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67 D作戦
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冒険者試験が行われるのは基本的には週末である土の日と休息日の二日だけ。お金を出したり誰かの推薦を受けたりすれば他の曜日でも試験を受けることは可能みたいだけど、そうする理由も特にないので私達は土の日に試験を受けることを選んだ。
「この賑わい。やっぱ私ギルド区画の雰囲気って好きだな~」
「そういえばアリリアナさんの職場もこの辺りなんだよね?」
「そう。と言っても私の職場はギルド区画を微妙に外れてるからまだまだ距離あるけどね」
王都の南西端にあるギルド、その周りには冒険者さん達をメインターゲットにした様々なお店が建っていて、すれ違う人も一眼で冒険者さんって分かる人が増えてきた。本によるとこの現象はどこの国でも同じで、だからギルドの周りはギルド区画って呼ばれるみたい。
「それよりさ、もうちょっとでギルドに着くわけだけど、その前に重要な作戦を伝えておこうと思うの」
「作戦?」
「ひょっとして試験対策とか?」
一応勉強はしてきたけど時間が全然なかったからちょっと不安。だからアリリアナさんが何か試験対策を考えているのならすっごく心強い。
「試験の方は私達、っていうかドロシーさんなら余裕でしょ。だからそれは置いとく感じでいっちゃいます」
「そ、そうかな」
「絶対そうだって」
そこまで断言されて落ちちゃったらどうしよう。ううっ、なんだかちょっとお腹痛くなってきたかも。
「じゃあ何の作戦だよ?」
「ズバリ、絡まれた時の対処法よ」
「え? それは心配しすぎなんじゃないかな」
巷では冒険者の人達に山賊のようなイメージを抱く人もいるみたいだけど、どの国にも基本的にフリーパスで入れる冒険者さん達は他のどんな仕事よりも倫理やマナーを求められる。だからよほど理由がない限りトラブルを起こしたりはしない。特に暴行関係の事件は一発でギルドを永久追放、もっと悪い場合は制裁対象に指定されることもあるから、喧嘩する冒険者はF級以下なんて言葉もあるくらい。勿論こんなこと、冒険者さんがよく来る旅館で働いているアリリアナさんなら知ってるはずなのに。
「ドロシーさんの言うことも分かるわ。でも旅館で働いている時に聞いたんだけどさ、冒険者業で一番喧嘩に発展する可能性が高いのが、この冒険者試験の時なんだって」
「どうして?」
「どうせあれだろ。冒険者の仕事を何をやってもいい自由な傭兵だと勘違いした奴らが面倒起こすんだろ」
「レオ君大正解」
「ええっ? そんなことしてギルドの人に怒られないの?」
「怒られるっていうか、下手したら試験自体二度と受けられなくなるし、過去には試験希望者に制裁を行ったこともあるみたいよ」
「こ、怖いね」
冒険者になった後ならともかく、なる前からも制裁行動が許されるんだ。
「確かに怖いけど、これくらいやらないと多くの国で区画として発展するなんて現象は起きない感じなんじゃないかな」
「それはそうだな」
「だからドロシーさん、たとえドロシーさんのお尻を撫で撫でする不届き者がいてもいきなり丸焼きにしちゃダメだからね」
「し、しないよそんなこと」
もう、アリリアナさんの中の私のイメージってどうなってるんだろ?
「……殴るくらいならいいか?」
「ダ~メ、って言いたいところだけどバレずにやるなら許可しちゃいます」
「ダメだよそんなこと許可しちゃ。レオ君、そんなことしたらダメだからね」
私のせいでレオ君がギルドに睨まれるような事態になったら申し訳なさすぎる。
「まぁそんな感じで、多分大丈夫とは思うけどギルドで想定外の問題が起こる可能性も頭に入れておこうって話。そしてそんな状況になった時の作戦、それこそD作戦よ」
「D作戦?」
どういう意味なんだろう。
「今説明した通り基本的に冒険者の喧嘩はご法度。正当防衛は許されてるから応戦が絶対にダメというわけじゃないけど、大抵の場合は割に合わないし、そもそも喧嘩に勝ってもお金がもらえるわけじゃないのでちょっと絡まれたくらいですぐに手を出さない。当たり前のこの大原則を私達も遵守しちゃいます」
勿論、アリリアナさんに言われなくても喧嘩なんてするつもりはない。
「言うのは簡単だけど、冒険者になりたいくせに喧嘩ふっかけるなんて相当のバカだぞ。そんな奴に無抵抗だと逆に危なくないか?」
「そんな時のためのD作戦よ。いい? もしも変な奴に絡まれた場合は……」
「場合は?」
「二人が相手を引きつけている内にもう一人がダッシュでギルド職員を呼びに行く! これっきゃないでしょ」
「え? それは……良い作戦だね」
無難というか堅実というか、一番賢い選択だと思う。
「でしょ~。ほら、レオ君も私の華麗な作戦を褒めてくれていいんだよ?」
「分かった。分かった。凄い凄い。つーか、その時は俺が相手をするから二人で呼びに行けよな」
「そんな、私も残るよ」
「じゃあ私も」
「いや、言い出しっぺがいきなり作戦を破綻させるなよ」
呆れたように溜息を吐くレオ君。私としては年下のレオ君一人に危ないことを押し付ける気にはなれない。けど、作戦を実行するには誰かが離れる必要があるし……う~ん。正直なところ絡まれるような事態にはならないんじゃないかなって気はしてるし、今決めなくても大丈夫だよね? 大国にも勝ると謳われるギルドを怒らせる行動をとる人がそこいらにそんな沢山いるはずないし。と、思っていたらーー
ヌッ、と私達の前に突然男の人が立ち塞がった。
「おおっと!?」
「えっ!?」
ビックリして思わず声を上げちゃう私とアリリアナさん。男の人は冒険者なのか鎧を着込んでいる。スキンヘッドで顔付きもちょっと怖い感じ。それでなんでか分からないけど、すっごく怖い目で私達を睨んでいる。
レオ君が私とアリリアナさんの前に出てくれた。
「なんだよアンタ」
「……」
男の人は答えず、ただレオ君を見るその目がさらに鋭くなる。
「ドロシーさん。D作戦発動! D作戦発動よ!!」
「ええっ!?」
ちょっと決断早くないかな? それにここギルドじゃないし。ど、どうしよう。どこに向かってダッシュすれば良いんだろ。
「何してますの?」
「あ、新手?」
「落ち着いてアリリアナさん。どうみてもそんな感じじゃないよ」
強面の男の人の後ろから現れたのは綺麗な金髪を縦ロールにした女の人と、執事服を着た初老の男性だった。
「この賑わい。やっぱ私ギルド区画の雰囲気って好きだな~」
「そういえばアリリアナさんの職場もこの辺りなんだよね?」
「そう。と言っても私の職場はギルド区画を微妙に外れてるからまだまだ距離あるけどね」
王都の南西端にあるギルド、その周りには冒険者さん達をメインターゲットにした様々なお店が建っていて、すれ違う人も一眼で冒険者さんって分かる人が増えてきた。本によるとこの現象はどこの国でも同じで、だからギルドの周りはギルド区画って呼ばれるみたい。
「それよりさ、もうちょっとでギルドに着くわけだけど、その前に重要な作戦を伝えておこうと思うの」
「作戦?」
「ひょっとして試験対策とか?」
一応勉強はしてきたけど時間が全然なかったからちょっと不安。だからアリリアナさんが何か試験対策を考えているのならすっごく心強い。
「試験の方は私達、っていうかドロシーさんなら余裕でしょ。だからそれは置いとく感じでいっちゃいます」
「そ、そうかな」
「絶対そうだって」
そこまで断言されて落ちちゃったらどうしよう。ううっ、なんだかちょっとお腹痛くなってきたかも。
「じゃあ何の作戦だよ?」
「ズバリ、絡まれた時の対処法よ」
「え? それは心配しすぎなんじゃないかな」
巷では冒険者の人達に山賊のようなイメージを抱く人もいるみたいだけど、どの国にも基本的にフリーパスで入れる冒険者さん達は他のどんな仕事よりも倫理やマナーを求められる。だからよほど理由がない限りトラブルを起こしたりはしない。特に暴行関係の事件は一発でギルドを永久追放、もっと悪い場合は制裁対象に指定されることもあるから、喧嘩する冒険者はF級以下なんて言葉もあるくらい。勿論こんなこと、冒険者さんがよく来る旅館で働いているアリリアナさんなら知ってるはずなのに。
「ドロシーさんの言うことも分かるわ。でも旅館で働いている時に聞いたんだけどさ、冒険者業で一番喧嘩に発展する可能性が高いのが、この冒険者試験の時なんだって」
「どうして?」
「どうせあれだろ。冒険者の仕事を何をやってもいい自由な傭兵だと勘違いした奴らが面倒起こすんだろ」
「レオ君大正解」
「ええっ? そんなことしてギルドの人に怒られないの?」
「怒られるっていうか、下手したら試験自体二度と受けられなくなるし、過去には試験希望者に制裁を行ったこともあるみたいよ」
「こ、怖いね」
冒険者になった後ならともかく、なる前からも制裁行動が許されるんだ。
「確かに怖いけど、これくらいやらないと多くの国で区画として発展するなんて現象は起きない感じなんじゃないかな」
「それはそうだな」
「だからドロシーさん、たとえドロシーさんのお尻を撫で撫でする不届き者がいてもいきなり丸焼きにしちゃダメだからね」
「し、しないよそんなこと」
もう、アリリアナさんの中の私のイメージってどうなってるんだろ?
「……殴るくらいならいいか?」
「ダ~メ、って言いたいところだけどバレずにやるなら許可しちゃいます」
「ダメだよそんなこと許可しちゃ。レオ君、そんなことしたらダメだからね」
私のせいでレオ君がギルドに睨まれるような事態になったら申し訳なさすぎる。
「まぁそんな感じで、多分大丈夫とは思うけどギルドで想定外の問題が起こる可能性も頭に入れておこうって話。そしてそんな状況になった時の作戦、それこそD作戦よ」
「D作戦?」
どういう意味なんだろう。
「今説明した通り基本的に冒険者の喧嘩はご法度。正当防衛は許されてるから応戦が絶対にダメというわけじゃないけど、大抵の場合は割に合わないし、そもそも喧嘩に勝ってもお金がもらえるわけじゃないのでちょっと絡まれたくらいですぐに手を出さない。当たり前のこの大原則を私達も遵守しちゃいます」
勿論、アリリアナさんに言われなくても喧嘩なんてするつもりはない。
「言うのは簡単だけど、冒険者になりたいくせに喧嘩ふっかけるなんて相当のバカだぞ。そんな奴に無抵抗だと逆に危なくないか?」
「そんな時のためのD作戦よ。いい? もしも変な奴に絡まれた場合は……」
「場合は?」
「二人が相手を引きつけている内にもう一人がダッシュでギルド職員を呼びに行く! これっきゃないでしょ」
「え? それは……良い作戦だね」
無難というか堅実というか、一番賢い選択だと思う。
「でしょ~。ほら、レオ君も私の華麗な作戦を褒めてくれていいんだよ?」
「分かった。分かった。凄い凄い。つーか、その時は俺が相手をするから二人で呼びに行けよな」
「そんな、私も残るよ」
「じゃあ私も」
「いや、言い出しっぺがいきなり作戦を破綻させるなよ」
呆れたように溜息を吐くレオ君。私としては年下のレオ君一人に危ないことを押し付ける気にはなれない。けど、作戦を実行するには誰かが離れる必要があるし……う~ん。正直なところ絡まれるような事態にはならないんじゃないかなって気はしてるし、今決めなくても大丈夫だよね? 大国にも勝ると謳われるギルドを怒らせる行動をとる人がそこいらにそんな沢山いるはずないし。と、思っていたらーー
ヌッ、と私達の前に突然男の人が立ち塞がった。
「おおっと!?」
「えっ!?」
ビックリして思わず声を上げちゃう私とアリリアナさん。男の人は冒険者なのか鎧を着込んでいる。スキンヘッドで顔付きもちょっと怖い感じ。それでなんでか分からないけど、すっごく怖い目で私達を睨んでいる。
レオ君が私とアリリアナさんの前に出てくれた。
「なんだよアンタ」
「……」
男の人は答えず、ただレオ君を見るその目がさらに鋭くなる。
「ドロシーさん。D作戦発動! D作戦発動よ!!」
「ええっ!?」
ちょっと決断早くないかな? それにここギルドじゃないし。ど、どうしよう。どこに向かってダッシュすれば良いんだろ。
「何してますの?」
「あ、新手?」
「落ち着いてアリリアナさん。どうみてもそんな感じじゃないよ」
強面の男の人の後ろから現れたのは綺麗な金髪を縦ロールにした女の人と、執事服を着た初老の男性だった。
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