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27.産声
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「これは……予想以上だね」
グラシデアを連れて己の力を退ける何かがある場所へと辿り着いたフラウダは、そこにあったあまりにも高度な防衛魔術に舌を巻いた。
「だめだ。やはり妾の目では見破れん。本当にここなのか、フラウダ先輩」
「間違い無いよ。かなり高度な魔術で隠蔽されてるけど、目の前が目的地さ」
「夜の狩人である吸血鬼の目を欺くとは。これだから人間は侮れん」
グラシデアは怒っているような喜んでいるような、そんな奇妙な表情で肩をすくめた。
「範囲こそ比べるべくもないけど、性能だけを見るなら魔王城と同等か下手をしたらそれ以上かもしれないね」
フラウダの足元から生えた触手のような蔓が二魔の前にある断崖絶壁へと向かって手を伸ばす。それは十メートルほど進んだあたりで突然ーージュッ! と音を立てて跡形もなく蒸発した。
「断崖絶壁に見せかけた幻影魔術。僕でさえ先に能力で確認してなかったらただの崖だと思っていたかも」
フラウダの足が崖の先へと向かって踏み出す。躊躇のないその一歩は当然のように見えない大地を踏み締めた。
「フラウダ先輩、幻術はともかく迎撃魔術をどう掻い潜るつもりだ?」
後輩吸血鬼の言葉に、しかしフラウダはうんともすんとも応えない。
「……フラウダ先輩?」
「う~ん。何か嫌な感じがするな。ねぇ、グラシデア、ここにある何か、全部今のうちに壊しちゃっていい?」
直後、フラウダの魔力が爆発的な高まりを見せる。
「なっ!? フ、フラウダ先輩?」
「伸びろ『巨人の鞭』」
地面を大きく盛り上げ、大木の如き巨大な蔓が生まれる。
「これで壊れてくれるといいんだけど」
「ま、まてフラウダ先輩。壊す前に何があるか見ることは出来んのか?」
「え? 規模から考えて施設か何かでしょ」
「確認しておきたい。これが幻獣を使った帝国の企みならば、その実態をきちんと掴んでおきたいのだ。この幻術、破れぬか?」
「う~ん。僕としては今すぐ攻撃した方がいいような……ちょっと待ってよ」
フラウダの荒々しい魔力が鎮まり、穏やかな緑の魔力が蔓を包んだ。すると巨大な蔓の至る所から色取り取りの花が咲き誇った。
それらは目に見えるほどに濃い花粉を宙へと放つ。
「これで魔力が乱れて映像が像を結ばないはず」
雪のように降り注ぐ花粉に当てられて偽りの景色がはがれ落ちる。現れた大地には真っ白な建物が一つ、ポツンと立っていた。
「ふーむ。想像していたのより一回りは大きな建物だの。いくら距離があるとはいえ、こんなものを目と鼻の先で建造されて気がつかぬとは、妾も焼きが回ったかな」
「僕の探査能力が及ばないんだし、気づかなくても仕方ないよ。それにグラシデアがここに来た頃には既に建っていた可能性もあるよ」
「そんな前から? もしもそうならば、かなり年季の入った実験だの。目的はやはり幻獣の使役化か?」
それは人魔どちらもが取り組み、一定の成果を上げつつも未だに完成には至らない技術。もしも全ての幻獣をコントロールすることができたならば、その種こそがこの大陸の覇者になるとまで言われており、現在も魔族領、帝国領問わず、至るところで様々な幻獣使役化の実験が行われている。
「ありえるけど、断定はできないね。少なくとも強い幻獣が多いのと無関係ってことはないと思うけど」
姿を現した建物へと再び触手が手を伸ばす。だが建物に近付いた途端、どこからともなく現れた雷に打たれてまたも塵となって消えた。
「一応電気に耐性をつけたんだけど……。困ったな。戦術級の威力がありそう」
「空間自体に魔術が掛かっておるな。これは霧になっても抜けられそうにない。フラウダ先輩は?」
「ちょっと待ってよ。…………あっ、駄目だ。地下からの侵入も試したけど病的なまでに術式が張り巡らされてる。この術式を絡め手で抜けるのは一日、二日では例えスイナハでも無理だろうね」
「それならあの建物に入るには……」
「力技以外にないんじゃない?」
元四天王と軍団長は黙って白い建物を見つめた。
「……ねぇ、グラシデア。提案なんだけど今日の調査はこれくらいにしとかない?」
「賛成したいのは山々だが、そうもいかん。それにまだ最初に決めた時間には余裕があるぞ。村の安全、ひいては娘達の安全の為にフラウダ先輩の格好良いところを妾に見せてくれ」
「はぁ……ママは大変だ」
フラウダが指を鳴らせば花を咲かせていた巨大な蔓が枯れ落ちる。すると蔓が落ちた場所から四本の大木の如き太さを誇る蔓が新たに生まれた。
「取り敢えず叩いてみようか」
そして震われる巨人の鞭。蔓が白い建物に到達するのを防ごうと空間が雷を纏うが、巨大な蔓は焼け焦げながらも目標に一撃入れた。だがーー
「建物に触れた蔓が凍った。フラウダ先輩、これは……」
「空間にトラップを仕掛けるくらいだから外壁に仕掛けない訳がないか。それにしても氷と電気。単純だけどこのレベルになると厄介な組み合わせだよね」
「……む、フラウダ先輩の蔓が一瞬で」
建物の外壁に触れた蔓が凍りつき、電気がそこに集中して流れ込む。第二撃目を振るおうとしていた巨大な蔓は、あっという間に丸こげとなった。
「う~ん。入る前からこれだけ手こずるなんていつ以来だろ?」
「妾は昔一緒に攻めた要塞を思い出したぞ」
「いや、あの時と今じゃ僕達の力が違うし。ん? 要塞?」
何かに気づいたような顔をするフラウダ。グラシデアがニヤリと笑った。
「フラウダ先輩さえよければ、やってみんか?」
「オッケー。そのかわり強力なのを頼むよ」
フラウダが腕を振れば残りの三本の蔓が建物へと向かって己の巨大な質量を振り下ろす。空間に走る雷。だが先の一本と同じように雷だけでは蔓を破壊できない。そしてーー
「了解じゃ。疾く、燃え尽きよ『炎の狩り』」
グラシデアが抜きはなった二本の刃、それが纏し炎が三本の蔓を走る。植物の補助を受けて炎は火力を瞬く間に増していく。
「良い火力だね。これなら……咲き誇れ炎の花『花の 祝福』」
蔓が魔力を乗せた花粉を大量に発散。火薬にも似た性質を持つ花粉はグラシデアの炎と混じって大爆発を巻き起こした。
「やったか?」
二本の剣を構えたまま爆煙が晴れるのを待つグラシデア。晴れた視界に現れた白い建物は入口が粉々に吹き飛んでいた。
「上手くいったようだね。それに……」
フラウダは蔓を建物へと向かって伸ばした。今までは雷に阻まれていたそれは、建物に向かってまっすぐ進み続けた。
「いい感じに術式が破壊できたみたい。このまま建物内部も調査させるよ」
「では妾も手伝おう」
グラシデアの体から紅い魔力が立ち上り、それは何羽ものコウモリへと形を変える。
「行け、そして中の様子を妾に視せるのだ」
主に命じられるまま蝙蝠達が施設の中へと入り込む。
「そういえば人間の諺に鬼が出るか蛇が出るかって言うのがあったけど、まさに今の状況にピッタリじゃない?」
「鬼や蛇で済めばよいのだがな」
「確かに」
互いに調査用の能力を行使しながら軽口を叩き合う二魔、だが二魔が笑えたのはそこまでだった。
「GAAAAAAAAAAA!!」
「なっ!? なんじゃ?」
それは生誕の咆哮。生まれ落ちたばかりの赤子が上げるその声に軍団長が一瞬竦み上がり、魔族の最上位に位置する元四天王はーー
「退避だ! 下がれグラシデア!!」
まるで大型の獣に出くわした小動物のように、迷うことなく白い建物から距離を取った。
グラシデアを連れて己の力を退ける何かがある場所へと辿り着いたフラウダは、そこにあったあまりにも高度な防衛魔術に舌を巻いた。
「だめだ。やはり妾の目では見破れん。本当にここなのか、フラウダ先輩」
「間違い無いよ。かなり高度な魔術で隠蔽されてるけど、目の前が目的地さ」
「夜の狩人である吸血鬼の目を欺くとは。これだから人間は侮れん」
グラシデアは怒っているような喜んでいるような、そんな奇妙な表情で肩をすくめた。
「範囲こそ比べるべくもないけど、性能だけを見るなら魔王城と同等か下手をしたらそれ以上かもしれないね」
フラウダの足元から生えた触手のような蔓が二魔の前にある断崖絶壁へと向かって手を伸ばす。それは十メートルほど進んだあたりで突然ーージュッ! と音を立てて跡形もなく蒸発した。
「断崖絶壁に見せかけた幻影魔術。僕でさえ先に能力で確認してなかったらただの崖だと思っていたかも」
フラウダの足が崖の先へと向かって踏み出す。躊躇のないその一歩は当然のように見えない大地を踏み締めた。
「フラウダ先輩、幻術はともかく迎撃魔術をどう掻い潜るつもりだ?」
後輩吸血鬼の言葉に、しかしフラウダはうんともすんとも応えない。
「……フラウダ先輩?」
「う~ん。何か嫌な感じがするな。ねぇ、グラシデア、ここにある何か、全部今のうちに壊しちゃっていい?」
直後、フラウダの魔力が爆発的な高まりを見せる。
「なっ!? フ、フラウダ先輩?」
「伸びろ『巨人の鞭』」
地面を大きく盛り上げ、大木の如き巨大な蔓が生まれる。
「これで壊れてくれるといいんだけど」
「ま、まてフラウダ先輩。壊す前に何があるか見ることは出来んのか?」
「え? 規模から考えて施設か何かでしょ」
「確認しておきたい。これが幻獣を使った帝国の企みならば、その実態をきちんと掴んでおきたいのだ。この幻術、破れぬか?」
「う~ん。僕としては今すぐ攻撃した方がいいような……ちょっと待ってよ」
フラウダの荒々しい魔力が鎮まり、穏やかな緑の魔力が蔓を包んだ。すると巨大な蔓の至る所から色取り取りの花が咲き誇った。
それらは目に見えるほどに濃い花粉を宙へと放つ。
「これで魔力が乱れて映像が像を結ばないはず」
雪のように降り注ぐ花粉に当てられて偽りの景色がはがれ落ちる。現れた大地には真っ白な建物が一つ、ポツンと立っていた。
「ふーむ。想像していたのより一回りは大きな建物だの。いくら距離があるとはいえ、こんなものを目と鼻の先で建造されて気がつかぬとは、妾も焼きが回ったかな」
「僕の探査能力が及ばないんだし、気づかなくても仕方ないよ。それにグラシデアがここに来た頃には既に建っていた可能性もあるよ」
「そんな前から? もしもそうならば、かなり年季の入った実験だの。目的はやはり幻獣の使役化か?」
それは人魔どちらもが取り組み、一定の成果を上げつつも未だに完成には至らない技術。もしも全ての幻獣をコントロールすることができたならば、その種こそがこの大陸の覇者になるとまで言われており、現在も魔族領、帝国領問わず、至るところで様々な幻獣使役化の実験が行われている。
「ありえるけど、断定はできないね。少なくとも強い幻獣が多いのと無関係ってことはないと思うけど」
姿を現した建物へと再び触手が手を伸ばす。だが建物に近付いた途端、どこからともなく現れた雷に打たれてまたも塵となって消えた。
「一応電気に耐性をつけたんだけど……。困ったな。戦術級の威力がありそう」
「空間自体に魔術が掛かっておるな。これは霧になっても抜けられそうにない。フラウダ先輩は?」
「ちょっと待ってよ。…………あっ、駄目だ。地下からの侵入も試したけど病的なまでに術式が張り巡らされてる。この術式を絡め手で抜けるのは一日、二日では例えスイナハでも無理だろうね」
「それならあの建物に入るには……」
「力技以外にないんじゃない?」
元四天王と軍団長は黙って白い建物を見つめた。
「……ねぇ、グラシデア。提案なんだけど今日の調査はこれくらいにしとかない?」
「賛成したいのは山々だが、そうもいかん。それにまだ最初に決めた時間には余裕があるぞ。村の安全、ひいては娘達の安全の為にフラウダ先輩の格好良いところを妾に見せてくれ」
「はぁ……ママは大変だ」
フラウダが指を鳴らせば花を咲かせていた巨大な蔓が枯れ落ちる。すると蔓が落ちた場所から四本の大木の如き太さを誇る蔓が新たに生まれた。
「取り敢えず叩いてみようか」
そして震われる巨人の鞭。蔓が白い建物に到達するのを防ごうと空間が雷を纏うが、巨大な蔓は焼け焦げながらも目標に一撃入れた。だがーー
「建物に触れた蔓が凍った。フラウダ先輩、これは……」
「空間にトラップを仕掛けるくらいだから外壁に仕掛けない訳がないか。それにしても氷と電気。単純だけどこのレベルになると厄介な組み合わせだよね」
「……む、フラウダ先輩の蔓が一瞬で」
建物の外壁に触れた蔓が凍りつき、電気がそこに集中して流れ込む。第二撃目を振るおうとしていた巨大な蔓は、あっという間に丸こげとなった。
「う~ん。入る前からこれだけ手こずるなんていつ以来だろ?」
「妾は昔一緒に攻めた要塞を思い出したぞ」
「いや、あの時と今じゃ僕達の力が違うし。ん? 要塞?」
何かに気づいたような顔をするフラウダ。グラシデアがニヤリと笑った。
「フラウダ先輩さえよければ、やってみんか?」
「オッケー。そのかわり強力なのを頼むよ」
フラウダが腕を振れば残りの三本の蔓が建物へと向かって己の巨大な質量を振り下ろす。空間に走る雷。だが先の一本と同じように雷だけでは蔓を破壊できない。そしてーー
「了解じゃ。疾く、燃え尽きよ『炎の狩り』」
グラシデアが抜きはなった二本の刃、それが纏し炎が三本の蔓を走る。植物の補助を受けて炎は火力を瞬く間に増していく。
「良い火力だね。これなら……咲き誇れ炎の花『花の 祝福』」
蔓が魔力を乗せた花粉を大量に発散。火薬にも似た性質を持つ花粉はグラシデアの炎と混じって大爆発を巻き起こした。
「やったか?」
二本の剣を構えたまま爆煙が晴れるのを待つグラシデア。晴れた視界に現れた白い建物は入口が粉々に吹き飛んでいた。
「上手くいったようだね。それに……」
フラウダは蔓を建物へと向かって伸ばした。今までは雷に阻まれていたそれは、建物に向かってまっすぐ進み続けた。
「いい感じに術式が破壊できたみたい。このまま建物内部も調査させるよ」
「では妾も手伝おう」
グラシデアの体から紅い魔力が立ち上り、それは何羽ものコウモリへと形を変える。
「行け、そして中の様子を妾に視せるのだ」
主に命じられるまま蝙蝠達が施設の中へと入り込む。
「そういえば人間の諺に鬼が出るか蛇が出るかって言うのがあったけど、まさに今の状況にピッタリじゃない?」
「鬼や蛇で済めばよいのだがな」
「確かに」
互いに調査用の能力を行使しながら軽口を叩き合う二魔、だが二魔が笑えたのはそこまでだった。
「GAAAAAAAAAAA!!」
「なっ!? なんじゃ?」
それは生誕の咆哮。生まれ落ちたばかりの赤子が上げるその声に軍団長が一瞬竦み上がり、魔族の最上位に位置する元四天王はーー
「退避だ! 下がれグラシデア!!」
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