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オトナの権利の国
頭が高ぁあああいィ! この紋所が目に入らぬっスかぁ!
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「どうして売ってくれないっスか! お金ならあるっスよ!?」
屋台の店主とフィオが周りに聞こえるくらいの声で口論していた。
「そういう問題じゃねぇんだよ! 権利の問題だ!」
「権利って何スか!? あーしにも食べる権利はあるはずっス!」
「違う! アンタの大人の権利証を見せろって言ってんだ!」
「そんな物持ってないっス!!」
「じゃあ売れねぇな! 出直してきな!」
フィオは泣きそうになりながら、顔を真っ赤にしてプンスカ怒っている。するとミドとキール、ペトラの三人が何事かと近づいてきた。
「やっと見つけたぞ、迷子娘。一人で勝手に動くなって言ったろ、今度はなに騒いでんだ?」
最初に声をかけたのはキールだった。続いてミドが心配そうにフィオに問いかける。
「どうしたのフィオ?」
「ミドくん聞いてほしいっス! この頑固親父、大人の権利がなきゃ、お饅頭を売ってくれないって言うんスよ! あーし等そんなものもらってないっスよね!??」
「大人の権利?」
ミドが首を傾げる。フィオが続けて不満を洩らした。
「大体、権利権利ってうるさいんスよ! 権利がなきゃ何もできないなら、権利なんてクソくらえっス!」
するとペトラがキールに耳打ちをする。キールは思い出したように胸ポケットからカードのような物を取り出してペトラに渡す。
ペトラはキールから受け取った何かのカードを店主に突きつけた。
「これで、問題ありませんよね?」
「なんだぁ? 子どもが大人の話に口を……!?」
店主は急に顔色を変える。するとフィオに向き直って頭を下げながら言った。
「なるほど、すまねぇ旅人さん。それを持ってるってことは、正式な手続きをして入国された旅人さんってことですね……」
「ほえ?」
店主の態度が激変したことに、フィオが目を丸くして呆気に取られていると、ペトラがニッコリ微笑んで頷いた。
――現在ミドたちは、国の中でも屋台や露店が立ち並ぶ城下町を散策している。
「うひゃひゃひゃひゃあ! やっぱり世の中権利っス! 権利さえあれば何でもできるっス!」
フィオは上機嫌で浮かれていた。
彼女の首には紐をつけた『旅人の権利証』がブラ下がっている。そして大量のお饅頭が入った紙袋を持っていた。
フィオが饅頭を満足そうに食べながらと、すぐに新しい屋台を見つけては直行する。屋台には「わたあめ」と書かれたのれんが見える。
屋台の店員にフィオが胸を張り、首にぶら下がった権利証を片手で突き出して、
「この紋所が目に入らぬっスかぁ!」
と言う。すると屋台の男が、
「もんどころ? ……ああ、はい。その権利証は旅人さんだね。いらっしゃい!」
と言って、丁寧に接客してくれる。
店主は手慣れた手つきでザラメを機械の穴に流し入れて、雲のように浮かび上がってくる白い糸を割りばしに巻きつけながら訊ねてくる。
「旅人さんってことは、案内人の人も一緒にいるんだろう? でなきゃ出歩けるはずがないからねぇ。どこにいるんだい?」
「私が案内人です」
「は? 君が案内人?? まだ子どもじゃ――」
ペトラが答えると、屋台の主人はペトラを見て訝しげな態度で言う。
するとペトラがおもむろに、フィオが持っているものとは違う権利証を取り出して見せる。そして屋台の主人の言葉を遮るように言った。
「これで信じてもらえますか?」
「……これは失礼しました。子ども扱いしたことをお詫び申し上げます」
「いえ、よく間違われますんで、お気になさらず……」
ペトラが屋台の主人に微笑んだ。
屋台のおじさんがフィオに綿あめを渡してくる。フィオはそれを満面の笑みで受け取った。
「おっちゃん、ありがとうっス!」
「また来てね、お嬢ちゃん!」
フィオはお饅頭の入った紙袋と逆の手で綿あめを食べながら歩いている。するとキールが釘を刺すように言う。
「フィオ、分かってると思うが無駄遣いするなよ」
「分かってるっスよ!」
「つーか、さっきあれだけ食ってまだ入るのか……」
「これは別腹っス!」
フィオは食べながら笑みが止まらない様子である。キールはそれを見て呆れていた。
フィオが偉そうに突き出していた権利証は『旅人の権利証』だ。それはミドたちが入国した際に入国審査官の男からキールが渡されたものである。
この国は権利を重んじる国であるという、やたら長い話を聞かされた最後に入国審査官の男が渡してきたらしい。
× × ×
入国審査官の男が言った。
「最後に……これは旅人さんの滞在期間中のみ旅人さんの権利を証明するものです。出国まで、間違っても絶対に失くさないでください。いいですね?」
「ん? ああ、分かった」
キールが入国審査官の男から、『旅人の権利証』を受け取る――。
× × ×
「なんでさっき助けてくれなかったっスか? キールがすぐに『旅人の権利証』を出せば解決したんスよ?」
「知らなかったんだよ、まさかそこらの屋台の店主にまで権利で騒がれるとはな。それより、一人で勝手に動いて迷子になったことを少しは反省しろよ」
フィオの問い詰めにキールが答える。
この国では大人の権利を持たないと、ある程度の自由が利かない。しかし旅人は大人の権利を持っていない状態、つまり旅人は正式には「子ども」に分類されている。
案内人は、いわば保護者役だ。
旅人が分類上は「子ども」だからといって、子ども扱いするわけにはいかない。しかし、滞在期間が限られている旅人に、わざわざ一生ものの大人の権利を発行することはできない。
そこで大人の権利証の代わりに『旅人の権利証』が渡されるのだ。
それは本来は「旅人の入出国の自由を認める」といった権利で、それ以上でもそれ以下でもない。だが、この国では『旅人の権利』はとても重要な扱いをされている。レベルで言えば、大人の権利と同程度、あるいはそれ以上の価値がある権利である。
国としては外からの観光客事業も収入源の一つである。したがって、旅人は国の評判を他国に広めてくれる、いわば宣伝をしてくれる人たちだ。
宿から出る権利を与えられなかったのは案内人を雇わせるためである。それは国の意向であり、旅人には案内人から国の素晴らしさの説明を受けながら観光をしてもらうのだ。
もし旅人が自由に動けるようにしてしまったら、案内人を必要としないかもしれない。それでは国の素晴らしさを旅人に印象付けることができない、それでは困るのだ。
「旅人さんが持ってる『旅人の権利証』はとても重要な証明書なので、絶対に失くさないでください。どんな理由であれ、それを失ったら旅人さんは出国できなくなりますから」
ペトラが歩きながら、三人の旅人に言う。
ミドはペトラの話に耳を傾けている。キールはポッケに手を入れて黙って聞いていた。フィオはわたあめを頬張りながら次の屋台をキョロキョロと探していた。
するとミドが言った。
「へぇ~そんなに重要なものなんだねぇ~」
「権利はどんなものでも重要なんです。例えばこの国では『大人の権利証』がなければ、大人として認めてもらえません」
「大人の権利って、さっき言ってたやつ?」
「そうです」
ミドが問いかけるように言うと、ペトラは大人の権利について説明をしてくれた。
国民は一二歳になれば、『大人の権利』を発行できる権利が全ての国民に与えられる。しかし、それには保護者である親の許可が必要である。
この国では『大人の権利』を与えられて初めて自由に判断できる人間として認めてもらえるといっても過言ではない。それまでは『子ども』という扱いになり、大人の言うことには絶対に逆らうことはできない。
もし子どもが大人に逆らった場合には、その子どもは国の更生施設に送られることになるだろう。どんな場所なのかペトラは知らないが、そこに行けば正しい子どもになれると言われている。
子どもから大人の権利を手に入れた国民は、お祝いとして『国に一つだけ、お願いごとを叶えてもらう権利』が与えられるという法律がある。
大抵は一二歳で親から大人の権利を発行手続きをしてもらう人が多い。そのため、お菓子や、おもちゃ等を欲しい等の、プレゼントをお願いする人が多いそうだ。
ただ中には、他者に何かをしてほしいというお願いもあるそうだ。
例えば両親に温泉旅行をプレゼントしてほしいといった親孝行なお願いから、恨みのある人を国外追放にしてほしいといったネガティブなお願いまで様々である。
それがどんなお願いであっても、『一つだけ』必ず叶えてもらえる、必ずである。
ミドがペトラに訊ねる。
「ペトラは『大人の権利』を持ってるの?」
「はい、持ってます。さっき私が屋台のおじさんに見せたものが『大人の権利証』です」
「ああ~! あれが……じゃあ、ペトラは大人なんだね~」
「はい……そう、ですね」
ペトラは咄嗟に嘘をついた――。
実は、まだ父親の許可を得たわけではない。先ほど提示した権利証は母親が持っていた大人の権利証である。ペトラはそれを母の形見として大事に持っていただけだった。
だがそれを旅人にわざわざ言う必要はないと判断したのだ。
本来は家族といえど、他者の権利を自分のものと偽って使うのは重い罪に問われる。
母の大人の権利を使うのは、自分の大人の権利を手に入れるまでだ。一時的に借りているだけなのだ。ペトラはそう心の中で何度もつぶやいた。
ミドが話をまとめるように言う。
「じゃあ、ボクたち旅人は年上の『子ども』で、ペトラは年下の『大人』なんだね~。それに案内人が保護者ってことは、ペトラはボクたちのお母さんってことだね~。これからは、ペトラママって呼んで甘えてもいいのかな?」
「え!? いや、それは……」
ペトラが困惑していると、
「年下に甘えるっていうのも悪くないな~。でゅふふふふ……」
ミドが鼻の下を伸ばして笑った。
「ミドくんがペトラちゃんに母性を感じてるっス! 未成年でもお構いなしっスか! この犯罪者!」
「ペトラは『大人の権利』を持ってるんだから、立派な大人だよ。それに犯罪者ってのも、賞金首って意味では、あながち間違ってないけどね~」
「開き直ったっス!」
ミドとフィオが、いつもの掛け合いをする。それを傍から見てキールがため息をつくまでが一連の流れである。
するとミドが思い出したように言う。
「そういえば、大人の権利を持ってるってことは……ペトラはどんなお願いを国にしたの?」
「え、それは……」
ペトラは言葉に詰まった。
実際はまだ大人ではないのだから、お願いなどしているはずがない。ペトラは必死に頭を回転させて考えた。しかし何も思い浮かばず、咄嗟に言う。
「――秘密です」
「………………」
ミドはさっきまでの表情から一変して真顔になると沈黙した。ペトラをじっと見つめるその瞳はとても澄んでおり、全てを見透かしたように見えた。
ペトラが硬直していると、ミドは口角を上げてヘラヘラしながら「そっか~」とだけ言って、それ以上は追及しなかった。
――その時、強い風が吹く。
「ぶっ!?」
ヘラヘラしたミドの顔に紙が飛んできて覆いかぶさった。その紙を手で取って見てみる。そこには『行方不明 連絡求む』と書かれており、写真が載っていた。
その写真の少女は、どう見ても……。
「ペトラ?」
ミドは聞こえない程度の声でつぶやいた――。
屋台の店主とフィオが周りに聞こえるくらいの声で口論していた。
「そういう問題じゃねぇんだよ! 権利の問題だ!」
「権利って何スか!? あーしにも食べる権利はあるはずっス!」
「違う! アンタの大人の権利証を見せろって言ってんだ!」
「そんな物持ってないっス!!」
「じゃあ売れねぇな! 出直してきな!」
フィオは泣きそうになりながら、顔を真っ赤にしてプンスカ怒っている。するとミドとキール、ペトラの三人が何事かと近づいてきた。
「やっと見つけたぞ、迷子娘。一人で勝手に動くなって言ったろ、今度はなに騒いでんだ?」
最初に声をかけたのはキールだった。続いてミドが心配そうにフィオに問いかける。
「どうしたのフィオ?」
「ミドくん聞いてほしいっス! この頑固親父、大人の権利がなきゃ、お饅頭を売ってくれないって言うんスよ! あーし等そんなものもらってないっスよね!??」
「大人の権利?」
ミドが首を傾げる。フィオが続けて不満を洩らした。
「大体、権利権利ってうるさいんスよ! 権利がなきゃ何もできないなら、権利なんてクソくらえっス!」
するとペトラがキールに耳打ちをする。キールは思い出したように胸ポケットからカードのような物を取り出してペトラに渡す。
ペトラはキールから受け取った何かのカードを店主に突きつけた。
「これで、問題ありませんよね?」
「なんだぁ? 子どもが大人の話に口を……!?」
店主は急に顔色を変える。するとフィオに向き直って頭を下げながら言った。
「なるほど、すまねぇ旅人さん。それを持ってるってことは、正式な手続きをして入国された旅人さんってことですね……」
「ほえ?」
店主の態度が激変したことに、フィオが目を丸くして呆気に取られていると、ペトラがニッコリ微笑んで頷いた。
――現在ミドたちは、国の中でも屋台や露店が立ち並ぶ城下町を散策している。
「うひゃひゃひゃひゃあ! やっぱり世の中権利っス! 権利さえあれば何でもできるっス!」
フィオは上機嫌で浮かれていた。
彼女の首には紐をつけた『旅人の権利証』がブラ下がっている。そして大量のお饅頭が入った紙袋を持っていた。
フィオが饅頭を満足そうに食べながらと、すぐに新しい屋台を見つけては直行する。屋台には「わたあめ」と書かれたのれんが見える。
屋台の店員にフィオが胸を張り、首にぶら下がった権利証を片手で突き出して、
「この紋所が目に入らぬっスかぁ!」
と言う。すると屋台の男が、
「もんどころ? ……ああ、はい。その権利証は旅人さんだね。いらっしゃい!」
と言って、丁寧に接客してくれる。
店主は手慣れた手つきでザラメを機械の穴に流し入れて、雲のように浮かび上がってくる白い糸を割りばしに巻きつけながら訊ねてくる。
「旅人さんってことは、案内人の人も一緒にいるんだろう? でなきゃ出歩けるはずがないからねぇ。どこにいるんだい?」
「私が案内人です」
「は? 君が案内人?? まだ子どもじゃ――」
ペトラが答えると、屋台の主人はペトラを見て訝しげな態度で言う。
するとペトラがおもむろに、フィオが持っているものとは違う権利証を取り出して見せる。そして屋台の主人の言葉を遮るように言った。
「これで信じてもらえますか?」
「……これは失礼しました。子ども扱いしたことをお詫び申し上げます」
「いえ、よく間違われますんで、お気になさらず……」
ペトラが屋台の主人に微笑んだ。
屋台のおじさんがフィオに綿あめを渡してくる。フィオはそれを満面の笑みで受け取った。
「おっちゃん、ありがとうっス!」
「また来てね、お嬢ちゃん!」
フィオはお饅頭の入った紙袋と逆の手で綿あめを食べながら歩いている。するとキールが釘を刺すように言う。
「フィオ、分かってると思うが無駄遣いするなよ」
「分かってるっスよ!」
「つーか、さっきあれだけ食ってまだ入るのか……」
「これは別腹っス!」
フィオは食べながら笑みが止まらない様子である。キールはそれを見て呆れていた。
フィオが偉そうに突き出していた権利証は『旅人の権利証』だ。それはミドたちが入国した際に入国審査官の男からキールが渡されたものである。
この国は権利を重んじる国であるという、やたら長い話を聞かされた最後に入国審査官の男が渡してきたらしい。
× × ×
入国審査官の男が言った。
「最後に……これは旅人さんの滞在期間中のみ旅人さんの権利を証明するものです。出国まで、間違っても絶対に失くさないでください。いいですね?」
「ん? ああ、分かった」
キールが入国審査官の男から、『旅人の権利証』を受け取る――。
× × ×
「なんでさっき助けてくれなかったっスか? キールがすぐに『旅人の権利証』を出せば解決したんスよ?」
「知らなかったんだよ、まさかそこらの屋台の店主にまで権利で騒がれるとはな。それより、一人で勝手に動いて迷子になったことを少しは反省しろよ」
フィオの問い詰めにキールが答える。
この国では大人の権利を持たないと、ある程度の自由が利かない。しかし旅人は大人の権利を持っていない状態、つまり旅人は正式には「子ども」に分類されている。
案内人は、いわば保護者役だ。
旅人が分類上は「子ども」だからといって、子ども扱いするわけにはいかない。しかし、滞在期間が限られている旅人に、わざわざ一生ものの大人の権利を発行することはできない。
そこで大人の権利証の代わりに『旅人の権利証』が渡されるのだ。
それは本来は「旅人の入出国の自由を認める」といった権利で、それ以上でもそれ以下でもない。だが、この国では『旅人の権利』はとても重要な扱いをされている。レベルで言えば、大人の権利と同程度、あるいはそれ以上の価値がある権利である。
国としては外からの観光客事業も収入源の一つである。したがって、旅人は国の評判を他国に広めてくれる、いわば宣伝をしてくれる人たちだ。
宿から出る権利を与えられなかったのは案内人を雇わせるためである。それは国の意向であり、旅人には案内人から国の素晴らしさの説明を受けながら観光をしてもらうのだ。
もし旅人が自由に動けるようにしてしまったら、案内人を必要としないかもしれない。それでは国の素晴らしさを旅人に印象付けることができない、それでは困るのだ。
「旅人さんが持ってる『旅人の権利証』はとても重要な証明書なので、絶対に失くさないでください。どんな理由であれ、それを失ったら旅人さんは出国できなくなりますから」
ペトラが歩きながら、三人の旅人に言う。
ミドはペトラの話に耳を傾けている。キールはポッケに手を入れて黙って聞いていた。フィオはわたあめを頬張りながら次の屋台をキョロキョロと探していた。
するとミドが言った。
「へぇ~そんなに重要なものなんだねぇ~」
「権利はどんなものでも重要なんです。例えばこの国では『大人の権利証』がなければ、大人として認めてもらえません」
「大人の権利って、さっき言ってたやつ?」
「そうです」
ミドが問いかけるように言うと、ペトラは大人の権利について説明をしてくれた。
国民は一二歳になれば、『大人の権利』を発行できる権利が全ての国民に与えられる。しかし、それには保護者である親の許可が必要である。
この国では『大人の権利』を与えられて初めて自由に判断できる人間として認めてもらえるといっても過言ではない。それまでは『子ども』という扱いになり、大人の言うことには絶対に逆らうことはできない。
もし子どもが大人に逆らった場合には、その子どもは国の更生施設に送られることになるだろう。どんな場所なのかペトラは知らないが、そこに行けば正しい子どもになれると言われている。
子どもから大人の権利を手に入れた国民は、お祝いとして『国に一つだけ、お願いごとを叶えてもらう権利』が与えられるという法律がある。
大抵は一二歳で親から大人の権利を発行手続きをしてもらう人が多い。そのため、お菓子や、おもちゃ等を欲しい等の、プレゼントをお願いする人が多いそうだ。
ただ中には、他者に何かをしてほしいというお願いもあるそうだ。
例えば両親に温泉旅行をプレゼントしてほしいといった親孝行なお願いから、恨みのある人を国外追放にしてほしいといったネガティブなお願いまで様々である。
それがどんなお願いであっても、『一つだけ』必ず叶えてもらえる、必ずである。
ミドがペトラに訊ねる。
「ペトラは『大人の権利』を持ってるの?」
「はい、持ってます。さっき私が屋台のおじさんに見せたものが『大人の権利証』です」
「ああ~! あれが……じゃあ、ペトラは大人なんだね~」
「はい……そう、ですね」
ペトラは咄嗟に嘘をついた――。
実は、まだ父親の許可を得たわけではない。先ほど提示した権利証は母親が持っていた大人の権利証である。ペトラはそれを母の形見として大事に持っていただけだった。
だがそれを旅人にわざわざ言う必要はないと判断したのだ。
本来は家族といえど、他者の権利を自分のものと偽って使うのは重い罪に問われる。
母の大人の権利を使うのは、自分の大人の権利を手に入れるまでだ。一時的に借りているだけなのだ。ペトラはそう心の中で何度もつぶやいた。
ミドが話をまとめるように言う。
「じゃあ、ボクたち旅人は年上の『子ども』で、ペトラは年下の『大人』なんだね~。それに案内人が保護者ってことは、ペトラはボクたちのお母さんってことだね~。これからは、ペトラママって呼んで甘えてもいいのかな?」
「え!? いや、それは……」
ペトラが困惑していると、
「年下に甘えるっていうのも悪くないな~。でゅふふふふ……」
ミドが鼻の下を伸ばして笑った。
「ミドくんがペトラちゃんに母性を感じてるっス! 未成年でもお構いなしっスか! この犯罪者!」
「ペトラは『大人の権利』を持ってるんだから、立派な大人だよ。それに犯罪者ってのも、賞金首って意味では、あながち間違ってないけどね~」
「開き直ったっス!」
ミドとフィオが、いつもの掛け合いをする。それを傍から見てキールがため息をつくまでが一連の流れである。
するとミドが思い出したように言う。
「そういえば、大人の権利を持ってるってことは……ペトラはどんなお願いを国にしたの?」
「え、それは……」
ペトラは言葉に詰まった。
実際はまだ大人ではないのだから、お願いなどしているはずがない。ペトラは必死に頭を回転させて考えた。しかし何も思い浮かばず、咄嗟に言う。
「――秘密です」
「………………」
ミドはさっきまでの表情から一変して真顔になると沈黙した。ペトラをじっと見つめるその瞳はとても澄んでおり、全てを見透かしたように見えた。
ペトラが硬直していると、ミドは口角を上げてヘラヘラしながら「そっか~」とだけ言って、それ以上は追及しなかった。
――その時、強い風が吹く。
「ぶっ!?」
ヘラヘラしたミドの顔に紙が飛んできて覆いかぶさった。その紙を手で取って見てみる。そこには『行方不明 連絡求む』と書かれており、写真が載っていた。
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