ミドくんの奇妙な異世界旅行記

作者不明

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オトナの権利の国

入国準備っス! 新しい国はどんな国っスかね~。

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「事件っスうううう! 大事件っスよおおおおおおおおおおおおお!!」

 ――少女の叫び声が響き渡った。

 時刻は、朝の七時三〇分。
 雲一つない快晴の空を一隻の飛行船、まん丸マンボウ号がゆっくり飛んでいた。
 マンボウのような形をした飛行する船で、上下に巨大なヒレがついている。前方には二つの目の様な形状の突起があって、右に曲がる時は右目が光り、左の時は左目が光る。
 船の屋上には開けた空間があり、外の風が入ってくる。そこには洗濯物が干してあり、白いシーツやシャツなどがパタパタと風にたなびいている。
 その屋上の上部のヒレの先端部分に一人の少年が座っていた。
 その少年は緑色の髪の毛で、年の頃は十代後半くらい、両目をつぶって胡坐をかいた状態で日課である瞑想をしていた。
 ゆっくりと四秒ほど鼻から息を吸い、そしてまたゆっくりと今度は口から八秒かけて息を吐く。これを繰り返している。

 ――パフッ。

 すると、遠くからハンカチ程度の大きさの布が少年の顔面に当たる。少年は思わず集中が途切れて両目を開き、その布らしき物体を手で掴んだ。

「ん?」

 少年は布を両手で摘まんでゆっくり開く。

「えっと……パンツ?」

 少年は一瞬困惑したが、すぐに目の前の洗濯物が飛んできたのだと理解する。

「あ! 犯人はミドくんだったっスね! あーしのパンツでナニするつもりっスかああ!」

 ミドと呼ばれた少年の目の前に少女が顔を真っ赤にして立っていた。彼女も同じく十代後半くらい、髪は栗色のショートカットでボーイッシュな感じだ。蒼いオーバーオールを着ている。
 ミドは少女に挨拶をする。

「おはようフィオ、これフィオのパンツ?」
「そうっス! 早く返して欲しいっス!」
「はいはい」

 ミドは、フィオと呼んだ少女にパンツを手渡した。彼女はパンツを広げて目を細めながら念入りに観察して臭いを嗅いだりした。
 ミドが「どうしたの?」と聞くとフィオは言う。

オスの臭いがするかもしれないっス。ミドくんは性獣ケダモノっスから、あーしのパンツに興奮して、朝から元気になってる可能性があるっス」
「誤解だよ、それはさっき風で飛んできたんだよ。今日はまだ一発も抜いてない」
「抜くとか抜かないとかハッキリ言ってほしくないっス!」

 フィオは自分のパンツを握り締めて、ミドに叫んだ。

 どうやら今日はフィオが洗濯の当番で、彼女は船の屋上で洗濯物を干していたらしい。すべての洗濯物をピンと張られたロープにかけた後、お気に入りのパンツが消えていることに気づいて思わず「事件っスううう!」と叫んでしまったらしい。

 フィオは何者かに盗まれたと勘違いして探し回っていたところ、ミドがパンツを広げていやらしい顔をしているのを発見したそうだ。

 ミドはヘラヘラしながら言う。

「いやらしい顔はしてないよ~、この顔は生まれつきだよ」
「もうお嫁にいけないっスううう! あーしの可愛いパンツがミドくんに視姦しかんされたっスううう!」

 フィオはミドの話を聞かずに嘆いている。いつものことだが、フィオは思い込みが激しく、表現が大げさなところがある。
 ミドはフィオの暴走に困り果てて、どうにか誤解を解こうとして言った。

「大丈夫、何もしてないから安心して、ボクは洗った物より“脱ぎたて派”だから」
「ミドくんの趣味は知らないっスううううう!」

 ……逆効果だった。
 すると、――ガチャと屋上の扉が開く音が聞こえてきた。そして新たな別の人物の声が聞こえてくる。

「うっせぇな……朝から何に騒いでんだお前ら?」

 扉から屋上に出てきたのは、同じく十代後半くらいの金髪の少年だった。少年は黄緑色のエプロン姿で赤いシャツを着て腕まくりをしており、気怠いといった表情で肩を掻きながらミドとフィオに歩いて近づいてきた。

「朝飯出来たぞ」
「おはようキール、今日の朝ご飯は何?」
「来たらわかる、さっさと降りて来い」

 フィオもさっきまでの表情が朝食と聞いた途端に変わり、
「朝ご飯っスか!」
 と目を輝かせた。

 キールと呼ばれた少年は朝食ができたことだけ伝えると階段を下りて行った。ミドも立ち上がると軽く伸びをしてキールについていく。フィオも走って階段を下りていった。


 今日の朝食当番はキールだった。
 三人の目の前には朝食が並べられている。ハムと目玉焼きにパンと牛乳ミルク果物フルーツはリンゴやブドウ、バナナ等がテーブルに綺麗に用意されている。

 フィオはさっきまでの怒りはどこへ行ったのか、夢中で朝食に食らいついている。ミドもゆっくり咀嚼して噛み締めながら食べていた。キールもナイフとフォークを器用に使って食べている。
 すると、フィオが牛乳ミルクを飲んでからキールに言った。

「聞いてほしいっスキール! ミドくんったら、またあーしのパンツを盗もうとしてたんスよ!」

 キールは「ふ~ん……」と言った様子でフィオの話を軽くスルーしている。
 フィオはキールの無視をお構いなしで、ペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラ……。フィオのマシンガントークは止まらなかった。

 キールにしてみれば、またフィオの大げさな話が始まったと思っているのかもしれない。

 ミドはニコニコしながらフィオの話に相づちを打ったり、簡単な質問をしていた。最後にはフィオの言いたいことを短く要約して、フィオが話しやすいようにしていた。

 ミドの相づちや質問でフィオのトークは乗りに乗って、さらに白熱していった。キールは相変わらずスルーしている。

 そうしてフィオの話がようやく終わりそうな気配がしてくる。

「だから、あーしは思ったっス……、人々の人権は守られるべきだと!」

 いつの間にか、パンツの話から人権の話になっていた。するとキールがフィオに言う。

「権利っていうなら、次の国は権利があれば何でも許される国らしいぞ」
「ほんとっスか!」
「ああ、旅人の噂だけどな」

 キールが牛乳ミルクを飲み干して言う。
 三人の朝食がそろそろ終わろうとしていた。

 キールはキレイに切ったリンゴをシャリシャリと食べている。ミドは温めた牛乳ホットミルクをズズズとすすってホッっとしている。フィオはおかわりをしたせいか、お腹をパンパンに膨らませて恍惚な表情を浮かべていた。

「それで? あとどれくらいでその国に着くの?」
「もう着いたようだぞ、見てみろ」

 ミドが訊くとキールは窓の外を見ながら言った。
 キールに言われてミドとフィオの二人は窓の外を見る。すると、遠くに薄っすらと灰色の壁が見え始めていた。
 すると、ミドがキールに言う。

「本当に権利があれば、何でも許されるのかな?」
「さぁな、入ってみてのお楽しみだ」
「うん、そうだね」

 ミドは鼻から息を大きく吸って吐いて言った。

「……さて、次はどんな国かな?」

 三人は新たな国への、入国の準備を始める――。
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