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桜は好きだ。
桃色の花びらは可愛いし、はらはらと舞い散る姿は美しいと感じる。
けれど藤乃は、花見の席となると、どうしても敬遠しがちだった。
暦の上では春だとはいえ、冬の気配が残っている野ざらしの公園はまだ肌寒い。
地面に敷いた薄いビニールシート越しに小石が足に突き刺さり、それが地味に痛い。
トイレはいつも混んでいるし、ごみ箱の周りは散らかっていて、見るだけで嫌な気持ちになる。
細かい理由を列挙すればきりがなかった。
けれどそれ以上に、藤乃にはどうしても花見を楽しむことが出来ない大きな理由があった。
広い公園内の敷地内は大勢の人々で埋め尽くされている。
スーツ姿でビニールシートに腰を下ろした藤乃は、あまり視線を上げて周囲を見渡してしまわないように気を付けた。俯いた姿勢のまま、端の方にチョコンと位置を取る。
きっと視線を上げれば、そこには大勢の花見客がいるのだろう。
それだけなら、問題はない。
ただ、大勢の人間がいるだけなら。
けれど、藤乃は良く知っていた。
こと、花見の席は特別なのだ。
花と酒の匂いに惹かれて宴に姿を現すのは、人間だけではない。
ワイワイと盛り上がる雰囲気から身を隠すように、藤乃は小さく肩をすくめた。
桃色の花びらは可愛いし、はらはらと舞い散る姿は美しいと感じる。
けれど藤乃は、花見の席となると、どうしても敬遠しがちだった。
暦の上では春だとはいえ、冬の気配が残っている野ざらしの公園はまだ肌寒い。
地面に敷いた薄いビニールシート越しに小石が足に突き刺さり、それが地味に痛い。
トイレはいつも混んでいるし、ごみ箱の周りは散らかっていて、見るだけで嫌な気持ちになる。
細かい理由を列挙すればきりがなかった。
けれどそれ以上に、藤乃にはどうしても花見を楽しむことが出来ない大きな理由があった。
広い公園内の敷地内は大勢の人々で埋め尽くされている。
スーツ姿でビニールシートに腰を下ろした藤乃は、あまり視線を上げて周囲を見渡してしまわないように気を付けた。俯いた姿勢のまま、端の方にチョコンと位置を取る。
きっと視線を上げれば、そこには大勢の花見客がいるのだろう。
それだけなら、問題はない。
ただ、大勢の人間がいるだけなら。
けれど、藤乃は良く知っていた。
こと、花見の席は特別なのだ。
花と酒の匂いに惹かれて宴に姿を現すのは、人間だけではない。
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