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第4話 お風呂とベーコンエッグ
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そして、俺たちはリーゼリットの家、工房に戻っていた。
本がうず高く積まれ、なにかの薬品が煮詰められている鍋がある部屋。
その部屋の扉からひとつ入った場所に俺とリーゼリットはいた。
すなわち浴室だった。
「ちょっと! 動かないでよ!」
「動くなって言ったってお前。なんでお前まで裸なんだよ!」
「ちゃんとタオル巻いてるでしょ。あんた洗ったらすぐ風呂入るんだからすぐ入れるようにするのは当たり前」
「そ、そういう問題じゃ...!」
リーゼリットはタオル一枚の危ない状態で俺をオケに入れて洗っているのだった。
なにかいろんなものが明らかになっていていろいろまずかった。
リーゼリットのプロポーションは俺の予想通りの素晴らしいものだった。
だが、俺にはそれを眺めてニヤつくような度胸はなかった。
ただひたすら視線を泳がせてどぎまぎする他なかった。
「な、なんなんだこの時間は!」
「あんたを洗う時間でしょ。さっき肩に乗ってた時感じたけど臭いのよあんた」
「そ、そうか?」
臭いと言われると途端に気になってくる俺だった。
そんなに匂っていたのか。自分では分からなかったが。
なら仕方ないか。
「っておい! かがむな!」
リーゼリットはかがんで俺の体をごしごしとタオルでこするが、そうするといろんなものが当たっていた。当たっているのでまずかった。
「なによ。洗いづらいでしょ。そりゃかがむわよ」
「や、やめろ」
俺の視界いっぱいに肌色の景色が広がっている。豊かな双丘が深い谷を作っている。
「拷問だこれは!」
「騒がないでよ。洗いにくいでしょ」
そうして、しばらくごしごし洗われてようやく俺の体は綺麗になったのだった。
「うんうん、やっと匂わなくなったわね」
「辛かった....」
しかし、確かに綺麗になった気がした。
カラスの体なんかなんの愛着もまだないが、心なしかハネの艶が良くなった気がする。
そうするとなんだかちょっとだけ気分が良かった。
チャカチャカと足で音を出しながら俺は体を回して鏡で見た。
ふふん、少し機嫌が良い。
「さて、お風呂お風呂♬」
しかし、その横でリーゼリットが勢いよくタオルをからだから剥がしとったので俺は勢いよく飛びたった。
「ここにはいられねぇ!」
「なによ騒がしいわね」
俺は浴場から飛び出したのだった。
そして、リーゼリットが出てくるまで止まり木で心臓を落ち着けるのだった。
「ふぅ、さっぱりした」
タオルで頭を拭きながらリーゼリットは部屋に戻ってきた。
軽めの部屋着に着替えてている。
魔法使いとはいえ常時ローブ姿でいるわけではないらしい。
さっきの風呂場の映像が頭をチラついたが俺は平静を装った。
「もう、日も傾いたわね」
窓の外の街は夕焼けで赤く染まっていた。
こんなファンタジーな世界でも夕焼けの綺麗さは変わらないようだ。俺はなんだか安心した。
「よし、ちょっと早いけどご飯にしましょうか」
そう言ってリーゼリットはぐつぐつ謎の液体が煮立っている鍋を外し、かまどを空けた。
かまどというか、コンロのようだった。あれも魔法なんだろうか。
リーゼリットはフライパンを出して、コンロの横からやけにでかい卵とベーコンを出す。ベーコンをしいて卵を割って落とすとジュウジュウと炒め始めた。
「あんたは何食べるの?」
「.....多分それを食べれる」
「ふーん、人間と同じもの食べれるんだ。カラスってそんなもんなの」
正直自分でもベーコンと卵を食べれるのか疑問だったが、多分大丈夫だと思うことにした。
カラスはゴミを漁って残飯を食べたりしているし、人間の食事くらいいけるだろう。
多分。
「あんたってこの街長いの?」
「というと住んでってことか?」
この街にはつい数時間前来たばっかりだった。
だが、正直に言うわけにもいかない。
「元々はもっと遠くの街の生まれだ。この街に来たのはつい数日前だよ」
「へぇ、そうだったんだ。すごい偶然ね。この街に来た途端に私に使い魔にされたんだ」
そういうことにしておこう。
事情を話しても頭がおかしいカラスだと思われるだけだ。
そして、そういえば俺も聞きたいことだらけなのを思い出した。
「お前はこの街長いのか?」
「そうね、10歳の時に来たからもう8年になるわね」
「そんな子供のころからドラゴンと戦ってたのか?」
「最初は魔物狩り見習いだったけどね。前線に出るようになったのは最近よ」
いろいろと大変な身の上なのかもしれない。
「この街は廃墟みたいだけど、どうやって住んでるんだ?」
卵もベーコンも新鮮に見える。この街が魔物だらけだというのなら人が住めるとは思えないが。
ファンタジーなら市場でも開かれているんだろうか。でも危なすぎないか?
「ははぁ、この街に来たばっかりのカラスは知らないのね。楽しみが増えたわね」
「な、なんだよ」
俺はおそらく無知をさらしてしまったらしい。
リーゼリットはニヤニヤしていた。
なんなんだ腹立つな。
そうこうしているうちにリーゼリットはベーコンエッグと切ったパンを持ってきた。
簡単なメニューだがやけに美味しそうだった。
「さぁ、召し上がれ」
「お、おう。いただきます」
俺は卵の黄身にブスリとクチバシを突き刺し、ベーコンごとちぎって食べた。
「う、うめぇ!」
「それは良かった」
リーゼリットは満足げに笑っていた。
リーゼリットはどうやら料理がうまいらしい。
異世界でもカラスでも、料理のおいしさは変わらない。
それに俺は少しだけ安心するのだった。
本がうず高く積まれ、なにかの薬品が煮詰められている鍋がある部屋。
その部屋の扉からひとつ入った場所に俺とリーゼリットはいた。
すなわち浴室だった。
「ちょっと! 動かないでよ!」
「動くなって言ったってお前。なんでお前まで裸なんだよ!」
「ちゃんとタオル巻いてるでしょ。あんた洗ったらすぐ風呂入るんだからすぐ入れるようにするのは当たり前」
「そ、そういう問題じゃ...!」
リーゼリットはタオル一枚の危ない状態で俺をオケに入れて洗っているのだった。
なにかいろんなものが明らかになっていていろいろまずかった。
リーゼリットのプロポーションは俺の予想通りの素晴らしいものだった。
だが、俺にはそれを眺めてニヤつくような度胸はなかった。
ただひたすら視線を泳がせてどぎまぎする他なかった。
「な、なんなんだこの時間は!」
「あんたを洗う時間でしょ。さっき肩に乗ってた時感じたけど臭いのよあんた」
「そ、そうか?」
臭いと言われると途端に気になってくる俺だった。
そんなに匂っていたのか。自分では分からなかったが。
なら仕方ないか。
「っておい! かがむな!」
リーゼリットはかがんで俺の体をごしごしとタオルでこするが、そうするといろんなものが当たっていた。当たっているのでまずかった。
「なによ。洗いづらいでしょ。そりゃかがむわよ」
「や、やめろ」
俺の視界いっぱいに肌色の景色が広がっている。豊かな双丘が深い谷を作っている。
「拷問だこれは!」
「騒がないでよ。洗いにくいでしょ」
そうして、しばらくごしごし洗われてようやく俺の体は綺麗になったのだった。
「うんうん、やっと匂わなくなったわね」
「辛かった....」
しかし、確かに綺麗になった気がした。
カラスの体なんかなんの愛着もまだないが、心なしかハネの艶が良くなった気がする。
そうするとなんだかちょっとだけ気分が良かった。
チャカチャカと足で音を出しながら俺は体を回して鏡で見た。
ふふん、少し機嫌が良い。
「さて、お風呂お風呂♬」
しかし、その横でリーゼリットが勢いよくタオルをからだから剥がしとったので俺は勢いよく飛びたった。
「ここにはいられねぇ!」
「なによ騒がしいわね」
俺は浴場から飛び出したのだった。
そして、リーゼリットが出てくるまで止まり木で心臓を落ち着けるのだった。
「ふぅ、さっぱりした」
タオルで頭を拭きながらリーゼリットは部屋に戻ってきた。
軽めの部屋着に着替えてている。
魔法使いとはいえ常時ローブ姿でいるわけではないらしい。
さっきの風呂場の映像が頭をチラついたが俺は平静を装った。
「もう、日も傾いたわね」
窓の外の街は夕焼けで赤く染まっていた。
こんなファンタジーな世界でも夕焼けの綺麗さは変わらないようだ。俺はなんだか安心した。
「よし、ちょっと早いけどご飯にしましょうか」
そう言ってリーゼリットはぐつぐつ謎の液体が煮立っている鍋を外し、かまどを空けた。
かまどというか、コンロのようだった。あれも魔法なんだろうか。
リーゼリットはフライパンを出して、コンロの横からやけにでかい卵とベーコンを出す。ベーコンをしいて卵を割って落とすとジュウジュウと炒め始めた。
「あんたは何食べるの?」
「.....多分それを食べれる」
「ふーん、人間と同じもの食べれるんだ。カラスってそんなもんなの」
正直自分でもベーコンと卵を食べれるのか疑問だったが、多分大丈夫だと思うことにした。
カラスはゴミを漁って残飯を食べたりしているし、人間の食事くらいいけるだろう。
多分。
「あんたってこの街長いの?」
「というと住んでってことか?」
この街にはつい数時間前来たばっかりだった。
だが、正直に言うわけにもいかない。
「元々はもっと遠くの街の生まれだ。この街に来たのはつい数日前だよ」
「へぇ、そうだったんだ。すごい偶然ね。この街に来た途端に私に使い魔にされたんだ」
そういうことにしておこう。
事情を話しても頭がおかしいカラスだと思われるだけだ。
そして、そういえば俺も聞きたいことだらけなのを思い出した。
「お前はこの街長いのか?」
「そうね、10歳の時に来たからもう8年になるわね」
「そんな子供のころからドラゴンと戦ってたのか?」
「最初は魔物狩り見習いだったけどね。前線に出るようになったのは最近よ」
いろいろと大変な身の上なのかもしれない。
「この街は廃墟みたいだけど、どうやって住んでるんだ?」
卵もベーコンも新鮮に見える。この街が魔物だらけだというのなら人が住めるとは思えないが。
ファンタジーなら市場でも開かれているんだろうか。でも危なすぎないか?
「ははぁ、この街に来たばっかりのカラスは知らないのね。楽しみが増えたわね」
「な、なんだよ」
俺はおそらく無知をさらしてしまったらしい。
リーゼリットはニヤニヤしていた。
なんなんだ腹立つな。
そうこうしているうちにリーゼリットはベーコンエッグと切ったパンを持ってきた。
簡単なメニューだがやけに美味しそうだった。
「さぁ、召し上がれ」
「お、おう。いただきます」
俺は卵の黄身にブスリとクチバシを突き刺し、ベーコンごとちぎって食べた。
「う、うめぇ!」
「それは良かった」
リーゼリットは満足げに笑っていた。
リーゼリットはどうやら料理がうまいらしい。
異世界でもカラスでも、料理のおいしさは変わらない。
それに俺は少しだけ安心するのだった。
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