ミドくんの奇妙な異世界旅行記

作者不明

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オトナの権利の国

ミドくんの選択! 小太りの来訪者と、少女の涙――

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本当マジっスか!?」

 開口一番に声を上げたのはフィオだった。
 突然の来訪者にキールは訝しげな表情をしている。ミドはペトラをジッと見つめている。するとペトラはフィオに応えるように言う。

「申し遅れました。私はペトラと申します、この国で案内人を務めています」

 ペトラと名乗った少女は、恭しく頭を下げた。
 どうやら彼女を連れて行けば宿の外に出られるらしい。三人にとっては、まさに救いの女神と言ってもいいだろう。

「君が案内をしてくれるの?」
「はい、ご安心ください。旅人さんがご満足いただけるよう精一杯この国をご案内させていただきます」

 ミドが訊ねると、ペトラも丁寧に返してくれた。するとキールがペトラに訊く。

「で? いくらで雇えるんだ?」
「あ、えっと……、五〇〇〇ゼニーでいかがでしょう?」

 ペトラは一瞬迷ったような表情を見せながら言う。キールはその顔を見て目を細める。ミドが少し違和感を感じたのか、首を傾げてペトラを見つめる。

「五〇〇〇ゼニーっスか、妥当な金額っスね。前の国でも五二〇〇ゼニーとか取られたっスよ」

 フィオは何の疑いもなしにペトラの提示した報酬額を受け入れていた。
 ミドとキールも不満があった訳ではない。しかし少女の様子が少し気になったが、今は渡りに船である。このチャンスを逃すわけにはいかない。

「いいだろう、五〇〇〇ゼニーで問題ない。今すぐ案内してもらえるか?」
「はい」

 キールが了承するとミドとフィオも同意する。ペトラも緊張が解けたのか口元がほころんで返事をした。

 ミド、キール、フィオの三人はペトラと無事に契約を交わした。

 ――その時だった。

「旅人さん、宿から出られなくてお困りではありませんか?」

 小太りの男が現れてミドたちに話しかけてきた。ミドが男に訊き返す。

「えっと……あなたは?」
「これはこれは申し遅れました。私はこの国で案内人の派遣をしている者です。案内人が付き添うことで、旅人さんがこの国を自由に観光できますよ。しかも今なら旅人さん限定の特別価格、四〇〇〇ゼニーでこの国をご案内いたしますよ! いかがですか?」

 それは案内人の報酬額としては破格の値段だった。
 ペトラの提示した金額は五〇〇〇ゼニー、対して小太りの男は四〇〇〇ゼニーである。普通に考えれば安いほうに飛びつくのが世の常というものだろう。ペトラも当然それを理解している。

 それに旅人は大抵が貧乏である可能性が高い。できるだけ出費を抑えたいと考えるのが自然な発想だ。

 小太りの男も考えることはペトラと同じだった。この国に来る旅人は宿から出る権利がないことを知っている。そこで案内人を提案すれば、旅人は必ず飛びつくに違いない。現に今までだってそれで失敗したことなど、一部の例外を除けば皆無と言ってもいいだろう。

 小太りの男はペトラを乱暴に押しのけると、ニヤニヤと笑いながら両手をこねてミドに迫った。ペトラは、ドンと押されて少しよろめくと不安そうにミドを見つめた。
 ペトラの両目が潤んで、口元にぎゅっと力が入るのが分かった。

「いかがですか、旅人さん?」

 小太りの男が息が吹きかかるほど顔を近づけて、ミドに迫る。
 小太りの男の向こう側で、ペトラが背中を向けたことにミドが気づいた。ペトラの小さな肩が小刻みに震えているのが分かる。小さな手は拳を握って震えていた。

「旅人さんも上手いですねー! では今回だけ特別に、三九〇〇でいかがですか?」

 小太りの男が値段を下げ始めた。
 ペトラがくるっと振り返ると、先ほどまでの肩の震えは消えていた。表情は明るく笑顔で、気丈に徹しているのが分かる。
 その瞳から、涙が、一粒だけ、頬を伝って……こぼれ落ちた。ミドは少女の涙を見逃さない。

「いやぁー、旅人さんには負けましたよ! 今回は出血大サービスで三五〇〇だ!」

 ペトラが踵を返し、服の袖で顔を拭ってから立ち去ろうとする。
 ミドは小太りの男を真っ直ぐ見据えて言った。


「――すみません、もう先約がいるので」


 ペトラが「!?」と驚いて振り返る。ミドがペトラを見てニコッと微笑んだ。するとキールはミドの意向に気づいて言う。

「その通りだ、悪いなおっさん」
「え! でもおじさんの方が安……ぶっ――」

 フィオが何か言おうとするのをキールが口を押えて黙らせた。
 ミドがペトラの横に歩いて行き、ペトラの肩に軽く手を添えて言う。

「ボクたちは、このに案内人をしてもらいます。ですので貴方のご提案は、お断りさせていただきます」
「は? この娘が案内人???」

 小太りの男は訳が分からず困惑して言う。

「ちょっと待ってください! どういうことですか旅人さん? その娘はまだ『子ども』ですよ!?」
「それでは失礼します」

 ミドは小太りの男を無視してペトラの手を取って歩いて行く。するとキールとフィオも小太りの男を横を通り過ぎてミドについて行った。

「ちょっと~、本当に良いっスか? おじさんあっちの方が安いっスよ~?」
「じゃあフィオだけ、あのおっさんの方で別行動にするか? もちろん金はフィオの小遣いから差し引くからな」
「気が変わったっスううう!! やっぱり加齢臭が漂うおじさんより、若い女の子が一番っスよね~!!」

 お金の管理をすべて任されているキールが言うと、フィオはあっさり手の平を返した。
 小太りの男は去っていく旅人の後ろ姿を眺めながら、旅人たちに聞こえないように悪態をつく。

「クソが……ふざけやがって。旅人風情が偉そうに………………ん? さっき、あっちの方が安いとかなんとか言ってたな。子どもの案内は無償のはず……」

 小太りの男は旅人たちの最後の会話に疑問を感じた様子で言う。

「まさか、あの娘……!」

 小太りの男は両目を見開いてペトラの去っていった方向を睨みつけた――。

                  *

「スゥーーーーーハァーーーーー! やっぱりシャバの空気は美味しいっスね!」

 フィオが何度も大きく深呼吸をして嬉しそうにしている。ミドは伸びをしている。キールは眠そうにあくびをしていた。
 ペトラが三人に向かって言う。

「それでは旅人さん、まずはこの国の歴史を知れる場所へご案内を――」
「ご飯っス!」

 ペトラの言葉を遮って、フィオが声をあげた。
 ペトラが驚いて目を丸くすると、ミドとキールは「分かってた」といった表情で頷いた。時刻は既に正午を既に過ぎていた。ペトラはそれを見て理解したように言う。

「……それでは、まずご飯屋さんへご案内いたします」

 ペトラはにっこり笑って言った。三人の旅人はペトラの後をついて行った――。
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