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7 似ても似つかない

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「魔砲隊。一番、二番、三番、四番、うてぇえええ!!」

 轟音。慣れないわね、こればかりは。三メートル程の巨大な筒を数人の魔術師が囲っている。彼らが魔力を筒へと注げば、城壁にも穴を開ける強力な砲弾の出来上がりだ。

「着弾確認! 魔力石粉砕による粉塵により視界困難。ダメージ不明。撃墜ならず。繰り返します。対象、撃墜ならず」

 オオクド中佐の横で遠視の魔術を発動させている従者が状況を大声で報告している。

「玉込め急げ! 魔砲隊。五番、六番、七番、八番。うてぇえええ!!」

 轟音。再び数キロ先で魔力を増幅する性質を持つ魔力石が砲弾として空中でそのエネルギーを弾けさせる。

「粉塵の拡散による着弾を確認! ダメージ不明。対象の針路、変わった形跡ありません」
「……どういうこった? 何故正面からくる?」
「中佐、如何されましたか?」
「いや、なんか嫌な予感がするんだよな。これは……あれだ、あれ。カードで勝ったと思ってたら相手はさらに強い手を持ってて有り金全部持ってかれる時の感じ。間違いない」
「は、はぁ?」
「聖ユギルの雷槍を使うぞ。それまで打ち続けろ。いいか、決して手を休めるなよ! 生け捕りとか面倒臭いことは考えなくていい」
「は、はい。指揮を引き継ぐ! 魔砲隊。九番、十番、十一番、十二番、うてぇえええ!!」

 満月が出ているとはいえ夜の空だ、その上砕けた魔力石があれだけ派手に粉塵を撒き散らしたら、遠視の魔術を使ってもドラゴンがどこにいるのかよく分からない。でも粉塵が広がり続けてるってことは砲弾を浴びながらも直進してるってことでいいのよね。凄い耐久力。流石はドラゴンね。

「聖ユギルの雷槍といえば聖王女が年に数本だけ作られる一回こっきりの魔術具よね。中佐、本気で生け捕りを諦めるつもりなのかしら?」
「姫様、あのドラゴン……妙です」
「妙って何が? そういえば中佐もそんな感じのことを仰ってたようだけど」

 距離がある上にこの轟音下では魔力で聴覚を強化しても限界がある。だけど中佐がドラゴンの行動に不信を抱いていたのは間違いない。

「あれだけの砲撃を受けても回避行動を取ろうとしないなんて、前回の戦闘データから推測されるドラゴンの防御値を大幅に超えてます。……姫様、ここは危険かもしれません。お下がりください」
「ちょっと落ち着きなさい。らしくなーー」

「聖王女の祝福を! 雷槍一擲!」

 閃光が瞬き、一条の光が空に昇っていく。遠方の空に漂う粉塵が一瞬で消し飛んだ。

 聖ユギルの槍。噂には聞いてたけど凄い威力だわ。あれほど強力な武器を大陸を覆う結界を維持しながらお作りになられるなんて、聖王女様、やはりすごいお方だ。一度でいいから拝謁の栄誉を賜りたいものね。

「見てよカーラ。あれならドラゴンもひとたまりもーー」
「雷槍弾かれました! 着弾ならず。く、繰り返します。雷槍弾かれました!」
「おいおいおいおい。……マジかよ!? どうやった? 大佐との戦いは本気じゃなかったってのか?」

 一瞬理解できなかった。周りが何を言っているのか。いや、でも確かに遠くの空に走っていった雷が途中で球体の上を沿うかのように幾つもの線に分かれたように見えた気が……。

「姫様、今すぐこの場から離脱を。王都に戻ります。誰かペガサスを」

 カーラに腕を掴まれ、有無を言わさぬ力で引っ張られた。それに私が何か言うよりも早くーー

「ほ、報告! ドラコンの上に人影を確認。繰り返します。ドラゴンの上に人影を確認」
「は? どういうこった?」
「わ、分かりません。しかしあれは……あの制服は……聖ユギル学院の生徒……だと思われます」

 え? と思った。でもそれは私だけではなくて中佐もカーラも皆一様に驚愕を隠せないでいる。

「いや、マジでどういう事だよ。遠視の映像を空間に投影しろ」
「は、はい」
「中佐! ドラゴン尚も接近中。いかがいたしますか?」
「ああ、くそ! ……お前達は下がって防御壁を展開してろ。お前もだ。投影は止めていい。どうせもう来るからな」
「中佐は?」
「早くしろ!」
「りょ、了解。聞いたな。行動を開始しろ」

 兵士達が慌ただしく下がる間にも、米粒のようだったドラゴンがドンドンと大きくなってきて、視覚的にも最強生物に相応しい威容を示し始めた。

「姫様もお早く」
「分かってる……わ?」
「姫様?」
「ね、ねぇカーラ。あれってシーラじゃないかしら?」

 ドラゴンの上に見える人影、驚くことにそれは二つあった。そのうちの一つ、月光を浴びて輝く緑の頭髪には見覚えがあった。

「確かに……シーラ様のようですね」

 あのカーラが目を見開いている。いや、それは私も同じか。

「シーラの前に立っている……男? 男よね? 彼は誰かしら」

 聖ユギル学院の制服を着ているということはうちの生徒? でも見たことないわね。

「姫様、あれは……ルド様ではないでしょうか」
「えっ!? まさかそんなはずは……」

 瞳に魔力を集中する。向こうがこっちに近づいてきていることもあってなんとか顔が見えてきた。男は腕を組んでドラゴンの上からこちらを見下ろしている。カーラと同じ黒髪黒目。軍隊の総攻撃を受けた後だというのにその顔には不敵な笑みが浮かんでいた。

 最強生物の上で月光を背にして笑うその姿は、どう見たって私の知っているルドとは似ても似つかない。なのに次第にハッキリしていくその姿は確かにルドにそっくりで……と言うかルドにしか見えないわね、あれ。

「えっ!? ルドなの? あれ本当にルドなの?」
「だと思われます」
「えぇえええええ!?」

 そんなことってある? だってあのルドよ? 食料確保の演習で動物を殺すのを躊躇するあのルドよ? 何でそれがドラゴンを従えちゃってるのよ!?

 訳の分からない状況に私が叫んでいる間に、二人を乗せたドラゴンが大地へと舞い降りた。
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