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128 メルルの屋敷1

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 メルルさんのお屋敷はルネラード病院から歩いて十分程の距離にある。周囲をグルリと塀が取り囲んだ木造のお屋敷。石造をベースに建てられたドロテアの屋敷とは全然違うその建物を眺めていると、中からメルルさんが出てきた。

「ドロシーさん。良かった。アリリアナちゃんの話しを聞いて心配してたのよ」
「メルルさん。その、今回はありがとね。黒帝王とシロに続いて、馬車まで置かせてもらって」
「気にしないで。弟も所属しているんだから」

 そういえばメルルさんはレオ君が冒険者になるの反対だったよね。

「今更だけど、レオ君を説得できなくてごめんね」
「そんな、ドロシーさんが謝ることじゃないわ。レオが勝手なのよ」

 そんなことないと思うけど、メルルさんは姉としてレオ君を心配してるんだよね。……な、何て言うべきかな? ううん。ここは余計なことを言わずに話題を変えちゃおう。

「えっと、ア、アリリアナとセンカさんは?」
「二人ならうちで預かってる二頭のところよ」
「あれ? 馬具の購入はまだだよね?」

 あっ、でもあれだけの馬車なら馬具くらいついてくるのかな?

「馬具は馬車と一緒に届いたけど、馬車を引かせるのが目的ではないの」
「? ならどうして二頭の所に?」

 ひょっとしてアリリアナがセンカさんに黒帝王とシロを紹介してるのかな?

「アリリアナちゃん。黒帝王に嫌われてるでしょ? そのこと話してたら突然今から仲良くなってみせるぞって言いだして、今それを実行しているところなの」
「ええっ!?」

 黒帝王に噛みつかれて、慌てふためいていたアリリアナの姿を思い出す。……し、心配だ。

「私は今から二人の所に行くけれど、ドロシーさんはどうする? 疲れていたら無理しないで中で休んでてね」
「ありがとう。でも私も二人の所に行きたいから、ついて行ってもいいかな?」
「勿論よ。こっちよ」

 メルルさんと並んで移動する。アリリアナやセンカさんとは違って、入院している時を除いてメルルさんと二人っきりになることってなかったから、何だか緊張した。

「ふふ」
「ど、どうしたの?」
「ああ、ごめんなさい。ただドロシーさんがうちにいることが嬉しくて。ドロシーさん、アリリアナちゃんやセンカちゃんとはどんどん仲良くなるのに、私とはあまり遊んでくれないでしょ?」
「そ、それは別に遊びたくないわけじゃなくてーー」
「勿論分かっているわ。ごめんなさい、意地悪な言い方して。時間を取れないのは私のせいなのにね」

 アリリアナは同じ部屋で生活しているので当然のように会える。国軍兵士のセンカさんは魔物被害や災害が起こらない限りシフトがキッチリ決まっている上、昼休みが意外と長いので、ランチを一緒にするくらいなら案外簡単だ。でも病院で働いているメルルさんはシフトが不規則な上、お昼休みもセンカさんほどに長いわけではないので、互いの都合を合わせるのが難しい。特に今はリトルデビル事件の被害者の回復に注力してて忙しい時期みたいだし。

「誰のせいとかではないと思うけど、私ももっとメルルさんと遊びたいと思ってるよ」
「本当? 嬉しい。それなら今度、以前約束したお買い物に行かない?」
「行く! 行こうよ。私すっごく楽しみにしてたんだから」
「私もよ」
「えへへ」
「うふふ」

 メルルさんが何気なく交わした約束を覚えていてくれて凄く嬉しい。

「あっ、そうだ。この後、ギルド街にお寿司食べに行くんだけど、メルルさんもどうかな?」
「ごめんなさい。特別に休憩時間を増やしてもらっているだけで、今仕事中なの。だからもうすぐ戻らないといけないの」
「そうなんだ。残念だけど、お仕事なら仕方ないよね」
「ええ。でもドロシーさんには悪いけど、今回ばかりは仕事が入ってて良かったかも」
「え? どうして?」

 メルルさんは自身の頬に片手を当てると、困ったようにため息をついた。

「私、お寿司ってちょっと苦手なの」
「メルルさんも?」
「私もってことはドロシーさんも?」
「うん。美味しいとは思うんだけど、生のお肉ってちょっと苦手で」
「そう、そうなのよ。私も一緒。火を通さないお肉って抵抗あって。魔法使いが食中毒になる可能性は常人に比べれば格段に低いことは分かっているんだけどーー」

「「それとこれとは話が別」」

 思わず言葉がハモってしまった私達は互いの顔を見合わせた。

「あはは」
「ふふ」

 何だろ? この感じ。アリリアナやセンカさんと一緒にいるとすごく楽しいって気持ちになるけど、メルルさんと話しているとすごい安心感がある。考え方が似てるのかな?

 そんなことを考えてるとーー

「本当にいいのか? やけに荒ぶってるぞ」
「だ~いじょうぶ。大丈夫。こっちが心を開けばきっと上手く行くはず。馬だけに」

 そんな、上手いこと言えてるようで全然上手くない言葉が聞こえてきた。

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