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158 魔法具の回答

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「本当にこっちなのかよ」

 王都を脱出するために妖精の姿そっくりの魔法の道具を追跡する。途中兵士が幾つかの道を封鎖しようとしていたが、妖精の粉で姿を消してなんとかやり過ごした。それなのにこのまま進めば最も警備が厳重な正門だ。

「アリアさんはどう思う? 本当にこっちから出られると……アリアさん?」

 振り向けばアリアさんは何故か立ち止まって空を見上げていた。

 本当、行動の読めない人だよな。最初こそ俺を置いていきかねないペースで歩いていたのに、今は逆にスゲー遅くなったし。いや、遅くなったというかまるで何かに気を取られているような……空に天才にしか見えない光景でも広がってるのか?

「レオ」
「え? あ、ああ。なんだよ」

 上を見上げていた銀の瞳がいきなり落ちてきて、ちょっとビビった。

「急ご」
「は? あっ、おい。だからこっちに出口があるか分からない……って、言っても無駄か」

 さっきまでの遅さが嘘のような速歩。アリアさんが人の話を聞かないことにもそろそろ慣れてきたな。

 溜息を一つつく。するとまるでそれを非難するかのように、けたたましいサイレンの音が王都中に鳴り響いた。

「もうかよ!?」

 こうなる前に王都を出ておきたかったのだが。人が少ない路上に幾つかの顔がチラホラと現れるが、すぐに引っ込んだ。王都に住んでいるなら緊急時の行動は誰もが把握している。もうすぐ城壁に近い住民達の移動が始まるだろう。

「サイレンが聞こえなかったのか? 現在門へと通じる道はすべて通行止めだ。こんな所にいないで家に戻るか避難所に向かえ」
「待て! この方は……アリア・ドロテア様じゃないか?」
「あっ、やべ」

 前を歩いていたアリアさんが兵士に話しかけられている。妖精の粉って効力が切れるタイミング分かりずらいのが欠点だ。

「退いて」
「いや、しかし……おいこの場合どうする?」
「どうするって……どうするんだ?」

 通常、いかに貴族と言えどもこの非常時に軍部の意向を無視することはできない。だが相手は次期王妃の呼び声高く、更に魔法使いとしての戦果も既にあるドロテア家の次女だ。兵士達も対応を決めかねていた。

 てか、やっぱり止められたじゃないか。あの魔法具、まさかとは思うが壊れてないよな?

 オオルバさんに貸してもらった物だからそんなことはないと思うが、ここからどうやって俺達を外に導いてくれるのか想像もつかなかった。

「退いて」

 アリアさんが二度、兵士達に命じる。心なし声が低くなってる気がした。

「お、お待ちくださいアリア様。今上司に確認をとってきますので」
「後でいい」
「い、いえ。そう言うわけには」

 とても十代とは思えぬアリアさんの迫力に兵士はタジタジだ。一方アリアさんは中々退いてくれない兵士達に業を煮やしたようで、ローブの中に手を入れた。そしてそこから金属バットをーー

「わぁああ!? ちょっ、アリアさん。ストップ! ストップ!」
「なんだ貴様は? 無礼だぞ?」
「は? 俺?」

 夢の世界にカッ飛ばされないように庇ってやったのに、兵士はアリアさんを後ろから羽交い締めにする俺に文句を言ってきた。

「レオ・ルネラード。君はいつも元気がいいな。そして私の月よ。君はいつも美しい」
「ガルド様」

 男の俺でも思わず見惚れてしまうような美貌。その登場に兵士達が慌てて頭を下げた。

「この魔法具だが、君達のモノだろう?」

 ガルドの隣には人の形をした導きの葉が浮いていた。兵士とのやり取りに気を取られて、いなくなっていることに気が付かなかった。

 ってか、まさかガルドがここから出る手段だというのか? いや、確かに間違ってはないが……あの魔法具、本物の妖精なんじゃないだろうな?

 俺が知能があるとしか思えない魔法具の回答に呆れていると、銀の瞳がガルドを捕らえた。

「外に出たい」
「ふむ。何やら訳ありのようだね。二人とも着いて来るといい」

 ガルドの後に続けば兵士達が面白いくらい簡単に道を開けてくれた。

「それで、どうして外に出たいのかな? 正直、この情勢で君達を王都の外に出したくはないのだが」
「そんなにやばいのか?」
「先程、偵察隊が王都を目指す大蛇の群れを捕らえたそうだよ」
「大蛇の群れ……ビッグスネークとかスネイクポイズンとかか?」

 パッと思いつく蛇の名を挙げてみる。

「それらも含む多種多様な蛇の群れ、とのことだ」
「でもそいつらに王都の通信を妨害するような真似が可能なのか?」
「無論できないとも。だからいるのだろうね、大蛇を総べる上位存在が」

 王都の通信を妨害して、更には大蛇の群れを操るような存在?

「どんな魔物だよ、それ」
「可能性が高いのはラミアかバジリスク。私の予想ではラミアだね。それも恐らく最も長く生きた部類の」

 危険指定特A。齢による成長補正が大きく、長く生きれば生きた分だけ強力になるという人類にとっての最優先討伐対象。

 その中でも最も古い部類って、それ、神格種に近い存在なんじゃないのか? ドロシーさん、大丈夫だよな?

 最悪の想像が頭を過ぎって、居ても立っても居られない。隣から冷気が漂ってきた。

「ラミア」
「アリアさん? ど、どうかしたのか?」
「別に。ただ……」

 ユラリ、とアリアさんの体から視覚化されるほど濃い魔力が立ち昇る。

「ラミアは嫌い」

 アリアさんはそう言って、珍しく年頃の少女のように嫌悪の表情を露にして見せた。
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