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165 悪夢の終焉2
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「ぐぅ!? こ、この魔法の威力は?」
襲いかかる風の脅威にラミアが初めて余裕のない声を出した。
「アリリアナ……ゴホッ、ゴホッ……す、凄い」
ラミアを襲う風の刃は見渡す限りの大気が硬質化したような巨大さで、ドリルのように渦を巻きながらラミアの巨体を貫こうとしていた。
でもこれほどの魔力、一体どうやって?
圧倒的なまでの魔法の威力。明らかに私の知るアリリアナの力、その限界を超えている。心配と疑問がラミアへと白いグローブを向けるアリリアナを注意深く観察させる。見ればグローブに描かれている魔法陣が激しく発光しており、その輝きに押されるようにアリリアナの目や鼻や口などあらゆる場所から出血が起こっていた。
もしかして……ライフブレイク!?
魔力はあらゆる生物に宿る生命力。だから生命が生命と存在しているということはそれだけで莫大な魔力を保有していることになる。その魔力を用いる死へと続く禁断の魔法。それをあんな傷付いた体で使うなんて。
「アリリアナ、やめーー」
「舐めるんじゃないよぉおお!!」
「キャ!?」
ラミアが放った魔力が波となってアリリアナの風を吹き飛ばす。
「痛い。痛いねぇ~。いい子だと思ったのに、なんて油断ならない子だい。そんな悪いお姉ちゃんには、ほら、お仕置きだよ」
巨大な蛇の魔物、その指先から人の頭部ほどもある魔力の弾丸が放たれた。大きさに反比例するかのようなその速度。怪我とライフブレイクの影響で瀕死の状態のアリリアナに躱せる攻撃じゃない。このままだとーー
アリリアナが死ぬ。
「だめぇええええ!!」
雷を纏って走る。間に合って。強く願うのに、なんて遠い。届かない。伸ばした手から雷を放つ。でも無詠唱の魔法では凶弾を完全に止めることができず、半分ほど削るに留まった。そしてーー
「ゴホッ!? あ、あれ?」
魔力の弾丸がアリリアナの胸を貫いた。
「ア、アハハ、ま、まいった……な」
「アリリアナ!!」
倒れる彼女を抱き止める。アリリアナの胸に生まれた赤い染みが怖いくらいの速度で広がっていく。
「ま、待ってて。傷は浅いから。こんなの、い、今すぐ、治すから。絶対に治せるから」
「そ、う……さす、が……ゴッホ……ドロ……ね……」
「アリリアナ!? アリリアナ、しっかり!!」
嘘、嘘よ!! どうして? どうしてこんなことに。
様々な感情が錯綜していく中、脳裏にいくつもの映像が浮かんでは消える。幼い私とアリア。森の中でラミアに襲われて、私を守って敗北する妹。だから私は誓ったんだ。強くなるって。そのために必死に勉強して、それで最近じゃあたくさん友達も出来て。それで、それでーー
「どうして、あの時と同じなの!?」
自分の無力さに眩暈がする。怒りという熱量に耐えきれず体が内側から溶けてしまいそうだ。
違う。違う。落ち着け。落ち着くんだ私。とにかく血を……駄目。どうやってもアリリアナの出血を止められない。彼女を……助けられない。
「キッシッシッシ!! 残りはお姉ちゃんだけだね。お姉ちゃんはどうやって死にたい? そこのお嬢ちゃんのように穴を開けてあげようか? それともこっちのお姉ちゃんのように潰してあげようか? ……おっと、すまないねぇ。こっちのお嬢ちゃんはまだ潰れてはいなかったね。待ってておくれ、今潰すから。虫のように」
ブチン!! と頭の何処かで音がした。
「うわぁあああああああ!!」
「キッシッシッシ……がっ!?」
殴り飛ばす。汚らしい笑みを浮かべてイリーナさんに近付く魔物を。ラミアの巨大な体がボールのように飛んで行く。
逃がさない。
私は吹き飛んでいくラミアに追いつくとふたたび殴りつけて、ハエのように地面に叩き落とした。そしてさらに殴って、殴って、殴りつける。
「ちょっ!? まっ! やめ、や、や……止めろやクソガキぃいいいい!!」
ラミアの巨体から吹き荒れる魔力に一旦距離を取る。素早く体勢を立て直した魔物からシャーという蛇によく似た威嚇音が聞こえてきた。
「ハァハァ……な、なんなんだい、おまえ。この力、それにその変貌、髪が伸びて……銀髪? 瞳も? いや、それよりもその魔力、お前人間じゃあーー」
「ロッドよ、雷を纏え!!」
オオルバさんにもらった魔法の杖。私の雷を纏っていろいろな武器の形になるこの杖を槍に変え、それを全力で投擲する。
「そんなものが私にき……がっ!? わ、私の防御魔法を!?」
「雷よ、魔物を縛れ!!」
ラミアの体を貫通した槍。そこから伸びた無数の雷が船を固定する錨の如く地面へ突き刺さる。
「こ、こんなものでこの私を……。舐めるな、舐めるなぁあああ!!」
蛇の尾が地面を激しく叩いて拘束を解こうとする。時間がない。ラミアを倒すだけじゃだめだ。アリリアナを、イリーナさんを助けるんだ。
一撃で決める。
「遠雷と共に来たれ、祖は天を裂く者なり」
「その呪文は!? や、やらせるかよぉおお!!」
ラミアの体から無数の魔力の弾丸が放たれる。回避したい。けど万が一にもイリーナさんやアリリアナにアレを当てるわけにはいかない。
結界魔法『球封じ』。
半透明な壁が球体となってラミアを包み込む。これでどこに攻撃が飛ぼうとカバーできる。
「ダブルスペルだと!? それも無詠唱でこの強度……おのれ、おのれぇえええ」
「地上のいかなる手も天空の権威には届かない。これこそが必定。創造主が定めし絶対の定理なり。それでも塔を建てる愚かなる冒険者達に今終焉の時は訪れる」
「その詠唱をヤメロォオオオオ!!」
雷の拘束が破られラミアの胸からロッドが引き抜かれる。自由を取り戻したラミアの攻撃に結界が軋んだ。でもーー私の方が早い。
「眩き力をもって、大地を穿て。この一撃こそが天意なり。『招雷・天雷滅』」
天から降り注ぐ数多の雷。それが束となってラミアを捕らえた。
「ぐぎゃあああ!? こ、こんな、こんなものでぇえええええ!!」
「ぐ、ううっ!?」
制御が難しい。天雷滅は本来数キロ圏内に雷を落とす戦術級魔法。単体に威力を集中させるのは思った以上に難しい。でも、でもーー
「うぁあああああ!!」
絶対にこれで決める。その意思をもってただただ全力を注ぎ込んだ。
「バ、バカな! こんなバーー」
地上全てを覆うような眩き光。それが何もかもを吹き飛ばす。後に残るのは大きな傷跡を残した変わり果てた大地だけ。
「ハァハァ……やった。やったよ。アリリアナ。ね、ねぇ。起きてよ。ラミアを倒したよ。ねぇ、アリリアナってば」
どんなに揺すっても彼女はなんの反応も返してくれない。いつものように笑ってくれない。
「こ、こんな。こんなことって」
涙で滲む視界。そんな中、右手の違和感にふと気が付いた。
「……呪痕が?」
完全に治っている。エーテルという魂の血液にも等しいシステムに起こった異変、それがこのわずかな時間で。これはもう回復魔法とかではなく、魂が変質するほどの自己変革があったとしかーー
「私、髪が?」
長くなってる。それに色も黒から銀へと変色してる。まるでアリアみたいに。
そういえばオオルバさん……ううん。おばあちゃんは妖精なんだよね。なら当然私のお母さんも……。
「それなら」
私は自分の手首を切ると、そこから流れる血にありったけの魔力を流し込んでアリリアナの傷口へと流し込んだ。
「お願い。戻ってきて」
妖精の血よ。神秘の力を秘めた太古の血脈よ。私の全てを捧げてもいい。だからどうか、アリリアナを、私の親友を助けて。
流れ出ていく力と血が私の意識を急速に奪っていく。銀色に輝いていた髪が黒へと戻っていき、瞼が落ちて全てが暗闇に包まれる。
闇の中にアリアと、そしてレオ君の顔が浮かんだ。
アリリアナが助かるならこのまま二度と目覚めなくてもいい。でも二人に会えなくなるのはーー
「ちょっとだけ、嫌かな」
襲いかかる風の脅威にラミアが初めて余裕のない声を出した。
「アリリアナ……ゴホッ、ゴホッ……す、凄い」
ラミアを襲う風の刃は見渡す限りの大気が硬質化したような巨大さで、ドリルのように渦を巻きながらラミアの巨体を貫こうとしていた。
でもこれほどの魔力、一体どうやって?
圧倒的なまでの魔法の威力。明らかに私の知るアリリアナの力、その限界を超えている。心配と疑問がラミアへと白いグローブを向けるアリリアナを注意深く観察させる。見ればグローブに描かれている魔法陣が激しく発光しており、その輝きに押されるようにアリリアナの目や鼻や口などあらゆる場所から出血が起こっていた。
もしかして……ライフブレイク!?
魔力はあらゆる生物に宿る生命力。だから生命が生命と存在しているということはそれだけで莫大な魔力を保有していることになる。その魔力を用いる死へと続く禁断の魔法。それをあんな傷付いた体で使うなんて。
「アリリアナ、やめーー」
「舐めるんじゃないよぉおお!!」
「キャ!?」
ラミアが放った魔力が波となってアリリアナの風を吹き飛ばす。
「痛い。痛いねぇ~。いい子だと思ったのに、なんて油断ならない子だい。そんな悪いお姉ちゃんには、ほら、お仕置きだよ」
巨大な蛇の魔物、その指先から人の頭部ほどもある魔力の弾丸が放たれた。大きさに反比例するかのようなその速度。怪我とライフブレイクの影響で瀕死の状態のアリリアナに躱せる攻撃じゃない。このままだとーー
アリリアナが死ぬ。
「だめぇええええ!!」
雷を纏って走る。間に合って。強く願うのに、なんて遠い。届かない。伸ばした手から雷を放つ。でも無詠唱の魔法では凶弾を完全に止めることができず、半分ほど削るに留まった。そしてーー
「ゴホッ!? あ、あれ?」
魔力の弾丸がアリリアナの胸を貫いた。
「ア、アハハ、ま、まいった……な」
「アリリアナ!!」
倒れる彼女を抱き止める。アリリアナの胸に生まれた赤い染みが怖いくらいの速度で広がっていく。
「ま、待ってて。傷は浅いから。こんなの、い、今すぐ、治すから。絶対に治せるから」
「そ、う……さす、が……ゴッホ……ドロ……ね……」
「アリリアナ!? アリリアナ、しっかり!!」
嘘、嘘よ!! どうして? どうしてこんなことに。
様々な感情が錯綜していく中、脳裏にいくつもの映像が浮かんでは消える。幼い私とアリア。森の中でラミアに襲われて、私を守って敗北する妹。だから私は誓ったんだ。強くなるって。そのために必死に勉強して、それで最近じゃあたくさん友達も出来て。それで、それでーー
「どうして、あの時と同じなの!?」
自分の無力さに眩暈がする。怒りという熱量に耐えきれず体が内側から溶けてしまいそうだ。
違う。違う。落ち着け。落ち着くんだ私。とにかく血を……駄目。どうやってもアリリアナの出血を止められない。彼女を……助けられない。
「キッシッシッシ!! 残りはお姉ちゃんだけだね。お姉ちゃんはどうやって死にたい? そこのお嬢ちゃんのように穴を開けてあげようか? それともこっちのお姉ちゃんのように潰してあげようか? ……おっと、すまないねぇ。こっちのお嬢ちゃんはまだ潰れてはいなかったね。待ってておくれ、今潰すから。虫のように」
ブチン!! と頭の何処かで音がした。
「うわぁあああああああ!!」
「キッシッシッシ……がっ!?」
殴り飛ばす。汚らしい笑みを浮かべてイリーナさんに近付く魔物を。ラミアの巨大な体がボールのように飛んで行く。
逃がさない。
私は吹き飛んでいくラミアに追いつくとふたたび殴りつけて、ハエのように地面に叩き落とした。そしてさらに殴って、殴って、殴りつける。
「ちょっ!? まっ! やめ、や、や……止めろやクソガキぃいいいい!!」
ラミアの巨体から吹き荒れる魔力に一旦距離を取る。素早く体勢を立て直した魔物からシャーという蛇によく似た威嚇音が聞こえてきた。
「ハァハァ……な、なんなんだい、おまえ。この力、それにその変貌、髪が伸びて……銀髪? 瞳も? いや、それよりもその魔力、お前人間じゃあーー」
「ロッドよ、雷を纏え!!」
オオルバさんにもらった魔法の杖。私の雷を纏っていろいろな武器の形になるこの杖を槍に変え、それを全力で投擲する。
「そんなものが私にき……がっ!? わ、私の防御魔法を!?」
「雷よ、魔物を縛れ!!」
ラミアの体を貫通した槍。そこから伸びた無数の雷が船を固定する錨の如く地面へ突き刺さる。
「こ、こんなものでこの私を……。舐めるな、舐めるなぁあああ!!」
蛇の尾が地面を激しく叩いて拘束を解こうとする。時間がない。ラミアを倒すだけじゃだめだ。アリリアナを、イリーナさんを助けるんだ。
一撃で決める。
「遠雷と共に来たれ、祖は天を裂く者なり」
「その呪文は!? や、やらせるかよぉおお!!」
ラミアの体から無数の魔力の弾丸が放たれる。回避したい。けど万が一にもイリーナさんやアリリアナにアレを当てるわけにはいかない。
結界魔法『球封じ』。
半透明な壁が球体となってラミアを包み込む。これでどこに攻撃が飛ぼうとカバーできる。
「ダブルスペルだと!? それも無詠唱でこの強度……おのれ、おのれぇえええ」
「地上のいかなる手も天空の権威には届かない。これこそが必定。創造主が定めし絶対の定理なり。それでも塔を建てる愚かなる冒険者達に今終焉の時は訪れる」
「その詠唱をヤメロォオオオオ!!」
雷の拘束が破られラミアの胸からロッドが引き抜かれる。自由を取り戻したラミアの攻撃に結界が軋んだ。でもーー私の方が早い。
「眩き力をもって、大地を穿て。この一撃こそが天意なり。『招雷・天雷滅』」
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制御が難しい。天雷滅は本来数キロ圏内に雷を落とす戦術級魔法。単体に威力を集中させるのは思った以上に難しい。でも、でもーー
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絶対にこれで決める。その意思をもってただただ全力を注ぎ込んだ。
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どんなに揺すっても彼女はなんの反応も返してくれない。いつものように笑ってくれない。
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涙で滲む視界。そんな中、右手の違和感にふと気が付いた。
「……呪痕が?」
完全に治っている。エーテルという魂の血液にも等しいシステムに起こった異変、それがこのわずかな時間で。これはもう回復魔法とかではなく、魂が変質するほどの自己変革があったとしかーー
「私、髪が?」
長くなってる。それに色も黒から銀へと変色してる。まるでアリアみたいに。
そういえばオオルバさん……ううん。おばあちゃんは妖精なんだよね。なら当然私のお母さんも……。
「それなら」
私は自分の手首を切ると、そこから流れる血にありったけの魔力を流し込んでアリリアナの傷口へと流し込んだ。
「お願い。戻ってきて」
妖精の血よ。神秘の力を秘めた太古の血脈よ。私の全てを捧げてもいい。だからどうか、アリリアナを、私の親友を助けて。
流れ出ていく力と血が私の意識を急速に奪っていく。銀色に輝いていた髪が黒へと戻っていき、瞼が落ちて全てが暗闇に包まれる。
闇の中にアリアと、そしてレオ君の顔が浮かんだ。
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「ちょっとだけ、嫌かな」
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