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竜がいた国『パプリカ王国編』

激闘! ミド VS ドッペルフ!

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 バーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッッッッ!!!

 王家の墓、頂上で大きな爆発音が響き渡る。
 一瞬で水が蒸発してオレンジ色の炎が周囲に広がる。どうやら高温の火と水がぶつかったことによる爆発の様だ。

「があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! 熱いッ! 熱い熱い熱い熱い、熱いッッッ!!」

 ガリガリガリガリと顔と体を掻きむしりながらドッペルフが悲鳴を上げていた。実際に燃えているというわけではなさそうだが、もろに爆発の熱を浴びたようだ。目玉がドロリと飛び出しており、皮膚は焼け焦げてドロドロに溶けている。

「そのまま成仏してくれれば、ボクとしては助かったんだけどな~」
「き、貴様ああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」

 焼け焦げた大樹の裏からひょっこりと現れたミドが言うと、ドッペルフは目を血走らせながら叫んだ。するとミドが言う。

「知らなかったな~、幽霊でも熱さは感じるんだね~」

 ドッペルフは深呼吸を繰り返すと徐々に元の姿に戻っていった。霊体が熱を感じたのは確かなようだが、傷をつけるという意味では効果はなさそうだ。

 いわゆる幻肢痛げんしつうというヤツだろうか。死んでも熱いという感覚は霊体の中の記憶に残っているため、霊体自体にダメージがある訳ではないのにドッペルフは熱いと感じたのだろう。

 ドッペルフの霊体にはダメージがまったくなく、時間が立つと元の姿に戻っていく。飛び出した目玉は内側に引っ張られるように戻り、ドロドロに溶けていた皮膚は新陳代謝でもするかのようにボロボロと剥がれてキレイな肌が露出する。結局、振出しに戻ってしまったようだ。

「一瞬でキレイな肌に元通りなんて、美容部員ビューティアドバイザーが見たら羨《うらや》ましすぎて絶句するね」
「……はぁ、はぁ。竜人の火は、撃ち出すだけでは、ない。……はぁ、んぐッ。私の全身を、強化する、鎧にも、なるのだッ!」

 ドッペルフはよだれを垂らしながらそう言うと金色の火弾を生み出す。そしてそれを顔から全身に塗るようにまとっていく。オールバックの髪の毛につやが出て、肌は潤いを増していく。全身がジェルのような金色のオーラに包まれたドッペルフが唇をプルっと震わせて落ちついた声で言う。

「私の手で直々にほうむってあげましょう。旅人……!」

 ドッペルフの金色のジェルは油が引火しているかのようにメラメラと燃えており、ドッペルフは全身を炎の鎧に身を包んだ状態で言った。幻肢痛げんしつう霊体脳みそが痛いと感じなければどうということはない。竜人の火の鎧は恐い熱ではなく、身を守るものとしてドッペルフの霊体は記憶しているようだ。

 それを見てミドが言う。

「ワァオ、全身火だるま。まるで焼身自殺みたいだね~……」

 そう言ってドッペルフに木偶棒デクノボウを向けるミド。先端に水滴が生まれて膨らんでいく。ドッペルフは一切動揺している様子はなく、ミドを見下ろしている。

「火の用心、火の用心。マッチ一本火事の元っと!」

 ミドはドッペルフ目掛けて再び、水滴の弾丸レイリィ・ウル・マグナムを放った。超高圧縮の水弾は回転しながらドッペルフの額目掛けて飛んでいく。

「フッ」

 ドッペルフは鼻で笑った。片手で軽く水弾を薙ぎ払うと高圧縮の水弾はバシャと砕かれるように飛び散って消えていく。ミドがつぶやく。

「また水鉄砲ですか? くだらない」
「あらら~、弾かれちゃった。水と油って感じだね……」
「お遊びは終わりです」

 ──ギャオンッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!

「フフッ」
「──!?」

 その時、風を切り裂くような音がしたかと思うとミドの目の前にドッペルフが真顔で現れたかと思うとニヤッと口角が上がる。ミドは一瞬驚いてたじろぐが次の瞬間、前のめりになってしまう。

「ごはっ!」

 ドッペルフの腹部への打撃ボディブローがミドに直撃していた。その拳は高温で熱せられた鉄の棒のように赤く発光しており、腹部からジュッと焼ける音がした。拳がねじり込まれて内臓をねじられている様な感覚がミドの腹部に響く。

 一瞬の静止後、ミドの体液が口からほとばしり、衝撃で吹き飛ばされて背後にそびえ立つ王家の墓の王冠のような形状の壁に激突した。王家の墓が少しぐらついてボフンと砂埃が舞った。

 ドッペルフはミドが飛んでいった方向を見つめている。その拳は未だメラメラと熱と光を発しており、時間と共に蒸発するかのように赤みがなくなって肌色の手に戻る。

 ドッペルフの拳は金色のオーラに守られていて火傷の跡は一切ない。心を静めるかのように息を吐く。するとドッペルフの口から「ボォウッ……」と火炎放射のような火が一瞬生まれる。

「あっけない」

 ミドに一切の動きがなさそうなことを確認してドッペルフが言う。そのまま立ち去ろうとした時である。

 ガラガラ……。

 すると小石と中くらいの岩が転がっていく音に気付く。片方の眉をピクリと動かしてドッペルフが砂埃の奥を睨みつけた。すると明らかに不愉快そうな表情をした。

った~……」

 すると砂埃の中から飄々としたマヌケそうな声が聞こえてくる。どうやらミドは間一髪致命傷は避けていたらしい。ミドがゆっくり砂埃の中から現れた。服には丸い穴が開いており、その奥には木の板のようなものが見える。

 カランコロン、カララララン──。

 ミドの服の下からまな板のような木の板が落ちた。まな板は中心付近に黒く焼け焦げた後がくっきり残っており、明らかに殴られたような跡がある。

「ゲホッ、ゲホッ。知ってる? 鉄よりも木の方が熱伝導率が低いんだよ」

 ミドはお腹をさすりながらニヒ~と笑いながら言った。その仕草にドッペルフがビキビキッとこめかみに青筋を立てて苛立ちを見せて言う。

「そんな木の板など、私の竜の火で消し炭にしてやるッ!」

 するとミドは慌てて砂埃の中に入って身を隠すが、すでに砂埃は薄くなっていてミドの人影がくっきりとドッペルフの目には見えていた。ミドの影はどうしようどうしようと慌てるように右往左往している様子が見て取れる。

 ドッペルフは今度こそと笑いながら、ミドの影に狙いをさだめて大きく息を吸う。肺が限界というところまで大きく膨れ上がる。そしてせきを切ったように一気に息を吐きだす。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 すると、ドッペルフの目の前に巨大な炎の弾が生まれる。するとそれは光線ビームのような白く太い線となって一直線にビューンとミドが立っている方向に飛んでいって貫いた。

 バヒューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン! ボゥ……。

 光線ビームと通り過ぎて行った場所は丸くえぐられており、黒くなって焦げた臭いを漂わせている。王家の墓の王冠のような突起の壁は丸くくり抜かれたように穴が開いている。ボゴンと重さに耐え切れず折れて塔の下に真っ逆さまに落ちていき、地面に激突して砕ける音が響いた。

「はぁ、はぁ、はぁ……。やっと、死にましたか」

 ドッペルフは息を荒くしている。今度こそ殺せただろうと思っているのだろうか。ドッペルフは嫌な予感がしているのか、額から汗を流しながら周りをキョロキョロと見回す。そのときである。

「口から火を吐くなんて、まさにドラゴンって感じだったね~。カッコいい~」

 ドッペルフの嫌な予感が的中するように、背後から聞きたくない声が聞こえてきた。ドッペルフが後ろを振り返る。すると声の主が言った。

「残念、はずれでした~」

 ミドの隣には彼と同じ身長のサイズで全く同じシルエットの木の板が立っていた。ミドがそれに肩を組むかのように手を乗せてニッコリ笑いながらドッペルフに声をかけてきたのだ。
 先ほど炎を吐き出した場所をドッペルフが確認する。そこには、チリチリに焼け焦げたベニヤ板のようなものが立っており、その頭部と右半身が無くなっている。

 そしてミドが言う。

「さて……やられっぱなしじゃしゃくだし、次はボクのターンでいいよね」

 両手を胸の前で合わせて手の平の間から、ミドは木偶棒デクノボウを生み出してクルクル回して構えを取る。それを見たドッペルフのイライラは頂点に達しているようだ。歯ぎしりをしてミドを睨みつける。

「んぐぐぐぐぐ……!」
「おお、怖い怖い。蛇に睨まれた蛙……あ、蛇じゃなくて、竜に睨まれた蛙の方が正しいかな?」

 ミドが目線を斜め上に向けて腕を組んで考える仕草をしている。するとドッペルフが一直線にミドに近づき真っ赤な拳で連打を繰り出す。

「この雑草野郎があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「やれやれ、ボクのターンだって言ってるのに……」

 ドッペルフの炎の連打がミドに向かって繰り出される。

 ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! 打《ダ》ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! ッ! 打《ダ》ッ!

 ドッペルフの打撃が打ち抜かれるたびに炎がボッと舞い上がって、その拳から熱と光を発する。

「おっと!」

 ひょいっ! ひょいっ! ゆらっ! ゆらっ! ひょいっ! ゆらっ! ゆらっ!
 ゆらっ! ゆらっ! ひょいっ! ひょいっ! ゆらっ! ひょいっ! ひょいっ!

 草木が風に揺られるように、ミドは優雅に動いてドッペルフの炎の拳を避ける。

 ひょいっ! ひょいっ! ひょいっ! ゆらっ! ゆらっ! ゆらっ! ひょいっ! ひょいっ! ひょいっ! ゆらっ! ゆらっ! ゆらっ! ひょいっ! ひょいっ! ひょいっ! ゆらっ! ゆらっ! ゆらっ! ひょいっ! ひょいっ! ひょいっ! ゆらっ! ゆらっ! ゆらっ! ひょいっ! ひょいっ! ひょいっ! ゆらっ! ゆらっ! ゆらっ! ひょいっ! ひょいっ! ひょいっ! ゆらっ! ゆらっ! ゆらっ! ひょいっ! ひょいっ! ひょいっ! ゆらっ! ゆらっ! ゆらっ! ひょいっ! ひょいっ! ひょいっ! ゆらっ! ゆらっ! ゆらっ! ひょいっ! ひょいっ! ひょいっ! ゆらっ! ゆらっ! ゆらっ! ひょいっ! ひょいっ! ひょいっ! ゆらっ! ゆらっ! ゆらっ! ひょいっ! ひょいっ! ひょいっ! ゆらっ! ゆらっ! ゆらっ! ひょいっ! ひょいっ! ひょいっ! ゆらっ! ゆらっ! ひょいっ! ひょいっ! ひょいっ! ゆらっ! ゆらっ! ひょいっ! ひょいっ! ひょいっ! ゆらっ! ゆらっ! ひょいっ! ひょいっ! ひょいっ! ゆらっ! ゆらっ!

 ミドは間一髪ドッペルフの打撃を避け続ける。たまに炎がかすって熱がっている瞬間もあったが、かろうじてまだ当たってはいない。

「森羅万象! ──猫じゃらし──」

 ミドが手の平から何かの小さな植物を生み出すと、それをドッペルフの鼻に向けて言う。

「こちょこちょこちょこちょこちょ」
「は、ふぇあっは、ヘックショイッッッッッッッッッッッッッッッッ!!」

 ドッペルフは鼻をくすぐられてくしゃみをしてしまう。そのとき、ドッペルフが体勢を一瞬だけ崩した。ミドはそれを見逃さない。

「くだらん真似マネを!」

 ドッペルフがイラつきながらミドを睨む。その時ミドはすかさず木偶棒デクノボウをビリヤードでショットを打つように構えていた。

「──死神の狙撃ジン・ショット──」

 ミドが一気に木偶棒デクノボウを打ち抜く。ドッペルフの腹部に木偶棒デクノボウがめり込んでいく。

「ごふっ!」
「伸びろッ! 木偶棒デクノボウおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 すかさずミドが叫び、そのままドッペルフを木偶棒デクノボウで押していくと王家の墓の王冠部分の突起状の壁に向かってドッペルフが激突する。

 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン。

 ドッペルフのみぞおちに直撃した木偶棒デクノボウの先端がグググ……ッとさらに押し続ける。ドッペルフは顎が外れたかのように口を大きく開けて唾液をこぼし、両目を見開いて失神している。

「戻れ」

 ミドは木偶棒デクノボウに戻れと命令してすぐに手元に戻す。ドッペルフに木偶棒デクノボウを掴まれて奪われることを防ぐためだ。敵の武器を奪う、あるいは壊すのは戦いを有利にする基本中の基本である。

 ミドは膝をついているドッペルフに言う。

「どうしたの? もう終わり?」
「クソがッッッッッッッッ!! なぜだ……?! なぜ私にさわれる!!???」
「悪いけど、手品の種明かしはできないな~」
「私に触れる者など存在しないはずだ! 生物である以上、霊体の私に触れるはずがない!!!」

 ドッペルフは信じられない、信じたくないといった風にミドに叫び散らした。そして両手をついたままドッペルフはミドを見上げる。

 ミドは木偶棒デクノボウを片手で後ろに構えたまま、ドッペルフから目を離さない。その姿は飄々とふざけているようで一切隙を感じられない。それでもどこかに隙があるはずだと観察を繰り返す。

「!」

 そのとき、ドッペルフはミドの背後に奇妙な白い紐のようなものを発見する。それはとても薄く、よく目を凝らさないと見えないほどのものだった。ドッペルフはそれが何かを知っていた。

「んふっ、んふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ。分かったぞ。貴様の正体が……!」

 ドッペルフは不気味に嗤った。そしてミドに悟られないようにゆったりと立ち上がると背後にいた亡霊たちに何やら命令を出す。

 ミドはドッペルフの動きを警戒して木偶棒デクノボウを構える。しかしドッペルフは自ら動きだす気配がない。また金色の弾丸を撃つのかと思いきや、その様子も見られない。ただただ、不気味に嗤ってミドを眺めているだけである。

「なに笑ってるんだ? 気でも触れたのか?」
「少し考えれば分かることでした。霊体に生物は触れることはできない。そう“生物は”です」

 ミドの背後に複数体の亡霊たちが迫り、白い紐を掴んだ。

「!?」

 するとミドは両目から光が失われて──。

                   *

 ──その頃、マルコはミドの肉体抜け殻を目の当たりにして驚愕していた。

「これは……ミドさん?!!」

 ミドの肉体抜け殻は肌が青白くなっており、まるで眠っているかのようだった。そして、ミドの頭部からは薄っすらとだが、白い紐のようなものが伸びていた。
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