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174 元凶?

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 心臓が爆発しそうだった。一体どれだけ走っただろうか、分からないし、考える気にもならない。

「隊長。あれは、あれは一体何だったんですか?」

 部下の一人が木に背中を預け、尻餅を着いただらしのない格好で聞いてくる。

 栄えある教会の記述部の者に相応しくない姿だが、同じ格好をしながら部下を怒鳴るわけにもいかない。

「分からん」

 グルーダの森。ポポルシェ王国から少しだけ離れたところにある危険地帯Bに指定されるなんてことはない森。そこの様子がおかしいと教会に調査の依頼がきた。人類守護を目的とする教会は当然ながら多忙を極める。冒険者に回してもよかったが、ラミアの襲撃で多大な被害が出たポポルシェ王国からの依頼というこもあり、我々記述部が派遣された。

 森では報告の通り異常が確認された。木々の肥大化現象。通常ではありえない速度で森が土地に広がっていくこの現象の原因は幾つか考えられるが、一番警戒すべきなのはドラゴンなど半ば神格種化している上位存在による土地や植物への影響。それ故に任務には最大限の警戒をもって当たっていたのだが……。

 全身が小刻みに震えて、歯の根が合わない。まるで子供の頃、初めて魔物を見た時のように。

「と、とにかくすぐに本部に連絡を入れるぞ」
「そうですね。あれは……あれは放っておけない」

 幾分か落ち着きを取り戻した脳が使命を思い出す。

 世界を呑み込まんばかりに広がる森。その心奥で邪悪に脈打っていたのは巨大な繭だった。

 あれを一眼見た時、理屈ではなく魂が理解した。

 あの中のモノを決して誕生させてはならない。

「よし。では移動をーー散開!!」

 未知の恐ろしさに震えていようが、そこは記述部。古来より人類守護の象徴であった教会、その精鋭達。

 部下は俺の声に素早く反応し、それと同時に我々がいた場所を白い暴風が通過した。

「「世界の鎖からは何人も逃れられない。『グラビトン』」」

 部下二人が放った魔法が白い風の動きを止めた。

「シッ!」
「ふっ!」
「うぉおおお!!」

 俺と部下達による攻撃が魔物の首を切り落とす。地を転がった首が恨めしげにこちらを見上げる。暴風の正体は白い狼だった。

「ベルウルグ。群れを作らないこいつまで……隊長、ひょっとすると魔物の異常行動の原因は……」
「可能性はある。だからこそ、我らは生きてここを出なければならない」

 この森を覆う巨大な魔力が魔法文字の送信を阻んでいなければ、危険を承知で監視を付けただろう。だが今は生還に全ての戦力を注ぐべきだ。

 部下を見回すと、俺は握り拳を作った。

「我らが記すのは何だ?」
「人類の歴史です」
「そうだ。そして人類の歴史は?」
「「「この星が続く限り決して終わりません」」」

 部下の目に力強い理性の光が戻ったのを確認する。

「我ら教会こそ人類の剣にして盾。人類守護は我らの肩に。行くぞ」
「おおっ!!」

 移動を再開。情けない話、部下をどれだけ鼓舞しようが自身の不安は消せていない。こんな時はいつものようにあのお方を思い浮かべる。

 そうだ。一体何を恐れる必要がある? たとえどれだけ恐ろしい怪物が現れようとも、あのお方がいる限り我ら人類に負けはない。

 最強の聖人。ガルド・セインクリアテッド様がいる限り。
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