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第4話
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「まず、私の会社についてご理解いただきたい。その辺はギルドで把握しておられますかな?」
「はい、この地方でも有数の大会社の会長があなただと。その業績を讃え我らが王より爵位を賜ったとも」
「ほほ、まぁそんなところで。私は大きな複合企業の頭を勤めております。業績は好調、商売は順風満帆。今のところ我が社の経営に翳りはありません」
話ながらオムニは使用人から葉巻を受け取り、マッチで火を付けた。香ばしい匂いがアリシアの鼻に届く。煙草や葉巻の煙は嗅覚を鈍らせるのでアリシアはあまり好きではない。 オムニは続ける。
「しかし、私はこれで満足するつもりはないのです。我が社は魔駆動の部品の製造においては業界でもトップクラスだと自負しています。しかし、それは所詮はその『業界』の中での話です。私は我が社を『国』というくくりの中でもトップクラスにしたい」
「なるほど」
「そのためにはまだ足りない。人も機械も売り上げもまだまだ足りない。私はまだ社の業務を拡大しなくてはならないのです」
オムニは吸い込んだ葉巻の煙を大きく吐き出した。
そして、使用人が差し出した紙を受け取り、机の上に広げる。
それは地図だった。ミンスター周辺の地図だ。アリシアが持っているものよりも地形について細かく記されていた。
そして、地図には一カ所赤い丸が付けられていた。
「ここに新しい工場を建てたい」
オムニはその丸を指さす。そこはこのミンスターから丘をひとつ越えた場所だった。この屋敷からもすぐそこだ。川沿いであり、街道も伸びている。工場を建てる上でこの上ない立地だろう。
しかし、丸はただの平原に付けられているわけではなかった。
「これが件の城ですか」
アリシアは言った。
「その通りです。これが依頼内容に記した城です。元々この地方はこの城の主が治めていた土地なのです。もう廃城になって300年は経過しているわけですが」
「なるほど、それで街道がしっかり伸びているわけですか」
「その通りです。私はこの城を取り壊し、その基礎をそのまま利用して新しい大きな工場を建てたい。立地としては申し分ないですから」
なるほど、これだけの城となればしっかりとした基礎が地中にあるだろう。それをそのまま新しい工場のために利用して経費を浮かせたいというのがオムニの考えらしかった。城の設備でいくつか利用出来るものもあるだろう。合理的、もといケチくさい考え方だった。
思っても口にしないアリシアだったが。
「取り壊したい。しかし出来ない。だからあなたに依頼を出したわけですが」
「亡霊ですか」
「はい。まさしくその通りで」
オムニは苦々しそうに表情を歪めた。
「はい、この地方でも有数の大会社の会長があなただと。その業績を讃え我らが王より爵位を賜ったとも」
「ほほ、まぁそんなところで。私は大きな複合企業の頭を勤めております。業績は好調、商売は順風満帆。今のところ我が社の経営に翳りはありません」
話ながらオムニは使用人から葉巻を受け取り、マッチで火を付けた。香ばしい匂いがアリシアの鼻に届く。煙草や葉巻の煙は嗅覚を鈍らせるのでアリシアはあまり好きではない。 オムニは続ける。
「しかし、私はこれで満足するつもりはないのです。我が社は魔駆動の部品の製造においては業界でもトップクラスだと自負しています。しかし、それは所詮はその『業界』の中での話です。私は我が社を『国』というくくりの中でもトップクラスにしたい」
「なるほど」
「そのためにはまだ足りない。人も機械も売り上げもまだまだ足りない。私はまだ社の業務を拡大しなくてはならないのです」
オムニは吸い込んだ葉巻の煙を大きく吐き出した。
そして、使用人が差し出した紙を受け取り、机の上に広げる。
それは地図だった。ミンスター周辺の地図だ。アリシアが持っているものよりも地形について細かく記されていた。
そして、地図には一カ所赤い丸が付けられていた。
「ここに新しい工場を建てたい」
オムニはその丸を指さす。そこはこのミンスターから丘をひとつ越えた場所だった。この屋敷からもすぐそこだ。川沿いであり、街道も伸びている。工場を建てる上でこの上ない立地だろう。
しかし、丸はただの平原に付けられているわけではなかった。
「これが件の城ですか」
アリシアは言った。
「その通りです。これが依頼内容に記した城です。元々この地方はこの城の主が治めていた土地なのです。もう廃城になって300年は経過しているわけですが」
「なるほど、それで街道がしっかり伸びているわけですか」
「その通りです。私はこの城を取り壊し、その基礎をそのまま利用して新しい大きな工場を建てたい。立地としては申し分ないですから」
なるほど、これだけの城となればしっかりとした基礎が地中にあるだろう。それをそのまま新しい工場のために利用して経費を浮かせたいというのがオムニの考えらしかった。城の設備でいくつか利用出来るものもあるだろう。合理的、もといケチくさい考え方だった。
思っても口にしないアリシアだったが。
「取り壊したい。しかし出来ない。だからあなたに依頼を出したわけですが」
「亡霊ですか」
「はい。まさしくその通りで」
オムニは苦々しそうに表情を歪めた。
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