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188 姉妹

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 馬車から降りる。なんてことはない、そんな動作でさえ、彼女がやればまるで物語の一場面のよう。絶世の美しさが男女の区別なく周囲の視線を根こそぎ集めていく。

 やっぱり綺麗。

 服装が変わっただけで、見慣れている私でさえも目を奪われる。半神半人。オオルバさんもすっごい美人だし、アリアの常識はずれの美しさは、神格種の血がもたらしているのだろう。

 あれ? それだとなんで私は普通なんだろう?

 アリアが神の血を色濃く受け継いだのならば、姉である私は人の血が濃いのかもしれない。人の……つまりはお父様の血が……。

 こ、このことについてはこれ以上考えない方がいいかも。

 仕事前だというのに凹んでしまいそうだった。

 別にお父様のことが嫌いというわけじゃ……わ、わけじゃあ……うん。考えないようにしよう。

「おおっ、妹ちゃん、その格好似合ってるじゃない」

 神の美しさの前に皆が固唾を呑んでいる。そんな静かな時間を明るい声音が吹き飛ばした。

「……妹ちゃん?」
「あっ、もしかして様付で呼ばないといけない感じ?」
「…………別にいい」
「だよね。私とドロシーは姉妹当然。なら妹ちゃんも私の妹みたいな感じでしょ。私のことはアリリアナお姉ちゃんって呼んでいいからね」

 アリリアナ凄い。あのアリアに対して気安く肩組んじゃってる。姉である私だってやったことないのに。あっ、でもアリア。すっごい嫌そう。表情こそ変わってないけど、視線が氷みたいだ。

「呼ばない」

 アリアはアリリアナの腕をペシっと払うと、何故かこっちにやってきた。

「姉は一人」
「えっ!?」

 それって自分のお姉ちゃんは私だけって主張しているの? やだ、この子。いつの間にこんな可愛いこと言うようになったんだろ? 

 嬉しくなった私の手が勝手に妹の頭を撫でる。ーーペシっ! とかなり乱暴に払われた。

 や、やっぱり可愛くないかも。

「アハハ。気難しい年頃な感じなわけね。でも黒帝王で鍛えられた私は簡単には諦めないから。必ずアリリアナお姉ちゃんって呼ばせてあげるわ。なんなら今すぐ呼んでもオッケーな感じよ。さん、はい!」
「…………」

 見に纏う雰囲気が太陽みたいなアリリアナと氷の花のようなアリア。二人のやりとりをもう少し見ておきたい気持ちもあるけど、私たちのせいで万が一にも出発が遅れるようなことがあったら申し訳なさすぎる。

「アリリアナ、それくらいにして出発前の最終チェックを始めようよ」
「お姉ちゃんプリーズ」
「はいはい。お姉ちゃん、お姉ちゃん。それでアリリアナお姉ちゃんは作業の前にポタラさんに挨拶行ってきてよね」
「オッケー。それじゃあ妹達、先に作業を始めておいて、お姉ちゃんもすぐに手伝うから」

 ヒラヒラ手を振って、アリリアナはポタラさんの元へと向かった。

「それじゃあ、二人とも私らは馬車にいこっか。……何よ?」
「…………別に」

 そっぽを向くアリア。何か言いたそうに見えたけど、この手の反応をするときに問い詰めても、経験上、まともな答えが返ってきたことはない。

「あっ、そうだ。アリア、貴方ね。私たちの馬車で行くなら行くと、この間会った時に教えてよね」
「…………」
「ちょっと聞いてるの?」

 返事をせず、アリアは私たちの馬車へさっさと移動してしまった。

「まったくあの子は」
「すまないなドロシー。迷惑をかける」
「え? ううん。センカさんは何も悪くないよ。それより私の方こそごめんね。うちの妹が迷惑かけて」
「アリア様は突飛な行動をされることがままあるが、そんな些細なことは問題にならない働きをされているぞ」
「あっ、そうか。センカさんはたまにアリアと仕事してるんだっけ?」
「ああ。年も近くて同じ女性なので、アリア様が魔法隊に外部協力者として呼ばれた際は従者としてお仕えしている」

 特別魔法隊は、フェアリーラ王国在住の魔法使いを招集できる権利を王様から与えられている。けれど今のところその権利が行使されたのはドロテア家に対してだけだ。

 そもそも要請を出せるのがお父様なんだから、この仕組み自体、単に実績作りのマッチポンプなんじゃあ……。

「ドロシー? どうかしたか?」
「う、ううん。なんでもないよ? アリアが迷惑かけてないようで安心しただけ」
「ああ。突飛なお方だが、将来この国の王妃になるに相応しいお方だよ、アリア様は」

 友達が妹を様付けで呼んでるのって、何回聞いても慣れないかも。でもセンカさんの立場なら自然なことだし、その辺りについて何か言うのは止めておこう。

「そ、そう。それは良かった。それじゃあ私たちも馬車に移動しようか」
「ああ。馬車はレオが持ってきたのか?」
「うん。私が運ぼうかって言ったんだけど、レオ君が出発前はゆっくりしておけって言ってくれて」

 確認作業の都合上、馬車を移動する人は誰よりも先に来なければいけないので、朝がその分早くなる。もしもレオ君が引き受けてくれなかったら、出発前にオオルバさんとゆっくり話す時間は取れなかったと思う。

「そうか。レオとうまく行っているようで何よりだ」
「うん。ありがとう」

 レオ君だけじゃなくて、最近はアリアとも仲良く出来て、とってもいい感じだ。

 この先もこんなふうに順調だといいんだけど。

 そのためにもお仕事を頑張らないといけない。私は馬車の中にいるレオ君へと声をかけた。

「おはよう、レオ君。馬車の移動、ありがと……ね?」

 今回の仕事のために様々な道具が置かれた荷台。その中心で見慣れた銀の髪と最近ずっと一緒の赤い髪がものすごく接近していた。それこそキスするんじゃないかってくらいに。

「…………二人とも、何してるの?」

 至極当然の疑問を口にしただけなのに、どうしてかな? レオ君は青ざめて、センカさんは私から一歩距離をとった。そんな中、アリアだけが涼しい顔をしていた。
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