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「い、いや、違う。これは違うんだ!」
「違うって何が?」

 あんなに必死に頭を左右に振って、首を痛めないかちょっと心配。それにしてもどうしたんだろう? こんなに挙動不審な彼は初めて見る。

「別に何かやましいことをしていたわけじゃなくて、俺は……そう! 俺は荷物をチェックしていたらアリアさんがいつの間にか近くにいて、そしたらドロシーさんが入ってきて、それだけ! 本当にそれだけだから! ってかちょっと離れてくれないか?」

 レオ君はアリアの肩に触れると、彼女をグイッと引き離した。あの子が身内以外に自分からあんなに距離を縮めるなんて。一緒に戦ったことは聞いていたけど、想像よりもずっと仲良しになったみたいだ。

「アリア? レオ君に何か用事だったの?」
「別に。ただ……」
「ただ?」
「…………」
「え? ただ、どうしたの?」

 この子は脈絡なく沈黙する癖をいい加減直してほしい。そしてアリアと話してるだけなのに、どうしてレオ君の顔色がますます悪くなるんだろう?

 妹はそんな彼との距離を再び詰めた。

「えっ!? ちょっ、ちょっ!? アリアさん!?」
「目が綺麗。太陽みたい」

 アリアの手がそっとレオ君の頬を撫でる。私はそんな妹の首根っこを掴んで彼から引き話した。

「……何?」
「貴方ね、まさかと思うけど誰彼構わずそんな距離感なわけじゃないよね?」

 聞いた話によると、アリアにはちゃんと友達がいるらしい。なので、私が知らないだけで外では今みたいな無防備を晒しちゃってる可能性もある。それってすごく危険な気がした。

「レオは特別」
「ならいいけど……」
「いいのか?」
「えっ!? センカさん? う、うん。レオ君なら変なことしないだろうし」
「変なこと?」

 アリアが小首を傾げる。キョトンとしたその顔は可愛いけど、可愛いからこそ、なんて説明したものか悩んじゃう。

 ううん。アリアももう子供じゃないんだし、そっち方面の知識だって普通にあるよね? でもな~……。

 妹とそういう話ってすごくしにくい。

 困った私はなんとはなしにレオ君を見た。

「えっ……と。そうだ! お、俺、ちょっとアリリアに用事があったんだ。これ、チェックリスト。半分くらいは終わってるから。あと、頼む」
「え? うん」

 私にリストを手渡すと、レオ君はまるで逃げるように出て行った。

「えっと……」

 何だったんだろ? あんなレオ君初めて見る。体調でも悪いのかな?

 アリアとセンカさんが私をジッと見つめていた。

「えっ……な、なに?」
「いや、ドロシーが怒るところは初めて見たからな。中々の迫力だ。案外、男を束縛するタイプなんだな」
「はいっ!? お、怒ってなんかないけど? それに束縛って、そ、そんなこと……」

 ない。と言いたいけど、男性とお付き合いすること自体初めてのことだから、ちょっと自信がない。

 ……私って束縛系なのかな? ううん。まだセンカさんの勘違いの可能性だってある。

「あの、ちなみに束縛するってどこで判断したのかな?」
「レオを威嚇していただろう。私以外の女に手を出すなんて許さない! という意思表示なんじゃないのか?」
「し、してない。威嚇なんてしてないからね!?」
「そうなのか? なんか、こう。圧が凄かったのだが」
「ええっ!?」

 もしかしてレオ君が挙動不審だったのってそれが原因なのかな? どうしよう。本当に怒ってないのに。……そりゃ、アリアとくっ付いてるのを見て、少しだけモヤッとはしたけど、でも本当にそれだけなんだから。

「姉さんは短気」
「アリア!?」
「超短気」
「ちょ、超ってなによ、超って」
「そうなのですか? それは意外な評価ですね」

 センカさんはアリアの狂言を明らかに楽しんでいる。自由奔放なアリリアナと気が合うようだし、案外妹と馬が合うのかもしれない。でも、それはそれとして……。

「あのね、アリア。いい加減なこと言ってると、姉さん怒るからね」
「…………(プイッ)」

 こ、この子は……。ううん。だめよ。ここで怒ったら、アリアの大嘘を認めたことになる。レオ君だって別に私が怖くて逃げたわけじゃなくて、用事があっただけだし。彼が戻って来たら、私の無実を晴らして貰えば良いんだ。

「ただいま~。挨拶済ましてきた感じ。それとレオっちが鬼にでも見たかのような顔をして、どっか行ったんだけど、なんかあった?」
「そ、そんなっ!? レオ君!?」

 ガーン!? という音が何処からともなく聞こえてきた。

「ちょっ!? ドロシー? 何かかつてないくらいショック受けてない? 大丈夫? 何があったし」

 心の機微を共有する親友が駆け寄ってくる。

 そんなやり取りを挟みはしたものの、レイドの出発は時間通りに行われた。
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