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102 戦いの後

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「それでは、S指定の魔物討伐と冒険者試験合格、それとセンカの第0特殊魔法隊への入隊を祝う感じで、カンパーイ!」
「「「カンパーイ」」」

 私達はメルルさんの部屋でグラスを軽くぶつけ合った。年齢的には問題ないんだけど、アルコールはあまり好きじゃないのと、陽がまだ高いこともあって、私とメルルさん、そしてレオ君はハーブティー、アリリアナと今日非番のセンカさんのグラスにはお酒が入ってる。

「それにしても凄いな、お城でもお前達の噂で持ちきりだぞ」
「でしょ、でしょ。実は私、既に何件かの伝達絵巻のインタビューを受けた感じなのよね。こんな華麗な冒険者デビューを果たしたのってここ十年では私達だけだってさ。ヤバくない? 何なら今のうちにサインしてあげちゃう感じなんだけど」
「お前はまったく、すぐに調子に乗って」

 呆れたように言うセンカさんだけれども、その口元は笑ってる。

「そう言えばアリリアナちゃん、今ドロシーさんの所にいるんだって? 魔物討伐の報奨金はどうしたの? かなりの額になると思うんだけど、まだ貰ってないのかな?」
「んにゃ、もう貰った感じ。でもせっかくだから次の家はゆっくり決めたいじゃん。ドロシーもまだまだ居て良いって言ってるし。ねっ?」
「うん。全然いいよ。ルームシェアって初めてで凄く新鮮な経験だし。でもアリリアナはもうちょっと掃除を手伝ってくれると嬉しいかも」
「アハハ。ゴメン、ゴメン。泊めてもらってるのに悪い感じだから気をつけます。いや、本当にね」
「これでアリリアナもキチンと整理整頓を覚えてくれたら良いのだがな」
「アリリアナちゃんだし、それはちょっと難しそうかな」

 センカさんとメルルさんがしみじみといった様子で頷き合っている。正直なところ、後一月もしたら私も一緒になって頷いていそうな気がちょっとだけしてる。

「でもセンカさんも凄いよ。新しくできる魔法隊へ大抜擢されたんでしょ?」
「ありがとう。だが実の所、私の実力がどうこうではなくて、ドロシーの友人であることが大きかったように思う」
「そんなことは…… ないんじゃないかな?」

 新しくできる第0魔法隊はお父様の私兵のようなものだけど、かなりの実権を持っている隊らしくて、そこに軍に入隊してまだ一年も経ってないセンカさんが選ばれたのは確かに不自然と言えば不自然だけど……あのお父様が私の友人だからって理由で選ぶかな? 

 首を捻っていると、レオ君がこちらに心配そうな顔を向けた。

「ドロシーさんの親父さんといえば、あれから何も言ってこないのか? その、嫌がらせとかは?」
「全然大丈夫だよ。アリアとはちょっと話したけど、お父様とはあれ以降まだ顔も合わせてないし、もしも何かしてくるつもりならとっくにしてると思うの」
「ドロシーの親父さんって言えばあれよね、話に聞く限りかなり陰湿そうな感じ。大体ドロシー程の天才を出来損ない扱いとか、普通にありえないでしょ」
「もう、アリリアナったら。私は天才じゃないって言ってるでしょ」
「だから私にとっては天才なんだってば。てか、どうせ冒険者やるなら一旗あげて、見る目のないドロシーの親父さんに流石は我が娘だ~。とか言わせてみない?」
「いいな、それ。面白そうじゃないか。なぁ、ドロシーさん」
「ど、どうだろ。あのお父様がそんなこと言うとは思えないけど……でも、うん。そうだね。出来たら面白いかも」

 アリリアナやレオ君があまりにも楽しそうに言うものだから、いつ以来ぶりになるのか、ちょっとした悪戯心のようなものが湧いてきちゃった。

「いや、盛り上がってるところ悪いんだが、S指定された魔物を討伐しているんだから、とっくに一旗はあげてるじゃないか?」
「そうよね。ベテランの冒険者さんの中にだってS指定の魔物を討伐した経験がある人なんて殆どいないだろうし、アリリアナちゃん達、本当に凄いことしたのよね」
「おおっ! 確かに旗はもうあげてた感じよね。よし。ドロシー、今から親父さんに超自慢しに行っちゃう?」
「ええっ!? い、今からはちょっと……」

 いつかはと想像するんなら全然良いんだけど、今すぐとなると心の準備が間に合わないよ。でも、アリリアナなら本当に今すぐ行動に移りそうだし。わ、話題を、話題を逸らさなくっちゃ。

 何かないかなと室内を見回していたら、突然部屋がノックされた。

「あの、メルルお嬢様。お客様がお見えになられているのですが」
「お客様? 誰でーー」
「おおっ。ここに居たか、我が娘よ」

 使用人さんを押しのけて部屋に入ってきたのは、杖を持った黒髪黒眼の……っていうか、えっ!?

「お、お父様!?」

 何でここにお父様が!? 偶然? でも今娘って……。私に会いにきた? ど、どうして?

「貴方がドロシーさんですか。初めまして。私は王国伝達絵巻を出版してるシュルダと申します」
「は、はぁ」

 伝達絵巻の記者さん? 何でそんな人がお父様と一緒にいるんだろう?

 訳がわからないまま男の人が差し出してきた手を握る。

「この度は独占取材を受けてくれてありがとうございます。あの天才アリア•ドロテアの姉であり、妹に続いて見事S指定の魔物を討伐なされた貴方のことは他社も記事にしようと躍起だと言うのに。それらを全てお断りなさって当社だけ。いや、本当にありがとうございます」
「へ? 独占取材? 受けた? 私が?」

 思わずアリリアナの方を見ちゃったけど、彼女も訳がわからないと言った様子で首を左右に振っている。となると後考えられるのはーー

「いやはや、すみませんな。先程も申し上げましたように、うちの使用人が娘に取材が今日であることを伝え忘れていたようで。いや、本当に申し訳ないが、今日のところは絵巻に載せる絵だけでよろしいかな」

 そう言ってお父様が、あのお父様が、私の肩に腕を回してきた。それも満面の笑顔で。いかにも仲の良い親子の体で。

「ああ、そう言うお話でしたね。勿論分かっております。実に残念ではありますが、今日のところは写真のみで、取材はまたの機会ということで」

 そうして私とお父様の不自然極まりない光景が絵として記録されていく。

「えっと……あの、お父様。これは一体……うっ!?」

 カメラのフラッシュがしつこいくらい瞬く中、疑問を解消しようと口を開けば、私の肩を掴んでいるお父様の手に物凄い力が加わった。

「おや、ドロシーさん。どうかされましたか?」
「いえ、そのーー」
「どうやら娘はまだ体調が今一つのようですな。友人とのひと時を邪魔するのも悪いので、我々はこれで退散するとしましょう」
「分かりました。それではドロシーさん。体調が戻りましたら改めてお伺いさせて頂きます。その時にぜひ、お話をお聞かせください」
「え? あ、はい」
「ではな、ドロシー。今回はよくやったぞ。それでこそ私の娘だ。また連絡するから、それまで十分な休養をとるのだぞ。ではな」

 そうしてお父様は一方的にやってきて、あまりにも一方的に去って行った。

「「「………」」」

 しばらくの間、私達を嵐の後のような奇妙な沈黙が支配した。

「…………あ、あ~。えっと今のってさ、ドロシーがS指定の魔物を討伐したからそれに便乗してドロテア家の評価をあげようと。つまりはそんな感じ?」
「だろうな。ドロシーに事前に伝えてなかったのは、万が一にも断られるのを防ぎたかったからか。印象なんて一枚の絵があればどうとでも操作できるだろうから、不意打ちで訪れて先程の写真を撮るのが目的だったのだろう」
「多分ドロシーさんが性格的にお父様の悪口を言いふらさないことも計算尽くなんだよね。それでも独占取材というコントロールが利きそうな形にするのが何と言うか、す、凄いお父様だね」
「ドロシーさん、大丈夫か?」
「へ? う、うん。平気だよ。ただ……」
「「「ただ?」」」
「お酒飲みたい気分かも」

 正直な感想を口にしたら、アリリアナが持ってたコップを手渡してきたので、私はそれを受け取ると中身を一気に飲み干した。
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