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144 符号での打ち合わせ
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決して慌てないよう気を付けながら皆のいる場所まで戻ると、地面に書いた魔法陣の痕跡を完全に消して、妖精のマントを元あった場所に急いで戻した。
「よし。出発準備完了。ドロシー、そっちは?」
アリリアナの口ぶりは、まるで私が今までずっとここで作業をしていたかのようだ。
「こっちも大丈夫。いつでも出られるよ。……ラーちゃん、まだかかりそう?」
「もうちょっと」
離れた所にいると分かってるのに、声だけ聞くとすぐ近くにいると錯覚してしまいそうだ。それとも今は本当にその辺りにいるのかな?
藪の中からこちらを凝視するギョロリとした瞳が脳裏を過ぎる。
「ねぇ、ドロシー。帰ったら新しい下着買いに行くつもりなんだけど、よかったら一緒に行かない?」
「いいけど、どうして下着なの?」
「現在の彼と付き合ってもう一ヶ月じゃん。ここはそろそろ勝負下着を仕込んでおく時期かなって思うわけよ。ちなみにドロシーは黒と白、どっちがいいと思う?」
アリリアナの符号を使った質問に、私も符号を使って返す。
「黒、だと思う。白もいいけど、やっぱり黒……だと思う」
「そっかぁ。白かなって思ってたんだけど、黒な感じかぁ」
「あら、下着の話ですの?」
今日も見事にセットされた縦ロールを揺らしながら、イリーナさんが近づいてきた。その手には長槍。今馬車が止まっている場所はそこそこ開けてはいるけれど、こんな木々が密集した山の中であの武器をどんな風に使うんだろう? まさか何も考えてないってことは……ううん。イリーナさんはフェアリーラ騎士学校の出身。限定された空間内での戦い方も学んでいるはずだ。
「ドロシーさん? どうかなさいましたの?」
「えっと……なんでもないかな。それよりも、そう。下着の話。アリリアナが帰ったら買いに行かないかって話してたの」
「黒いやつね」
「なるほど。ちなみに帰ったらすぐに行きますの?」
「私は一回妹と合流してからの方がいいかなって考えてる。ほら、アリアはこういうの得意で頼りになるでしょ?」
「そうですわね。でもご迷惑じゃありません? 買い物なら、私達だけでもいいのではありませんこと?」
「それは……」
少しだけ考えた。アリア……つまりエルフの里に行ってからラーちゃんへの不審に対処する方が確実だ。でも安全策を講じたつもりが先手を譲ってしまうかもしれない。今なら間違いなく先手を取れる。
「いいじゃん。アリアちゃんがいてくれた方が頼もしいし。それに下着だって色々種類あるわけで、そんな急いで決めなくてもよくない?」
「アリリアナさんがそういうのでしたら。……あら、戻ってきたようですわよ」
薮がガザガサと揺れ、小さな女の子がそこからひょっこりと顔を出した。心拍数が上がりそうになるけど、ここで警戒されるわけにはいかない。瞑想の要領で何とか精神をコントロールする。
「大丈夫だった? 心配したんだからね」
「ごめんなさい」
「いいのよ。さっ、馬車に乗って。あっ、その前に虫落としの魔法をかけてあげるね」
ラーちゃんに補助魔法の一つをかけてから、馬車に乗せる。すると私達に続いてラーちゃんと同じくらい小さな女の子が馬車へ入ってきた。
「わぁ。お姉ちゃん、誰? どこにいたの?」
「誰と言うその質問は、私の名を問うているのか、それともどのような立場であり、どのような思想を抱いているのかをーーむぐっ」
「あはは。この子はドルドって言って私達の仲間なの。仲良くしてあげてね」
片手で少女の小さな口を塞ぐアリリアナ。なんか、すっかりドルドさんの扱いに慣れちゃってる。
「うん。あのね、私、お姉ちゃんと一緒にいるね」
ラーちゃんはそう言って少女バージョンのドルドさんに身を寄せる。……何だろ? この感じ。小さな女の子が同じくらいの歳の子に興味を示しても全然おかしくはないのに、ドルドさんに擦り寄るラーちゃんの姿を見てると、すごくーー
「それじゃあ出発な感じで。……ドロシー? どったの? もしかしてまた頭痛?」
「う、うん。でもそんなに酷くないから大丈夫」
「ならいいけど、無理は厳禁だからね」
私の額に掌を当てて熱を測るアリリアナに、首を縦に振って応える。それにしても本当、どうしたんだろ。魔法で調べても頭痛の原因がはっきりしない。これは身体的な不調というよりもむしろ精神的なーー
「お姉ちゃん。頭痛いの?」
「……平気よ。心配してくれてありがとね」
ラーちゃんと会話する度に頭痛が酷くなって、胸の中に自分でも制御できない感情が沸き起こってくる。
「アリリアナ、悪いけど、ちょっと休むね」
「りょ~かい。私は馬車の操縦があるから、ドルドちゃん、ちゃんとドロシーのこと見ててよ」
ドルドさんがいつもの長い台詞を返すのを聞きながら、私は馬車に背中を預けた。魔物かもしれない子と狭い空間にいるのに体調を崩すなんて……自分が情けない。こんな調子でアリリアナ達を守れるのかな?
考えるとすっごく不安になる。もしもここにレオ君がいてくれたならーー
「……自分で来なくて良いって言っておいて勝手な話」
「ん? ドロシー、何か言った?」
「ううん。なんでもないの。それよりもイリーナさん達が出発を待ってると思うけど」
「おっと。なら私は御者台にいるから何かあったらすぐに声をかけてね」
アリリアナが移動すると、途端に馬車内の空気が重くなった。私はそんな空気には負けじと魔力で体調の回復を図る。けれど集中しようとすればするほどに、赤い髪の男の姿が脳裏に浮かんでくる。今朝会ったばかりだというのに、そんなことを考えてる状況じゃないのに、彼が今何をしているのかが酷く気になった。
「よし。出発準備完了。ドロシー、そっちは?」
アリリアナの口ぶりは、まるで私が今までずっとここで作業をしていたかのようだ。
「こっちも大丈夫。いつでも出られるよ。……ラーちゃん、まだかかりそう?」
「もうちょっと」
離れた所にいると分かってるのに、声だけ聞くとすぐ近くにいると錯覚してしまいそうだ。それとも今は本当にその辺りにいるのかな?
藪の中からこちらを凝視するギョロリとした瞳が脳裏を過ぎる。
「ねぇ、ドロシー。帰ったら新しい下着買いに行くつもりなんだけど、よかったら一緒に行かない?」
「いいけど、どうして下着なの?」
「現在の彼と付き合ってもう一ヶ月じゃん。ここはそろそろ勝負下着を仕込んでおく時期かなって思うわけよ。ちなみにドロシーは黒と白、どっちがいいと思う?」
アリリアナの符号を使った質問に、私も符号を使って返す。
「黒、だと思う。白もいいけど、やっぱり黒……だと思う」
「そっかぁ。白かなって思ってたんだけど、黒な感じかぁ」
「あら、下着の話ですの?」
今日も見事にセットされた縦ロールを揺らしながら、イリーナさんが近づいてきた。その手には長槍。今馬車が止まっている場所はそこそこ開けてはいるけれど、こんな木々が密集した山の中であの武器をどんな風に使うんだろう? まさか何も考えてないってことは……ううん。イリーナさんはフェアリーラ騎士学校の出身。限定された空間内での戦い方も学んでいるはずだ。
「ドロシーさん? どうかなさいましたの?」
「えっと……なんでもないかな。それよりも、そう。下着の話。アリリアナが帰ったら買いに行かないかって話してたの」
「黒いやつね」
「なるほど。ちなみに帰ったらすぐに行きますの?」
「私は一回妹と合流してからの方がいいかなって考えてる。ほら、アリアはこういうの得意で頼りになるでしょ?」
「そうですわね。でもご迷惑じゃありません? 買い物なら、私達だけでもいいのではありませんこと?」
「それは……」
少しだけ考えた。アリア……つまりエルフの里に行ってからラーちゃんへの不審に対処する方が確実だ。でも安全策を講じたつもりが先手を譲ってしまうかもしれない。今なら間違いなく先手を取れる。
「いいじゃん。アリアちゃんがいてくれた方が頼もしいし。それに下着だって色々種類あるわけで、そんな急いで決めなくてもよくない?」
「アリリアナさんがそういうのでしたら。……あら、戻ってきたようですわよ」
薮がガザガサと揺れ、小さな女の子がそこからひょっこりと顔を出した。心拍数が上がりそうになるけど、ここで警戒されるわけにはいかない。瞑想の要領で何とか精神をコントロールする。
「大丈夫だった? 心配したんだからね」
「ごめんなさい」
「いいのよ。さっ、馬車に乗って。あっ、その前に虫落としの魔法をかけてあげるね」
ラーちゃんに補助魔法の一つをかけてから、馬車に乗せる。すると私達に続いてラーちゃんと同じくらい小さな女の子が馬車へ入ってきた。
「わぁ。お姉ちゃん、誰? どこにいたの?」
「誰と言うその質問は、私の名を問うているのか、それともどのような立場であり、どのような思想を抱いているのかをーーむぐっ」
「あはは。この子はドルドって言って私達の仲間なの。仲良くしてあげてね」
片手で少女の小さな口を塞ぐアリリアナ。なんか、すっかりドルドさんの扱いに慣れちゃってる。
「うん。あのね、私、お姉ちゃんと一緒にいるね」
ラーちゃんはそう言って少女バージョンのドルドさんに身を寄せる。……何だろ? この感じ。小さな女の子が同じくらいの歳の子に興味を示しても全然おかしくはないのに、ドルドさんに擦り寄るラーちゃんの姿を見てると、すごくーー
「それじゃあ出発な感じで。……ドロシー? どったの? もしかしてまた頭痛?」
「う、うん。でもそんなに酷くないから大丈夫」
「ならいいけど、無理は厳禁だからね」
私の額に掌を当てて熱を測るアリリアナに、首を縦に振って応える。それにしても本当、どうしたんだろ。魔法で調べても頭痛の原因がはっきりしない。これは身体的な不調というよりもむしろ精神的なーー
「お姉ちゃん。頭痛いの?」
「……平気よ。心配してくれてありがとね」
ラーちゃんと会話する度に頭痛が酷くなって、胸の中に自分でも制御できない感情が沸き起こってくる。
「アリリアナ、悪いけど、ちょっと休むね」
「りょ~かい。私は馬車の操縦があるから、ドルドちゃん、ちゃんとドロシーのこと見ててよ」
ドルドさんがいつもの長い台詞を返すのを聞きながら、私は馬車に背中を預けた。魔物かもしれない子と狭い空間にいるのに体調を崩すなんて……自分が情けない。こんな調子でアリリアナ達を守れるのかな?
考えるとすっごく不安になる。もしもここにレオ君がいてくれたならーー
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「おっと。なら私は御者台にいるから何かあったらすぐに声をかけてね」
アリリアナが移動すると、途端に馬車内の空気が重くなった。私はそんな空気には負けじと魔力で体調の回復を図る。けれど集中しようとすればするほどに、赤い髪の男の姿が脳裏に浮かんでくる。今朝会ったばかりだというのに、そんなことを考えてる状況じゃないのに、彼が今何をしているのかが酷く気になった。
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