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第4話 快速電車スクランブル
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目の前で繰り広げられるのは人間でないものの戦いだった。人狼が縦横無尽に動き回り、イツカはそれに対応する。しかし、人狼は早すぎた。
目にもとまらぬとはこのことだろう。自分は吸血鬼で、視覚が強化されているらしいがそれでも追いきれない。ということはもはや人間の眼に見える速度ではないのだろう。これで弱体化しているというのが信じられない。
「いてぇな! クソが!」
イツカのわき腹が大きくえぐられる。爪を受け止めた右腕が両断される。しかし、それは動画の逆回しのように一瞬で再生した。吸血鬼の再生能力というやつか。
はた目には一方的にイツカが押されているように見えたが。
「そら」
良い蹴りが人狼の腹にねじ込まれた。人狼はそのまま跳ね飛び、ホームの向こうの壁に激突する。壁は大きくへこみ、人狼はうめき声を漏らした。
「くそったれ。だから吸血鬼は嫌いなんだ」
その時だった。ホームの奥の暗がり、そこから音が響き始めた。
「電車が来ますよ!」
光が奥から迫ってくる。
「野郎! 逃げる気か」
そして、電車は速度をゆるめることなくホームに侵入した。快速だろうか。そのままの速度で通過していく。
「おい! 乗るぞ!」
「乗る!? 走ってますよ?」
「良いから乗るんだよ!」
そう行ってイツカはそのまま電車の屋根に飛び乗っていった。
「マジかよ」
唖然とする私だが、もはや私も人間ではない。あれと同じことが出来るのだろう。意を決して、私も両足に力を込めた。そのまま電車の屋根にとりつく。化け物じみた握力で電車の屋根がひしゃげたが、なんとかつかまることが出来た。私は屋根に立つ。
目の前にはいつの間にかイツカがいた。
「やつが本気で逃げに回ったら面倒だ。とっとと捕まえるぞ」
「すごい早さでしたけど」
あの速度で逃げられたらどうしようもない気がする。
「ばか野郎。そのためにお前を下僕にしたんだろうが。あとは『香炉』を使われたときはその時こそお前の出番だからな」
「なんなんですか。『香炉』ていうのは」
「法術の道具だ。匂いを吸った人間の意識を閉じ込める効果がある。だから、私でも攻めきれないんだ。でも、お前はとびきりの魔力量を持ってる。跳ねのけられるはずだ」
「なるほど」
それが私が呼ばれた一番の理由のようだった。本当に小間使いが欲しかったという話なのか。
と、電車が地上に出た。一気に視界が明るくなる。東京の街が視界に広がった。しかし、イツカが見るのはそんなものではない。
「いやがった!」
2、3両先だろうか。人狼が屋根によじ登っているのが見えた。
「おい! 行くぞ!」
言うが早いかイツカは走り出していた。すごい速度だ。電車の屋根がベコベコへこんでいく。
「クソ! なんだってこんなことに」
私も仕方なく続く。
今日の朝まで当たり前のように職場でこき使われる未来しか考えてなかったのだ。誰が、異世界にやってきて吸血鬼になって電車の上を走り回ることになると思うだろうか。
先に行ったイツカはもう人狼に殴りかかっていた。
目にもとまらぬとはこのことだろう。自分は吸血鬼で、視覚が強化されているらしいがそれでも追いきれない。ということはもはや人間の眼に見える速度ではないのだろう。これで弱体化しているというのが信じられない。
「いてぇな! クソが!」
イツカのわき腹が大きくえぐられる。爪を受け止めた右腕が両断される。しかし、それは動画の逆回しのように一瞬で再生した。吸血鬼の再生能力というやつか。
はた目には一方的にイツカが押されているように見えたが。
「そら」
良い蹴りが人狼の腹にねじ込まれた。人狼はそのまま跳ね飛び、ホームの向こうの壁に激突する。壁は大きくへこみ、人狼はうめき声を漏らした。
「くそったれ。だから吸血鬼は嫌いなんだ」
その時だった。ホームの奥の暗がり、そこから音が響き始めた。
「電車が来ますよ!」
光が奥から迫ってくる。
「野郎! 逃げる気か」
そして、電車は速度をゆるめることなくホームに侵入した。快速だろうか。そのままの速度で通過していく。
「おい! 乗るぞ!」
「乗る!? 走ってますよ?」
「良いから乗るんだよ!」
そう行ってイツカはそのまま電車の屋根に飛び乗っていった。
「マジかよ」
唖然とする私だが、もはや私も人間ではない。あれと同じことが出来るのだろう。意を決して、私も両足に力を込めた。そのまま電車の屋根にとりつく。化け物じみた握力で電車の屋根がひしゃげたが、なんとかつかまることが出来た。私は屋根に立つ。
目の前にはいつの間にかイツカがいた。
「やつが本気で逃げに回ったら面倒だ。とっとと捕まえるぞ」
「すごい早さでしたけど」
あの速度で逃げられたらどうしようもない気がする。
「ばか野郎。そのためにお前を下僕にしたんだろうが。あとは『香炉』を使われたときはその時こそお前の出番だからな」
「なんなんですか。『香炉』ていうのは」
「法術の道具だ。匂いを吸った人間の意識を閉じ込める効果がある。だから、私でも攻めきれないんだ。でも、お前はとびきりの魔力量を持ってる。跳ねのけられるはずだ」
「なるほど」
それが私が呼ばれた一番の理由のようだった。本当に小間使いが欲しかったという話なのか。
と、電車が地上に出た。一気に視界が明るくなる。東京の街が視界に広がった。しかし、イツカが見るのはそんなものではない。
「いやがった!」
2、3両先だろうか。人狼が屋根によじ登っているのが見えた。
「おい! 行くぞ!」
言うが早いかイツカは走り出していた。すごい速度だ。電車の屋根がベコベコへこんでいく。
「クソ! なんだってこんなことに」
私も仕方なく続く。
今日の朝まで当たり前のように職場でこき使われる未来しか考えてなかったのだ。誰が、異世界にやってきて吸血鬼になって電車の上を走り回ることになると思うだろうか。
先に行ったイツカはもう人狼に殴りかかっていた。
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