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「ってことがあったんだ」

 レオ君と食事を終えた帰り道、彼はお昼にあったアリリアナとの出来事を教えてくれた。

「アリリアナの言っていること、どう言うことか分かる?」
「えーと、うん。分かる……かな」

 大怪我を負ったアリリアナに私の血を分けてから、彼女とは魔法的な繋がりを感じるようになった。けどそのことをレオ君に説明すると私とアリアが半神半人であることがバレてしまう。別にバレたからどうと言うことはないんだけど、おばあちゃんのこともあるし、周囲に妖精を意識させるようなことはあまり話題にしたくなかった。

「魔法具を使わなくても互いの居場所が分かるって、便利だな」
「そうなの。たまに相手の感情に引っ張られることもあって大変だけど、クエストの最中にはぐれても心配しなくていいし、すごい便利だよ」
「そっか」
「うん」
「「…………」」

 王都の中心区と貴族区を隔てるように存在する坂道を二人で登っていく。陽はすっかりと落ちて、星の光以外周囲にこれといった灯りはない。お昼でもこの坂道を使う人は少なくて、夜になれば尚更だ。

「その、便利なことって、やっぱどんどん取り入れていくべきじゃないか?」
「うん? うん。それはそうだね」

 どうしてアリリアナと魔法的な繋がりを持つようになったのか聞かれてると身構えていたから、彼が話題を別の方へと向けてくれてホッとする。

「だから、その……ほら」

 坂道を登り切った先、魔法の輝きに煌く街を一望できるそこで、レオ君はペンダントを取り出した。

「これは?」
「えっと、俺なりにペンダントに術式を描き込んでみたんだけど」

 互いの位置が分かる感応型の術式。なるほど。これを私に見て欲しいのか。

「うん。とても上手に描けてると思うよ。でも、幾つか無駄があるかも。ほら。ここと、ここ。形は少し違うけどこの間の試験勉強に出てきたのと基本は同じだよね」
「あ、ああ。そうだったな」

 レオ君のあの表情、慌てて思い出そうとしている時の顔だ。分からないなら分からないって言ってくれれば良いのに。

「対になるペンダントを持ってるよね、そっちも出して」
「え? ああ。ほら」

 二つのペンダントを比べて術式を確認する。

「やっぱりここと、ここは修正かな。今は道具がないから後で一緒にやろうね」
「わ、分かった。それで、その、……受け取ってもらえるのか?」
「え? それはもちろ……ん?」

 あれ? ちょっと待ってよ。もしかしてこれって……

「あの、レオ君? これってもしかしてエンゲージ的な?」
「ああ。俺が学校を卒業したら、その、け、結婚してほしい」

 やだ、私ったら。

「ごめん。あっ、ごめんってそう言う意味じゃなくて、えっと、とても素敵なペンダントだと思うよ。術式もよくかけてるし」
「いや、いいんだ。そこは後で一緒に直してくれれば」
「う、うん」

 あ~。私のばかばか。どうしてすぐにエンゲージマジックって気付かなかったんだろ。いや、でもあれは婚約する時に送るもので、私とレオ君は既に婚約者だから……あれ? 結婚を申し込む時に渡すのも間違いではないんだっけ?

「それで返事は?」

 レオ君の言葉にハッとなる。そうだ。余計なことを考えてる場合じゃない。

 彼の顔は自身の燃えるような髪に負けないくらい真っ赤だ。その視線も忙しなく宙を彷徨っている。

「その、まだ一年しか付き合ってないし、考える時間が必要なら今答えなくてもーー」
「えっと……私でよければ」
「ほ、本当に?」
「うん」

 レオ君は一年しか付き合ってないって言うけど、貴族の世界では一度も会ったこともない相手と結婚することだって珍しくない。一年。伴侶を決めるには十分すぎる時間だ。

「それじゃあ、その、よ、よろしく」
「よろしくね」

 レオ君が手を伸ばしてくる。こう言う時にするのが握手というのが彼らしいけど、ここはちょっと私が勇気を出してみた。

 触れるかどうかの軽い接触。今までになかった距離に私の胸は高鳴り、炎を思わせる彼の瞳が大きく見開かれる。

「あっ……その……」

 レオ君の口が金魚のように開閉する。でも言葉が出てこないのは私も同じで、どうしていいのか分からなくて、ただ彼の手を取った。

「「…………」」

 暫く見つめ合った後、私達は二度目のキスをした。
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