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第17話 霊薬のお店とマイフェイバリットカード

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「そうらここだ」

 トサカを軽快に揺らしながらジョージが連れてきたのは一軒の店だった。

 なんだか雑貨屋のようにも見えるが、液体の入った瓶が並んでいるあたり酒場のようにも見える。

 この世界に明るくない俺にしたらよく分からない店だった。


「なんのお店ですか? 酒場?」


 だが、分かっていないのはエリスも同じようだった。

 俺たちが疑問に頭を満たされているその時、


「では、また」


 店のドアが開き、1人の少女が出てきた。


「クララ? あなたもこの店を利用しているんですか」

「あ、エリスさん」


 どうやらエリスの知り合いの聖女のようだ。よく見れば聖女がつける腕輪を右手にはめている。


「そうか! エリスさんも守護者様を発現されたからこの店に来たんですね。品揃えいいですよここは。守護者様も喜ばれると思います。では、すいません。この後行きつけのブティックでバーゲンなので」


 そう言ってクララは颯爽と行ってしまった。

 よく分からないが俺が嬉しいなにかがあるらしい。


「なんの店なんですかジョージ?」

「霊薬の店さ。ただし、聖女ご用達のな」

「霊薬って、降霊術師が使うやつですか? あの霊魂に使って従えたり滅したりする」

「そういうことだ。守護者様も広い意味では霊魂の一種だろ。この店はそこに目をつけて商売してるわけだが。まぁ、入った方が早え」


 そう言ってジョージは店のドアを開けて入っていった。

 よく分からないが俺とエリスも続く。

 店の中は不思議な匂いがした。薬品のような香水のような、はたまた酒のような。

 棚には色とりどりの液体が入った瓶がならび、そのほかに何に使うのか俺には分からない棒だの箱だの人形だのが並んでいた。


「いらっしゃい、あんたは確か」

「ジョージだ。一回しか来てないのによく覚えてるな」

「特徴的だからね。ニワトリの人獣は珍しいよ」

「まぁ、そうらしいな」


 ジョージと話す店主は女だった。


(な...!)


 そして、その姿を見た瞬間俺は驚愕した。

 店主は猫の耳が生えていて、髪はピョンピョン跳ねたピンク色だった。


(マイフェイバリットカード...!)


 その姿は俺が生前やっていたカードゲーム、その愛用しているデッキの切り札のカードにそっくりだったのだ。

 なんの偶然なのか。

 俺はにわかにテンションが上がった。

 いやだが、人をカードと一緒にするのはダメだろう、ダメだ。それはなんかダメだ。大人としてダメすぎる気がする。

 俺は勤めて平静を装った。


「って、おやおや」


 そして、その店主は俺たちを見て目を丸くしたのだ。

 え、え? 俺か? もしかして、俺なのか?


「噂の第6聖女様じゃないの。こりゃ驚いた。こんな店に来てくれるのかい」


 だが、店主が見ていたのは当然エリスだった。

 当たり前だった。

 エリスは十分に有名人になっているようだ。


「ど、どうも!」


 恥ずかしそうにエリスが会釈した。

 勘違いしている場合じゃない。

 そうだ。ここは公共の場なんだから慎まなくては。相手は本物の人間なんだぞ。バカが。


「私はリゼット。リズで良い。今日はどんなご用事で?」

「あの、どんなご用事というか。私も良く分かってなくて」

「こいつが自分の守護者様になにか振る舞いたいんだそうだ。さっきは串焼きをおごろうとしたんだが、当然無理でな。困ってたんでここに連れてきた」

「ジョージ!」


 プンスコ怒るエリス。

 蒸し返すなこの野郎。エリスが傷ついてるだろうが。

 そうだ、店主がフェイバリットカードに似ているからと興奮している場合じゃない。名前まで似ててさらに興奮してる場合じゃない。

 俺たちはこの店にいいものがあるというので来たのだから。


「はは、噂より随分かわいい聖女様みたいだね。ここは降霊術や操霊術の道具を扱う店さ。まぁだが、聖女様たちが目当てにするのは霊薬だろうね」

「この瓶に入った綺麗なお薬ですか?」

「その通り。これは精霊、あんたたちなら守護者様だね。そういったものたちに使って、能力を強化したり、聖女との繋がりを強化したりする薬さ。大体は一時的で、戦闘の時に使うんだけどね」


 なるほど、バフアイテム的なやつか。

 攻撃力を上げるとか防御力を上げるとか、RPGでよくあるやつの守護者版ということなのだろう。

 だが、それで俺が喜ぶのか?

 喜ぶのはエリスのような。


「ただ、うちはちょっと配合を工夫しててね。嘘かホントか、聖女様たちの間じゃ『守護者様の機嫌が良くなった』だとか『守護者様が喜んではしゃいでる』とかって噂になってるらしい。だから、うちには霊薬を求めて聖女様がよく来るんだよ」

「そうなんですか。なんかすごそうですね」


 なんだかよく分からないが、他の守護者はこの霊薬をもらったら喜んでいるのか。

 他の守護者にどれだけの自我があるのか正直俺も良く分かっていないが、同族が喜ぶと言われたら興味も湧くというものだった。


「まぁ、ものは試しだ。サービスで良いからその立派な守護者様に一本使ってみな」


 そう言ってリズは棚の瓶のひとつを手に取ると小さなグラスに注いだ。

 なるほど、やはりリズには俺が見えているらしい。さすがは霊薬の店の店主といったところか。

 そして、それをエリスに渡す。


「えっと、どうぞマコト様」


 エリスはそれをさらに俺に手渡す。

 受け取ったそれは琥珀色の液体だ。グラスがショットグラスみたいだからほぼウイスキーのように見える。

 よく分からないが俺はそれをぐいっと一気にのんだ。


「おお!」


 途端感じるのは体になんだか力がみなぎる感覚。だが、それ以上に。


「う、うまい!」


 美味しかったのだ。味や匂いはお酒というより良い匂いの香水と言った感じだったが、この体が明確に喜んでいた。

 この液体クセになる。


「ははは、お酒みたいに飲むんだね。頭から振りかけるのでも良かったんだけど」

「そうだったんですか?」

「そうだったのか」


 なんか流れで飲んでしまった。


「でも喜んでくれたようでなによりだ。へぇ、噂通りエリスちゃんの守護者様は意思があるんだね。どう? どんな感じなんだい?」


 味について尋ねられているのか。


「ええと、酸味の中にコクがあって、口溶けは柔らかなんだけど後から芳醇な香りがやってきます」


 頑張って食レポっぽく伝えるのだった。


「へぇえ。それは良かった。今までの守護者様は味の感想なんか言ってくれなかったからね。へぇえ、守護者様としゃべるってのは新鮮だね」


 リズはもの珍しそうに楽しんでいた。

 やはり、喋る守護者というのは相当レアなようだ。エンターテイメントを提供できたなら何よりだ。俺の切り札に似ている女性よ。


 それにしてもこれは良い。守護者の身では娯楽なんかもはや期待していなかったがこれは十分楽しめる。ちゃんと味や匂いを楽しめるし、体も美味しいと判断しているのだ。


「良さそうですね、マコト様」

「ああ、これは良い」


 エリスは俺が美味しそうにしているのを見て喜んでくれたようだった。これならエリスと一緒に楽しむこともできる。もう、俺を楽しませられないと困ることもない。


「もののついでだ。このへん味も感想くれないかい? 新作なんだよ」

「え、良いのか?」


 そして、リズはサービスでその後も何杯も振る舞ってくれた。

 俺としては大満足なのだった。
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