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一攫千金の国『ベガ・ラグナス編』

発電所に子どもの遊具!? 鬼族発電の実態。

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「心配するな、ただの日焼けだ!」
「吸血鬼族にとって、それは日焼けじゃなくて火傷やけどです。ちゃんとお薬塗らないと」
「わかった! 自分でやるから、あんまり触るな。お、おい!?」

 キールのささやかな抵抗も虚しく、顔を近づけたエイミーはキールの顔や首の周辺に薬を塗っていく。シャツの中にも手を入れられて、キールは恥ずかしそうに困惑している。

 ──現在の時刻は、午前10時38分。
 逃亡中のキールは奴隷解放運動武装組織エイミーたちのアジトにかくまわれている状態だ。キールは日焼けやけどした箇所の包帯をエイミーに交換してもらっているところである。

 キールが気絶してる間にエイミーたちが応急処置をしてくれていたようで、包帯が巻かれて顔以外は半分ミイラ男状態だ。

 どうしてキールはミイラ男状態にされているのか?
 実はエイミーとの逃亡中に日光に当たったことで赤く日焼けやけどしてしまったのだ。

 カジノ側に捕まっている間、制裁と言う名の拷問を受けていたため皮膚へのダメージが残っていたのも日焼けやけどの悪化の原因だ。さらに汗などで元々塗っていた日焼け止めが剥がれて紫外線を防ぐことができなかったのも大きいだろう。

 暴行で深く傷ついていた肌に、太陽光の紫外線による相乗効果で悪化。キールの肌は膨らんで水ぶくれ状態になっていたのだ。

 しばらく時間が経過して汚れたので、エイミーが新しい包帯に交換したいと言ってきたので、キールは大人しく受け入れているのだ。

「これくらい大したことない。オレもエイミーと同じ吸血鬼族の混血だ。日焼けやけど程度なら半日くらい放っておけば完治するはずだ」
「そうですけど! いくら吸血鬼の回復力があったとしても、放っといたら雑菌が入って悪化してします。治りが遅くなっちゃいますよ!」
「……そうか」
「そうです!」

 大したことないと言うキールに対して、意外と強気なエイミーである。彼女は薬箱の中から火傷に効く白いクリーム状の薬を取り出してキールの腕に薄く塗り、その上から清潔な包帯をクルクルと巻いていく。

 様々な要因で弱っているキールに対して、エイミーは熱心に看病をしてくれていた。その献身的な態度にキールは申し訳なさのような、背徳感のような微妙な表情を浮かべていた。包帯を巻き終えると、エイミーが嬉しそうに言った。

「はい、完了です! お疲れさまでした」
「ありがとうエイミー。おかげでキレイになったよ」
「どういたしまして!」

 キールが礼を言うと、エイミーは満面の笑みで頬を緩ませている。軽い気持ちでキールが言う。

「それにしても驚いたよ。エイミーが組織のリーダーとはな」
「はい、みんな優しくていい人ですよ。私なんて助けられてばかりです。みんなキールさんを歓迎してますよ」
「それにしちゃあ、やたら突っかかられた気がするんだが……」
「ふふ、ラッシュくんも根はいい子なんですよ。ちょっと口は悪いかもしれませんけど」
「そうか……信頼してるんだな、仲間のこと……」
「はい! みんな私の“大切な仲間”です」

 すると嬉しそうにエイミーは大切な仲間の話してくれた。黙ってそれを聞いていたキールの表情はうらやましそうな、どこか寂しげなようにも見えた。そんなキールにエイミーがたずねてきた。

「あの、そういえばミドさんは一緒じゃないんですか?」
「!」
「どうしたんですか?」
「いや、別に………………………………………………………………」

 動揺してキールは口を閉ざした。それを受けて地雷を踏んだと理解したエイミーの表情が固まる。すると先にキールの方から口を開いた。

「………………ちょっと、な。事情があって……ミドとは別行動をしてる」
「え!? もしかして……旅の途中で別れたんですか?」
「いや、そういうわけじゃない」
「この国には一緒に来てるんですか?」
「……ああ。でも、今は会えない」
「どうしてですか?」
「………………とにかく、今はミドには会えないんだ」

 なんとも歯切れが悪い様子で返答をするキールの様子を見て、エイミーはそれ以上しつこく聞いてはこなかった。

「………………………………………………………………………………」
「………………………………………………………………………………」

 二人の間に気持ちの悪い沈黙が続いてしまったため、話題を変えようと、キールが先に口を開いた。

「その……なんて言うか、奴隷解放運動なんて正義感の強いエイミーらしいな」
「え? あ、はい。そうですね。キールさんたちと別れてから、一人で世界を旅して色々考えさせられました。今でも時々悩むんです……自分のやっていることが『本当に正しいのか?』って……」

 自分がしてきた旅のことをエイミーは話してくれた。様々な国を見て、様々な文化と思想を知り、そして多種多様な“正しさの形”を見てきたのだと言う。

 エイミーの視点からは正しく見えなくても、その国に住む人たちにとってはそれが正義であり、文化であり、正しい姿なのだ。自分の個人的な主観に基づいて他人の正義を罰するなど、エイミーにはできなかったそうだ。
 ただ、それでも納得できないことがあったそうだ。察するようにキールが言う。

「鬼族の奴隷だな?」
「そうです。どの国でも彼らは奴隷として売り買いされていました……」

 エイミーが納得できなかったのは『人身売買』のことだと言う。鬼族以外の奴隷もいるのだが、比率的には鬼族の方が圧倒的に多いだろう。

 世界には、まだ奴隷商会のような奴隷を売買できる所が数多く存在している。奴隷が違法ではない国もあるからだ。山や海にはぞくも多いため、小さい田舎町だと人さらいは珍しくない。多くの奴隷は海賊が船で運び、陸のマフィア等の組織犯罪集団によって売買が行われる。

 国によって奴隷制度が違法でないのも事実だが、倫理的に堂々とするような商売でもない。肉体労働以外に性奴隷として買う者もいるため、子どもの目に触れないような形で隠れて商売するのが一般的だ。

 大都市がある国では奴隷商会ではなく『人材派遣会社』や『養子縁組のサポートサービス』と名乗っていることが多い。奴隷というワードにはネガティブな印象があるため『派遣』や『養子』と呼ぶようになったのだろう。木を隠すなら森の中。真面目に派遣や養子縁組に関わっている人たちに紛れて商売しているというわけだ。

「人材派遣会社……確かに見たことはあるな。養子ってことは、やっぱり……」
「はい、子どももです」

 エイミーによると、今ではネット通販で『子どもの人身売買』も可能だそうだ。そんなものがあるのかといぶかしげにキールが言うと、エイミーが実際の通販サイトを見せてくれた。

 そのサイトには、様々な種族の子どもたちの写真が数多く載せられていた。サイトの概要を見ると『高級子ども服のネット販売です』といった内容の記載がされている。
 たしかに写真の子どもたちは小綺麗にされて高そうな服を着せられて座っている。値段を見ると数えるのが面倒になるほどゼロの数が多い。それなりの富裕層でなければ手が出せないだろう。

「……これは、服の値段か?」
「それは……子どもの値段なんです」
「!」

 高級子ども服のサイトに見せかけて、『写真のモデルの子どもを売り買いするサイト』だとエイミーは言った。キールは両目を見開いて驚愕する。

 欲しい子どもの写真が掲載された購入ページで、合言葉のような質問メッセージを送るとサイトの主から連絡がくるのだ。そして捜査関係者ではないと判断された場合にのみ、人身売買が成立。特殊ルートによって購入者の元に売られた子どもが運ばれていく。

 人材派遣会社の場合は主に労働力として売買されるのだが、子どもの場合は違う。労働力としてよりも性的虐待や臓器売買などの方が遥かに価値が高いそうだ。

 6~12歳までの健康な子どもは性的虐待をされることが多く、ある程度身体が成長したら労働力としても働かされる。だが過剰な性虐待によって死なせてしまう事例が後を絶たない。

 その場合は臓器は売買され、残った子どもの死体は、金さえ払えば海賊たちがバラバラに解体して海に捨ててくれるらしい。

「………………」

 その時、キールの脳裏に歪んだクソジジイの顔が浮かんだ。

    ×    ×    ×

 ──あの日、ルルと離ればなれになった後のことだ。

 裸に剥かれて両手足を縛られている幼いキールと、その下半身に顔をうずめてモゾモゾと動いている老人ジジイの姿がある。すると幼いキールが我慢できずに声を漏らす。

「いや……。や、やめ……。──っ!」

 嫌がるキールが一瞬「ビクっ!」と全身を緊張させて、足のつま先をピンと伸ばす。そして全身の筋肉が緩み「だらん……」と力が抜けた。

 ………………………………………………ごっくん。

 なにかを飲み込んだ老人は唇を舐めながら、幼いキールに顔を近づけてきた。老人が興奮気味に息を吐いた。老人特有の不快な口臭が鼻の奥を突き刺し、キールが顔を歪める。そしてキールの耳元で老人がささやいた。

「ごちそうさま、美味しかったよ……」
「っ……! ひっ……ひっぐ……ひっぐ……」

 悔しさと恥ずかしさで涙を浮かべる幼いキールは顔を近づけてきた老人を睨みつけた。

    ×    ×    ×

 嫌悪が混じった苦々しい表情のキールが言う。

「……クソジジイが」
「え?」
「あ、いや……何でもない。ちょっと嫌な記憶を思い出しちまっただけだ。気にしないでくれ」
「そう……ですか」

 エイミーは不思議そうに訊ねてきたが、嫌な記憶ということ以外、キールは何も言わなかった。いや、言えなかったの方が正確だろう。誰にでも知られたくない過去の一つや二つはあるものだ。

 エイミーが話の続きをしてくれた。

 元々働き者で社会の役に立ちたかったエイミーは積極的に社会貢献活動を行っていたそうだ。だから奴隷制度に疑問を持った時点で一人でも支援活動を始めたらしい。

 最初にエイミーの活動に共感してくれたのが巨人族のゴメズである。彼と出会ったことをきっかけにエイミーは奴隷解放活動を本格的にスタートした。

 そして地道な活動の中でエイミーたちは奴隷市場に巨額の出資をしている者たちがいることを突き止めた。キールがたずねる。

「誰なんだ? その関わってる連中ってのは?」
「キールさんも聞いたことがあるはずです。世界で最も有名なカルト宗教団体『正義信愛教』です。その上層部が奴隷市場に多額の出資をしていることは既に調査済みです」
「……正愛教か」
「はい。私たちは奴隷売買に関わっている者のリストを手に入れました。その中の一人に記されていたのが、この国の頂点に君臨している賭博王『ドラキュリア・ベガ・ラグナス』だったんです」

 人材派遣会社は主に正愛教の信者たちによって運営されているものが多いそうだ。中には信者以外の会社も存在するが大抵は市場競争で負けてしまう運命にある。

 正愛教の信者たちは無給で働いてくれるため、基本的に人件費ゼロで運営できるのだ。そんな無茶苦茶な会社を相手にして普通の会社が勝てるわけがない。必然的に正愛教が管理する奴隷商会……いや、人材派遣会社だけが市場で勝ち残ることになる。

「正愛教の信者は奴隷の人身売買だって知っててやってるのか?」
「いえ、教団にいる末端の人たちは言われた通りに働いているだけです。それが唯一の救われる道だと信じて……」
「ただ働きなんて、オレなら絶対にゴメンだけどな」
「宗教団体に入信する人は、大抵は優しくて良い人が多いんです。純粋で真っ直ぐだから、疑うことを知りません。それに教えを疑うことは彼らにとって、自らの存在意義を否定することになりかねませんから……」
「疑うことを知らない、か。ある意味、その方が幸せかもな……」

 やるせなさそうにキールは言った。するとエイミーが立ち上がってキールに笑顔で言う。

「私はこれから準備してきますので失礼します。キールさんはゆっくり休んでいてくださいね」
「オレにも手伝えることはないか? 一時的とはいえ仲間なんだ。ただ休んでいるわけには──」
「その気持ちだけで十分です。でも今は身体からだを休めることに専念してください。作戦開始は今夜ですから、それまでに万全の状態にしていてほしいんです」
「そ、そうか……? 分かった」
「ふふ……期待してますからね、キールさん」
「ああ、任せろ」

 発電所襲撃作戦の開始時刻は今夜の0時。キールに残された時間は、あと一日だけだ。

 もし、この作戦が失敗したらどうなるのだろう。当然奴隷は解放できないなら、エイミーは諦めずに何度でも挑むだろう。

 ミドたちはどうする? 滞在期間を過ぎたら強制的に出国になるだろう。あれだけ喧嘩して抜けたんだ。もしかしたらここで別れることになるかもしれない。

 エイミーとミド、どちらを選ぶのだろうか。キールは深く深呼吸をして、つぶやく。

「……余計なこと考えんな。今に集中しろ」

 ぼんやりとした不安を落ち着かせるように言い聞かせながら、キールは静かに決意を固めた──。

                   *

 現在時刻、23時44分。あれからトラブルもなく時間が過ぎて、キールとエイミーの二人は南東の発電所付近まで来ている。エイミーが言う。

「……ちょっと早く来すぎちゃいましたね」
「そうだな」

 深夜の暗闇と淡い月明かりの中で息をひそめながらキールは返答する。

 周囲は豊かな緑色の自然に囲まれている。目の前には関係者以外立ち入り禁止と言わんばかりに有刺鉄線で囲まれた発電所がそびえ立っている。それを眺めながらキールが言う。

「もう一度、図面を見せてくれないか?」
「はい」

 小さく折り畳んだ発電所の図面をエイミーが取り出してキールに見せた。そして侵入ルートを確認し合おうと、二人は顔を近づける。

「………………////」

 エイミーは少し顔が紅潮させている。図面に描かれた侵入ルートを再確認したキールは視線を上げて発電所を見た。基本のルートは目の前の有刺鉄線を切って通れるくらいの穴を開けて侵入するわけだが──。

「?」

 すると何か違和感を感じたようにキールは眉間に皺を寄せた。そして発電所を睨みながらつぶやいた。

「……エイミー。アレ、もしかして『遊具』か?」

 キールの睨む目線の先には保育園などにあるような遊具がズラリと並んでいた。ブランコ、ジャングルジム、砂場、雲梯うんていなどが薄っすらと闇夜の中に確認できる。どう考えても発電所という危険な場所には似合わない物だ。

「何で発電所に遊具あんなもんがあるんだ?」
「………………」

 何かまだキールに話していないことがあるようだ。応えずらそうに俯きながらエイミーは沈黙してしまう。

「エイミー、知ってるなら話してくれ。協力する以上、隠し事はするな」
「そう、ですね……言っておかないといけませんね」

 落ち着いてエイミーが発電所に子ども用の遊具がある理由を話してくれた。

 発電所とは呼ばれているが実際はたくさんの鬼族の子どもが生活している保育施設なのだそうだ。つまり鬼族の子の孤児院のようなもので、ここで鬼族の子どもたちが電力を供給してくれている。

 未発達だが子どもでも雷臓は持っており、十分に発電する力は持っている。眠っている間に帯電した静電気を毎朝、電気椅子で放電させて職員が管理する蓄電器に充電させるのだ。

 無理やり放電させるため、痛みが生じて泣いて嫌がる鬼族の子も多い。採血のときの注射の痛みを嫌がるのと似ているかもしれない。

 発電所の職員先生は「悪いうみを出してるのよ」と言って、泣き出す鬼族の子を無理やり電気椅子に押さえつけて放電させる。中には一度も泣かない強い子もおり、そういった鬼族の子は「偉いね」と褒められるらしい。

 大人の鬼族の方が発電に長けているのに、なぜ“鬼族の子ども”を電力源にしているのか。理由は簡単で“子どもの方が扱いやすいから”である。

 鬼族は子どもでも、人族の大人と同等あるいはそれ以上の身体能力がある。つまり大人の鬼族となると手の付けられないほどの戦闘力を持つようになる種族なのだ。

 成長につれて余計な知識をつけて反逆、反抗する場合が考えられ、非常に危険な存在である。エイミーの奴隷解放の組織に所属している鬼族の女『ラムダ』がその典型だ。彼女は元々孤児院出身である。

 孤児院では成長して15歳になった鬼族は『巣立ち』と称して発電所の外に出される。そのときにオスメスで分けられる。

 基本的に新しい鬼族の子電池を量産するためにメスは出産を強制される。こう聞くと性奴隷のような扱いを受けるのかと想像するが実際は違う。鬼族のオスの精子をスポイトのような器具で鬼族のメスの膣内に注入していく流れ作業だ。

 こうして生まれた鬼族の子はすぐに親から引き離されて孤児院に送られて発電所の電力源になる。鬼族のメスは限界まで出産を余儀なくされた後、年齢的や体力的に出産が困難になったメスから順番に殺処分される。

 オスは優れた発電の遺伝子を持っている場合は精子を搾取される。つまり種馬のような存在にされるのである。毎日毎日、射精させられて性に対して嫌悪感を抱く者も少なくないらしい。

 大抵は数週間、数か月経つと舌を噛み切って自害するオスが多い。稀に逃げ出す鬼族のオスがいるが、大抵は海に逃げることがほとんどだ。海で助けてもらわない限り、海洋生物のエサにでもなっていることだろう。

 エイミーの話を聞いてキールは絶句する。その話が本当なら、まるで家畜じゃないか。こう言っては何だが、奴隷の方がまだマシですらある。

 エイミーは話している最中も目に涙を浮かべながら、時折り言葉に詰まりながらも最後まで話してくれた。キールはエイミーの背中をさすって気持ちを落ち着かせた。

 当初は大人の鬼族を説得して逃がすことを想像していたのだが、子どもならむしろ好都合かもしれない。言うことを聞かなくても力づくで連れて行くことも可能だからだ。はたから見れば完全に誘拐犯だが、そんなことは知ったことではない。

 涙を拭いて鼻をすすっているエイミーに対して、申し訳なさそうにキールが謝罪した。

「ごめんな、エイミー」
「いいんです。隠してた私が悪いんですから」

 エイミーは鼻をすすりながら言った。気づくとすでに時刻は23時58分を回っていた。気持ちを切り替えてキールが言う。

「もう少しで時間だ……準備はいいか?」
「はい、いつでも大丈夫です!」

 もうすぐ作戦開始時間である。キールは脳内でシュミレーションした内容を思い出す。

「10、9、8、7、6……」

 時計を見ながらキールがカウントダウンを始めた。神妙な面持ちで真っ直ぐエイミーは前を向いている。

「5、4、3……」

 ゴクリと息と唾液を飲みこんで、エイミーは集中している。

「2、1……0! 行くぞ、エイミー!」
「はい!」

 キールの掛け声にエイミーが反応して二人一緒に走り出す! 三日目の午前0時0分。ついに発電所襲撃作戦がスタートした!

                   *

 ──北の発電所、入り口手前の森林の中。

「あ……! あぁ……ラムダ。あああぁぁ……!」
っ……がぁ……! はや、早く逃げな! ラッシュッ!!!」

 鬼族の女、ラムダが口から血を吐きながら悲痛の声を上げていた。すると犬の獣族、ラッシュは腰を抜かしながらもなんとか四つん這いになって四足歩行で後方に駆け抜けていった。

 ラムダの背後には狂気の笑みを浮かべた赤髪のピエロが立っていた。ラムダの胸からはピエロの手が心臓を貫いている。ピエロの男がニヤニヤして言う。

「ダメダメ~。彼も殺せって言われてるんだから……◆」

 そう言うと心臓を貫いた方の手の平の中からトランプをパラパラと出現させて、もう片方の手でトランプを一枚だけ掴んだ。そのままブーメランのようにトランプを暗闇の中に飛ばした。

「──!」

 森の中から肉が引き裂かれる音と共に生物が息途絶える声が聞こえた。それと同時にラムダの心臓の鼓動も止まったようだ。瞳から光が無くなり、ビクンビクンしていた痙攣がゆっくりと収まっていく。そして全身から力が抜けて、だらんと人形の様になった。

 赤髪のピエロは心臓から手を引き抜いてハンカチで血を拭いている。そして言った。

「……さて、次の得物を探しに行こうかな★」

 その狂った赤髪のピエロは指先についた血を舐めながらつぶやき、次の標的ターゲットがいる方向を見据える。
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