上 下
19 / 35

第18話 休日のエリスと俺

しおりを挟む
「結構買っちゃいましたね」

「良かったのか? 俺のためにこんなに」

「なにを言ってるんですか! マコト様に楽しんでもらいたくて今日は街に出たんですよ!」


 店を出てジョージと別れた後エリスは笑顔で言った。

 結局、エリスは結構な数の霊薬をあの店で買ってくれた。

 これなら当分は嗜好品として楽しめるだろう。そもそもバフ効果もあるのだから戦闘時だって使えば良いのだ。

 そうして、霊薬の入ったバッグは俺が持っていた。さすがにこの量でも重さはまるで感じない。この体様様だ。周りからはバッグが浮いてるように見えるからかなりぎょっとしそうではあるが。


「ジョージさんには感謝だな」

「ジョージにしては気が利いてましたね」


 むふー、と言った感じのエリス。ジョージは「良い休日を」とかキザなことを言って去って行った。最後まであんまり好きにはなれなかったが霊薬のことは感謝だ。


「さぁ、じゃあ他にも回りましょう。マコト様に紹介したいところがいっぱいあるんです!」

「そうなのか」

「まだまだ行きますよ!」


 元気よくエリスは案内する。




 それからエリスはいろんなところに案内してくれた。

 まず良く行くカフェ。


「このオムレツがすごく美味しいんですよ!」

「へぇ、なんか白いな」

「半分がリスキルシロウズラの卵なんですよ!」


 エリスはもがもがとオムレツを口に入れながら言った。

 落ち着いた良い雰囲気のカフェだった。東京とかにあるおしゃれなやつとかあんな感じだろうか。

 次に願いが叶うと言う噴水。


「この泉の女神像にコインが当たると願いが叶うって言われてるんですよ!」

「ほぉ」


 どこかで聞いたことあるなと思っている俺の横でエリスは何枚もコインを投げたが当たりはしなかった。


「運動後はあの屋台のアイスが絶品なんですよ!」

「へぇえ」


 そして、コインを投げ終えるとエリスは吸い込まれるように露店に入って行った。

 なんだか美味しそうな粉がトッピングされたアイスをエリスは美味しそうに食べた。

 俺は霊薬を飲みながらそれを横で見ていた。

 それから、東方人街、


「この肉まんを食べながら飲む東方茶が絶品なんですよ!」

「なるほど」


 エリスはエリスの顔くらいありそうなバカでかい肉まんをパクつきながら、懸命にお茶をすすっていた。

 なんだかすごく忙しそうで面白かった。


「あの店はチャーハンがおいしいし、あの店は麻婆豆腐がおいしいんです!」

「ほほぉ」


 エリスは肉まんで指しながら教えてくれる

 なるほど、横浜中華街みたいだった。

 裏には居住地区もあるのだろうか。




 そして、他にもエリスはいろいろ案内してくれて、気づけば日が傾いていた。

 エリスは最後に街を見渡せる高台に案内してくれた。

 高台に登って気づいたが、アイズの城壁の向こうには海が広がっていた。

 赤い夕日が海に落ちていくのが見えた。


「良い景色だなぁ」


 俺はしみじみ言った。生前は忙しい日常に追われ、気づけば景色を楽しむなんてことはしなくなっていた。


「そうなんです。私、ここから見える景色が大好きで」


 エリスはさっき寄ったパン屋のハチミツパンをモグモグしながら言った。

 というか、エリスは食べてばっかりだったな。あんまり直接は言わないけど。

 しかし、景色は良かった。

 白を基調とした色の街は夕日に照らされると綺麗な赤色になっていた。

 そこをたくさんの人々が行き交っている。

 ここはかなり高くて全員米粒のようだ。

 後ろを見れば豪華な王城がそびえている。

 そして、街の城壁の向こうには耕作地帯の平野が広がり、その向こうが海だった。

 それらがここからは一望できる。

 清々しい景色だ。

 涼しい風が吹き抜けて、エリスの金色の髪を揺らした。エリスの私服は聖女の服に比べればなんてことないようなデザインで、今はエリスは普通の女の子のようだった。

 休日のエリスだった。


「マコト様、今日は楽しかったですか?」


 ふいにエリスが言った。


「ああ、楽しかったぞ」


 存分に街を堪能できた。本当にRPGの世界にやってきたんだということを実感できた。ワクワクしっぱなしだった。


「それなら良かったです! 私も楽しかったです!」


 エリスは笑顔だった。

 エリスも楽しめたのなら何よりだった。

 エリスだって毎日聖女の業務が大変なのだ。こうして休日に息抜きになったなら本当に良かった。


「マコト様が現れてくださって、聖女の仕事が始まって、頑張って任務を達成して、いろんな人にお祝いしてもらって、今度は大きな任務に行くことになって。私、毎日楽しいです。マコト様のおかげです。マコト様が私を選んでくださって本当に嬉しいです」


 選んだのは女神だが、それを言うのは野暮というものだろう。

 エリスが俺を相棒として認めてくれているなら何よりだった。


「俺も主がエリスで良かったよ」

「ふふ、ありがとうございます!」


 エリスは嬉しそうだった。


「私、この街が好きです。この街の建物とか人々とか。美味しものもたくさんあるし、良い景色もたくさんあります」

「ああ、良い街だったよ」


 ファンタジーの世界なのもそうだが、活気があって良い街だった。


「ふふ。それに聖女の仕事も好きで、好きな街で好きな仕事ができて、今私とても楽しいんです」

「それは何よりだ」


 エリスはきっと今、夢が叶っている最中なのだ。毎日が楽しいことで溢れているんだろう。夢なんか生前の俺にはなかった。ただ茫然と生きていただけだった。だから、エリスは眩しかった。嫉妬とかじゃない。ただ、力になりたいと思える。


「マコト様。今度の任務、頑張りましょうね!」

「ああ、上手くやろう」


 エリスはガッツポーズをしていて、俺は腕組みして答えた。

 きっと思っている以上に大変な任務なのだろう。シュレイグに集うのはエリートの聖女たち。有能な人材が集められるということはそれだけ大変であることを意味している。後衛とはいえ、やることは多いだろう。

 俺にできることがどれだけあるかは分からないが、エリスをちゃんとサポートしたいと思う次第だった。


「帰りましょうか、マコト様」

「ああ、マザー・リースの手料理が待ってる」


 そして、この赤色の綺麗な景色に別れを告げ、俺たちは帰路に着くのだった。

 いろいろエリスは気を遣ってくれた。ありがたい話だ。

 そして、俺も聖女じゃない年相応の女の子としてのエリスが見れて、なんだかほんわかしたのだった。

 そんな風にエリスが用意してくれた休日は終わっていったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

処理中です...