるゾンビみたくなってたサーラが詰め寄ってきた。
「離れろ念仏ゾンビ」
「誰がゾンビですか、誰が。ピエロです。あっ、いや、ピエロでもありませんけど、でもさっき呟いてたのはピエロです」
心からどうでもよかったので、口を噤んでそれっぽい顔で頷いておく。
「ゾンビでもピエロでも何でもいいけどさ、いくら何でも能力値が上がり過ぎよ。アンタは強すぎも弱すぎもしない、そこそこの奴だったでしょうが」
「そうです! そうです! 私のアロスさんは短所もない代わりにこれといった長所もない。そんな素敵な幼馴染だったはずです。返して! 私のアロスさんを返してください!」
「ふ、二人とも、そんな風に俺のことを見てたの?」
最初に訓練で負けてあげるようになったのは、剣聖様と術聖様の特訓でかつてない程憔悴していた二人を喜ぼせようとしてのことだったけど、一度演技をすると辞め時を見失って今日までズルズル来てしまった。
(まぁ、二人との特訓が楽しかったのもあるんだけど、旅に出た以上弱いと思われるのは困るんだよね)
弱い(と思ってる)俺を庇って二人が怪我をするような事態だけは避けたかった。
「何黙ってるのよ?」
「いや、その……」
困った。何て説明しよう。
「冗談抜きに、本当にアンタどうしたの? 普通に心配になってくるんだけど」
「まさか危ない魔術具とか使ってませんよね?」
心配そうに俺のことをジッと見つめてくる二人の視線にちょっとジーンとする。
「じ、実はね、これ! これのお陰なんだ」
俺は二人に手首につけているブレスレットを見せた。ドクロの顔のついたこれは以前アリアさんに貰ったもので、旅に出る前夜、姉さんが夜這いにこないよう魔除け感覚でつけてたらそのまま旅に持ってきてしまった。
「そのセンスが微妙なブレスレットが何よ?」
(アリアさん、聞いてないといいけど)
「これは実はうちの家宝で、アルバ家の者が装着したらその能力を何倍にも高められるんだよ」
「は? 何それ? ……凄いじゃない」
「アルバ家にそのような物が……。侮れません」
聖王国で魔術に関しては一、二を争う名家のプライドなのか、サーラの顔がちょっと怖い。
「ってかさ、何でアンタはそんな無くすとメチャクチャまずそうなものを持ってきてんのよ」
「確かにそうですね。旅に出ることを知らなかったアロスさんが、何故そんな希少な物を身に付けてたのでしょうか?」
「じ、実はあの日、二人を驚かそうとこっそり持ってきてたんだよ」
自分で言っててちょっと厳しいかなと思ったけど、ティナは何やら得心がいったとばかりに微笑んだ。
「ははーん。それを使って普段の仕返ししようって魂胆だったのね」
「い、いや。仕返しとかじゃないよ。面白いかなと思っただけ」
「それであんな強力な人造精霊を使役して疲労してないんですね」
「そ、そうだよ。さっきの人造精霊は姉さんに手伝ってもらって製作した特別な奴で、これがないと制御出来ないんだよ」
生まれた時から身分を偽ってるせいか、こういう時自分でも驚くくらいペラペラと舌が回る。
二人は俺と俺が身に付けているブレスレットを交互に見詰めた。
「……なるほどね。アロスにしてはやけにすごいと思ってたけど、そんなとんでもアイテムがあったなら納得だわ」
「アロスさん、それ後で見せてもらえませんか?」
「え? ダメダメ! 絶対ダメだから」
アリアさんに貰ったただのブレスレットを後ろに庇う。サーラのあの目、これは当分の間気が抜けそうにないぞ。
「とにかく良かったわ。アロスのことは私が守んなきゃと思ってたけど、これで背中くらいは任せられそうね」
「うん。任せてよ。それでティナ、火王国に入ったわけだけど、具体的にはこれからどうするの?」
「私達の目的は強い魔族の首を持ち帰ること。その為に私達には足りないものがあるわ」
俺とサーラは視線でティナに次の言葉を促す。
「それはね、実戦経験よ」
「確かに私達は一応師の元で実戦を経験していますが、あれは師の監視下でのことですから精神的な余裕がありました」
「そういうこと。ましてやアロスはそういう経験ないでしょ?」
君達以上の実戦を経験してるけどね。とは言えない。
「実戦経験を積めて、かつ魔族の情報を集められて、さらにお金になる。とくれば一つしかないでしょ」
そこまで言われれば俺もサーラもピンと来た。
「「ダンジョン潰しか(ですね)」」
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