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プロローグ 爆発とカーバンクル
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太陽が輝いていた。
流れる白い雲、吹き抜ける穏やかな風、広がる青い海。
この季節の赤レンガの港街『ヴィラ』はそういった清々しい景色だった。
立ち並ぶ赤い屋根の家々、敷き詰められた石畳の道、それらが青い空や海と調和して実に印象深い景観を作っている。
両雑誌などでも取り上げられる人気の街なのであるらしい。
あるらしい。
そんなことは普通に住んでいる人間にはどうでも良いことだ。
「今日もいい天気だな」
住んでいる人間には天気が良くて、風が気持ち良いかどうかが1番大事なのだ
天気の良さに言葉を漏らしたのは少女だった。
青みがかった髪の少女。
彼女は街のハズレの坂の上にある古びた一軒家の窓から言った。
2階の窓を開け放って、コーヒーを飲みながら景色を眺めていたのだ。
少女の頭には黒いとんがり帽が乗っていた。
服はおしゃれさが全然ない真っ黒なワンピースだった。
少女は魔女だった。
魔法道具を作ったりたまに来る客に当たっているのかいないのかよく分からない占いをしたりして生計を立てている。
「今日も世は並べてこともなしか」
「おい、クロエ。洗濯物が出来てるよ」
「はいはいチャールズ」
魔女に、クロエに言ったのはカラスだった。
部屋の隅の止まり木に留まっている。ずいぶんな老ガラスだ。名をチャールズ。クロエが師匠から受け継いだ使い魔カラスだった。
「今日も忙しい1日の始まりだね」
「もう12時だがね」
クロエは洗濯機から洗濯物を取り出すとカゴに入れた。
クロエの1日は基本的に魔法道具を作ることに費やされる。
それで夜遅くに寝るのである。
そんな1日が始まる。
──ドカァアァァン!!!
しかし、そんな景色の良い平穏な1日の始まりは巨大な爆発音でかき消されてしまった。
それはクロエがいる階の下、つまりクロエのこの家の1階から響いていた。
というかすごい振動でクロエはひっくり返った。
チャールズも止まり木につかまったままグワングワン揺れていた。
そして衝撃はすぐに治った。
「なんだなんだ。ただでさえオンボロな家だって言うのに、潰れちゃうよ」
クロエはバタバタと階下に降りていく。
「爆発するような調合は放置してないはずなんだけどな」
クロエが降りると1階はもうもうと土埃で覆われていた。
「何事だよ!?」
クロエが叫ぶとなんと返事があった。
「こんにちはクロエどの。安心してください。私に敵意はありません」
「敵意なくてもめちゃくちゃだよ。誰なんだあんたは!?」
そしてもうもうと立ち込める煙が晴れるとそこにはひとつの生物の姿があった。
クロエの腰ほどの背丈、ずんぐり動画大きく、そこから短い手足と長いしっぽ、そして胴と境目が分からない頭が胴の上に乗っていた。
どんぐりみたいな形の猿かなにか、そういう形容がただしいかもしれない。
「私はカーバンクル。カーバンクルのモティ。どうか私にこの美しい港町の観光をさせてもらえないでしょうか」
カーバンクルのモティはそう言った。
流れる白い雲、吹き抜ける穏やかな風、広がる青い海。
この季節の赤レンガの港街『ヴィラ』はそういった清々しい景色だった。
立ち並ぶ赤い屋根の家々、敷き詰められた石畳の道、それらが青い空や海と調和して実に印象深い景観を作っている。
両雑誌などでも取り上げられる人気の街なのであるらしい。
あるらしい。
そんなことは普通に住んでいる人間にはどうでも良いことだ。
「今日もいい天気だな」
住んでいる人間には天気が良くて、風が気持ち良いかどうかが1番大事なのだ
天気の良さに言葉を漏らしたのは少女だった。
青みがかった髪の少女。
彼女は街のハズレの坂の上にある古びた一軒家の窓から言った。
2階の窓を開け放って、コーヒーを飲みながら景色を眺めていたのだ。
少女の頭には黒いとんがり帽が乗っていた。
服はおしゃれさが全然ない真っ黒なワンピースだった。
少女は魔女だった。
魔法道具を作ったりたまに来る客に当たっているのかいないのかよく分からない占いをしたりして生計を立てている。
「今日も世は並べてこともなしか」
「おい、クロエ。洗濯物が出来てるよ」
「はいはいチャールズ」
魔女に、クロエに言ったのはカラスだった。
部屋の隅の止まり木に留まっている。ずいぶんな老ガラスだ。名をチャールズ。クロエが師匠から受け継いだ使い魔カラスだった。
「今日も忙しい1日の始まりだね」
「もう12時だがね」
クロエは洗濯機から洗濯物を取り出すとカゴに入れた。
クロエの1日は基本的に魔法道具を作ることに費やされる。
それで夜遅くに寝るのである。
そんな1日が始まる。
──ドカァアァァン!!!
しかし、そんな景色の良い平穏な1日の始まりは巨大な爆発音でかき消されてしまった。
それはクロエがいる階の下、つまりクロエのこの家の1階から響いていた。
というかすごい振動でクロエはひっくり返った。
チャールズも止まり木につかまったままグワングワン揺れていた。
そして衝撃はすぐに治った。
「なんだなんだ。ただでさえオンボロな家だって言うのに、潰れちゃうよ」
クロエはバタバタと階下に降りていく。
「爆発するような調合は放置してないはずなんだけどな」
クロエが降りると1階はもうもうと土埃で覆われていた。
「何事だよ!?」
クロエが叫ぶとなんと返事があった。
「こんにちはクロエどの。安心してください。私に敵意はありません」
「敵意なくてもめちゃくちゃだよ。誰なんだあんたは!?」
そしてもうもうと立ち込める煙が晴れるとそこにはひとつの生物の姿があった。
クロエの腰ほどの背丈、ずんぐり動画大きく、そこから短い手足と長いしっぽ、そして胴と境目が分からない頭が胴の上に乗っていた。
どんぐりみたいな形の猿かなにか、そういう形容がただしいかもしれない。
「私はカーバンクル。カーバンクルのモティ。どうか私にこの美しい港町の観光をさせてもらえないでしょうか」
カーバンクルのモティはそう言った。
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