46 / 149
連載
92 チョコのお店
しおりを挟む
「えっと、その、げ、元気だった?」
私は何を言ったらいいのか分からなすぎて、気付けば無難な言葉を選択していた。
「…………(コクン)」
良かった。機嫌は悪くないみたい。
妹は感情を中々表現しない氷で出来た仮面のような美貌とは裏腹に、酷く気分屋な一面がある。突然イタズラを(それも洒落にならないレベルのものを)仕掛けて来たかと思えば、唐突に何を話しかけても無視しだすのだ。
機嫌が良い時は普通に会話が成り立つけど、そうでない時は他人以上に厄介になる。あるいはそれは普通の姉妹の一つの形なのかもしれないけれど、だからって厄介なことには変わりない。幸いなのは、少なくとも応答を見せた今日の機嫌は悪くないということだ。
「今日はね、お礼を言いに来たの」
「お礼?」
小首を傾げるそのちょっとした所作が美しい。ここ数年はアリアを見る度、自らの才能のなさを突きつけられていたけれど、劣等感がだいぶ薄れた今、改めて妹を見て思ったことは、この子って私の妹にしてはちょっと美人すぎないかな? と言う自分でも意外な感想だった。
私も大概だけれども、アリアだってお洒落に興味なんてないはずなのに、その髪の艶やかさとか、今にも光出しそうなお肌の白さとか、一体どうなってるんだろ? 案外私が知らないだけで肌や髪のケアを欠かさないのかな? ……聞いてみたい。聞いてみようかな?
「…………(ジー)」
「はっ!? えっと、あのね……」
いけない。いけない。一先ずは会いに来た用事を先に終わらせてしまおう。
「ルネラード病院で助けてくれたでしょ。あの時アリアが来てくれなかったら、私多分だめだったろうから、本当に感謝してるの。ありがとね、アリア。私を助けてくれて」
心からの言葉と共に頭を下げながら、しかし私はそこで重要なことに気がついた。
なんて、なんて事なの!? 私ったら命を助けてもらった相手にお礼を言いに来ておいて、何の手土産も用意してこなかった。
いくら社交性の乏しい私でも、普段であればあまりしない(と信じたい)行動だ。何処かで、実家だし、アリアだしと、甘く考えていたことは明白だった。
もう私のバカバカ。何かないかな? あっ、ポケットにアリリアナさんに貰ったチョコが入ってる。
「あの、チョコ食べる?」
って、何聞いてるのよ私はっ!?
ポケットから取り出しかけたチョコをすんでの所で引っ込める。
ないない。いくらなんでもコレはない。
「いつ」
「ん? へ? 何? 何か言った?」
「いつ帰ってくるの?」
「帰る? って、私が?」
「…………」
え? どういうこと? この子まさか……
「私がいなくて寂しいの?」
「別に」
だよねー。なによ、ちょっとは可愛いところがあるかなって勘違いしちゃったじゃない。
「食べる」
「はい? 何を?」
「チョコ」
「チョコ? 食べれば……って、あっ、チョコね。チョコ」
私は咄嗟にポケットのチョコを出したけれど、それが失敗だった。それを見たアリアの瞳から一瞬でありとあらゆる熱量が消失してしまったのだ。
その眼は何よりも雄弁に物語っていた「こいつ、マジか」と。
私はおおよそ二百ゴールド前後と思わしきお菓子を慌てて引っ込めた。
「う、嘘よ。やだやだ。冗談に決まってるでしょ。ほら、お姉ちゃんについて来なさい。とっても美味しいチョコのお店を知ってるんだから」
「姉さんが?」
「な、なに? 私がそう言うお店知ってたら変?」
「…………」
「いや、何か言ってよ」
「…………」
「もうっ、ほらこっち。ついて来て」
歩き出すとびっくりしたことに、アリアは普通についてきた。何だか今日のアリアは凄く普通の妹っぽい気がする。勿論まだ油断は出来ないけれど、妹と普通に会話して一緒にご飯食べに行くなんていつ以来だろう?
遠い昔にほんの数回だけ味わったことがある、遠出を前にしたあのワクワクとした感情が、ふと甦って来た。
もしかしたらこのままアリアと子供の頃のような仲に戻れるかもしれない。メルルさんやレオ君のような素敵な関係を築けるかもしれない。そしてそれを私が望んでいることは、最早疑う必要は無いように思えた。
ただ一つ問題なのは……チョコの美味しいお店ってどこなのぉおおお!?
私は何を言ったらいいのか分からなすぎて、気付けば無難な言葉を選択していた。
「…………(コクン)」
良かった。機嫌は悪くないみたい。
妹は感情を中々表現しない氷で出来た仮面のような美貌とは裏腹に、酷く気分屋な一面がある。突然イタズラを(それも洒落にならないレベルのものを)仕掛けて来たかと思えば、唐突に何を話しかけても無視しだすのだ。
機嫌が良い時は普通に会話が成り立つけど、そうでない時は他人以上に厄介になる。あるいはそれは普通の姉妹の一つの形なのかもしれないけれど、だからって厄介なことには変わりない。幸いなのは、少なくとも応答を見せた今日の機嫌は悪くないということだ。
「今日はね、お礼を言いに来たの」
「お礼?」
小首を傾げるそのちょっとした所作が美しい。ここ数年はアリアを見る度、自らの才能のなさを突きつけられていたけれど、劣等感がだいぶ薄れた今、改めて妹を見て思ったことは、この子って私の妹にしてはちょっと美人すぎないかな? と言う自分でも意外な感想だった。
私も大概だけれども、アリアだってお洒落に興味なんてないはずなのに、その髪の艶やかさとか、今にも光出しそうなお肌の白さとか、一体どうなってるんだろ? 案外私が知らないだけで肌や髪のケアを欠かさないのかな? ……聞いてみたい。聞いてみようかな?
「…………(ジー)」
「はっ!? えっと、あのね……」
いけない。いけない。一先ずは会いに来た用事を先に終わらせてしまおう。
「ルネラード病院で助けてくれたでしょ。あの時アリアが来てくれなかったら、私多分だめだったろうから、本当に感謝してるの。ありがとね、アリア。私を助けてくれて」
心からの言葉と共に頭を下げながら、しかし私はそこで重要なことに気がついた。
なんて、なんて事なの!? 私ったら命を助けてもらった相手にお礼を言いに来ておいて、何の手土産も用意してこなかった。
いくら社交性の乏しい私でも、普段であればあまりしない(と信じたい)行動だ。何処かで、実家だし、アリアだしと、甘く考えていたことは明白だった。
もう私のバカバカ。何かないかな? あっ、ポケットにアリリアナさんに貰ったチョコが入ってる。
「あの、チョコ食べる?」
って、何聞いてるのよ私はっ!?
ポケットから取り出しかけたチョコをすんでの所で引っ込める。
ないない。いくらなんでもコレはない。
「いつ」
「ん? へ? 何? 何か言った?」
「いつ帰ってくるの?」
「帰る? って、私が?」
「…………」
え? どういうこと? この子まさか……
「私がいなくて寂しいの?」
「別に」
だよねー。なによ、ちょっとは可愛いところがあるかなって勘違いしちゃったじゃない。
「食べる」
「はい? 何を?」
「チョコ」
「チョコ? 食べれば……って、あっ、チョコね。チョコ」
私は咄嗟にポケットのチョコを出したけれど、それが失敗だった。それを見たアリアの瞳から一瞬でありとあらゆる熱量が消失してしまったのだ。
その眼は何よりも雄弁に物語っていた「こいつ、マジか」と。
私はおおよそ二百ゴールド前後と思わしきお菓子を慌てて引っ込めた。
「う、嘘よ。やだやだ。冗談に決まってるでしょ。ほら、お姉ちゃんについて来なさい。とっても美味しいチョコのお店を知ってるんだから」
「姉さんが?」
「な、なに? 私がそう言うお店知ってたら変?」
「…………」
「いや、何か言ってよ」
「…………」
「もうっ、ほらこっち。ついて来て」
歩き出すとびっくりしたことに、アリアは普通についてきた。何だか今日のアリアは凄く普通の妹っぽい気がする。勿論まだ油断は出来ないけれど、妹と普通に会話して一緒にご飯食べに行くなんていつ以来だろう?
遠い昔にほんの数回だけ味わったことがある、遠出を前にしたあのワクワクとした感情が、ふと甦って来た。
もしかしたらこのままアリアと子供の頃のような仲に戻れるかもしれない。メルルさんやレオ君のような素敵な関係を築けるかもしれない。そしてそれを私が望んでいることは、最早疑う必要は無いように思えた。
ただ一つ問題なのは……チョコの美味しいお店ってどこなのぉおおお!?
10
お気に入りに追加
4,948
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
忘れられた妻
毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。
セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。
「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」
セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。
「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」
セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。
そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。
三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。