88 / 149
連載
134 決闘
しおりを挟む
思ったよりも速いな。
筋肉で膨れ上がった体躯。だが重さを感じさせない、スッとした動きでポットは俺の間合いに入って来た。
「歯を食いしばれぇええ!!」
俺のことを侮っているのかモーションが無駄に大きな右ストレート。……よし、体格差を利用するか。
「何!?」
懐に入り込んだ俺をポットは一瞬見失ったことだろう。奴がこちらを発見するよりも先に魔力を流した両の足で大きく跳躍する。その際、ポットの肩を掴み逆立ちのような形になることで素早く後ろに回り込もうとしたんだがーー
「小癪な!!」
独楽のようにクルリと回転されて奴の肩から手が外れた。同時にポットは空中にいる俺目掛けて裏拳を放ってきたがーー問題ない。横に振われるヤツの腕に空中で手を乗せ、そこを起点に体勢を整えつつも、奴の顎目掛けて蹴りを放つ。
「ぐおっ!?」
巨体が膝をつき、観客が沸いた。
「ルネラード、貴様」
「手加減はいらない。本気で来い」
「……良いだろう。母なる大地よ、我に刃を。『土流槍』」
地面が槍のように鋭く突き出して襲いかかってくる。宙に飛んでそれを回避。そして魔法を放とうと右手に炎を生み出してーー
「っと、いけねぇ」
慌ててそれを消した。打撃なら手加減できるが、炎の魔法だと一歩間違えたら大火傷させてしまう。
「どうした? 臆したか?」
ポットが魔法で作り出した巨大な斧を振るう。狙いは首。確かに本気でこいとは言ったが、こいつ俺を殺す気かよ?
そこではたと気が付く。
「馬鹿か俺は」
身代わり魔法が掛かってるんだった。相手が同級生だから決闘だという実感が薄い。信じられないうっかりだ。斧をかわしながら反省。それと同時に拳を二、三発巨体に叩き込んだ。
「無駄だ」
拳に当たる違和感。これは……砂?
「服の下……いや、中か?」
「その通りだ。私の服は特別性でな。中に魔力を込めた専用の砂を入れている。それが衝撃に応じて凝固し、いかなる攻撃も通さん。そして鍛えた私の肉体。もはや貴様に勝ちはないぞ、ルネラァ~~ドッ!!」
「人の名前を変に伸ばすなよ」
斧の連撃が襲いかかってくるが問題なく躱せる。口には出さないが、本気でやっているのか怪しいレベルだ。このような感覚はいつもあった。例えばどうしても受けなければいけない体術の授業の時などでも、相手をする同級生や指導する先生の動きがひどく緩慢で、やる気がないように感じた。俺はそれを自分と同じように皆本気を出してないだけだと思ってた。授業で力を出して怪我をさせるのが馬鹿らしいから。でも違うのか? 皆、本気でやっているのか? 本気でやって……この程度なのか?
「服が頑丈でも顔が丸出しだぞ」
ポットの攻撃を掻い潜って、何にも覆われていない顔面に拳を叩き込むーー瞬間。服の中から飛びたした砂が奴の顔を守った。いや、それだけではない。
「咄嗟に手を引いたか。良い判断だ。でなければ身代わり人形の手が飛んでいたところだぞ」
「なるほど。攻防一体ってやつか」
鋭利な刃物のように飛び出してきた砂が、ポットの首周りを蛇のように蠢いている。
「貴様、何を笑っている?」
「いや、安心してるんだよ」
戦闘教科では常に上位にいるポット。そうだよな。口煩いやつだが、決して口だけの男ではない。
「本気でやって、問題なさそうだな」
炎を纏った俺を前に、ポットはもう何も言わなかった。そしてーー
砕け散った身代わり人形が戦闘終了の合図を告げる。
盛り上がる闘技場。賭けの結果に大はしゃぎする生徒達をすり抜けてクルスの奴がやってきた。
「まさか本気で勝っちまうとな。治癒使いから、最強の魔法使いに転身か?」
「そんな簡単に最強になれるかよ」
もし俺が最強だったなら、ドロシーさんにあんな怪我させなかったのに。
「せっかく勝ったのに浮かない顔だな」
「いや、どうして倒すよりも治す方が難しいのかと思って」
どうやら俺には戦闘の才能があるみたいだ。心境としては複雑だが、才能があって悪い気はしない。でもどうしてこれが医療関係で発揮されないのか。もしも俺が治癒の天才ならドロシーさんの呪痕を消してみせるのに。
勉強を教えてもらう際、ロンググローブを外した彼女の手、そこに刻まれた痛々しい傷跡を見る度に胸が痛む。
「ったく、最近のお前、マジで意味分かんねーな。それよりも約束の飯だが、お前今日は夜間まで授業入れてるんだろ? だから次の休日あたりにでも奢ってやるよ」
「良いのか? 賭けに負けたんだろ?」
「は? んなわけないだろ。倍率が偏ってたんで大儲けだったぞ」
そう言って、クルスの奴は札束片手にニヤリと笑った。
筋肉で膨れ上がった体躯。だが重さを感じさせない、スッとした動きでポットは俺の間合いに入って来た。
「歯を食いしばれぇええ!!」
俺のことを侮っているのかモーションが無駄に大きな右ストレート。……よし、体格差を利用するか。
「何!?」
懐に入り込んだ俺をポットは一瞬見失ったことだろう。奴がこちらを発見するよりも先に魔力を流した両の足で大きく跳躍する。その際、ポットの肩を掴み逆立ちのような形になることで素早く後ろに回り込もうとしたんだがーー
「小癪な!!」
独楽のようにクルリと回転されて奴の肩から手が外れた。同時にポットは空中にいる俺目掛けて裏拳を放ってきたがーー問題ない。横に振われるヤツの腕に空中で手を乗せ、そこを起点に体勢を整えつつも、奴の顎目掛けて蹴りを放つ。
「ぐおっ!?」
巨体が膝をつき、観客が沸いた。
「ルネラード、貴様」
「手加減はいらない。本気で来い」
「……良いだろう。母なる大地よ、我に刃を。『土流槍』」
地面が槍のように鋭く突き出して襲いかかってくる。宙に飛んでそれを回避。そして魔法を放とうと右手に炎を生み出してーー
「っと、いけねぇ」
慌ててそれを消した。打撃なら手加減できるが、炎の魔法だと一歩間違えたら大火傷させてしまう。
「どうした? 臆したか?」
ポットが魔法で作り出した巨大な斧を振るう。狙いは首。確かに本気でこいとは言ったが、こいつ俺を殺す気かよ?
そこではたと気が付く。
「馬鹿か俺は」
身代わり魔法が掛かってるんだった。相手が同級生だから決闘だという実感が薄い。信じられないうっかりだ。斧をかわしながら反省。それと同時に拳を二、三発巨体に叩き込んだ。
「無駄だ」
拳に当たる違和感。これは……砂?
「服の下……いや、中か?」
「その通りだ。私の服は特別性でな。中に魔力を込めた専用の砂を入れている。それが衝撃に応じて凝固し、いかなる攻撃も通さん。そして鍛えた私の肉体。もはや貴様に勝ちはないぞ、ルネラァ~~ドッ!!」
「人の名前を変に伸ばすなよ」
斧の連撃が襲いかかってくるが問題なく躱せる。口には出さないが、本気でやっているのか怪しいレベルだ。このような感覚はいつもあった。例えばどうしても受けなければいけない体術の授業の時などでも、相手をする同級生や指導する先生の動きがひどく緩慢で、やる気がないように感じた。俺はそれを自分と同じように皆本気を出してないだけだと思ってた。授業で力を出して怪我をさせるのが馬鹿らしいから。でも違うのか? 皆、本気でやっているのか? 本気でやって……この程度なのか?
「服が頑丈でも顔が丸出しだぞ」
ポットの攻撃を掻い潜って、何にも覆われていない顔面に拳を叩き込むーー瞬間。服の中から飛びたした砂が奴の顔を守った。いや、それだけではない。
「咄嗟に手を引いたか。良い判断だ。でなければ身代わり人形の手が飛んでいたところだぞ」
「なるほど。攻防一体ってやつか」
鋭利な刃物のように飛び出してきた砂が、ポットの首周りを蛇のように蠢いている。
「貴様、何を笑っている?」
「いや、安心してるんだよ」
戦闘教科では常に上位にいるポット。そうだよな。口煩いやつだが、決して口だけの男ではない。
「本気でやって、問題なさそうだな」
炎を纏った俺を前に、ポットはもう何も言わなかった。そしてーー
砕け散った身代わり人形が戦闘終了の合図を告げる。
盛り上がる闘技場。賭けの結果に大はしゃぎする生徒達をすり抜けてクルスの奴がやってきた。
「まさか本気で勝っちまうとな。治癒使いから、最強の魔法使いに転身か?」
「そんな簡単に最強になれるかよ」
もし俺が最強だったなら、ドロシーさんにあんな怪我させなかったのに。
「せっかく勝ったのに浮かない顔だな」
「いや、どうして倒すよりも治す方が難しいのかと思って」
どうやら俺には戦闘の才能があるみたいだ。心境としては複雑だが、才能があって悪い気はしない。でもどうしてこれが医療関係で発揮されないのか。もしも俺が治癒の天才ならドロシーさんの呪痕を消してみせるのに。
勉強を教えてもらう際、ロンググローブを外した彼女の手、そこに刻まれた痛々しい傷跡を見る度に胸が痛む。
「ったく、最近のお前、マジで意味分かんねーな。それよりも約束の飯だが、お前今日は夜間まで授業入れてるんだろ? だから次の休日あたりにでも奢ってやるよ」
「良いのか? 賭けに負けたんだろ?」
「は? んなわけないだろ。倍率が偏ってたんで大儲けだったぞ」
そう言って、クルスの奴は札束片手にニヤリと笑った。
0
お気に入りに追加
4,948
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
忘れられた妻
毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。
セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。
「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」
セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。
「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」
セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。
そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。
三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。