上 下
143 / 149
連載

189 ショック?

しおりを挟む
「い、いや、違う。これは違うんだ!」
「違うって何が?」

 あんなに必死に頭を左右に振って、首を痛めないかちょっと心配。それにしてもどうしたんだろう? こんなに挙動不審な彼は初めて見る。

「別に何かやましいことをしていたわけじゃなくて、俺は……そう! 俺は荷物をチェックしていたらアリアさんがいつの間にか近くにいて、そしたらドロシーさんが入ってきて、それだけ! 本当にそれだけだから! ってかちょっと離れてくれないか?」

 レオ君はアリアの肩に触れると、彼女をグイッと引き離した。あの子が身内以外に自分からあんなに距離を縮めるなんて。一緒に戦ったことは聞いていたけど、想像よりもずっと仲良しになったみたいだ。

「アリア? レオ君に何か用事だったの?」
「別に。ただ……」
「ただ?」
「…………」
「え? ただ、どうしたの?」

 この子は脈絡なく沈黙する癖をいい加減直してほしい。そしてアリアと話してるだけなのに、どうしてレオ君の顔色がますます悪くなるんだろう?

 妹はそんな彼との距離を再び詰めた。

「えっ!? ちょっ、ちょっ!? アリアさん!?」
「目が綺麗。太陽みたい」

 アリアの手がそっとレオ君の頬を撫でる。私はそんな妹の首根っこを掴んで彼から引き話した。

「……何?」
「貴方ね、まさかと思うけど誰彼構わずそんな距離感なわけじゃないよね?」

 聞いた話によると、アリアにはちゃんと友達がいるらしい。なので、私が知らないだけで外では今みたいな無防備を晒しちゃってる可能性もある。それってすごく危険な気がした。

「レオは特別」
「ならいいけど……」
「いいのか?」
「えっ!? センカさん? う、うん。レオ君なら変なことしないだろうし」
「変なこと?」

 アリアが小首を傾げる。キョトンとしたその顔は可愛いけど、可愛いからこそ、なんて説明したものか悩んじゃう。

 ううん。アリアももう子供じゃないんだし、そっち方面の知識だって普通にあるよね? でもな~……。

 妹とそういう話ってすごくしにくい。

 困った私はなんとはなしにレオ君を見た。

「えっ……と。そうだ! お、俺、ちょっとアリリアに用事があったんだ。これ、チェックリスト。半分くらいは終わってるから。あと、頼む」
「え? うん」

 私にリストを手渡すと、レオ君はまるで逃げるように出て行った。

「えっと……」

 何だったんだろ? あんなレオ君初めて見る。体調でも悪いのかな?

 アリアとセンカさんが私をジッと見つめていた。

「えっ……な、なに?」
「いや、ドロシーが怒るところは初めて見たからな。中々の迫力だ。案外、男を束縛するタイプなんだな」
「はいっ!? お、怒ってなんかないけど? それに束縛って、そ、そんなこと……」

 ない。と言いたいけど、男性とお付き合いすること自体初めてのことだから、ちょっと自信がない。

 ……私って束縛系なのかな? ううん。まだセンカさんの勘違いの可能性だってある。

「あの、ちなみに束縛するってどこで判断したのかな?」
「レオを威嚇していただろう。私以外の女に手を出すなんて許さない! という意思表示なんじゃないのか?」
「し、してない。威嚇なんてしてないからね!?」
「そうなのか? なんか、こう。圧が凄かったのだが」
「ええっ!?」

 もしかしてレオ君が挙動不審だったのってそれが原因なのかな? どうしよう。本当に怒ってないのに。……そりゃ、アリアとくっ付いてるのを見て、少しだけモヤッとはしたけど、でも本当にそれだけなんだから。

「姉さんは短気」
「アリア!?」
「超短気」
「ちょ、超ってなによ、超って」
「そうなのですか? それは意外な評価ですね」

 センカさんはアリアの狂言を明らかに楽しんでいる。自由奔放なアリリアナと気が合うようだし、案外妹と馬が合うのかもしれない。でも、それはそれとして……。

「あのね、アリア。いい加減なこと言ってると、姉さん怒るからね」
「…………(プイッ)」

 こ、この子は……。ううん。だめよ。ここで怒ったら、アリアの大嘘を認めたことになる。レオ君だって別に私が怖くて逃げたわけじゃなくて、用事があっただけだし。彼が戻って来たら、私の無実を晴らして貰えば良いんだ。

「ただいま~。挨拶済ましてきた感じ。それとレオっちが鬼にでも見たかのような顔をして、どっか行ったんだけど、なんかあった?」
「そ、そんなっ!? レオ君!?」

 ガーン!? という音が何処からともなく聞こえてきた。

「ちょっ!? ドロシー? 何かかつてないくらいショック受けてない? 大丈夫? 何があったし」

 心の機微を共有する親友が駆け寄ってくる。

 そんなやり取りを挟みはしたものの、レイドの出発は時間通りに行われた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。